エンジェルゲート
2ekoです、よろしくお願いします。
あまり書き慣れていないので温かい目で見てください。
5月某日。まだ夏は先のつもりなのに、だんだん暑くなってきた。こうやって地球も僕のことを置いていくのだろう。
朝の9時、職場近くの路地裏。昨日の雨で水溜まりだらけの路地裏からぼんやりと見える、おそらくこれから仕事に行くであろう群衆を見つめ、眠気覚ましに買った缶コーヒーを開けた。
人気の無い場所ということもあって、路地裏は静かだった。皮肉にもそれが僕の孤独を募らせているようで少し淋しかった。
4月から僕は一般企業に就職した。特に深く考えず、なんとなくで決めた職種だった。
噂ではあの社員は僕のことをよく思っておらず、むしろ早く辞めないかなと笑っているらしい。人数が少ない職場というのもあって、余計その陰湿さが目立って見えた。
気が弱い僕は、事実ではある為あまり僕は言い返せなかった。言い返す気力もなかった。
僕はそんな毎日が憂鬱だった。心から疲れた、と思ってしまった。消えたいと思ってしまった。
「全部終わらせて逃げたいな…」
虚空に向かってそう呟いた。きっと疲れたと思うには遅過ぎた。
昨日も失敗した。電話対応にて、話をつかむ事ができず対応を間違えてしまって相手を怒らせてしまった。僕が応対に詰まっていたら、見かねた先輩が助けてくれたものの、僕はその場に立ちすくすことしかできなかった。
先輩社員によると、先程までコールセンターに電話をかけていたらしく、そこであまり良い対応をしてもらえなかったようで、それで僕に当たったようだ。
しかし、僕が詰まってしまったことも事実で。みんなは慣れだよと慰めてくれたものの、内心どう思っているかはわからない。僕はだんだんここにいることが怖くなっていった。
いっそ死んでしまいたいと思うのは憂鬱な朝だからだろうか。気づけば缶コーヒーに口を付けないまま30分が経っていた。
始業まで残り15分といったところだろうか。流石にそろそろ向かおう。
グビッと缶コーヒーを飲み干し、そう決心して嫌々一歩を踏んだところで。
世界は傾いた。
どうして、どうしてどうして。訳もわから無いまま頭を打った衝撃で、僕の体は閉じようとしていた。
幻覚だろうか。薄れゆく意識の中、缶コーヒーの缶がコンクリート上に落ちる音を聞きながら、僕は暗い路地裏で光を見た気がした。
べリッ……べリッベリッ……
耳元から音がする。不思議なことに少しずつ五感を取り戻していく気がした。
ふわっと砂糖菓子と線香の香りが入り混じった独特な香りがした。
心なしか頭の外側が少し痛い。なんだこれは。
やっとの思いで瞼を開ける。するとそこには……
「……え?」
「……ん?」
ん?と不思議な顔をした天使がいた。
ここでの天使は比喩表現なんかでは無い本当の意味での天使だ。
目の前にいる何かは、奇妙な容姿をしていた。頭上には電球のような金色に光る輪っかが、背中には白い羽が、ボブカットの髪や肌、まつ毛までが透き通るような白さをしており、全体的にどこか光を纏っている気がした。
天使でなくとも、異常者……だったらまだいいか。それどころか得体の知れない何かに見えた。
しかし、これは誰がどう見たって天使だ。それ以外に形容できる言葉はこの世に存在しなかった。
「目が覚めたんだね、人間。」
ふわっと天使は笑う。それは美しいとかを超えてどこか気味が悪かった。
そんな僕の顔なんか伺わず、天使は続ける。
「キミは…覚えてなさそうだね。キミは自販機で缶コーヒーを購入した後、倒れたんだ。ここまでは覚えてるよね。」
[……。」
「……?あれ、覚えてる、よね?」
「……覚えてるよ。」
なんだこいつは。察することもできないのか。
「よかった。それでね、キミは頭を強く打って一時はあの世に飛ばされかけていたの。でも、ボクはキミのことをずっと見ていたからすぐに助けられたの。」
普通だったら信じないだろうが、僕はこの奇妙な状況に体を順応させようとあえて何も考えないことにした。
……待てよ?
「ちょっと待って、なんで僕のことをずっと見ていたの?君は天使なんでしょ。」
思わず疑問に思ったことを投げかけた。天使なんだから、人類皆平等に見るものだろう。そう思ってこの天使に投げかけてみた。
しかし、こいつには僕の中の普通が通用しなかった。
「え?だってボクは見ての通り天使だから。なんとな〜く味方したい人の味方をするものなの。ほら、羽もあるでしょ?」
……羽は見ればわかるし答えになってない。思い通りの答えを出さないこいつにだんだんイライラしてきた。こいつに正解を求めるのはやめにした。
「ごめん、遮って。それは分かったからさっきの話を続けてよ。」
「うん、わかった。それでね、キミは不幸なことに頭を打っちゃったんだ。知ってるよ、人間は頭を強く打ったら死にかけちゃうんだって。人間学で学んだんだ。」
なんだよ、人間学って。面倒だから聞かないけど。
「それでね、君は死にかけていたんだ。」
「……は?」
「あ、誤解しないでね。君はまだ死んでないよ。ボクがカミサマに頼んでキミにまだ生きてもらうように頼んだから。」
わけが分からない。こいつは何者なんだ。そんな僕を置いてけぼりにして天使は話を続ける。
「だから、まあ君は生きてるよ。ただ、まあ頭に傷があって、そこから血がダラダラと出ているからさ。だから……」
そう呟き、天使は目を落とした。そして、手元にあったものを見せようとした。……なんだか自身の頭が引っ張られるような感覚がして嫌な予感がした。
そして、その嫌な予感は的中した。
「ほら!キミの頭の傷を止血しようと今ガムテープで止血しようとぐるぐる〜ってしてたの!まだ途中だから邪魔しないでね。」
「はぁ!?」
訳が分からなさすぎてバッと飛び起きた。ちょっと君動かないでという天使からの制止には目もくれず、そこから1番近かった水溜まりを覗く。
すると、そこには茶色のガムテープで頭をぐるぐる巻きにされた僕の哀れな姿が映っていた。ガムテープの先は、この天使が先ほど言っていたように続いており、先には4割ほど使われたであろうガムテープ丸々続いていた。
ため息をつき思わず絶句する僕とは対照に、天使は少しお怒りだった。
「もう!ボクがその頭の傷を直そうとしてるでしょ!」
その態度にムカついた。こっちは被害者だぞ被害者。
「いーや!お前が人間学?ってやつで学んだかは置いといて人間にガムテープを巻くやつなんか全員狂ってる!そもそもお前が天使ってのもこっちは信用してないんだよ!これもヘンなオモチャなんだろ!」
そう投げかけ、こいつの輪っかを掴もうとした。しかしその手はそっとすり抜けた。それはそれが本物だ、と言っているようで奇妙だった。
得体の知れない何か、は少なくとも異常者……基人間ではないことが確定してしまった。
こいつはなんなんだ。だんだんと恐怖心が沸々と湧いてきて、体全体にその恐怖心は侵食していった。段々立つのもままならず、僕は腰を抜かしてしまった。
……自分より背丈が小さいこいつのせいで腰を抜かすのは我ながら情けなかったが。
「ったく、触らないでよね。これは僕の可愛いチャームポイントなんだから。」
どこが可愛いだ。こっちは可愛さから来る庇護欲なんて一切無くこいつが何かわからないという恐怖心しか湧かないというのに。
「とにかく座って、言う通りにしないと君も……その……出血とか危ないでしょ頭なんだから。」
「はあ…...」
危機感を持っているのは僕自身の身体にたいしてではなく、君だ。だから君に従うんだ。そう自分に言い聞かせた。
そうでもしないと、こいつに飲み込まれてしまいそうで。とにかく怖かった。
「はーい。座ってね〜」
「……」
「よいしょっ……よいしょっ……と。」
「……」
「あれっもうテープがない!?えーっと、人間学では人間の傷を治療するときに巻くテープは何周すればいいって書いてたっけな。そもそも今何周してた?あれれ?」
不安すぎる。こんな奴に任せたくはないが状況は状況だ。ガムテープで頭をぐるぐるにするようなやつにまともな処置を求めるのが間違っている。
「まあいっか!だいたい傷口は隠せたでしょ。」
「……どうも、親切な天使さん。」
感謝0、嫌味100の言葉を告げた。
「じゃあ、僕はこれで。」
とんでもなく奇妙でイカれた天使とは、もう会わないだろう。かと言って僕はこれからどこに行くって話だが。
天使に背を向けてゆらゆらと歩き路地裏から出ようとした。が、強い力が僕の服を引っ張った。
「待って、感謝してるならお礼がいるでしょ?これは人間学じゃ無く感謝学で学んだから。」
それは華奢に見える天使からは想像できないほど強力な力、そして訳のわからない言葉だった。
腕はかなり震えているので慣れてはいないと仮定しても、こいつは本当に振り解けないほど強い力で僕のシャツを掴んでいた。ただでさえアイロンを長い間かけていないシャツがもっと伸びてしまいそうだ。
「……痛い、離して。」
「ヤダね。お礼をもらうまで離さない。」
「……。」
「ねえ、聞いてるの?」
つくづく思うがこいつは空気が読めない奴だ。この後どこかへ行こうとしてる人間からしたら絵本のような天使のような優しさは一切無い。まるで宇宙人と話しているようだ。
こいつの相手をするのはだんだん面倒臭くなったので、しばらく黙って立ち尽くすことにした。その間、後ろからはなんで話さないんだよ!ボクの役に立てるなんて光栄だろ!等と声が聞こえたが全て無視をすることにした。
だんだん力も弱まってきた。このまま立っていたら時期に呆れて諦めるだろう。安心しろ天使。この世には人間なんて沢山いるんだから、そいつにボクの分の礼を叶えてもらえ。もう僕は君に何も用がない。
どれくらい時間が経ったのだろう。そろそろ飽きた頃だろうと思い、ふと天使の顔を窺ってみた。すると、さっきまでの明るい表情とは打って変わって天使は泣いていた。
ああ、なんなんだよもう!と思わず顔を顰めていると、顔を上げた天使と目が合ってしまった。真っ白な顔は涙と鼻水でぐしょぐしょだった。
流石に何者かはわからないが自分より小さい子どものようなこいつに罪悪感が湧いてきた。昔小学生の弟を泣かせたときと同じ顔だった。あの時はどうしたんだっけ。
そうだ、確かポケットに……。
「……ほら。」
「……何さ。」
「……飴。口に合うかはちょっとわかんないけど。レモン味。」
「子どもじゃないんだけど。20歳とかそこらでしょ君は。ボクはもう君より上だし。」
「キミが何歳かは気にしてないよ。ただの僕の身勝手な自己満足。それがお礼って事にはならないかな。」
「はぁ……?そもそもボクは甘いものとか好きじゃ……」
グーーーーーーーーーーーッ
「……。」
「……。」
腹が鳴った。天使も腹が鳴ることってあるんだな。
天使は気まずそうに僕から目をそらし、器用に片手で包み紙を剥がして飴を口に入れた。さっきまでしつこくてうるさかったのにいきなり黙ると静かだな……と思った。
パチパチしている食感は初めてのようで、口に飴を入れてコロコロと転がしている時の顔が二転三転と変化していきこんな状況とはいえ吹き出しそうになった、
落ち着いた頃だろうか。天使はふっと片手を離した。やっとか。僕はもう去るぞ。そう伝えようとした時だった。
バッと天使は僕の両手を掴んできた。なんだなんだ、と動揺していると、
「すごい!こんな美味しいものをボクに教えてくれてありがとう!君って最高だ!」
天使はすごい勢いで話しかけてきた。そう言う顔はありえないほど輝いており、背伸びしているせいか僕と顔が近かった。
「それ……はどうも……って、うわぁ!」
かなり興奮している天使に腕をすごい力でぶんぶんと回され、僕はバランスを崩してしまった。腕だけ天使に掴まれて、他は下で尻餅をついている妙な体勢の僕を気にせず天使は言葉を続けた。
「本当はお礼としてもっと違うものを取るんだけど……僕は君のことすっごく気に入っちゃったから今日はこれでいっかー。」
「……そう、それは良かった。」
「なんならこの僕が何かしてあげるよ。何がいい?」
「え……?」
話が変わりすぎている。さっきは僕から何かを取ろうとしていたのに、いきなりこちらの見方をするなんて。訳のわからないやつだ。
願い……か。なんだかこいつならなんでも叶えてくれそうだ。天使でも天使じゃ無くても無理やり叶えてくれる気がした。そんなちょっとした欲が出てしまった。
思い返してみれば、この考え方がミスだったのかも知れない。
「それなら……。」
ここからやり直せるなら、こんな選択はしなかった。
「逃げたい。仕事なんかほっぽって遠くのどこかまで。」
……×××××。
「うん!わかった!じゃあ、行こう。君にいろんな世界を見せてあげる!僕の手を取って!」
なんとなく、なんとなくだけどこの手を取れば、僕は人間じゃ無くなる気がした。それでも、自分の人生はもうどうでもいい気がして、手を取る事にした。
手を取ろうと伸ばした瞬間、なぜか天使は自身の手を引っ込めた。
えっと…...えっと……と慌てる天使は目線をあっちこっちに伝わせていた。なんだよ、言いたいことがあるなら早く言えよ。
「そ、そうだ!き、君の名前、そう言えば聞いてなかったなって……。」
「はぁ……。」
そんなことかよ、と心の底から思った。
「二木。」
「フタツギくんね。下の名前は?」
「それだけあれば呼ぶのに困らないだろ、素性のわからないヤツには無闇に伝えない。」
「ふぅん……。」
「キミは?」
「え?あ、うーん、と。17だよ。」
「変だし呼びづらい名前。」
「仕方ないでしょ、製造ナンバーだから。なら、セブンティーンって呼んでもいいよ!」
「そうは呼ばない。」
変なヤツ。そもそも天使の製造ナンバーってなんなんだ。
「と、とにかく……!コホンッ!ボクの手を取るとフタツギくんははいろんな世界を旅する事になります!戻れるかは……知りません!それでも大丈夫だったらボクの手を取って!」
真っ直ぐに、僕は手を伸ばす。
「よろしく、17。」
天使の白い手を握った。
霞んで消えかける意識の中、天使……基17の声でこちらこそ、と聞こえた気がした。
こうして、超奇妙で長い休暇が始まった。
これから僕に何があるかは知らない。でも、不思議と怖くなかった。
この奇妙な天使『17』は、いったいなんなんだろうか。
出会って1日目。その存在を僕はまだ掴めなかった。
『第1話 エンジェルゲート』
読んでくださりありがとうございます。
今後も二木と17の物語を不定期で更新していきます。出来るだけ早く書けるように頑張りますのでよろしくお願いします。




