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影踏みのルナ ~地下世界の猫族少女は、五歳で血の温かさを知る~  作者: 猫寿司
第1章:幼少期編 —— 緋色の指先とぬるい臓物

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第3部:幼少期編 —— 犬と好奇のメス

1.学習と恍惚


 その集落は、暴力で呼吸をしていた。

 「抜け忍」たちの里。そこはプロの殺し屋や傭兵崩れが身を潜める要塞であり、力こそが唯一の正義とされる場所。

 子供たちの社会もまた、大人の縮図であった。

 トバリを中心とした集団によるルナへの暴行は、日に日に陰湿さを増していた。

 殴る、蹴る、泥水を飲ませる。

 だが、彼らは知らなかった。

 痛めつければつけるほど、その少女の中で「何か」が育っていることを。


 ルナは、自室の粗末なベッドの上で、ずきずきと脈打つ鼻を押さえていた。

 痛い。息をするたびに、鉄の味が喉に広がる。

 けれど、ルナの瞳は潤み、頬は桃色に染まっていた。


「……んぅ……っ」


 痛いのに、熱い。

 殴られた瞬間の衝撃。自分の体が壊される感覚。

 それは、獲物を解体する時とは逆の、自分が「生き物」であることを強烈に実感させられる体験だった。


(これが、痛み……。これが、屈辱……?)


 初めて味わう感情の奔流に、ルナは恍惚として身悶えする。

 そして同時に、冷徹な計算機のような思考が動き出す。

 この素晴らしい「初めての経験」を、どう処理するか。

 考えただけで、股の奥がキュンと疼いた。


「……まずは、知ることだぬ」


 狩りの基本は観察だ。ルナは、自分を囲んだ獲物たちの情報を整理し始めた。


 【ターゲットリスト】


リーダー:トバリ(10歳・男・フクロウ族)


村長の息子。首謀者。プライドが高く、ルナを敵視している。一番の「ご馳走」は最後まで取っておくべきだ。


子分B:ヤヨイ(11歳・女・人族)


細身で愛想のない顔。親に甘えているのを見た。忍びになりたくないと愚痴っていた。意志が弱い。


子分C:イマイ(10歳・男・人族)


弱そう。ただの腰巾着。脅せばすぐに裏切りそうだ。


子分D:タケ(12歳・男・犬族)


一番腕っぷしが強い。身体能力はルナに近いが、思考が単調。自分が強いのは年齢のせいだと気づいていない裸の王様。要注意。


子分A:アキラ(12歳・男・人族)


小太り。食い意地が張っている。家では厳格な父に怒鳴られてばかり。ストレス発散でルナを殴る力が一番重い。


そして――。


「……あいつだ」


 ルナの唇が、三日月の形に歪む。

 アキラはいつも自慢していた。自分の家で飼っている、獰猛な闘犬「ボス」のことを。

 『俺の言うことなら何でも聞く最強の相棒だ』と。


「まずは、お前からだぬ。……アキラ殿」


 社会の成り立ち、ヒエラルキーの崩壊実験。

 その第一歩として、ルナは標的ターゲットを定めた。


2.喪失の朝


 数日後の早朝。

 集落の一角に、少年の絶叫が響き渡った。


「う、うわあああああああッ!!」


 アキラだった。

 彼が日課の餌やりで犬小屋を訪れた時、そこに愛犬「ボス」の姿はなかった。

 残されていたのは、千切られた血だらけの首輪と、地面が吸い込みきれないほどに溜まった、赤黒い血の海だけ。


「ボス! ボスッ!!」


 鎖は刃物で切断されていた。争った形跡はない。一撃だ。

 アキラの両親が駆けつけてくる。

 状況を見た父親は、青ざめた顔で息子に告げた。


「アキラ……あの猫族の娘に謝ってこい」

「な、なんでだよ父ちゃん! あいつがやったんだろ!?」

「そうだ。だが、あいつは……あのガキは異常だ。あれは怒らせていい相手じゃない。」


 プロの抜け忍である父親の本能が、ルナという異質な存在への恐怖を訴えていた。

 だが、アキラは許せなかった。

 厳格な父からのプレッシャーの中、唯一心を許せた相棒。それを奪われた怒りが、恐怖を上書きした。


「ぶっ殺してやる……!」


 アキラは父の制止を振り切り、木刀を握りしめて家を飛び出した。

 形相は鬼のようだ。

 ルナの家へ押し入るが、もぬけの殻。ルナの両親に詰め寄るも、彼らは「娘の遊びには関知しない」と涼しい顔で受け流すだけ。


「どこだ! 出てこいクソアマ!!」


 アキラは集落中を探し回った。


3.一本松への誘い


 昼下がり。

 アキラは、集落外れの田畑のあぜ道を歩いていた。

 怒りで呼吸が荒い。


 ――トン。


 不意に、肩を叩かれた気がした。


「誰だ!?」


 素早く振り返る。木刀を構える。

 だが、誰もいない。

 風が稲穂を揺らす音だけが響いている。

 キョロキョロと周囲を見回すが、人影ひとつない。


(気のせいか……?)


 そう思い直して前を向いた瞬間、耳元で、甘い毒のような囁きが聞こえた。


『返してほしければ、一本松の下に一人で来いぬ』


「ッ!?」


 ルナの声だ。

 アキラが再び振り返った時には、やはり誰もいなかった。ただ、猫のような足跡が一つ、ぬかるんだ土に残されているだけだった。


4.好奇心の解剖実験


 集落から離れた丘の上。そこに、樹齢数百年と言われる巨大な「一本松」がある。

 アキラが息を切らせて近づくと、地面に異変があった。


 点々……。


 赤いシミが、一本松の方へと続いている。血だ。

 アキラは走った。心臓が早鐘を打つ。


「ボスーーッ!!」


 一本松の下に辿り着いた瞬間、アキラの足が止まった。


 そこには、太い枝からロープで中吊りにされた、愛犬ボスの姿があった。

 喉から腹にかけて一直線に裂かれ、色鮮やかな臓物がダラリと地面まで垂れ下がっている。

 完全に、解体されていた。


「あ……あ、あ……」


 カラン。

 手から木刀が滑り落ちる。

 腰が抜け、その場にへたり込む。股間が生温かくなり、失禁した尿がズボンを濡らした。


 その背後に、音もなく影が立った。


「――隙だらけだぬ」


 ゴッ!!


 鈍い音。

 ルナが振り抜いた棍棒が、アキラの側頭部にめり込んだ。

 アキラは蛙のような声を上げ、血だまりの中に転がった。


「んふっ……♡」


 ルナは下腹部を押さえ、恍惚の吐息を漏らす。

 目の前には、絶望と恐怖に顔を歪めるアキラ。その表情は、極上の調味料だった。


「そんなに悲しいのか? たかが犬一匹だニャ」


 ルナは棍棒を捨て、愛用の解体ナイフを取り出した。


「おしっこまで漏らすとは、さぞ驚いたのだなぬ。……そんなに嬉しいか? 年下の、力の弱い女に殴られて。ふふふ」


 ルナは、人間の感情を理解し始めていた。

 羞恥、屈辱、意地、恐怖。

 どうすればその反応を引き出せるのか。まるでデータを収集するかのように、彼女はアキラを見下ろす。


「う、うぅ……」


 アキラが側頭部から血を流しながら、呻き声を上げて這いずろうとする。

 ルナは迷わず、そのあごの先端を靴底で蹴り上げた。


 ガッ!


 脳が揺れ、アキラの視線が定まらなくなる。

 力が弱くても、急所を的確に狙えば効き目がある。その事実に、ルナは無邪気な喜びを見せた。


「お前なら、あたしでも殺せるのぬ」


 ルナがアキラの体に馬乗りになる。

 ナイフの切っ先が、アキラの喉元ではなく、股間に当てられた。


「ひっ……! や、やめ……」


「パパ殿のお風呂で見たけど、お前のはどうなってるんだ?」


 ズボン越しに、ナイフの腹を股間に這わせる。

 冷たい金属の感触と、死の恐怖。

 何度も、何度も行ったり来たり。

 極限の緊張状態。人間の生存本能のエラーか、それとも倒錯した刺激のせいか。

 アキラの股間が、次第に膨らみ始めた。


「ほう……」


 ルナの猫の瞳が、ランランと輝く。


「じゃあ、見てみるかぬ」

「うああっ! は、離せ!」


 アキラが半狂乱になって、右手でルナを振り払おうとした。

 その瞬間。


 シュッ。


 風切音と共に、鮮血が噴き上がった。

 ルナがアキラの右手の筋を、外科手術のような手際で切断したのだ。


「ぎゃあああああああッ!!」


 だらんと力なく落ちる右腕。

 ルナは素早く止血帯を取り出し、アキラの腕を縛り上げる。

 死なれては困る。実験はまだ終わっていない。


 喚き散らすアキラの口に、泥と血の混じった草を詰め込み、強制的に黙らせる。

 そして、ズボンと下着を一気に引き下ろした。


 そこには、恐怖と刺激で充血し、真っ赤にそそり立った {もの} があった。


「……お前、なんで普段大きくならないのに、こんな時に大きくなるんだ?」


 ルナは不思議そうに首を傾げ、それを指先でツンツンと突く。

 脈打つ血管。熱を持った {もの}。

 それを見ていると、ルナ自身の体も熱くなる。

 なんだか、ドキドキする。不思議な感覚。


(パパ殿とママ殿に、今度聞いてみよう。……その赤いの、どんな味がするんだ?)


 異様な好奇心は、留まるところを知らなかった。

 食欲、性欲、そして破壊衝動。全てが混ざり合った衝動が、ルナの右手を動かした。


「焼いて、食べてみよう」


 ザンッ。


 迷いのない一閃。

 アキラの絶叫が、詰め込まれた草の隙間から漏れ、意識が闇へと落ちていく。

 切断面から、噴水のように鮮血が溢れ出した。


「あ、止血しないとな。ギュッと抑えないと、死ぬんだったなぬ」


 ルナは手際よく、切断部を布で圧迫止血する。

 その横の地面には、切り落とされた{もの}が転がっていた。

 本体から離れ、血を失い、次第に小さく萎んでいく肉塊。


「……ちぇ。小さくなっちゃったぬ」


 ルナはそれを悔しそうに見つめる。

 だが、その残酷な光景の中で、彼女は自分の太ももの内側が、甘く疼いているのを自覚していた。

 それは、五歳の少女には早すぎる、そしてあまりに歪んだ、性の目覚めだった。


(第3章 完)

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