12話 夢
ヒヤシンス?金木犀?
ふと甘い香りがした。
凛がつけている香水の匂い。
そう、覚えてるこの香り。
その香りに鼻をくすぐられた次の瞬間、柔らかい感触が性器を包み込んだ。
ねっとりとして暖かいそれが、僕のものをゆっくりと舐めまわす。
「あ、ちょっと、おい・・・」
目を開けようとするが、眠くて瞼が開かない。
眠くて仕方がないのに、あそこだけははっきりとその甘い感触を感じている。
その柔らかい舌が、ゆっくりとそして徐々にスピードを上げて、僕を締め上げていく。
すぐに僕のそれは大きくなり、得もいわれぬ快感が全身を包んでいく。
〝誰?〟
「ああ、ちょっと駄目だ・・・そんなに、あ、ああ。」
うまい。おかしくなりそうだ。
呼吸が荒くなる。
僕を銜えているその人物を確かめようと、下半身に手を伸ばすのだが、何故だか手が届かない。
すぐにピークがそこまで見えてきた。
「あ、もう・・・」
〝出そう。〟
そう思った瞬間、僕の下半身に顔をうずめた人物が顔を上げる。
〝気持いい?直人くん。〟
「凛!」
凛だ。彼女の柔らかい髪が僕の下腹部に触れたと思った瞬間、目が覚めた。
〝夢?〟
「夢か。」
僕はベッドの中で、ひとり間の抜けた声を上げた。
カーテンの向こうから、鈍い朝の光が透けて見えた。
顔を上げたときのあの凛の表情。エロい。あんな顔するんだ。
あ、いかん。想像だけでまたいきそう。
下半身に湿ったような変な感触を覚えて、そっと手を伸ばす。
あ~あ、濡れてる。どうも、やっちゃったらしい。
〝夢精するなんて、中坊以来だよ。〟
あんな夢見るなんて、やっぱり無理があるのかなあ。
好きで好きで、今すぐにでも押し倒したい女の子と、友達ごっこやってるからかなあ。
なんだか、情けない思いで洗濯機に汚れたパンツを放り込んでいると、
「直人!今頃洗濯なんか出さないでよ。」
おかんの叱責が飛んだ。
不意打ちを食わされた猫のように、全身で飛び上がらんばかりにびっくりして、振り向くと、
「何で今頃洗濯出すの。夜のうちに出しなさいって言ってるでしょ。」
僕を押しのけ、洗濯機に手を突っ込む。
「ちょっと、ちょっと。」
驚いておかんの手を掴んだが、おかんはそれに構わず洗濯機の中の僕のパンツを掴み、
「ははん。おぬしも若いのう。」
おどけたように笑った。
「もう、いいじゃんか。」
むっとして言い放ち、その場を後にしようとすると、またおかんが僕の腕を掴み、
「まあいいわよ。元気な証拠じゃない。」
と言い、
「それより、譲兄ぃの所までお使いに行ってくれない。」
と僕の顔を見た。
「またさくらんぼ?」
「そう、綾子のところに持っていこうと思って。」
綾子というのは、僕の8つ上の姉だ。
もう何年か前に嫁いで隣町に旦那と3歳の子供と3人で住んでいる。
おかんは時々、綾子ねえのところへ遊びに行く。孫会いたさにだけどね。
そん時に、譲兄ぃの作るさくらんぼのケーキをよく持っていくんだ。