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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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鬼神

 黒島は襲い掛かってきた蜘蛛牛鬼を騎兵刀で斬り払うと、素早く逃げ出した。車両に取りつき、車内に置いておいた騎兵銃を取り出してフルオートで乱射した。胴体に十発前後受けた一体の蜘蛛牛鬼が足を萎ませて力なく地面にへばり落ちた。 …大淵とは違い、自身はタクティカルベストと呼ばれる軍・警察用の装備を23式の上に着込んでいる為、素早くマガジンポーチから弾倉を取り出して再装填を済ませた。


 初弾を送りながら、黒島は急いで大淵に通信を送った。

「やべぇぞ!多分こいつら、その牛鬼の子供か使い魔だろう! すげぇ数で、集落自体が囲まれつつある!俺達は何とか自衛できるが、村人と待機組が危ねぇ!」


 リノーシュとクロエ、マオ、星村…マオはいざとなれば魔王の姿になれるが、星村は自衛すらままならない。…そして、村人たちも。 仲間達もそうだが、協力してくれた村人たちも死なせるわけには行かない。


 …無駄に響く発射音が一つ。権の火縄銃だ。


『…牛鬼本体はもう深手だ。俺がやって見せる。待機組と村人と合流して、安全を確保できたら皆でこっちにまた戻ってきてくれればいい』


 緊急事態にも拘わらず、大淵の声は仕事の事務連絡でも伝えるように穏やかで冷静だった。…誰より冷静でなければならない指揮官が狼狽えたり怒鳴り散らしていては目も当てられないが、それだけでは無いだろう。

 …皆に心配を掛けないようにするためなのだろうが…


「…誰か二、三人残した方が…」

『ダメだ。交戦時に戦力を半端に分散するのは一番まずい。…特にこういう状況では。残された奴が囲まれてしまう』


「けど…」

 香山も見かねて通信に加わった。


『安心しろって。化物対決だったら、俺とコイツなら俺が勝つ。しかも無傷に手負いのハンデ付きだ。…それより急げ、お前らも待機組も村人も、誰一人死ぬなよ』


「…すぐに戻る」


『ごゆっくり』


 


 通信を終え、大淵は目の前の巨体を見上げた。


「「大したものだ。…幾らか前に喰らった侍共も確かに強かったが、お前達には劣るだろう。…だが残念だったな。 強者の血肉を得てより強く、賢くなった俺には、お前では勝てん」」


「ついでにより健やかになれば良かったんだがな」

 激しい衝突音。大淵が居た場所に巨大な拳が叩き込まれ、草野原が大きく抉れていた。


 …着地する先に待ち構える、十字砲火を描くような敵意…大淵は即座にワイヤアンカーを木に撃ち込み、軌道を変えて林へと身を飛ばした。

 それとほぼ同時に大淵の居た付近を幾重にも連ねられた蜘蛛の糸が交差した。蜘蛛牛鬼が周囲の暗がりや茂みに潜んでいた。


「…それが奥の手か?だったら残念だったな」


 転がり込んだ茂みの中で蜘蛛牛鬼を一体斬り伏せながら、大淵は不敵に挑発した。

「俺の知り合いには美人な蜘蛛女がいるが、そういうのは居ないのか?寂しいもんだな」


「「抜かしていろ。 …良い気でいられるのも今だけだ」」


「全然良い気じゃないがな。…せっかく古き日本の原風景を追体験しながら、あわよくば良い温泉でも見つけて覗き…素敵な湯煙旅情でも楽しめると思っていたのに、何が悲しくてお前なんぞと鬼ごっこをしなきゃならんのだ。洒落にもならん」


 …ここまでのやりとりは無線を切り忘れた体を装い、隊員達に自分の余裕ぶりを聞かせていた。


 …自分の三門芝居では心から騙されてくれる者は居ないかもしれないが、少なくとも心配される実力で無い事はアピールできるだろう。


「「…しかしその力…是が非とも頂かねばな。その力があらば、どんな討伐隊が来てももう恐ろしくはない。鬼や妖怪を率い、少なくとも火の国は併呑できるだろう。この国の人間共は皆、俺の血と肉になる。そして妖怪だけの国を作り、行く行くは花の国の人間共も蹂躙してくれる」」


「…大した夢だが、ところがどっこい。世の中、そういうロクでもねー野望は尚更叶わないようにできてるんだな、これが」


 大淵は心底呆れて肩を竦めた。

「…第一、目の前の俺をまだ喰った訳でも無いのに…なッ!」


 強化外骨格の助けもあり、大淵は瞬時に牛鬼の面前に飛び出した。


「喰ってみろよ、牛鬼!」

 紫電を切りつけた。 鼻の上を切り上げ、どす黒い血が迸った。


「グゥウウウ!?」

「痺れて動けねぇだろう?…悪いが、男前を台無しにさせてもらうぞ」


 高々と振り上げた紫電を首筋から斬り付けた。…流石に硬い。だが、電撃による感電ダメージにより、牛鬼は抵抗らしい抵抗ができない。


(あと二、三撃で行けるか…)


「少し痛いが、すぐ楽にしてやるからな」

 

 大淵の悪意無い…慈悲さえある冷淡な声に、牛鬼は久方ぶりに忘れていた寒気を思い出した。


「「人間風情が…俺の介錯人にでもなったつもりかッ!」」

 

 恐るべき気力で感電ダメージを押して牛鬼が動き出し、首筋でもう一撃を加え終えた大淵に張り手を食らわせた。


「ぐッ!!」


 耐久インジケーターが一瞬、黄色に激しく点滅したが、黄緑に変わった。 吹き飛ばされながらも宙で身を翻し、両手両足で地面にへばりつくようにして衝撃を殺す。


「…あの姿勢からこのダメージか。…やっぱ相手も伊達じゃねーな、こりゃ…」


 …牛鬼の血を吸っていた紫電が怪しく青紫色に輝いていた。


 牛鬼が息を整え、こちらに迫ってきていた。


 大淵が刀を突き出すと、切っ先から雷撃が牛鬼目掛けて奔った。水平方向から叩きつけられる巨大な雷そのものに打たれ、牛鬼は全身を焦がしながらもふらふらと前に進んできていた。


「…終わりだ」


 薄青色の輝きに戻った紫電を脇に構え、大淵は全身を強化しながら外骨格システムを起動した。

 …21式ではアーマーそのものが破損する自滅的な荒業だが、独尊はこれに余裕で耐える。

「ゼロバースト…」

 

 もう一度、牛鬼の前へ跳んだ。


「…アタック!」


 頭から唐竹割にした。…とても物理的に刃が切り抜けられる相手では無いが、切込みと同時に牛鬼の血を啜った紫電が雷の刃となってその巨体を難なく両断していた。


 …フローズィア戦では燃費ばかりが悪かった印象だが、その魔力消費に見合った絶大な威力を感じた。


 …真っ二つに分かれて大地に倒れ伏した牛鬼に残心し…その死を認めると、大淵は紫電の刀身を見た。


 …これが正真正銘の妖刀というべきか。 牛鬼が侍を喰らって強くなったように、紫電もその妖気を強めていた。 …殺した相手の力を一部、刀の力として溜め込んでいるようだ。


「み…ごと…」


 真っ二つになった牛鬼の口から擦れた声が聞こえてきた。


「…お前もな」


「…この…牛鬼を倒したのだ…ならばお前は…鬼神か…」


「ああ…喰らってみたかった…どれ程の力が…」


 …それ以降、牛鬼が言葉を継ぐことは無かった。


「…こちら大淵。こっちは終わった。これからそっちに向かう」


『……おお、そっちこそ無事か!? こっちは大丈夫だ!今、終わる所だ』

 

 牛鬼の足音や声が聞こえなくなった今、最後の銃声が聞こえた。…メノムの対物ライフルか。



 大淵は法面を駆け上がって道へと戻り、集落へ戻った。


「よう、全員無事だな?」


 集落の奥から、村人と待機組、チームメイトの面々が向かってくる所だった。


「う、牛鬼が…」

 

 権も二郎も目を見開き、頭から真っ二つにされて草原に倒れ伏す牛鬼の20メートル以上の巨体を凝視した。

 

 …雲から姿を現した月が、その姿を煌々と照らしていた。


 …風で靡くススキと草原が、青緑色に照らされた海のように見える。…その中に横たわる黒々とした巨大な死体が、死後もなおその威容から言い知れない恐怖を漂わせていた。


「…明日、懇ろに埋葬してやろう。金は出すから、後日供養塔でも立ててやってくれ。 ま、今日の所は…」


 マオを押し退けるようにしてラナとパルムが左右から大淵の胴にしがみ付いてきた。


「だ、ダイス先生、ご無事でしたかっ!?」

 ラナがブロンドのポニーテールを揺らしながら自分の身を案じた。

「お怪我は!?」

 …最も小柄なパルムが自分の怪我を検めようとする。

「…見ての通り無傷だ。もう安心しろ」


 …張り手を喰らった際に200のダメージを受けたが、100ダメージは既に回復。 …100ダメージも打撲で、一日寝れば治る程度の軽微なものに過ぎない。


「あー…今日の所は…うん」

 大淵は天を仰いだ。


「…強敵を倒した時は呑むに限る。 …これまでに犠牲になった人と、牛鬼への献杯も兼ねてな」


「…」

 尾倉が黙って自身の収納から、幾らかの乾きものと酒類を取り出した。


 村人たちの泣き声交じりの鬨の声が夜の山間に響いた。

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