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14話 まさかね

かちゃん。

その時、ドアを開ける音がした。

「あら、修一おかえり。」

「あれ、店ン中、閑古鳥だね。」

修一兄ちゃんだ。

「直。ひさしぶり。」

修一兄ちゃんが、細い指で僕の髪に軽く触れる。

大きな紙袋を抱えた修一兄ちゃんが店の奥に消えると、僕は聞いた。

「ホントに独立しちゃうの?」

「準備は着々と進んでるわ。」

譲兄ぃが答える。


修一兄ちゃんはずっと譲兄ぃと、この店をやってきたんだけど、ここんとこでこの店を辞めて自分の店を持つ予定なんだ。

元々修一兄ちゃんは腕のいいパティシエで、市内の大きなホテルでチーフを務めていたんだ。そのホテルで勤めている時、譲兄ぃと知り合いホテルを辞め、この店を2人でオープンした。そしてこの土地で長年一緒にやってきたんだけど、修一兄ちゃんの元々の夢であったケーキ屋をやることになってこの店を去ることになったんだ。


「寂しくないの?」

僕は譲兄ぃに聞いた。

「寂しいわよ。だけど修一の夢だからね。応援しないとね。」

譲兄ぃは、寂しそうに微笑んだ。でもその表情はどこかさばさばしたようにも見えた。

「だって、プライベートでは一緒だからね。それは変わらないから。」

「そうだね。」

2人でしゃべっていると、奥から、白いシャツに着替え黒のギャルソンエプロンをつけた修一兄ちゃんが出てきて、カウンターの中の流しでカップを洗い始めた。

修一兄ちゃんは、譲兄ぃと違って寡黙で、殆どしゃべらない。だけど陰気な感じはちっともしなくて、いつも穏やかで優しそうな眼差しで辺りを見ている。派手で個性的な感じの譲兄ぃとは対照的で、いつも白いシャツや地味な感じのポロシャツを着て、長く伸ばした髪の毛をひとつに結んでいる。彼は細くて背が高いので、襟足を長めに伸ばした髪型が良く似合っている。


洗い物をしている修一兄ちゃんに、譲兄ぃが何やら話しかけている。

手を止めて譲兄ぃに顔を向けて、頬を緩めた修一兄ちゃんの肩に、触れんばかりの距離で譲兄ぃが話し続ける。至近距離で視線を交わすふたりに何故かドキドキした。

(いつも見てんだけど。何でかな?)

こういう光景はいつも見ている。子供の頃からね。

ふたりがそういう仲だって気がついたのは中学生の頃だけど、いつもこんな調子だから、こんな光景もそのうち慣れっこになった。

だけど、エスプレッソをすすりながら、ふたりを見ていた僕の頭に浮かんだのは、凛と翠さんのことだった。

仲の良い二人。

まさかね。

譲兄ぃと修一兄ちゃんは10年来の恋人だ。

譲兄ぃとおかんが仲良くても、おとんは心配しないよってのはそういうこと。

男と男。

世の中にはそういう組み合わせもある。


ということは、女と女の組み合わせっていうのもあるんだよね。

いや、まさかね。

ふと浮かんだ変な考えを追い払おうと、僕は立ち上がった。

「もう行くの?」

譲兄ぃが振り向いた。

「ごちそうさま。これ以上いるとおじゃまかなって思って。」

「何言ってんのよ。子供のくせに変な気を使わないでよ。」

譲兄ぃが笑った。

「子供じゃないよ。もう22歳なんだからね。」

僕は振り向かず、挨拶代わりに片手をちょっと上げ、そして店を後にした。


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