火の国へ
大淵、斎城、アリッサはバイクで街道を進んでいた。後方には二台の高機動車が続く。街道を歩く通行人がギョッとして奇異な集団を見送った。
ナガトの国から出ているという火の国行きの船着き場を探していた。早朝から出発し、昼前にはその船着き場を見つける事が出来た。
…当然というべきか、船着き場には役人や警備の侍が居り、出入国審査を行っていた。これは大岩影家からリノーシュが既に聞き及んでおり、二日前の雷獣退治の礼として大岩から「通行手形」を受け取っていた。
車両類を収納し、審査所へと向かった。…大淵のアーマー・独尊は各インジケーターが点灯して悪目立ちするので、外套を覆って隠しておいた。
「…これはまた…異国からの旅人か?」
審査を請け負う羽織袴姿の役人が、大淵一行を見て目を剥いた。
「ええ。こちらのブレメルーダ国王を連れて火の国へ渡りたいのですが」
そう言いながら大淵は大岩から預かった通行手形を役人に手渡した。
「うむ。確かに大岩様が発行された手形だが……しかし、そのような高貴な方を連れて行くのは止めた方が良い。…一週間ほど前から火の国で鬼騒ぎが起こってな。鬼共も危険だが、今、火の国では各領主が腕利きを集めて妖怪討伐に乗り出すため、向こうの侍達も気が立っている筈だ。…行くなら王には残って頂いた方が良いだろう」
「どうする、リノーシュ?」
「勿論行くよ。守ってくれるだろう?」
大岩に換金してもらった通貨を支払い、関門海峡を往来する中型船に乗せてもらった。
「…ある意味二度目の九州だな」
「それで、目的の火山はどこなんだ?…九州つったら火山だらけだが」
「本州とてあの浮き上がった背骨のような山脈伝いに火山だらけだがな」
藤崎が呵々と笑いながら応じた。
「あの野郎に示されたのは阿蘇山だった。…ちょうど、九州の中心部だな。二日もあれば辿りつけるだろうが…」
鬼騒ぎとやらの影響が気になる。…厄介なことにならなければいいが。
「九州と言ったら温泉デス。…日田、別府、湯布院、黒川、阿蘇…目的地までの間にこれだけ有名処がアリマスねぇ。 …長旅の疲れを取りたいものデスねぇ、隊長ドノ?」
香山、斎城らも心なしか目を輝かせながらうんうんと頷いている。
「あのテレビでやっていたやつだな?私も温泉に行ってみたいぞ」
マオが袖を引いた。
「…同感だし、気持ちは分かるがあまり期待しない方が良い。現代なら最高の温泉旅ができるだろうが、妖怪や現地の野伏なんかに囲まれて、せいぜい掘立小屋みたいな所で、しかも殆どが混浴だぞ」
「じゃあ大淵トシテは大歓迎じゃないデスか♪」
「キャーッ!フケツよォ!」
…黒島が身を隠すフリをしながら奇声を上げ、他の客に困惑されている。
「…」
構ってられん、と大淵はかぶりを振った。
無事に海を渡り切り、賑やかな港町を徒歩で抜けた。…様々な髪色をした女性比率の多い小隊である。そんな賑やかな港町にあっても、小隊は時代劇で見たような姿をした町人や漁師から好奇と驚きの視線を向けられた。
「無理もないよね。逆の立場でも同じようになるだろうから」
そう言いながらリノーシュは人々の生活ぶりを興味深そうに見回している。
「同じ港町でも違うだろう?」
そもそもブレメルーダは海軍都市だが、石やレンガ・ガラスでできた中世風の大陸に比べ、この日本の近世そのものである花の国や火の国は、紙と木でできた家々が並んでいる。 散々大陸を冒険し、実際にこの目で見てきた自分達からしても、この島国がいかに独特であるかを実感できる。
「面白いね。…それにこの国の兵達の鎧は、上級のブシ?はともかく、一般の兵は鉄の鎧と言う訳でもなさそうだ。…動きやすさや行軍性を重視しているのかな?」
「山がちな地形で、移動の大変さは大陸の比じゃないからな。それも多分にあるだろう」
散々注目を浴びた後、人通りが少ない郊外で車両類を再び取り出して各々の車両に乗り込んだ。
『地図もないし、当然ながら現代の道とは全く勝手が違うだろう。…花の国でもそうだったが、高機チームは特に安全運転で行こう』
現在、高機動車は尾倉と藤崎が運転していた。先頭の一号車には尾倉、黒島、川村、星村、そして三人娘が、二号車には藤崎、香山、浮田、射方、リザベル、リノーシュ、クロエが乗り込む。
…リノーシュらの一時的パーティ参加によるものとはいえ、本当に小隊規模になった。一台あればよかった高機動車が、二台なければ全員で移動する事もままならなくなってきた。
小隊は騎兵チームを先頭に時速40キロほどの穏やかな速度で街道を進んでいた。舗装などされず、人や馬の往来によってつくられた道だ。場所によっては原生林に囲まれて見通しも悪く、時折通行人も居るため、高速移動する訳には行かなかった。
…自分がかつて訪れた時の風景とはまた違っていたが、それでも極端に隆起した地形…活発な火山活動によって生まれた独特の地形は見覚えがあった。
『…前に大輔くんが話してくれた通りだね』
香山から通信が送られてきた。…あれからじき、三ヶ月になろうとしているのか…
「ああ、そうだろ?俺も今、同じことを考えて…」
視界に動くものがあった。
人…侍たちと…妖怪が戦っている。
「…前方200メートル先で現地兵と妖怪が交戦している。必要に応じて加勢する。各員、戦闘準備。騎兵チームが先行する。車両チームは速度そのまま安全運転で」
速度を上げた大淵に続き、斎城とアリッサが左右後方に続いた。
集団の傍まで行き、ターンして勢いを殺しつつ停車した。
自分達同様、一個小隊規模の兵達が街道上で数十体もの…赤鬼と相対していた。…赤鬼と聞いて、日本人なら誰もがイメージするあの姿そのままだった。…既に道端には鬼と兵双方が点々と倒れている。兵達は防戦するも、圧倒的に押されていた。
「マオ、少し待っていろ」
「うむ、行って来い」
バイクから降車し…手に入れたばかりの紫電を抜いた。
「早速使わせてもらうか」
抜いた刀身が大淵の意志に呼応するように青紫色の光を帯びた。その光に敵味方とも大淵に視線を向けた。
「…勝手ながら素通りするのも寝覚めが悪い。助太刀させてもらう」
体長三メートル近い赤鬼が掴んでいた兵の頭を握り潰し、大淵に投げつけてきた。
その遺体を難なくキャッチして足元に降ろし、突進してくる赤鬼に向けて迫った。鬼の振り下ろしてきた金棒を軽々と躱し様に紫電を斬り付けた。
…これまで使用していた騎兵刀に全く劣らぬ切れ味。それに加え、唐竹割にされた鬼の体を肉眼で捉えられるほどに凄まじい紫電が駆け抜ける。
背後から別の赤鬼が金棒を叩きつけて来るが、それを防いだ途端、紫電から雷撃が金棒を伝わり、赤鬼が震えたかと思うと両膝をついて倒れた。
「…えげつねぇな、防御も切り結びもさせないってか」
紫電の凄まじい力に呆れながらも、その刀の使い心地は騎兵刀と殆ど変わらなかった。護拳…着脱式のナックルガードがあるかどうかと、装飾の違いくらいでしかない。刀身の長さと厚みも大淵が設計した騎兵刀と殆ど同じだ。 …材質は不明だが、ミスリルとも違う…しかしミスリルの同等品と考えて間違いない。
駆けつけた斎城とアリッサもバイクで敵を蹴散らしつつ降車し、妖怪の群に向かって切り込んでいった。
後続の車両も続いて停車し、小隊メンバーやリノーシュらが加わった。黒島と射方、浮田がそれぞれ車体の陰から銃・砲を構える。
「射方は待機。他二人は援護射撃に徹してくれ」
そう指示を下し、鬼の群に切り込んだ。
鬼の群の中で背中合わせに戦うアリッサと斎城を、鬼達は攻めあぐねていた。
大淵自身も鬼の群の中で暴れ、既に十体以上の鬼を斬っていた。
香山が負傷した兵らの治療に当たり、尾倉、藤崎、川村の三人組が兵らの助太刀に加わり…
リノーシュ、クロエ、三人娘が自分の後に続いた。
「リノーシュ、お前は万一があっちゃまずいから、五人して車で待っていろよ」
「嫌だよ、自分だけ待機するのは」
そう言って自らもミスリルのサーベルを振るい、遠い標的には本来の武器である弓を射て一撃必殺。…ステータス的にも実際の戦闘技術にしても、竜騎兵の二人に全く劣らない素質だった。
…ものの五分で六十体の鬼が全滅していた。大淵は生き残った侍たちを振り返った。
「…何者なんだ、お前達は…」
圧倒的な力を見せられた侍たちが茫然として一行を見つめていた。
「通りすがりの旅人ってやつさ。…今のが鬼騒ぎっていう…?」
「…そうだ。一週間前からやたら増えてきて…おそらくアソの山に開いたって噂の穴から…」
…恐らくその穴が自分の目的地だろう。…そこにいる炎竜とやらを倒せばいい。
「…よし、こっちは怪我人無しだな? 全員車両に戻ってくれ。日が暮れる前に適当な宿を探そう。 …
日菜子!」
大淵はバイクに戻ろうとする斎城を呼び止めた。
「これを」
大淵は騎兵刀を斎城に差し出した。
「こんな立派なモン二つも持っていても仕方ないからな。…お前、刀使いだし、良かったら使ってくれ」
「…いいの?」
「持ち手が日菜子なら、刀も喜ぶかもな」
…長らく愛用した騎兵刀を斎城に手渡した。
「…ありがとう。大事にするね」




