22話 やっぱり私は変?
部活が終わった後。テニス部のロッカールーム。凛と彼女のふたりだけ。他には誰もいない。テニスウェアを脱いだ彼女の身体から、放たれる甘い体臭と汗の匂い。結んだポニーテールの後れ毛が白いうなじに張り付いて、それを見た凛は衝動的に彼女の身体に手を伸ばした。裸の上半身を、自分の身体へ引き寄せて、彼女の唇に触れた。自分の唇で。
鼓動が早くなる。凛の顔が見れない。どこに視線を置いたらいいのかわからず、僕は意味もなく視線を忙しげに動かした。
「麻衣はびっくりして、走ってロッカールームを出て行ったわ。私はそれを追いかけることすら出来なかった。自分がしたことが自分で理解できなかったから。ただ、それは頭で考えたことじゃなくて、本能みたいなもの。麻衣が欲しくてたまらなかった。それがホントに自分が望んでいたことなんだってわかった。だけど、その気持を持った自分が怖くてたまらなかった。」
彼女の心の奥深くのところまで来てしまったらしい。
「その後、どうなったの。」
僕は動揺を隠して、さりげないふうに聞こえるように声のトーンを落とした。
「麻衣はそれから、私を避けるようになって。私も自分のしたこと、麻衣への気持ちが怖くて、麻衣を真っ直ぐに見れなかった。あんなに仲良かったのにどうしたの?ってみんなが聞いてきたけど、理由なんていえない。麻衣がいつあのことをクラスのみんなに話すのかって、毎日びくびくしてた。だけど、麻衣はそのことを誰にも言わなかったみたい。」
それから、少したって進級の年を迎え、凛と彼女は別々のクラスになった。
「麻衣のことは、友達の延長っていうのかな、あれは仲良すぎて、それで麻衣を独り占めしたくて、あんなことをしたのだろうって、自分で自分を納得させようとしていた。だけど、あの時の麻衣の白い首筋や、小さな胸のふくらみや、そんなものが忘れられなくて、そこに手を伸ばしたいって思っている自分がやっぱりいて。」
「自分で自分が怖くて、自分のことが嫌いでたまらなかった。」
凛ははき捨てるように言った。
「いいよ。正直に何でもいいから話したいだけ、話してごらんよ。」
僕は精一杯の思いで、凛の手を握った。凛の手が震えていた。
凛は頷いて、
「だけど、やっぱり自分は変なんだってわかったのは次のクラスでもそうだったから。」
「そうだったからって?」
「みんながクラスの誰君がかっこいいとか、彼女いるのかなとか、休み時間になると男の子の話ばかり。でも、私は何故か男の子に興味を持てなかったの。確かにかっこいい子とか、スポーツの出来る子、頭のいい子、女の子にもてる子はいろいろいたのね。だけど、どの子にもかっこいいとか、いいなあとか、そういう思いがもてなかったの。」
「そうなんだ。」
「なんだろう。代わりにクラスの女の子に、麻衣に似たような感じの子がいると、その子ばかり見てたり、話かけにいったり、その子がすることが気になったり。ああ、麻衣のことがあるから、まだ忘れてないからかなあと思ったけど、だけど、決定的だったのは、2学期に転校生の女の子が入ってきて、その子と仲良くなったんだけど、その子に対する思いが、麻衣のときと同じだった。ただ友達として仲良くっていうだけじゃなくて、その。」
凛が言いよどんだ。
「触れたいとか、自分のものにしたいとかそういうこと。」
僕は言いにくいことを口にした。そして、自分の中学生や高校生の頃のことを思い出した。女の子の裸ばかり想像してた。クラスの好きな女の子が着替えてるところとか、お風呂に入ってるところとか。そんなことばかり。そしてその身体に自分が触れているところ。キスした。それ以上のことも。想像の中で。