19話 中央フリーウェイ
「こうやってバイパスを歩いていると、ユーミンの歌を思い出さないか?」
「例えば?」
腫れて真っ赤になった目をこちらに向けた凛が尋ねる。
「中央フリーウェイとか。」
「どうゆう情景?」
「ま、中央フリーウェイじゃなくてもいいんだけど、こうゆうシチュエーションってユーミンの歌に出てきそう。」
「真っ暗な国道を恋人に振られて、とぼとぼといや、半分やけになって歩いていると、スピードを上げたトラックが否応なしにビュンビュンと、自分を追い越していくんだ。トラックの風圧で倒れそうになったりして、それが何だかいやに気持を逆なでしたりして、惨めな気持になっちゃったりして。」
凛は聞いた。
「振られてバイパスを歩いたことあるの?」
「いや、振られたことはいっぱいあるけど、真夜中にやけになってバイパスを歩いたことはないよ。」
「ふうん。」
今まさに振られて歩いているんだけどね。君に。
僕は凛の横顔を見た。凛は真っ直ぐ前を見て歩いている。
あ、そうか。凛も一緒か。振られた者同士か。
「悲しい時って、あまりにも悲しすぎたりするとやけになって、どうでもよくなっちゃったりするんだよね。」
〝でも、ありがとう。一緒にいてくれて。〟
凛は下を向いたまま、誰に言うともなしにそう呟いた。
僕は何だか泣きそうになった。
凛がこのまま、歩こうと言った。車は置いて、あの展望台まで歩こうって言った。
もうちょっとで、例の峠に入るゲートが見えるはずだ。
だから、こうやって歩いている。ふたりで。
それが、少しでも君の慰めになるだろうか。そして僕の慰めにもなるだろうか。
ゲートが見えてきた。
国道を脇に反れて、細い県道を少し入ると、その展望台の入り口が見えてくる。ここは付近の若いカップルが土曜の晩なんかに、ドライブによく訪れるところなんだ。僕もデートで何回か彼女を助手席に乗せ、よく来たっけ。ま、一年以上前のことなんだけどね。