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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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火の杜


「…くっ…!」

 

 一瞬の隙を突かれ、牛鬼に捕らえられた大淵は見悶えた。


「「…勝ったと思ったか…?残念だったな。…言った筈だ、お前では俺には勝てん、と」」


 独尊が音を立てて破損しはじめ、システムインジケーターのオレンジ色の光が点滅を繰り返した後に消え、続いて耐久インジケーターが黄色へ…そして赤になり…これも消えた。


「「…どうだ?お前はそこそこ強かった。…命乞いすれば眷属にしてやろう」」


「…さっさとやりやがれ」


 …この世に生まれた事を後悔するほどの腹痛と、一生厠から出られない地獄のような下痢を起こしてやるから、楽しみにしていろ。 …そう呪いながら、大淵の胴体は巨大な歯にすり潰されていった。


 …岩に腹を圧し潰されるような苦しみを味わいながら大淵は血を吐いた。

 

「例え…どんな… …最後まで……」

 …飲み込まれる前に…あの口蓋垂でも引きちぎってやる… 

 …そして次に何か口に入れる度に、肺に送り込んで噎せ苦しむが良い。


 大淵は左腕を失いながらも右手を伸ばし、柔らかな口蓋垂を思い切り掴んだ。







「…ッ…」


 目を覚ますと、自然木を利用した太くて立派な一本ものの梁と、その上に茅葺屋根が見えた。

 …視線を下に移して見回すと、そこそこ広くて小綺麗な家の囲炉端に寝転んでいた。

 少し離れて村人が徳利や紙コップをぐしゃぐしゃに握り締めて同じように雑魚寝しており、川村、藤崎、星村、クロエ、リザベルも部屋の一角で眠っていた。川村と星村は藤崎の巨体を枕代わりにして…寝心地悪そうな寝顔を浮かべている。

 …射方と浮田も背中を合わせるようにして寝ている。


 更に視線を巡らせると…土間の方から何かが伸びていた。

 …何をしたらそうなるのか…恐らく黒島の足だった。…往年のミステリー映画の金字塔を象徴するように、足をVの字にしながら土間に落ちたままになっている。…生きているのか、アレで?


 そう言う自分は囲炉裏の縁を枕にして寝ているようだ。頭を仰がせて見ると、囲炉裏の向こう側に逆さになって座る人影が見えた。 


 …尾倉だけがいつから起きていたのか、囲炉裏を挟んで自分の対面側に座り、皆を見守っていたようである。…私物の鉈ナイフを手に、囲炉裏の小さな火に適度な小枝を切って放り込み、火の番をしている。


「…尾倉、ここは…」


「…二郎の家だ。…昨日は散々飲んだからな」

 

 尾倉はスッ、と大淵を指さした。 自分の体を見下ろすと、自分の周囲…或いは自分の体を枕にして、桜やマオ、アリッサにリノーシュ、三バカがぐっすりと眠っていた。 …やはり周囲には紙コップやワインの酒瓶が転がっている。

 

 …なら、この右手に余る柔らかなものは?


 何気なく見た視線の先には…自分の腹部を枕にして眠る斎城が居た。

 …理解と同時に思考がフリーズした。


「…」


 …そろりと手を引っ込めて離し…尾倉を見た。


「…俺は何も見ていない」


「…恩に着る」


「…ンぉォお~…」

 

 …土間の方からゾンビが目覚める様な鼾とも寝言とも取れない声が聞こえたが…幸いなことに、特に起き出してくる事はなかった。 …あのザマでは、尻に目でもついていない限り、こちらの様子を見る事はできない。


「…流石に重機は無い。死体を埋葬してから行くなら、隊員と村人総出でも今日の出発は厳しいだろう」


「…元々三日ほど滞在して待ち受ける予定だったんだ。一日くらい、バチは当たらんさ。…それより、やべー妖怪の代名詞の牛鬼を、野晒のまま放っておく方が罰が当たりそうで気持ち悪い」


「…人足は十分だ。作業自体は午後には終わるだろう」


「…朝飯はどうする?」


「…この通り炊事班も皆ダウンしている。朝はレーションで済ませてもらおう」

「レーションも久しぶりで良いもんだ」

 大淵は心地よさげに欠伸をした。



 アカネの里にて牛鬼埋葬の為に半日を費やし、夜から十分に休息を取って翌朝、村人に感謝され、惜しまれながらも里を出発した。


 

 …時折、集落や町場で道を尋ね、確かめながら進み…ついに南に聳える幾つも連なる険しい山々が見えてきた。

 アソの山… …現代では阿蘇山だが、この世界ではあの山に炎竜が棲むという。…それを討伐して、奴の仕掛けたふざけたゲームを終わらせるのが自分の最大の目的。


 …炎竜には気の毒とも思うが、ここに来るまでに聞いた住人の話によれば、この炎竜も夜な夜な手頃な城下や町を襲っては、侍だろうが人だろうが家屋ごと焼き払い、その焼いた死体を喰うのだという。

 …そういう事なら尚更、心置きなく討伐できるというものだ。


 …中央の山頂からは火山ガスが立ち上り、空を行く雲に紛れ込んでいる。…今にあの火口から炎竜が飛び出してくるのではないか、という気もする。

 時刻はまだ九時を回った所だ。…空は晴れ渡り、本来の目的さえ忘れれば標高1500前後のアソの雄大な絶景を満喫できるハイキング日和だ。


「…ここからは道が険しい。十分注意して進んでくれ」


 最悪、車両が進めなくなったりUターンできなくなったら、収納に入れてそこから徒歩で進めばいいのだ。 …果たして山肌が急峻さを強めると同時に、車両はリタイアせざるを得なくなった。…竜騎兵が運転するという手もあるが、搭乗スキルも万能ではない。…車両ごと破壊されたり、谷底に転落させられてしまえば目も当てられない。


「…という訳で、ここからはハイキングと洒落こもうじゃないか」


 各自にデイパックを装備させ、必要最低限の軽装備だけ背負わせた。


 …特に黒島、星村、リノーシュ、マオ、香山…三バカなど、隊内で戦闘能力の低い者・死なれてはより大勢の者が困る者から優先して「転移」の魔法石を装備させた。…拠点に二つあるため、八つしかない貴重品で、これさえ常備しておけばいざという時には念じた場所…若しくは魔力を通した時点で、自動的に安全な日本の拠点に瞬時に転送される。

 

 …かつてアリッサと共に戦った黒竜と炎竜…どちらがどう手強いかは分からないが、名前に炎を冠する以上、黒竜より弱いという事は有り得まい。…交戦に入ったら極力接近戦は避け、仲間達はサポートに回すしかない。…あの、本物のドラゴンブレスを受ければ例え竜騎兵でも一たまりもあるまい。

 …それとも、竜騎兵が奴らの背に跨れば、飼いならせたりしない物だろうか?…勿論、そんなリスキーな真似をさせるつもりも、許すつもりもないが。


「…恐らく無理だぞ。竜族は私以上にプライドが高い。分類は一応魔族だが、竜の連中は自分達こそ魔族の中の魔族だと思っている。…そして実際、得てしてその戦闘能力は他の魔族と一線を画しておる。…例え肉親を盾に取られようと、決して従う事など無い。肉親ごと敵を殺すだろう。…盾に取られる軟弱な肉親など、自分の血筋では無いと断じてな」


 マオは星村が急遽制作してくれた特殊素材のノースリーブ戦闘服に身を包み、その上から最早ポリシーとなった大淵が買い与えたデニムショートパンツとTシャツ姿になっている。…これで両手にトレッキングポールでも持っていれば、随分と小さな山ガールの出来上がりだろう。

 …相変わらず杖も持たず、代わりに腕組みをして後に続いてくる。


 …ラナとパルムも最初の内は自分の両脇にピッタリとくっ付いていたのだが、流石に体力が持たなかったか今は後方組に伍している。…平坦な大陸…それも海岸で平時を過ごしていたブレメルーダ組は、リノーシュが何とか涼し気な顔を保っているが、後は全滅に近い。…万一の事故に備え、行軍能力では隊内でも自分より高い尾倉が最後尾に付き、教導よろしく彼女らの安全を見守っている。

 …マオとリザベルはキツくないらしい。この手の、人間だからこそ感じる寒さや暑さ、そして体の疲弊や空腹・睡眠は魔物にとって無用…暇なら取るが、無くても全く困らないものなのだ。

 …だから、人間とパワーマッチをすれば、どんな脳筋自慢だろうと…いずれは限界を迎える人間に勝ち目はない。


「日菜子のアイスドラゴンはいい子じゃないか」


「あれは竜族では無い。幻獣…召喚されたものだ。 …別に講義をするつもりは無いが、召喚獣は元を辿れば魔物との戦いで最終的に人類に勝ち目が無いと悟った賢者たちが対抗する為に作り出した、毒を以て毒を制すという戦術思想の下に開発された、人類の対抗手段の一つだ。 …ある意味大成功したな。召喚幻獣は死ぬこともないし、例外を除けば人間の命令に忠実だ。…強ければ強い程限られた時間しか使役できんがな。…それに、幻獣使いの適格者など一万の人間に一人いれば良い方だろうしな」


「…確かに、俺もまだ日菜子とアリッサ以外では見ていない」


 …日菜子…日菜子か… …そう言えば、と朝の件を思い出しかけて慌てて頭を振った。


「 …なんだ、何を想像した?日菜子…右手…? 日菜子の右手がどうかしたか?」


「あー、何でもないんだ」

 未だ訝るマオを極力無視し、大淵は思考を殺した。


 …全く、何を十代のガキのように… …。…どうしたんだ、俺は?とっくに枯れ果てたオッサンだっただろうに、何を今更色気づく…


 …考えてみれば、中身は53+αの枯れ木のような爺でも、この肉体は生命力が溢れ出さんばかりの20代を過ぎたばかりの体だった…。 …当たり前に使っているからと、肝心なギャップを見落としていた。

  

『大淵、止まれ。…決して快適なポイントでは無いが、隊列が伸びすぎている。 …そこで休憩に入れ』


「あ?ああ、すまん、気が回らんかった。 …わかった」


 大淵は後ろを振り返った。 自分の五メートル後に続くのは、汗を流しながらも競うように続く香山と斎城、そして川村だった。 …体力に余裕のある藤崎とリザベルは最後尾以外の隊員の面倒を見てくれている。

 …浮田と射方は辛うじて最後尾で無いというだけだ。 …星村の姿が見えないが、黒島か尾倉の収納に仕舞われたようだ。 …本人の希望とはいえ、本来、星村にさせるような仕事では無かった。


 …それにしてもまったく、何をやっているんだ、俺は…。てめーの事を考えてないで、後ろを一度でも振り返っていればいいものを…


「よーし、休憩タイムだ!…水筒の中身を飲み干しちまった奴は遠慮せず手を上げろ」


 ドン、と爆発音が響き渡った。


 一行の周囲の山肌からガスが噴き出したかと思うと、煮え滾ったマグマが、噴上げ花火のように立ち昇った。…触れれば大火傷では済まない火柱が周囲に幾本と噴き上がり、小隊を取り囲んでいた。


 …さながら火の森である。

 壮観といえば壮観だが、呑気に写真に収める馬鹿は居なかった。


「…休憩は後回しだな…」


 大淵は紫電を抜きながら火口方面…火山の中央部を振り向いた。


 …ガスのせいか、いつの間にか灰色に曇った空に、赤々と燃える竜が8の字を描くように飛翔していた。

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