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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー


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白骨の回想

 暗闇の中、虚ろな眼窩が二手に分かれた集団を監視していた。


 我ながらこの直感には感嘆する。


 先の戦いで勇者を抹殺できたのは自分の実力だと魔物達、そして他の三大幹部も自分を認めているが、それは違う。魔界から勇者を抹殺し、人間共を抹殺できたのはこの直感のおかげである。

 これが恐らく、人間たちで言う所の「スキル」であるという事までは分かっていた。

 人間たちのスキルやステータスを見る事はでき、見知っていたが、自分達のそれは仲間内でも見る事すらできず、把握できなかったのだ。炎や雷を操るような可視的な代物ならともかく、それ以外は存在しないものと思われていた。

 その為、なぜ百年前になって今更この能力に目覚めたのか。そして自分に備わったそれがどういう名称でどういう能力であるのか。その詳細は依然知りようが無いままであった。


 だがそれらは問題ではない。肝要なのはそれが勇者を殺す為に使える力である、という事実だ。


 百年の経験則から分かったのは、この能力が魔王様の天敵に対して反応し、その存在の居所を察知できる物であること。

 そして、それに付随して、どうすればその天敵を始末できるのか、その方法が分かる、という事。

 したがって、他の者達が評する「カロンは優れた魔術で勇者を殺す方法を編み出した」という認識も誤りである。

 しかしそれもまた、自分にとってはどうでもいい齟齬に過ぎなかった。故に、特にそれを指摘するような事はしなかった。

 英雄の肩書も、歴史に名を遺すのも無価値だ。魔界の天敵を始末し、魔王族の血脈に安寧さえ訪れればそれで良いのだ。

 勇者を仕留め、終戦とともに魔王様の安泰を成し遂げたと思った矢先、ソレの存在を再び察知した。

 悪寒を覚えた。この姿で表現するには些か滑稽だが、不死身…そんな単語が過った。

 魔王様に祝杯を捧げ、歴史的な終戦を祝おうという幹部たちの誘いも断り、急ぎその存在を辿ってここまでやってきた。

 

 それは自分達魔物どころか、恐らく歴代の魔王さえも把握していない場所であった。

 人間との戦争に明け暮れていた事もあるが、この空間がいつからどのようにしてできていた物かも分からなかった。

 しかし人間が絶滅するにつれ、下級のモンスター共はその鋭い感覚で自分達より弱い存在…餌を求めて人間の気配を辿って行ったのであろう。その場所は既にモンスターで溢れ返っていた。

 

 しかし…そこに居た者を見て、尚更理解に苦しむことになる。

 勇者と思って辿った相手は確かに人間だった。

 根絶やしにした人類が謎の空間を経て存在する事自体には然程驚きは無かった。万一、その者が新たな勇者だったとしても…手間は増えるが、また殺し、人類も再び根絶やしにすれば良いだけだ。


 自分を困惑させたのは、それがただの人間…せいぜいが人間軍の王城を警備していた上級兵程度のスキルとステータスしか持っていなかったことだ。

 

 なぜ、こんな貧弱な兵に反応したのか…

 

 困惑するカロンをよそに、一組の男女はスプリットワームを次々屠っていく。 …そこそこやるが、所詮並の騎士に毛が生えた程度でしかない。 女の方は疎ましい気配を放っていた。

 勇者の仲間達にいた、神官だか僧侶だかと同じ、魔物と相容れない気配だ。…その仲間達も勇者と共に血祭りに上げられたが。

 しかし、カロンの辿った気配は確かに男から感じられた。とても、勇者には及びもつかない存在だが…こうして自分の直感が反応している以上、生かしておく理由は無い。

 

 確実に仕留める為、スプリットワームの死骸を被って闇に潜む。そしてじっくりと男と女の様子を観察した。

 男と女が番に近い存在であることは容易に見抜けた。これも能力の一つなのか、その二人を結ぶ意識が光の線のようにつながっているのが感じられる。殺した勇者と、その仲間の一人の女も同じだった。それを利用した事も勇者の抹殺に大いに貢献していた。

 そして、二人ともこちらには気づいていない。

 最適な位置に移動し、自身の骨を組んで魔力を通した鞭を抜く。鞭は魔力によって手先のように複雑に動き、鋭利な先端には死に至る呪いをかけてある。…勇者をも仕留めた呪具だ。

 どんな強靭な鎧、どんな神聖な鎧を纏おうと、それが本当に勇者であれば尚更、逃れられない死を与える。逆に、それが並の人間ならその限りではないが、それでも重傷は負うだろう。

 

 それで万一仕留め切れないようであれば、女共々始末すれば良い。


 何とも杜撰な暗殺ではあるが、相手が勇者の疑いがある以上、これより他に手は無い。


 そして、スプリットワームを囮に男の前に姿を晒した。

 狙い通り、男は女を庇うために跳び、容易にその胸を穿った。

 確かな手応えがあった。


(これが勇者…なのか…?)

 地で一唸りして絶命する男のステータスが消えかかっていた。

「汎用騎兵」(攻撃強化(中)(短)) …どちらも見慣れた、雑兵の域を出ないものだ。それも掻き消えた。

 屍を見下ろし、益益困惑は強まった。 …が、男の確実な死を以て、今まで感じていた気配も消えた。どういう事かは分からないが、少なくとも勇者らしきものは排除した。

 女が悲鳴を上げながら駆け寄ってくる。

 …一思いに男の元へ送ってやる義理も無い。早々にその場を離れた。


 あとは魔王軍の体勢が整い次第、彼の世界の人間たちにも同じ運命を辿ってもらうだけだ。

 …その筈だった。


 男を殺して三日後の事だ。

 自分にとって百年ぶりとなる静寂と平穏は三日で終わった。

 

 馬鹿な。


 何が起きたか分からず、読んでいた書物を取り落とす。

 痴呆したように己の住処である庵で頭上を仰ぎ、独り嘆声を上げた。

 彼の世界に、忌まわしい気配が再び現れた。

 今度は戦慄さえ覚えた。アレは不死身なのか、と。


 それ以来、常にその気配に神経を研ぎ澄ませてきた。幹部との会合以外は常にここに陣取り、気配の様子を探っていた。

 モンスター共が餌を求めて疾駆していくが、やはりあの気配は同じように淡々とモンスターを始末していく。

 ならばと思い、勇者抹殺の為に試作していた魔造兵を全て投入したが、それも全て奴の仲間に始末されてしまった。…仲間は勇者の仲間と同等以上の力を持っているらしい、という事が分かっただけだった。

 あり得ない事が続き、その様子が勇者による殺戮の光景と重なり…久しく忘れていた恐怖に身を震わせていた。


 万一…万一、この能力が通用しなければ、自分も勇者に狩られる存在に過ぎないのだ。

 そうなれば魔王族の…魔界の安寧はどうなる?



 恐怖に震えながら待っていると、遂に今、奴は降りてきた。

 見ずとも分かる。…こちらに近づいてくる恐怖の存在。

 かつての勇者の姿を想い起させるように、仲間を引き連れてやってきた。

 

 既に命は無い身と知りながらも…天敵の気配を前に、秘めた覚悟は忘れ、代わりに忘れていた恐怖が舞い戻る。

 「汎用騎士」(攻撃強化(中)(短))

 変わりはない。 弱小すぎるステータス。それを裏切るような天敵の殺気。

(貴様は一体何なのだ…!)

 そう叫びたくなる焦燥を抑える。

 あの神官じみた女兵士と、もう一人剣士の女を連れ、他の仲間と別れた。

 

 「竜騎士」(幻獣召喚(強)(中))(---)

 …直感を信じないなら、この女こそ勇者だ。魔王城に集約された五千年分の文献…どの文献にも記録のない名称。自分の3500年を超える記憶にも一切なく、そのステータスも勇者に比べれば遥かに劣るが、近いものがある。


 難易度は前回の比では無かった。仮にこの男を殺せたとしても、自分はこの女によって消されるだろう。人間たちの会話内容と警戒ぶりからして、当然ながら自分の襲撃は予知している。

 同じ手は通じない。


『我が死を以て、魔界に…魔王様に弥栄あれ』


 これだけ至近距離に居ながら男も、続く女達も自分の存在は見えていない。

 

 闇とも光とも一体化する究極の隠形術を解き、男に必殺の突きを繰り出した。


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