9.タクの特技
短っ!!
俺の首をスッパリ斬りやがったお坊っちゃんのことが分かって十数日たったころ。俺はまたしても使用人の格好をして、城をうろついていた。ある書類を読みながら。
「何見てんの? というか、よく読みながらスイスイ歩けるなあ。俺だったら確実に途中でつまずいてこける!」
「ふーん。んで、これか?」
「あれ? スルー?」
うん。スルー。
「これはちょっと前にあのシューベルトか、ドーベルマンか、言う名前の坊っちゃんのことを調べるために一寸、拝借した奴のことに関する書類。あの坊っちゃんの家、なかなか面白いぞ」
「聖夏ー、シューベルマン家な」
「ああ、そんな名前だっけか。どうでもいいだろ?」
何かタクの落ち込むようなため息が聞こえたけど気にしない。どうせ、すぐもちなおす。
「タクも読むか?」
「ああ。読む」
俺は今まで読んでいた書類をタクに渡してやろうと…………うん? あれ?
「タクってこっちの文字読めるのか?」
「読めるぞー。勉強したからな」
いや、勉強って……。こっちの世界に来て半年も経ってないのに文字をマスターしたのか、この阿呆は。
「おーい、聖夏。今すごく失礼なこと考えただろう」
くっ、こいつはエスパーか?
「俺の特技忘れたか?」
…………はい?………………あ゛ー、忘れてた。
まあ、口に出して言ったら呆れられるから心の中でしか言わないけどな!
タクの特技。それは抜群の記憶力だ。ただ漫画や小説のような完全記憶能力、って言えるほどのものじゃない。例えば、凄く混雑した道で次々すれ違った人の顔を全部完璧に覚えるなんてことは流石にできないし、今日喋ったことを一字一句間違えずに始めから全部言え、なんてこともできない。ただ、意識して、少しでも興味に思ったことは全て覚えることができるそうだ。タクはこの特技のおかげで学校の成績は常にトップだった。まあ、タクは登場人物の気持ちを読み取るような国語の問題が大の苦手だけどな。
ち・な・み・に、俺は常に校内順位トップ10に入る成績だったと言っておこう。じ、自慢じゃねーぞ!!
…………ま、まあ、それは置いておいて、記憶力のいいタクは、その記憶力で文字を覚えたんだろう。
文字を読むのに支障がなさそうなので改めて、書類を渡す。
「ほら。こけるなよ」
「あれ?俺のために一旦止まるっていう選択はなしなんだ」
当たり前だ。だいたいこんなところで止まったら邪魔以外の何者でもない。現在、城の少し狭い使用人ばかりが使う通路にいる。大量の洗濯物をのせたまあまあのでかさのカートが通ることもあるここで立ち止まると端によってもかなりの邪魔だ。
「それに、タクがそんな簡単にこけるわけないだろう」
こいつは何でもできる万能タイプの人間だ。
今現在も書類を読みながら俺と喋っている。しかも歩きながら。
俺は呆れてため息をついた。
「お前の方がよっぽど器用だろうが……」
「そうかー?」
自覚がないのに腹が立つのだが。
殴っていいのか?いいよな、それくらい。あー、殴りたい。こんな万能人間何で存在するんだ?
「…………聖夏」
俺が悶々と考えこんでいると書類を読み終わったタクが声をかけてきた。
「…………って、読み終わるの早くないか!?」
俺が書類渡してから20分もたってねーぞ。
「速読はマスター済みだぜ!」
「いい笑顔で断言するなよ……。速読にしても早過ぎるだろうが。軽く人外だろ。」
「失礼な。……って、速読はどうでもいいんだよ、聖夏。そんなことよりこの書類の内容、色々な意味でかなり不味くないか?」
「不味いだろうな」
お久しぶりの更新です。
申し訳ありません……。