すすめ大淵探検隊
「大淵大輔探検隊、前人未踏のジャングルを往く!」
黒島がマイクを握る真似をしながらナレーションし始めた。
「調査隊がソコで見た驚くべきものトハ!?」
アリッサも興じて乗っかった。
鬱蒼とした樹海を眺め、大淵は尾倉を振り返った。
「…富士山麓と言えば自衛隊の総合火力演習が思い浮かぶが…元自衛隊員として何かコメントする事はあるか?」
「…随分とこの頃から植生が濃いな。…俺達の世界とは噴火のタイミングが違うのかもしれん」
「…ちなみに、富士山が噴火したらどうなる?」
「…この世界は終焉を迎える。…今すぐ現代へ撤退すべきだ」
「う、嘘だろ…?」
「な、なんと…!?」
大淵、マオ、リザベルの三人が青褪めて驚愕した。
「…冗談だ」
「お、お前が冗談を言ったのもショッキングだったが…脅かすなよ」
「ははは、さすがにね。…でも、これだけ立派な火山が噴火すれば、他の大陸にも影響するだろうね。…太陽の光を粉塵や灰が遮って冷害も発生するし、灰も馬鹿にならないだろうね」
「…中世のヨーロッパでの食糧難もそうだが、日本の飢饉も火山活動の影響による地球環境変化を受けた物が多い」
「…為になる授業をありがとうよ。それじゃ、冗談無しで他に言う事は?」
「…嫌な予感がする」
「そりゃそうだろ」
あの銀ピカ頭がセッティングしたのだ。…またロクでもないサプライズが待っているに違いない。
…だが、虎穴に入らずんば…というやつだ。今回ばかりは3バカ娘のため、とことん付き合ってやるしかない。
「さて、チーム分けをどうすっかな…何せGPSも通信もそうあてにできないからな」
それでも、大淵と尾倉が中距離無線を用意している。…障害物や環境によるが、これで平均5キロ程度の距離をチーム間で通信できる。これに加え、万一遭難したら拠点に避難できる転移の魔法石も分けてある。…これだけ救済策があれば、モンスター…この花の国で妖怪と呼ばれる怪異にさえ気を付けていれば、そう悲惨な事にはならないだろう。
…ただ、もう一つ問題があった。…どうやら日本人以外のメンバーのSPが、この花の国にいる以上は使用不能になっているらしい。…理屈は分からないが、ピリ団長の言っていた呪い云々とやらだろう。…これに従い、あらゆるスキルが使用不能になっている。
…現状、全メンバー合わせても最高戦力は断トツで大淵だった。…SPが使えなくなったメンバーをカバーしつつ戦闘能力を可能な限り均等にする。勿論リノーシュの安全は最優先。…そうするとメンバー構成は必然的に決まってくる。
…大淵の隊はリノーシュ・クロエ・メノム・ラナ・パルム・そしてオマケのマオとなる。
…一瞬、初めてメンバーから外された香山と斎城が寂しげな表情を見せたが…両チームの生存と安全を考えると、こうするしかなかった。
心苦しさを感じながらも隊を分け、探検隊の「幻の珍獣探し」を始める事とした。
「…それで、その雷獣ってのはどんな妖怪なんだ?」
「遠田殿の話によれば、狼みたいなものらしいよ。4シャク?ほどの大きさで、空を跳んで雷を降らせて来るんだって」
「…一尺が確か30センチくらいだったから、1.2メーターか。 それじゃあ上を向いて歩こうかね」
「でも、その他にも…」
「…ああ、分かってる。少し前から狙ってやがったからな」
ガサガサと藪が鳴り、薄汚れた甲冑姿の男達が刀や槍を手に大淵らを取り囲んだ。
「異国人か。…コイツぁ高く売れるな」
「女と、身ぐるみを置いて行けば命だけは助けてやるぞ、男共」
クロエと三バカが剣を抜いて身構えた。
「お断りするよ。 …命が惜しければ、こんな事はもう辞めるんだね」
「そーだそーだ。…やるってんなら、手足の一、二本は覚悟してもらおうか」
大淵が両拳を打ち鳴らし合いながら前に出た。チャコールグレーのアーマー各所に設けられたインジケーターランプがベーシックである緑色…魔力消費アシスト状態となる。
大淵の異形とも言える様相に野伏達は一瞬だけ慄いたが、流石に場数を踏んで来た野伏だけあって、目の前の獲物をそう簡単に諦める気は無いらしい。 …まぁ、雷獣が出るという樹海を根城にしている野伏ならそのくらいの度胸はあるか。
「その前にお前ら、雷獣を知らんか?」
「ハッ、お前もあの雷獣狙いか。…やめておけ、少しばかり武芸に覚えがあるようだが、お前らでは百人居ても倒せやしないさ。…雷獣に殺されるより、ここで俺達に出すもん出して生きて帰った方が身のためだぜ」
「んな事はどーでもいい。…知っているんならさっさと話してくれってお願いしてるんだ」
大淵はなおも野伏に向かって迫り続けた。
「へっ、知りたけりゃ俺達を…」
「そうか、もういい」
瞬間的な加速に対応できず、話しかけていた男が顎を殴り上げられて垂直に体が吹き飛んだ。…そのまま空中で失神し、白目を剥いて地面に倒れた。
「野郎ッ!?」
振り下ろされた刀に手刀で返すと刀身が砕け散る。驚愕する男の顔面に蹴りを飛ばした。
「この野郎!」
背後からの槍の突きを軽々と脇に挟み、へし折った。折れた柄を取って男の頭部に叩きつける。
「ラナ、ぼんやりするな」
左腕からワイヤーアンカーを射出し、ラナを人質にせんと組みつこうとしていた男の体に巻き付けて引き摺り寄せた。
「ギャアアアアッ!」
「ああ、ここ、地面が溶岩の石だらけだったな。すまん」
男を引きずるのを一旦止め、ワイヤーを外して残りの二人をまとめて回し蹴りで巻き込みながら地面に叩き伏せた。
リノーシュが惚れ惚れするように頷いている。
「リノーシュ、てめー気付いてたんなら助けてやれよ!」
「勿論、本当に危なくなったら助けてたさ。でも大輔の大立ち回りを見たくてさ♪」
「ったく…だが気を付けろ、こいつら、ステータスはあまり当てにならん。…恐らくだが、こいつら、スキルは特になくともマナそのものを無意識にステータスに充ててるんだろう。 …大陸でお前らが戦ったシバの兵や盗賊よりよっぽど頑丈だし、多分攻撃力もあるぞ」
「ほぉ、威勢の良いのが来やがったな?」
「親分!」
地面で倒れている野伏達が顔を上げ、樹海の奥から出て来る男を見た。
「ほお、これは。男一匹に後は女か。…宝の山だな」
大淵はとぼけて周囲を見回して見せた。
「…面白い奴だ。じっくり殺してやろう」
身長190近い、筋骨隆々の体に拳大ほどもある数珠を首に掛けた野伏共の親玉が姿を現した。自分からしてもそうだが、この国の平均身長からすれば相当な巨人だ。その巨人が振り下ろす大型の鉄槍が、大淵の避けた足元の溶岩石を軽々と叩き割った。
「…お前は雷獣の居場所を知っているか?教えてくれたら怪我はさせないぞ」
そう言いながら男に向き直った。
「…刀を抜け。丸腰では俺には勝てんぞ?」
「…さて、どうかな?」
男が突進し、大淵は紙一重で見切りながら避けた。
(このくらいで剣を使ったり防いでいてはな…)
…レイスの攻撃をシミュレーションしていた。…この連中はこう見えて素早い。丁度いい実験台になってくれていた。
「この…ナメクジのように避けやがって!?」
「どんなナメクジだよ?」
熱くなったか、短慮にも大淵を捕らえようとしてきた腕を掴み、軽々と背負い投げ。強かに溶岩に顔を突っ込んで大男は悶絶して転げ回った。
「…さぁて、語らいの時間と行こうか」
男の首にワイヤーを巻きつけて背後から締め上げた。
「ぐぶぅッ!?」
「…雷獣はどこにいる?」
「…こ、ここから…北東の…樹海にッ!」
「嘘じゃないだろうな?」
男がぶんぶんと首を縦に振った。
「…よろしい」
大淵は男を解放し、リノーシュ達の元へと戻った。
「…聞いたな?北東へ向かうぞ。…暗くなる前に出よう。…なんだか樹海ってのは不気味だ」
早速、尾倉に無線を送った。
「あー、こちら大淵。俺達の北東に雷獣が居るという情報を得た。…これから捜索しに行くから、そちらは現地点で待機してくれるか?」
「…わかった。…星村からの提案で、ドローンを飛ばさないかとの事だ」
「なるほど、あかりマップと併用すれば、互いの正確な位置確認もできて、ノーリスクで探せるな。頼む」
…程なく、上空に小型ローター音が響いて一基のドローンが大淵達の上空で一回だけ旋回すると、再び木々に隠れて見えなくなった。
「…木の上を移動する動物…狼らしきものが見えた」
「でかした。ビンゴかもな」
「…北東から、お前達の方角に向かっている」
「…お出迎えかよ」
…敵意…
全員をまとめて抱き込み、アーマーの外骨格システムを起動。インジケーターがオレンジ色に染まった。
溶岩石を砕きながらロケットのように瞬時に高速移動。…自分達の居た場所に落雷が落ち終えた所だった。
「…くそ…流石にあれは、敵意を感じた瞬間に来るから厄介だな…!」
落雷の速度は光の速さとほぼ同じだ。…とても超視力でもなければ見切れるものではない。
リノーシュ達を離れた風穴の洞の中に降ろし、再び外へ出た。
「お前らはここで待っていろ!」
…樹上からこちらを見下ろす獣の姿があった。
「…居たな、雷獣…!」
コイツを倒せば…ラナとパルムが元に…!
狼のような佇まい。120㎝の体長のうち、半分近くは立派な二股の尻尾が占めていた。ミズナラの木に鋭利な爪を立て、大淵を睥睨していた。
迷わず散弾銃を取り、散弾…強化してブラッドレインを浴びせた。
しかし雷獣はするりと別の赤松に飛び移ってしまう。…飛び移りながら落雷を降らせる。 だが、こちらも事前に気配を察知していた。大淵は間一髪逃れながらもう一度ブラッドレインを浴びせた。…散弾が掠め、雷獣が転落してきた。
「もらったァッ!」
騎兵刀を抜き、落下を見計らって雷獣のど真ん中目掛けて一閃。 …手応えあり。
「悪く思うなよ…って…!?」
ど真ん中…騎兵刀は雷獣の立派な尻尾だけを見事に切り落としていた。
命拾いした雷獣は慌てて逃げ出し、空の彼方へと消えていった。
「な、な…」
「あらあら~、やってしまいましたなぁ、ダイス様ぁ♪」
背後からハイキング姿の銀ピカ頭が手をかざし、雷獣が消えた暗い空を見上げて声を上げた。
「て、テメェ…」
「まぁまぁ、やってしまったものは仕方ありません♪…それにほら、もう一度だけチャンスを差し上げましょう♪」
銀ピカはどうやって機能させているのか…スマートフォンを開くと、九州らしき地図を見せた。
「この世界では火の国と呼ばれております。…ここにある火山に炎竜が棲んでおります。コイツを討伐しちゃってくださいな。そうしたら貴方の可愛がっているお二人は、晴れてリバレーションでございます♪」
「…」
…今、コイツを切っちまえば…いや、ダメだろうな…そんなつまらない手に引っ掛かる相手でも、許す相手でもない。…却って二人を撮り返しの付かない事にしてしまうだろう。
「ヌフフフフ、賢明なご判断です!いえいえ、読心術なんてしていませんよ、お顔を見ればわかります。なんたって私は貴方の永遠の大ファン1号なのですからッ! アデュ!これより富士登山に行って、ダイス様のご無事をお祈りして参りますので!」
…そう言い残して消えた。
苦々しい顔で、中距離無線を使って全員に作戦の無事終了を伝えた。
…ふと、足元に転がっている物体に気付いた。…あの雷獣の切り落とした尻尾か? そう思って見下ろすと、そこには一振りの日本刀が転がっていた。
鞘を抜き、目釘を抜いて柄を外して銘を調べるが、銘は彫られていなかった。…代わりに、刀身の元刃に「紫電」と青紫色に輝く二文字があり…やがて消えた。
「…自己紹介してくれるとは親切な刀だな。…大淵大輔だ。妙な奴にばっかり好かれる変わりモンだが、よろしくな」




