25話 永遠に恋人になれない
僕はそれから数日落ち込んでいた。
あの後、ゲートにもたれたまま、僕は凛の話の続きにずっと耳を傾けていたんだ。翠さんとの話。翠さんとの恋の始まり、蜜月、そして終わり。
聞きたいもんか。聞くたびに、凛の翠さんへの感情を耳にするたびに、深く傷ついた。こんな傷つき方って、何と表現していいのかわからない。
中学生のときに好きだった女の子。放課後、校庭の隅に呼び出された。もしかして告白でもされるのかと、期待に胸を躍らせて約束の時間にすっ飛んでいった。
だけど、違った。
当時、一番仲良くしていたつれに好きな女の子がいるのかどうか、教えてくれって話だった。
ああ、そうか。あいつが好きなんだ。彼女の上気させてた赤い頬を見て、一瞬にしてすべて悟った。
〝さあ、どうかな。やつからそんな話聞いたことないから。〟
そう言うと、
〝直人くん。一番仲いいでしょ。教えて。彼、休みの日とか何してるのかな。メールとか聞いたら教えてくれるのかな。〟
僕は答えられなかった。泣きそうな気持ちになった。何でこんなこと聞かれるんだろう。走って逃げたかった。でも、走り去るわけにはいかなかった。
〝聞いてやるよ。メルアド。教えていいか。〟
それだけやっと言うと、逃げるように彼女の元を走り去った。
そんな気持。逃げたいけど、逃げられない。一番聞きたくないことを、何故かじっと聞いてあげなきゃいけない。どうしてだろ。僕だって傷ついているんだけど。凛は僕の気持を知っているんじゃないか。好きな女の子の好きな人の話なんて聞きたくもない。それが自分ならいいけど。自分じゃないんだから。どう頑張ったって、永遠に自分は凛の恋人にはなれないんだから。
「あのね、直。そんなところで伸びていられると営業の邪魔なんだけど。」
譲兄ぃの骨ばってじゃらじゃらと指輪で彩られた掌が、僕の頭を叩いた。
「痛いよ。」
「だから、邪魔なんだって。家帰って伸びてよ。」
譲兄ぃ、今日は冷たい。
譲兄ぃの店、土曜日の午後ということもあって、お客さんで一杯だ。僕はカウンターに顎を乗せたまま、不機嫌な表情を隠そうともせず、じろりと奥のボックス席の客層に視線を泳がせた。