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11話 何か妬けるな

凛が空を仰いだ。

「雨降りそうだね。」

雲行きが怪しくなってきた。西の空の方が真っ黒な雲に覆われ始めた。

「そろそろ行こうか。」

僕はこの後の算段をした。夕ご飯はあの店で、その後は。

駐車場へ向かおうとしたその時、凛の携帯がなった。彼女は僕に断り、携帯を取り出した。

僕は彼女が電話を切るのを、噴水脇のベンチに座って待っていた。

すると、

「直人くん、ごめんね。」

携帯のフラップを閉じながら、凛が

「翠が、用事が済んだらしいの。彼女と一緒に食事をすることになってるから、ここで。」

え、聞いていないよ。


翠さんというのは、あの例のストレート。居酒屋で一緒に飲んだあの綺麗なお姉さん。

凛と同じお店の美容師さん。しかも何故か凛と一緒に住んでんだって。

ルームメイトっていうやつ。

家賃の関係か?

ま、いいけど。

「うん。わかったよ。」

僕はしぶしぶ頷いた。砂肝の美味しい焼き鳥屋に連れて行こうと思ってたのに。

凛はすまなそうに胸の前で手を合わせ、〝ごめんね。〟ともう一度頭を下げた。

用事が出来てキャンセルされた相手って、翠さんか。

「いいよ。翠さん来るまで一緒に待ってようか。」

そう言うと、

「うん、ありがとう。でも、もうそこまで来てるらしいから。」

そういう彼女と一緒に、タワーの園の外まで出ると、白のクーペが停まっている。

いい車だ。カッコいい。

感心して見てると、

「直人くん、ごめんなさい。」


運転席から翠さんが降りてきた。

ストレートのさらさらヘア。麻の上質なジャケット。ゴールドのバングル。

綺麗な人だな。自分より確か5歳上だった。大人の魅力だね。

そんなことを思っていると、

「じゃあ、今度また4人で飲みにでも行きましょう。」

誠二を入れてまた場を設けようということらしい。

僕は頷き、二人を見送った。

助手席に座った凛の嬉しそうな顔。僕が見たことのないような思いっきりの笑顔。

何か妬けるな。

何で?

女の子同士でつるむのって、苦手だなんて言ってるのに、翠さんとはべたべたなんだから。

どうしてかな。変なの。


翠さんが理由ですっぽかされたのって、これで3回目だ。

何となく腑に落ちなくて、凛のために予約しておいた焼き鳥屋に誠二を呼びつけた。

「ははは。お前、ようやってるよな。」

グラスの中ジョッキを一気にあおりながら、誠二は僕を馬鹿にしたような口調でしゃべり始めた。

酔ってんな。こいつ。

「何が。」

「だってさ、やれもしない女と付き合って何が楽しいんだよ。」

「誠二!」

「だってホントのことじゃん。」

そんなこと、わかってる。友達としてだなんて、馬鹿みたいだ。

うな垂れた僕の表情を見て、誠二は声のトーンを落とし、

「ごめん。ごめん。そう落ち込むなよ。」

僕の肩に手を回した。

「直の気持もわかるよ。それだけ好きなんだろ。友達でもいいからつきあっていたいんだろ。」


僕は黙った。

友達か。僕だって健全な男子だ。凛にキスしたい。その肩を抱きしめたい。それ以上のことだって。だけど、凛は僕を信頼している。友人だと。

手なんか出せない。出したら僕らの関係はそこで終わりだ。

だけど、本当はそれとは違う気持を持っている。

希望。こうやって友達として付き合っていくうちに、僕のことをもっとよくわかってくれて、いつか僕のことを異性としてみてくれるんじゃないか。

いつか、遠い未来かもしれないけど、凛が僕を恋人として受け入れてくれるんじゃないかって。

誠二はねぎまを頬張りながら、

「いつか凛ちゃんがお前のことを、彼氏としてつきあってくれるようになるといいんだけどな。」

「うん。」

かすかな希望か。

「ま、全く希望がないわけじゃないんだし、もうちょっと頑張るか。」

〝おやじさん、生中お代わりね。〟

誠二が声を張り上げる。

「僕も!」

〝よし、飲むか。〟

誠二が笑った。彼の豪快な笑い声に、少し気持が和んだ。


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