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10話 通天閣で

「まあ、そんな感じよ。」

凛は、ソフトの包み紙をゴミ箱に捨てに、席を立った。

その時、ゴミ箱の横の大きな観葉植物の鉢植えの枝に、彼女が来ている長袖ブラウスの袖のリボンが引っかかった。

「待って。」

僕は立ち上がり、凛の袖に引っかかった枝を払ってやった。

「ありがとう。」

僕は不思議に思った。以前からそうだ。

夏なのに、凛はいつも長袖を着ている。今日も、薄いブルーの模様が入った長袖のシャツをタンクトップの上に羽織ってる。

「暑くないの?」

僕は凛の腕を指差した。

「冷え性なのよ。夏場なんか特にクーラーでやられちゃうから。」

ふうん。そんなものかな。確かに女の子って冷えるんだよね。

うちのおかんも、クーラーの風は冷える、冷えるって、夏でも靴下履いてるもんな。


「それよりさ、直人くんって元々ここの辺の人なんだよね。」

「ああ。」

「凛ちゃんは大阪だったよね。」

「うん。」

僕らはタワーを出て、横の噴水の周りを歩きながらおしゃべりを続けた。

「通天閣って行ったことある?」

「通天閣かあ。有名だよな。行ったことない。」

というか、名古屋のテレビ塔も、東京の東京タワーも僕にはきっと縁がない。だって高所恐怖症なんだから。

凛はまだ僕は高所恐怖症だということに気がついていないらしかった。

「浪速区の新世界にあるの。うちの実家のホント近くなの。よく行ったわ。休みって平日でしょ。美容院って。いつも観光客がいっぱいなんだけど、土日に比べたら空いてるわ。上の展望台から景色を見るの。西には南港やUSJ、六甲山も見えるわ。北に向かって、難波や梅田の町や日本橋、それから大阪城。生駒山に東には倍貴山、天王寺の駅までぐるーっと大阪の町を眺めるの。」

凛の目には遠く大阪の景色が映っているようだ。離れていても故郷の景色ってしっかり覚えているものなのかな。

「あそこから見る大阪の景色、好きなの。気持がすっきりする。大阪でも嫌なことがあると、よく登ったわ。」

「凛ちゃんは、高い所がないと駄目なんだ。」

「そう、頑張れないのよね。」


フフフ、でも、結構高い所っていろいろあるのよね。山や展望台なんかもいいよね。

彼女はそう付け加えた。

「でも大阪か、いいな。道頓堀でたこ焼き食べて、吉本見て、アメリカ村ぶらぶらして、そして通天閣か。」

「でも、通天閣はね、カップルで登ると別れちゃうっていう噂があるの。」

「へえ、そんな噂があるのか。」

じゃあ、駄目じゃん。

そう思っていると、

「でも、直人君とは友達だから全然大丈夫よね。」

あ、そう。やっぱり友達だよね。

僕はちょっとがっかりした。期待しているわけじゃない。

いや、やっぱちょっとは期待している。

だけど、面と向かって〝友達だから〟なんて言われると、がっかりして力が抜ける。


「あ、私なんか変なこと言った?」

笑みが消えた僕の顔を見てか、凛が困ったような顔をして聞いてきた。

「あ、ううん。全然。」

「そう。」

僕は話を変えようと、

「地元には帰ってるの?」

「あまり、帰ってないわ。」

「家族は?」

突っ込みすぎかな?

「母がひとりで美容院をやっているわ。」

へえ、親子揃って美容師か。

「いつか、お店継ぐの?」

凛は、噴水の周りを歩いていた歩を止めて、

「ああ、そうか。あまり考えたことなかったな。先のことって。」

僕も立ち止まり、考える。


そうだなあ、自分も先の事ってあんまり考えたことなかったな。

社会に出て4年目。高卒であの会社に入ったから、今年で22歳になる。

凛は僕より1個下。21歳。

毎日、あれこれといろんなことがおき、楽しいことに目を奪われ続け、日々が過ぎる。

自分がもっと年をとって、結婚したり、子供が出来たり、会社で地位があがったりとか、そんな先のことや、もっと先に何がしたいかとか、そんなこと、まだまだわからない。し、考えたりすることもないもんな。

凛は噴水の水が流れるのを見てる。

凛はどうなんだろう。

年下だけど、僕より大人っぽく見える彼女の横顔をちらりと覗き見る。


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