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アルカディアス王国史〜ローゼンベルク家の真実〜  作者: 真紅愛


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21/21

終幕:黒い海と白い錨――次の世代へ


常春の風は、目に見えるものではない。

けれど確かに、世界の呼吸が変わっていくのを、人々は感じ取った。


井戸の水は澄み、

土は柔らかく息をし、

冬の名残は“終わるべきもの”として静かに退いていく。


それは一夜の奇跡ではない。

誰かの命令で起きた改革でもない。


ただ、戻った理が、定着していく。

それだけだった。


王都には報告が相次いだ。

枯れていた土地に芽が戻り、

沈黙していた森が鳥の声を取り戻し、

乾いていた井戸が、もう一度水を返した。


人々は口々に言った。


「……春が早い」

「今年は、なぜか怖くない」

「息がしやすい」


理由を知る者は少ない。

だが、理由を知らずとも救われることはある。

それが“理”というものだ。



---


離宮の庭先で、国王は遠くを見ていた。

厳しさを帯びた瞳は、今夜だけわずかに柔らかい。


「国は、ようやく前へ進める」


隣で聖女が静かに頷く。


「ええ。……けれど支えるのは、私たちだけではありません」


その視線の先にいるのは、漆黒と白銀の二人だった。


多くを語らない者。

そして、祈りを声高に掲げない者。


けれど確かに、彼らが立っているだけで、

世界はもう崩れないのだと分かる。



---


北方は、変わらず厳しい。

魔物が消えたわけではない。

冬が甘くなったわけでもない。


それでも領民は知っている。


この地は守られている。

今度こそ、揺るがぬ形で。


夜、城の窓辺に灯がともる。

幼い子どもが笑う声。

小さな足音。

誰かを呼ぶ、柔らかな声。


それは“未来”の音だった。


漆黒の当主は、その音を聞き、目を伏せる。

胸の奥が熱くなるのを隠すように。


白銀の聖女が隣に立ち、

彼の指先にそっと触れた。


言葉は要らない。

ただ互いの手を強く握り、

何度も頷き合った。


――間に合った。

――ようやく、戻った。

その確信だけが、二人の間に満ちていた。



---


この地に伝わる物語は、こう語る。


黒い海が満ちる時、

白い錨が降りる。


海は壊すために在るのではなく、

世界を潤し、巡らせ、守るために在る。


錨は縛るために在るのではなく、

荒れを凪へ還し、

海に名を与えるために在る。


そして、その理は――

一代で終わるものではない。


海の血統は、次の海へ。

錨の系譜は、次の錨へ。


名を明かさずとも、世界は知っている。

この城に生まれた新しい息吹が、

かつての始祖と同じ呼吸を持つことを。


黒い海と白い錨は、終わらない。

守り、巡り、還すために。

春は、次の世代へ渡されていく。


【終】

アルカディアス王国史〜ローゼンベルク家の真実〜


終了しました。


次は、アルカディアス王国史〜リーゼンバーグ家の真実〜


となります、らお楽しみに!

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