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2話 アタック

よく来る居酒屋。テーブル席が5席と、6人も座れば一杯になってしまうカウンター。近所のオヤジ連中が主な客で、時折若い男女のグループが奥の座席を貸しきって飲んだり騒いだりしているけど、女の子の二人連れなんて珍しい。しかも上玉。


誠二は同じ会社の一個上の先輩で、仕事が終わるとこうやって二人で時々ここへ飲みに来るんだけど、今まであんな可愛い子がいることなんて一度もなかった。もっとも市の中心から離れたこんな田舎町では、しゃれた店もなく、若者が遊ぶような娯楽施設もない。だからきれいな女の子がうろうろしているシチュエーションなんてお目にかかったこともなく、出会いなんてほとんど皆無だ。

僕の学生時代の友達なんて結構社内で見つけるやつも多いけど、下水施設やマンホールポンプ場などの維持管理を主な業務にしているうちの会社は、現場で作業している野郎ばかりで、女性なんて事務の50歳も過ぎたおばさんがひとりいるだけだ。だから誠二もそうだけど、僕も一年前に友達の紹介で付き合っていた彼女と別れてからは全然女っけなしだ。


でも、誠二はうまいんだよな。こうゆう状況で女の子に声をかけるの。僕は気恥ずかしくて、女の子がいてもうまく声もかけられないんだけど、誠二は平気みたいで臆面もなく声をかける。気の利いたジョークなんか飛ばしてね。

背が180センチはゆうにあって、すらっとして彫りが深く、スマートな感じのする男だから、女の子も割りと誠二には気を許す。

ま、お手並み拝見するかと、誠二の行動を見ていると、やつはカウンターに行き、店員に耳打ちした後、手にサワーを2杯持ち、彼女らが座る奥の座敷へ向かっていった。


「お待たせいたしました。」

明るく声をかけ、紫色の液体が入ったグラスを勢いよくテーブルの上に置く。

「えっ。私頼んでいないわよ。」

ストレートの彼女の方が、高い声を上げた。

「もう、そろそろお代わりかなと、思って。」

悪びれもせず、笑顔を見せ誠二は2人の手にサワーのグラスを押し付ける。

「あなた、店員さんじゃないのね。」

店の店員全員がつけている店名入りの黒のエプロンを誠二が身につけていないのを見咎め、ストレートが続けた。

誠二は、

「ここの巨峰サワーうまいよ。ホントの葡萄使ってるからね。」

間髪入れずに口を挟むと、例のボブヘアーの彼女の方が、その切れ長の目を誠二へ向け、クールに言い放った。

「彼氏のおごりなの?女の子を引っ掛けるには巨峰サワーが無難みたいね。」

わ、ちょっと幼いような可愛らしい外観とは裏腹にクールな表情を崩さずに、視線をふっと流す彼女のそのギャップに、僕は又がつんとやられてしまった。


「あはは、どうかおごられてくれませんか?」

誠二がいつもの調子でおどけて見せると、意外にもストレートもボブの方も、にこりと笑顔を見せてくれた。

こりゃ、うまくいきそうかも、と誠二の背中が語っていた。それを見て、僕も自分のグラスを手に持ち、彼女らのテーブルに歩み寄った。

「すみません。僕の友達が何か悪さでも?」

そう声をかけると、ボブヘアーが、

「あはは、2対2ね。そうゆうこと。」

すれたような口を聞いた。

彼女はさらに僕の目をじっと見て、

「ふうん。いいわ。どうぞ。」

座布団を押しやってきた。


近くで見ると、さらさらのストレートヘアーがきれいな輪を描いていて、細かい花柄のチュニックから透けて見えるゴールドのタンクトップに胸の鼓動が早くなった。

どうして、どこで人は恋に落ちるのだろう。

それって、まったく自分が予想してもいない状況に、ホントに予期もしていない瞬間に、それはやってくる。ほんのちょっとした相手のしぐさや表情や、動いた時の空気の匂いや、風の流れや、ホントにちょっとした偶然の重なりに自分の心が吸い寄せられてしまうんだ。

僕はそんな風に感じていた。


彼女の隣に腰を下ろすのを、ちょっと躊躇してしまう。馬鹿みたいなんだけど、彼女から離れて、壁に近い角の席に腰を下ろす。彼女から一番離れた席に座った自分を、もう一人の自分が(あほやな。お前。)と言っている。だけどどうしようすもない。

僕の心は彼女の隣に、ぴったり寄り添って座り、彼女の表情を目で追い、言葉を交わし、彼女が動いた瞬間に、むせるような息苦しさとともに感じさせる女性特有の花のような匂いを感じたい。

なのに、何故か心と裏波な行動をとって、離れた角席に座ってしまった。座ってからお尻が落ち着きをなくして、座り心地の悪い硬い公園のベンチに座っているがごとく、むずむずとしてきた。

が、じっとこらえておとなしくその席に落ち着くことにした。


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