第二章 簒奪の始まりと「自壊」を狙った魔力飽和の呪い
1. 王家による「支配」と「拒絶」
アルカディアスが王家を名乗った正確な時期については、
諸記録に揺れがある。
ただひとつ確かなのは、
約二百年前を境に、王権がローゼンベルクの手を離れたという事実である。
その頃、王家はローゼンベルクに政略結婚を迫った。
名目は融和。
だが、実態は支配であった。
ローゼンベルクはこれを拒絶した。
それは誇りのためではない。
理のためである。
漆黒の力は、ただ強いのではない。
海である。
満ち、溢れ、還るための奔流。
この海が正しく巡り、大地を潤すためには、
凪が要る。
性質の異なる血を混ぜることは、
その繊細な巡りを乱す。
ローゼンベルクは、それを禁忌と記した。
王家は、この拒絶を受け入れなかった。
彼らの目に映ったのは理ではなく、力であった。
制御し
所有し
管理するべきものとして定義された。
ここに、
支配と拒絶の構図が生まれた。
2. 禁術による「自壊」を狙った魔力飽和の呪い
拒絶ののち、王家は禁術を行使した。
それは力を奪う術ではない。
抑え込む術でもない。
魔力の生成を異常増幅させ、
制御不能な飽和へ追い込む。
すなわち、
自壊を目的とした呪術である。
本来、大地へ還るべき調和の力は、出口を失う。
巡りは閉じ
内部に蓄積し
膨張する。
狙いは明白であった。
――王家を凌駕するほど強大でありながら、
いずれ自壊する力。
ローゼンベルクが自らの力で崩れるなら、それでよい。
怪物へ堕ちるなら、なおよい。
討伐は正義となり、
辺境の接収は秩序となる。
呪いは刃ではない。
巡りを歪め、
海を溺れさせる仕組みである。
3. 凪の断絶
無色の聖女は、やがてローゼンベルクの傍らから遠ざけられていく。
同時期、アルカディアス家は
王権の名のもとにリーゼンバーグ家を王都に囲い込んだ。
それは保護でも昇格でもない。
役割の再定義であった。
王都に集められたのは、聖女だけではない。
強い魔力を持ち、
“闇を抑え、制することができる”と判断された者たちもまた、
秩序の名のもとに配置された。
守護は制度となり、
力は管理され、
個としての在り方は次第に失われていく。
凪は分断され、
海から切り離され、
守る力は「必要不可欠な装置」へと変えられた。
その経緯は一様ではなく、
記録もまた断片的である。
ただ、結果は同じだった。
凪は訪れにくくなり、
海は満ち、
巡りは細る。
以後、飽和は世代を追うごとに濃くなった。
4. 歴史の私物化と改ざん
共生の地であった「アルカディア」の名は、
王家の名と重ねられ、塗り替えられていく。
かつての協力は薄められ、
記録は選別され、
語られる歴史は整えられていった。
天天の秘録府は、王家の独占となる。
理は共有されず、
真文は封じられ、
ローゼンベルクは「呪われた力」として扱われた。
王家は秩序を名乗り、
ローゼンベルクは怪物を背負わされた。
支配は、ここに完成した。
第二章は、ここに閉じられる。




