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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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アカネの里

 日暮れが近づいていた。

 夕闇が迫る中、大淵らは更に速度を落として慎重に進んでいた。…万一、薄暗がりを進む通行人を跳ねたら目も当てられない。

 

 現地兵を救援してから三時間ほど、潮風の匂いが薄れ、人気の少ない山道を進んでいた。後続する黒島が現代の地図とコンパスとを見比べて、苦戦しつつルートをナビしてくれているが、分岐に差し掛かる度に慎重な判断を必要とする為、実際には費やした時間ほど行程は進んでいなかった。

 …恐らく今は豊後…大分県境付近にようやく差し掛かったくらいだろう。分岐に設置されている立て看板に書かれた見慣れない地名…旧国名を現代の地図に当てはめながら現在地を割り出して行く。


「…思ったより進めたな。今日はここまでだ。日が暮れる前にどこか適当な夜営地を探そう」


『OK、近くに現代でも小さな村がある。…つまり、人が比較的住み易い場所だって事だ。この世界でだって、里くらいはある筈だ。そこで場所を借りて休もう。前のように大隊規模じゃないから、簡単に場所を確保できる筈だ』


「分かった。早速向か…」


 竹林の中からヒョウヒョウ、と不思議な鳴声が聞こえてきた。


「何…?」

 バイクに跨ったまま、斎城が声のした方向を見やった。


「…何かイマスね…サル…?」


 アリッサがするりとバスタードソードを抜いた。 


 ヒョウヒョウ、ホイホイ、と、人とも獣とも付かない奇妙な声が薄暗い竹林の中でこだまする。

 …やがて、ゴブリンかと見紛うほどの妖怪が続々と茂みから姿を現した。…人間の子に見えない事も無いが、明らかに違うと分かる。


「妖怪か…」

 大淵は背負っていた騎兵銃を左手に構えた。

 セコ、という妖怪はHPも100しかない妖怪だった。…これだけ大量に集まっていなければ、可愛らしくさえあっただろう。


 …昔話などで比較的馴染みがある為、妖怪から危害を加えてこない限りは積極的に排除したいとも思わなかった。見た目こそゴブリンを青白い肌にしたような異形の姿をしているが、ゴブリンより遥かに人の幼子を連想させるその容姿を無碍に攻撃する事は憚られた。 …やはり斎城もやり辛そうに見ている。


 向かってくるなら…容赦はしない。騎兵銃の照準をそれとなく集団に向けた。


 …しかし、セコの集団はそれに臆した風でもなく、興味を失ったように再び竹林の中へと戻っていった。…奇妙な声もそれから聞えず、静寂が戻った。


 大淵は騎兵銃を再び背に戻した。


「それにしても面白い連中だな、ヨーカイというのは」


 リアシートでマオが呟いた。


「大陸で言うモンスターなんだろうか?」

「いや。モンスターと魔物の間と言った方が正しいかもしれん。だが、我らともモンスターとも違う系統だな。この国独自の進化を遂げた姿なのやもしれん。…意思疎通はできた。何やら悪戯をしてこようとしていたようだが、止めておけと伝えたら素直に帰った。…あのオーガのような連中にも通じたが、奴らには一蹴された」

 

「ふむ。一つ目小僧とか川獺とかいれば可愛いんだがな」


「…カワウソって、実在の生き物なんじゃないの?」 

 斎城が当然の疑問をぶつけた。

「紛らわしいが、カワウソはカワウソでも人に化けて近づいてきて、脅かしたりする妖怪だ」

 …残念ながらモデルになった二ホンカワウソは現代では40年以上目撃されず、2012年に絶滅指定されている。

「へぇ、可愛いんだろうな。見てみたい」

「大淵、妖怪先生デスねぇ」

「某御大の前じゃ足元にも及ばんがね。それ関連の本はよく読んだものさ」


『おい、大丈夫か?日が暮れる前に行こうぜ』

 

 そうだった。妖怪談議に花を咲かせている場合でもない。再び先頭を走り出した。


 …この国では秋なのか?茜色に染まった空を赤とんぼが舞い、畦の法面に生えたススキが豊かな穂を風に弄ばれている。

 稲刈りが終わった歪な形の田が幾つも見えた。その田を通り過ぎていくと、茅葺屋根の家々が立ち並ぶ集落が見えた。 大淵は全隊に停止命令を下した。

 

「脅かすといけないから、皆はここで待っていてくれ」


 …これだけ近くに来れば、もうとっくに存在を感知されている筈だが。


 バイクを低速で村に向かわせると、思った通り数人の村人が鋤や鍬、竹やりを手に十人ほどが集まって来ていた。…村唯一のまともな武器か、火縄銃を構える者も見えた。


「外国から旅に来たんだ!敵意は無いし、何も盗らない。ただ、家一軒分の広場を貸して欲しいだけなんだ」


 そう訴えると、村人たちは構えこそ解かないが、武器をいくらか下げた。


「こちらは十八人なのだが、この通り女子供もいて、盗賊では無い。場所だけ借りられないだろうか?」

 大淵はそう言いながら振り返り、リアシートで…偉そうに腕を組んでふんぞり返るマオを忌々しげに見た。

(…人に物を頼む時にふんぞり返るな)

「むむ…」

 大淵の意を読み、マオは見た目の幼子らしく大淵にくっついた。

 村の重役か、五十代程の男が前に出て気難しい顔を見せた。


「…泊めてやりたいが、そう言う事なら尚の事、よその村へ行ってくれ」


「それはまたどうして?」


「…道中で一匹くらいは見かけただろう?…妖怪だ。何度かこの村も襲われて、死人も出ている。…女子供なんて奴らの大好物だ。この村の女子供は皆、町場へ避難させた」


「なに、そう言う事でしたら襲ってきたら退治しますよ。…この通り日も落ちて来ましたし、どうか助けてはもらえませんか?金品や食料であればいくらかお礼に差し出すので」


「…本当に奴らを退治できるならそうしてくれ。そうしたら金も食い物もいらん。…この上ない礼になるだろう。 …だが、どうせ後悔しながら死ぬことになるぞ。アレは一度でも歯向かって来た者には殺すまで容赦しない。…一昔前にこの地方を治めていたそれは強い侍が、腕利きの郎党と共に挑んだが…皆喰われてしまった。 …却ってより強く、狡猾になったよ」


 …そんなものに襲われてこの集落は残っている。…勿論この村人たちが腕利きという訳でも、今の話が嘘だとも思えない。寧ろ、話の最後にあった「より強く、狡猾になった」を裏付けていると思った。

 敢えて破壊しなかったのだろう。…村人を生かさず殺さずの食料の種として残し、大暴れしすぎて、より強力な討伐隊を送られないようにしたのだろう。…よっぽど厄介な相手だ。

 

 …だが、それこそ尚の事見過ごす事はできない。


「…俺の連れている一行は殆ど全員が腕利きで、これまでも多くの怪物を倒して来ました。…寧ろ、これを機に村を平和にする為だと思って泊めて頂けませんかね?」

 

「…」 

 重役は逡巡しているようだった。…確かにハイリスクハイリターンな賭けだ。そしてこの機を逃せば、村が死に絶えるまでその妖怪の支配が続くことになるかも分からない。


「…助力を乞うべきだ、二郎」

 火縄銃を構えていた四十程の男が重役を見上げていた。

「…権さん…」

 権と呼ばれた男は銃を下ろし、大淵を見た。

「女子供が居なくなった今、奴が現れたらどう怒り狂うかも分からん。…いずれは皆殺しにされる運命だ。…それが少し早まるか少し遅くなるかの違いしかない。…この男を信じたい」

 二郎は皴を深く刻んで考え込んでいたが、すぐに顔を上げた。

「…それなら二、三日泊って行ってもらえないだろうか、旅の方。…奴がいつ現れるかはわからんが」

「大淵大輔です。一緒に頑張りましょう」


 仲間達を振り返り、合図した。二台のバイクと二台の高機動車が村へと向かって来た。


 十数名ほどの村人が見慣れぬ鉄の車を呆気に取られて見守った。

「デカい駕籠に面妖な馬だな…」

 権も目を剥いてバイクと高機動車を見た。バイクから降り立った長身の斎城に注目が集まる。

「こ、これまたデカいおなごじゃな…!」 

「お世話になります、斎城です」

「アリッサはデカく無くて悪かったデスね」

 斎城より20センチ以上低いアリッサは腕組みをしてそっぽを向いた。

「まぁまぁ。お前にはお前の魅力があるよ」

「…例えバ?」

「賑やかし的な」

 

 脇腹をどつかれ、大淵は悶絶した。


 小隊員と村人とで一通り自己紹介と挨拶を済ませた。…村を助けるというリスクに関して、誰一人不平不満を言う者は居なかった。

 村人から話を聞き込み、銃砲座・サーチライトとなる高機動車を尾倉と共に適切に配置し、夜襲に備えて迎撃準備を整えてから夜営地へと案内された。


「…町場へ避難した一家の家です。ここと、狭いようであれば家の周りを使って下され」


 茅葺屋根の古めかしい、小さな家を紹介された。


「メノム、この間お前も射撃していたが銃の訓練を受けた事は?」

「はいっ、メインは弓でしたが、マスケットの訓練課程も修了しました!」

「結構。このライフルを使え。使い方は後で教える。…お前は俺とタッグを組んで、黒島チームと交代で夜警に当たってもらうぞ」

「は、はい!」


 …ラナとパルムの視線が痛い。 だがそれも今日で最後だ。…頭の中にインプットされた地図によれば…ここから例の阿蘇までは、どんなに交通インフラが悪くても、一両日もあれば到達できる筈だ。…とにかく今はその妖怪討伐で一人として失わずに戦い抜く事だ。

 黒島が補給物資を持ってきてくれた事で、エーデンベルト戦で見事に使い果した銃弾もしっかり補充された。…あの規模の死守防衛戦をやらかさない限り、少なくともこの花の国を出るまで十分持つ。

 

 …尾倉と黒島が収納から取り出した、射方用の秘密兵器…牽引式の40㎜機関砲を高機動車に連結している。…妖怪だろうが怪獣だろうが、なんでも来やがれというものだ。

 

 警備を2チームに分け、大淵、香山、斎城、メノム、ラナ、パルムのAチーム、黒島、川村、藤崎、尾倉、アリッサ、リザベル、射方、浮田のBチームに分け、一時間半交代とした。リノーシュとクロエ、マオと星村はリザーブ要員である。


 茜色に染まっていた空も美しい藍色へと変わり、やがて夜の帳が落ちると冷え冷えとした秋の夜空が広がった。…この世界の花の国や火の国ではこれから冬に向かっていくのか。…最も、ここが九州と同じ気候であるなら、雪はそう降らないだろうが…


 最初の見張りにBチームを回し、大淵は村人代表である二郎と権にも夕食を振舞いつつ、これまでの村の苦難と敵妖怪の情報を聞き込んだ。


「…好物は女子供だが、男でも良いのか。なら、もし今の状態で来られたら、自分達のうち誰かが選ばれる覚悟でいたんですか?」


「…仕方ない。お上にも何度も伺ったが、とても誰も討伐に向かおうとはしない。…こんな小さな村を食い荒らすだけで済ませてくれるなら、誰もわざわざ自分が食われてまで妖怪退治しようなどとは思わねぇよな」

 権が徳利を傾けながら言った。

「こうなったら恐れ多くも朝廷に乗り込んで直訴して殺されるか、大人しく一人一人生贄になりながら一日でも生き延びるか…そんな折にアンタらが来てくれたわけだが…」

 二郎も赤ら顔を綻ばせながら笑った。…上機嫌という訳では無く、自棄…いや、吹っ切れたようだ。


「しかし別嬪さんを大勢連れているな。見栄えは良いが、本当に戦えるのか?」


「ふっ。 …彼女らの戦いぶりを見たら、今の発言を後悔するぞ。 …ああ、一番肝心な事を聞いてなかったな。…その妖怪の名前は分かるか?」


 権が忌々しげに顔を顰めた。…口にもしたくない、と言わんばかりに。代わりに二郎が憂鬱な面持ちで

体を前のめりに近付けた。…蝋燭の薄暗い明かりがその顔を下から照らし上げ、その時代劇から飛び出して来たような渋すぎる顔も相まって、さながら大御所怪談語り部の怪談トークショーだ。

 …香山が心細そうに隣の斎城に寄り添った。


 …雪女が雪女にくっついて怖がってどうする、と内心でツッコんだ。


「…牛鬼。それが奴の名だ。元は喋らなかったが、例の侍と郎党一族を食い殺して、更に強大な力を蓄えた上に…言葉も喋るようになりやがった」





 …外では秋虫の涼やかな音色が鳴り響いていた。





「…どんな妖怪なんですかね…」

 心地よい鈴虫の音に交じってニシキリギリスのノイズじみた音と、マツムシの電子音じみた音…それらの三重奏を聴きながら、牽引式機関砲座に着いた射方が不安げに呟いた。少しだけ明るい茶色に染めたロングヘアにウェーブをかけ、後頭部で一部を団子状に束ねている。 歳相応の可愛らしさがあった。


「何だよ、ビビってんのか?お前らしくないな」

 …普段馬鹿にされている腹いせもあって、車両に据え付けた12.7㎜重機関銃のグリップを握りながら、浮田は少し意地悪く射方をからかった。…機関砲にも機銃にも同軸で大出力探照灯を車両電源に直結しており、砲口を向けた先を昼間のように照らし出す。


「ビビってねーし! アンタこそ車の陰で見えないけど、今頃足が震えてんじゃないの?」


「そんなわけ…」

「いやーん、黒島君こわーい♪ 川村、いざとなったら助けてくれよ?」

「…射方、リボン持ってない?黒島の髪を結んで、その女子供喰いの妖怪にプレゼントしてやろーぜ。ついでに浮田も可愛い顔してっから、女に間違われて喰われたりしてな!」

 川村が射方と共に呵々と笑った。


「…それはそうと、いい加減に大淵にも具申しなきゃな」

 黒島がいつになく真面目な口調と表情に戻って言った。

「…何をです?」

 浮田が微かに緊張しながら訊ねた。

「いつまでも大淵小隊じゃ何かパッとしないだろ?…他のギルドだって色々好き勝手な名前付けてんだから、俺達も通称くらいは格好いい物にしたいと思わんかね、浮田君?」

「そ、そうですね…(ナイスです、黒島さん!)」

 口では乗り気でない風を装いつつ、浮田の頭の中にあらゆるワードが忙しく並んだ。…幻影の… 月影の… 冥王竜の騎士団ってのもいいなぁ…〇〇旅団ってのも捨てがたい…


「えー?ウチは大淵小隊で良いと思うけどなぁ。なんかスケが中心にいる感じで」

「わははは、確かにな!」

 川村の反駁に藤崎も笑いながら同意した。 …尾倉も頬を微かに緩めている。


「あー、けど、小隊じゃ何か軍隊っぽくて硬いですよねぇ…ホラ!若い人達にもどんどん入ってきてもらいたいし、流行りっぽいのを取り入れるのもアリかな~…って?」


 浮田が必死にフォローした。

「よくぞ言ってくれた、浮田君!そう、俺は軍隊とか消防とか熱血体育会系みたいなカチカチのイメージが嫌いなのだ。そこで…」


「おい、ちょっと静かにしろ!」

 リザベルが鋭く遮った。

 

 …皆が静まり返るが、何も聞えない。


「…聞こえなすぎマスね。…さっきまで聞こえていた虫の音が聞こえマセン」


「…」

 浮田は息を呑みながら銃口を周囲の暗闇へと向けた。


 …光を向けた先に、金色に反射する巨大な二つの眼があった。…その中の黒目がしっかりと、Bチームの面々を捉えていた。

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