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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
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88/172

戦神舞踏


 メノムと共に正門の上に陣取り、極めて高性能な固定砲台として大淵は機能していた。

 

 タランテラには対物ライフルで、それ以外には7.62㎜機関銃の赤い雨を降らせて。


 たった一基の固定砲台に近づく事すらままならず、魔物達はそれでも圧倒的な物量と戦意で迫っては消し飛ばされ、また新手がその後に続いて消し飛ばされてを繰り返していた。


 まるで無数のネズミが、圧倒的な天敵である猫に向かうように。


 それは滑稽な光景でもあった。ただ食い殺されるためだけに突撃を続ける魔物達とひたすら食い殺し続ける大淵。

 …一見すると既に勝敗は決まっているように見えたが、現実はそう単純にはいかなかった。


 大淵のSPも1200を超え、鎧のSP消費補助システムのおかげもあって重火器の強化は一度に付き5…そして時間も五分間と短いながら、その代わり連続使用にペナルティが無く、SPに関しては十分間に合っていた。

 今の所ダメージを追う事も無く、大淵のHPは合計で9000となり、その他のステータスも軒並み常人離れし始めていた。

 …力は1700、耐久は1800、スピードは600… これを更に、特殊強化で単純に倍にできる。


 …いくら超人とはいえ、それでも大淵の肉体はあくまで人間だった。射撃しているだけでも、傍から見れば楽そうでも実際はかなり消耗する。ましてや自身の力で極限まで強化された重火器での射撃は、常人では耐えられない程の反動をもたらしていた。

 敵を狙うにも神経を使い、微かに…自衛官出身である尾倉がその変化に違和感として気付く程度に、射撃の精度が少しずつ鈍っていた。


 それでも大淵を休ませまいとするように、大型モンスターが列を為して殺されにやってくる。


 …どんな敵知らずの肉食獣とて、被捕食動物を喉奥まで次々突っ込まれていけば窒息死する。

 

 「…ッ」

 

 突如として腕に痺れが走り、大淵は引き金から指を離した。


「せ、先生!?」

「…大丈夫、少し攣っただけだ」


『…大淵、もうじき十二時になる。…香山を向かわせる。ヒールには僅かながら疲労を和らげる効果もあるそうだ』 


 尾倉から通信が入り、無心に敵を狙撃・掃射していた大淵は我に返った。十二時…八時頃からもう四時間経ったか…

 …正直、自分が今どこで何をしているのかさえ、曖昧になりかけていた。

 機関銃の弾が切れ、銃身も過熱して赤々と焼き付いていた。

「…メノム、銃身交換と弾帯を頼む。それが済んだらお前もゆっくり休め。…そろそろ誰かと交代してきても…」

「嫌です、離れません!これは私の仕事なんです!」

 メノムはムキになって言い募った。 


 見ると、下から香山と斎城が身軽に矢倉まで登ってきた。

「…お疲れ様。これ、キツくても食べてって小倉君から」

 斎城が粥の入ったランチジャーを手渡してきた。

「…ありがとう、後で食うよ」


「ちゃんと食べないつもりなら、私があーんしてあげようか?」


 斎城にいつもの調子でからかわれ、大淵は苦笑いした。…固くなっていた頬の筋肉が柔らかさを取り戻した気がした。


「それもいいが、恥ずかしいから二人っきりの時にしてくれ。…頂くよ」


 大淵がランチジャーを開けると、香山が背後に立って仄かな温かみを背に感じた。…体内に溜まった毒素が吸い出されるような気がした。

「…桜、もう泣くなよ? お前の涙にゃ、おにーさんは弱いんだ」

「…じゃあ、泣かせないように努力してください」

「わかったよ。…今度どっか連れってやるから、機嫌直してくれよ」


 …しかしそうはさせまいと言わんばかりに新手のメガント、ハイパーデーモン、タランテラが列を為して進撃してきた。

…先頭集団が早くも北の一本道へと差し掛かる。


 …この足並みの揃わなさが救いでもあり、負担でもあった。

 もし、綺麗に一斉に襲い掛かられていたら、その飽和攻撃で今頃は火力が足りずに城内への突破を許していたかもしれない。だが、纏まって来てくれるならその分火力自体は集中しやすく、撃破もしやすくなっていただろう。 

 …今は足の速いメガントが門に辿り着こうと迫り、それを撃破すると間の子のような能力であるハイパーデーモンが辿り着き、それを撃破するとタランテラが…という状況である。そのおかげでこうして単純作業として処理できている側面もある。


(…まだやり合ってはいないが…ハイパーデーモンとタランテラは一体どんな攻撃をしてくるのか…)

 メガントはギガントよろしく、木製、もしくは鉄製の棍棒だった。


 だが、ハイパーデーモンは武器らしい武器も持たず、黒い甲冑を着込んだ恐竜のような見た目ではあった。また、タランテラもどのような攻撃をしてくるか全く予測不明だ。


 不意に、機関銃が一連射した。

「…すみません、やはりダメでした…」

 メノムは取りついていた機関銃から離れ、深々と頭を下げた。

「…私も汎用騎兵だから、足止めくらいになれるかと思ったのですが…」

「…気にするな」


 確かにメノムも自分同様、銃火器への武器適性はある。しかし…放たれた弾丸の威力は大淵とは似ても似つかぬものだった。 …全くダメージが無い訳では無いが、メガントすら歯牙にもかけずに突進してくる。 …口さがない者なら弾の無駄遣いと言うだろう。

「気にするな、気持ちだけ貰っておくから」

 …自分の代わりに敵を倒そうとしたのだろう。頭を撫でてやると、メノムはまた顔を真っ赤にさせた。


 …心なしか、香山の暖かなヒーリングが一瞬、氷のようにな冷たさを帯びた…気がした。


 バシュッ


 初めて聞く音が耳に入り、大淵の五感が騒めいた。

「ダイスー!避けろーッ!」

 城内でリザベルに付き添われて待つマオの、悲鳴じみた絶叫が聞こえた。


「伏せろ!」

 …さすが、斎城は反応している。反応が遅れているメノムと香山を抱き込んで押し倒すと、質量のある液体が何かにぶつかる音がして、直後から鼻をつく刺激臭がした。


「こいつは…」

 大淵が身を起こして下の門扉を覗き込むと、鉄と頑丈なアイアンオークを組んだ正門が出火していた。…分厚い木が木炭となりかけ、鉄が赤々と溶けている。門扉の中ほどに直径二メートル近い穴が、今尚燻ぶりながら拡がりつつあった。

 一本道の中ほど近くまで来たタランテラが、有効射程に入ったのだろう、今も口を開けて第二射を吐き出そうとしていた。

 …糸ではなくこんなものを吐くのか!

 すかさず対物ライフルを取り、伏射のまま口ごと撃ち抜いた。


「炎…!?」

 斎城が呟いたが、大淵は首を振った。

「…いや、この刺激臭…多分…」

 …他の大勢と同様、自分の人生では縁が無かったが、硫酸すら生ぬるく感じる強酸による腐食だろう。その桁外れに凄まじい酸と熱量に木が燃え、鉄も溶けている。

 …自分はともかく、斎城でも被弾して無事という保証はない。…香山とメノムのステータスでは尚更危険だ。


「桜、日菜子、メノム。俺はもう大丈夫だ。危険だからまた、下がっていてくれ」


 渡された卵とニラ、偵察中に採取したらしい薬草の粥を掻き込み、ランチジャーを斎城に返した。


「…置いて行きたくないの」


 …斎城にはやはり魂胆が丸見えだったか。


「俺一人なら何とでもなるんだ。…皆を頼むぞ、日菜子」


 そう言い残し、大淵は再び機関銃に手を掛けた。

 …いよいよ最後の銃身に交換し、7.62㎜NATO弾を使い切り…大淵は最後の百発を景気よく叩き込んだ。


 …どれだけ倒したかは知りたくなかった。…敵の残りを知って気を削がれたくなかった。

 一本道の中ほどまで迫っていた集団が文字通り瞬く間に消滅していき、先頭集団は一本道の始点まで押し返された。…だが、弾も切れた。

 

 対物ライフルの弾も尽きようとしていた。…元々、何百発も用意するような代物では無かった上、まさかこんなアラモ砦をやらかすとも想定していなかったので、弾薬は元から100発入りのアーモ缶1ケースしか持ってこなかった。


 最後の弾丸を撃ち尽くし、大淵は機関銃と対物ライフルを空間に放り込んだ。


 残る銃器は騎兵銃と散弾銃のみ。…強力だが高々7+1しか装填できない散弾銃は空間に仕舞っておき…六本のマガジン120発分をアーマー前面に特殊粘着テープで張り付けた。


(このスタイルも久しぶりだな…)

 …まだ半年も経っていないが、初期の自分の戦闘スタイルだった。…不格好ながらも懐かしい姿に、思わず口元を歪めて笑みを漏らした。


 しかしながら強化した騎兵銃をこのまま連射すれば、幾ら銃身自体も強化しているとはいえ、本来到底耐えられない威力の弾丸を撃ち出す為に、せいぜい60発で銃身が焼け付いてしまう。


 …射撃の間隔を開ける必要があった。その間に散弾銃を撃つのでは間に合わないし、またリロードの問題が出て来る。…銃身が冷えるまでぼんやりとここで休憩しているのは論外。


 となれば、一つしか無かった。 …ハイリスクハイリターン…結構ではないか。


 空間から風神騎槍(ストームランス)を取り出し、それを右手に、左手には騎兵銃。


 振り返って中庭を見下ろすと、香山達が見上げていた。


 桜、お前が泣くと弱いのは本当だぜ。いつものスマイルで頼む。

 日菜子、色々苦労掛けて悪いな。終わったらまたどこか遊びに行こうぜ。

 アリッサ、悪戯は程々に頼むぜ。…いざという時はちゃんと逃げてくれよ。

 マオ、もうしばらくだから良い子で居ろよ。…でも、多分誰よりも俺を信じているのはお前だろうな。

 リザベル、マオを頼むぜ。…だいぶ先になっちまうが、今度はスノボーでも挑戦しようぜ。

 メノム、本当に強くなったな。俺は鼻が高いぞ。

 クロエ、ポンコツ団長、可愛い奴め。

 尾倉…何かあったら皆を頼む。


 大淵を見つめ返し、黙って頷くマオ以外の皆が、じっと自分達を順繰りに見つめる大淵を怪訝そうに見ていた。

 おもむろにストームランスで正門矢倉への昇降階段を破壊した。更に鉄柵を上げたまま繋いでいる鎖を切断し、穴の開いた門扉の前面に降ろして穴を塞いだ。…これで敵が突破しない限り、皆がこちらに来るのは困難になった。

 

 だが、まだ足りないし、突破させる訳にも行かない。

 …ちょいと手頃なのに補強材になってもらおうか。

 

 絶句する皆の前で大淵が高々と敵中目掛けて跳び上がった。

 誰かの声が背に追い縋ったが…振り返らなかった。


 大淵の行動に驚愕したのは魔物達も同じだった。突如として猛禽類の如く宙に跳んで躍りかかってくる黒い騎士の姿に足を止め、茫然として天を仰いだ。


 さながら、束の間の遊覧飛行。敵の大軍が壮観な…パノラマフィギュアに見える。


 空中からフルオートで全弾をばら撒く。機銃掃射よろしくメガントが消し飛び、跳弾で足を失ったハイパーデーモンの巨体が膝を付いた。


 マガジンを放り捨て、次のマガジンを剥ぎ取って装填・初弾を送りつつ背負う。…落下。百メートルの高さからアーチを描いて二百メートルは跳んだか。両足と左手で着地の衝撃を受け止めつつ、右手のランスを一本道に並んだ敵に向けて身構えた。


 コイツを強化して使うのは初めてだ…

 思えば、ストームランスは人間の敵を吹き飛ばして無力化する事にばかり使っていた。

 …世界中のお伽噺を開いても、槍で掃き掃除をしたのは自分くらいのものだろう。


 初めて魔力を流し込まれた風神騎槍が深い赤色に輝き、暴風の嗤い声を上げた。

 ブロワーで消費50だったが…アーマーの補助システムを以てしても消費150。

 時速3万キロという、宇宙的な暴風が限定的な攻撃範囲を襲い…魔物の体が超常的な大気と通常の大気との抵抗に巻き込まれ、血飛沫となって消えた。殺戮の風が範囲内にあった一本道の街道を削り、二キロ先の岩山をも削り、山肌に渦巻くような歪な爪痕を残した。


「…こ、こいつは……」

 …なんと極端な風。非殺傷兵器・或いは便利なアイテムとして使って来たストームランスの残忍な武器としての姿をまざまざと見せつけられ、大淵も絶句した。

 辛うじて範囲外で免れた魔物の集団が一歩だけ後退った。


「…どうする!?」


 一度後退しかけた敵は、それでもまた進軍を再開した。…どうせ、銀ピカ頭に唆されているのだろう。


「ならお前、来い。…殺しはしないからさッ」

 外骨格システム・起動。インジケーターが緑からオレンジへと変わり、先頭を走ってきたタランテラの脚部にアンカーを撃ち込んで巻きつけ、力任せに引っ張った。

 蟻が巨大な獲物を運ぶように…それ以上の速さで10メートルの巨体が抵抗できずに門の方へと引き摺られていく。 


「オラァアッ!」

 

 背負い投げの要領でワイヤーごと巨体を高々と放り投げ、門の鉄柵へと叩き付けた。厄介な酸を吐く口を切り落とし、八対の手足を最低限に切り落とし、更にもう一本のワイヤーアンカーを強化して鉄柵へと縛り付けて拘束する。…蜘蛛が蜘蛛の糸に拘束されたような姿だ。


 これで斎城達がこちらに来ることも、敵が突破する事も困難になった。…まだHPが8万以上もある、これ以上ない生きた補強材を門にガッチリと縛り付けてやった。


 …これで後顧の憂いは無い。


 再び敵集団に向かって駆けた。



 門を完全封鎖され、小隊員と騎士大隊の面々は城の上階へと移動して門の外の様子を窺う事にした。

 …既に敵の残党兵は戦意を完全消滅し、影も形も無かった。 


 城の四階から、大淵小隊の隊員達とパープルハートの騎士団達はその光景を見た。

 穏やかな西日の下、暖かな西日を反射して煌くクレセントレイクを右手に、残忍な破壊痕を残す街道上で暴れ狂う鬼神。ハイパーデーモンの鋭い格闘攻撃を難なく避けて瞬時にカウンターで切り上げて始末し、メガントの棍棒を蹴り上げてメガントの顔面を粉砕させる。 タランテラの酸を魔物を盾としつつ接近し、腹の下からストームランスで突き抜け、体液塗れになりながらもトドメの一撃を頭部に突き入れる。


 …最早舞踊の域に達している。…そしてどんな踊り手よりも優雅に、華やかに…残忍に舞い続ける。


(…だがレイスとは違う)


 尾倉はその鬼神を見た。…あれだけ狂気じみた殺戮劇を見せながら、その顔に汚れた狂気は無かった。…代わりにあるのは透明だが確固として存在する意志。

 

 …あの背に背負ったものを守り続ける為、来る者総てを滅し続けるだろう。


 …無論、その中には今や保護すべき存在となった自分も含まれ…今、隣に居る少女達全員も含まれる。


 騎兵銃の乱射音が響き渡り、敵の層が瞬間的に後退する。…屠った敵はもう一万に達するかもしれない。

(…完成されつつあるな…大淵大輔)


 ダイス…サイコロとは良く名付けた渾名だ。…確かに奴は不確定要素を多分に含むし、それは今後も変わらないだろう。

 …だが、問題はその目が一であったとしても、奴の底力は確実に…格段に上がっている事だ。

 確かに瞬間的な火力はレイスには及ばないだろう。…だがレイスもまた、こんな芸当はできない筈だ。

 …さすが、魔王に溺愛され、妙な悪魔にまで歪んだ愛情を向けられるだけの事はある。

 

 眼下の光景に息を呑み、言葉を失っている少女達をよそに、尾倉は人知れず口元を緩めた。



「…まだ来るか?まだ死に足りねぇか?」

 大淵はタランテラの死骸の上から後に続く魔物の軍団を見下ろした。


 …魔物達はまだ戦意喪失していないらしい。…まったく、その意思の頑強さだけは心から恐れ入る。…逆の立場なら間違いなく俺は敵前逃亡している。


「…だったらとことん相手してやる!来いよッ!」

 

 …騎兵銃は既にマガジンを使い果して空間に放り込み、8発装填してある散弾銃を背負っている。

 残りSPは800… 自分が敵中深く押し込んだ事もあり、今、敵は良い感じに一列に並んでいる。


「食らえッ!」

 ストームランスを強化し、今度は街道を極力傷付けないように「死嵐」を送り込んだ。


 三千の魔物がミキサーに掛けられ、血煙となって消えた。


 …その中で、辛うじてミキサーの範囲から逃れた黒い魔物の陰があった。…小さく、素早い。


 体長は二メートルもないだろう。…見た目はハイパーデーモンに似ているが、サイズは三分の一以下。突然変異個体か、それとも…

 

 大淵はランスを空間に戻し、ツヴァイハンダーに交換しつつ騎兵刀を抜いて待ち受けた。

 黒い影のステータスを見ると…「ブラックファイター」HPは自分と同じ9000。


 …どことなく、自分の姿を模したようにも見えて言い知れない嫌悪感があった。その両腕の肘部分から鉤状の刃物を分離させ、両手に構えて突進してくる。

 難を逃れた魔物の隊列からも、一際巨大な魔物がタランテラやハイパーデーモンを押し退けて後に続いてきた。…デカい。15メートルはあるだろう。


「…ったく、その図体で今までどこに隠れてたんだ?」


 ブラックファイターの双剣を紙一重で見切りつつ、騎兵刀で一突き。軽々と躱され、執拗に二対の鉤剣を用いた超至近距離格闘戦で張り付かれ、大淵は長刀である騎兵刀の間合いを殺されて苦戦した。


「チッ…!そんなに組みたいか!?」

 

 騎兵刀で片剣を受けつつ、もう片手で相手の甲冑に手を回して甲冑組討ちを仕掛けた。体格は大淵よりあるが、それでも圧倒的な腕力差と巧みな組み技で他愛なく捻じ伏せ、騎兵刀を首筋に突き立てて圧し切った。 


「次はデカブツか…!」

 流石に接近を許し過ぎた。大淵を取り囲んでストームランスを封じようというのか、タランテラがクレセントレイクに入り、大淵の側面に回りつつあった。…水上砲台にでもなるつもりか?確かに厄介だが…

  

 あの強酸で集中砲撃を受けるのもゾッとしない。…先に始末するか。


 散弾銃に装填していた大淵専用12GR(ライフルド)・スラッグ…ジャガーノートを100メートル先のタランテラに向けて撃ち込んだ。赤黒く変色した一粒弾はタランテラの頭部から内部をエキスパンションすることなく貫通し…被弾直後、一足遅れて内部で発生する衝撃波で内部から爆散させた。

 瞬く間に八体のタランテラが湖上に浮かぶ悪趣味なレリーフとなった。


 素早くシェルゲートに次のシェルを装填する。…一発一発装填する手間がもどかしい…


 七発装填した後、更にチャンバーに一発装填。フォアエンドをスライドさせて再び背負った。…4秒間の隙があまりに長い…

 …西日によって東側へと伸びる巨大な影。

 目線を上げると例の15メートルにもなる超大型モンスター…ヘルアーマーが大淵の30メートル先に立っていた。


「…往年の名作ロボットがこのくらいの高さか。さすがにでけぇな」

 ビル5、6階分にもなる巨体に見下ろされ、大淵は不敵に笑った。

 …SPも半分に至ってきた。風神騎槍も温存しておこう。

 代わりにアーマーを全身強化した。ツヴァイハンダーに持ち替え、その剣身を深紅に染まらせる。

 

「大地ごと叩ッ斬ってやる!」

 

 ヘルアーマーの野太いが聞き取りやすい声が響き渡り、大淵はツヴァイハンダ―を脇に構えた。…想像以上の速さでその大鉈が振り下ろされた。

 …ヘルアーマーの言は誇張では無かった。振り下ろされた巨大な大鉈が大地を割った。


 しかし大淵は無傷でその鉈の上に飛び乗ると、腕を伝ってヘルアーマーの首元へ向かって駆けて行く。


「そう来ると思っていたよ!」

 巨大な掌が大淵を横から襲ったが…掌が大淵を包もうという瞬間、その姿が消えた。


「…変則的な加速は読み辛いだろう」

 耳元で呟く声にゾッとしてヘルアーマーが振り向くが、その瞬間には意識が途切れていた。


 巨大な頭部が兜ごと横薙ぎに切られて地面に転がり、巨体が呆気なく崩れ落ちた。


 …実は、強化と最も相性が良い武器がこのツヴァイハンダーだった。黒竜戦では全く使いこなせていなかったが、単純なパワーで言えば騎兵刀の比では無い。


「次はどいつだ!?」


 …残す魔物が明らかに有限になっていた。…見ると、列の後方から密かに隊列を離れ、逃げだす魔物が出始めていた。


「…悪い事はいわねぇ、後ろを見てみろ」


 素直に後ろを向いた魔物達の動きが止まった。


「…今から一分だけやろう。…それでも俺の視界にいたら狩ってやる」


 

 とうとう堰を切ったような大潰走が始まった。下は4メートルから上は10メートル級の大型モンスターの大軍が、我先にと街道を這いずるように逃げ、森林や山岳へと逃げ込んでいった。


「もし、俺の仲間や他の人間に手を出したら、地の果てまで追い詰めて、拷問して遊び殺してやるからそのつもりで居ろ!」

 強化したジャガーノートを一発、空に轟音を響かせて警告しておいた。


 …戦場に静けさが戻ってきた。大淵は西日に照らされた城を振り返った。…さすがにこの距離では分からないが、多分あそこから見ているんだろう。騎兵刀を振ってやった。


 


「…さて、戻るか…まーた桜や日菜子に怒られるかな…」



「えぇ、えぇ、それがモテる男の必定でございますよ、ダイス様♪」


 …うんざりする声に苛立ちを感じながら振り返った。 …やはり、あの銀ピカの悪魔が廃墟の壁に背を持たれさせて不敵に佇んでいた。

「いやぁ~それにしてもお見事お見事!まさか一万六千ものモンスターとスペシャルボスを二体とも倒されてしまうとは!私もう、感激の極みでございます!惚れ直しましたよ、もう!」


 そう言いながらカップコーヒーを差し向け、静かな口調に変わった。


「…所で、折り入ってお聞きしたい事がございます。 …ダイス様?」


「…」

 騎兵刀の刃筋を立てた。


「…カップ飲料ってどうして飲み続けるとこうなるんでしょうねぇ?何か解決方法はありませんか?」


 カップコーヒーをストローで啜る銀ピカ顔がすぼみ、カップも内圧を奪われてげっそりと縮んでいる。…それをプルプルと震えながら吸い続けているが、やがてブクブクブクと泡音を立てながら顔とカップが元通りになっていく。


「…一々お客様にこんなバキューム顔をさせる為のマーケティング戦略ですか、コレは!?」

「…ストローで穴をもう一ヶ所開けとけばいいだろ」


 言われた通り、目の前でカップの蓋を外し、密閉シールの上からもう一つ空気抜きの穴を開け、再びストローで吸い上げた。


「……」

 当然、今度はそんな事にならずにスムーズに飲み続けられる。


「エクセレーンッッ!! 私は人生を…いえ、生涯の三分の一を無駄にしていました!あぁ、もっと早くダイス様にお会いできていれば、この人生はより長くバラ色ならぬ七色の極彩の生涯を送っていた事でしょう…! ああ、ダイス様、貴方の知見の深さには歴代の賢者たちも平伏する事でしょう!」


「…十分お幸せだよ、テメーは。用が済んだならとっとと消えろ」


「そーんな冷たい事言わないで下さいよ、ダイス様、いえ戦神様ァ? あっ、そーだ、お礼に素敵な宝物の在処をお教えしちゃいますからぁ~」


「誰がテメーなんかの…」


「いえいえ、ダイス様は行かねばなりません。…実はねぇ、昨日、とっても素敵なお人形さんを拾ってしまいましてねぇ」


 昨日…人形を…

「てめぇ…まさか…」

 大淵は愕然として銀ピカ頭を見た。


「あー♡そんな目で見つめられるのも堪りませんなぁ♪…ご安心ください、私が日曜大工で作った小屋の中ですやすやおねむの時間ですから。怪我一つ、身の汚れ一つありませんよ。…ただし、それでは面白くないので、ちょ~~っぴり、改造しちゃいましたよ♪」


「…何をした…」

 騎兵刀を鞘に戻し、居合の構えを取った。…今なら、絶対に逃がさずに切ってやる。


「あー♪いいですなぁ、その目!(お前を逃がさない)そんな熱い感情が溢れ出ています!熱い恋に必須のライオンハートでございます! …いえね、そんな熱いライオンハート・ダイス様へのあの少女達の秘めたる甘い想い…その想いをほーんのちょっと後押ししただけですよ♪」


「んだと…?」


「フロイライン・ラナとパルム様ですね。えぇ、しかし彼女たちはまだ18にもなりません。そんないたいけな心を掴んでしまうとは、ダイス様は本当に罪ですなぁ~、罪です罪!有罪、死刑!」


「…」

 辟易していると、銀ピカは更に続けた。


「…なーんて聞いて結構まんざらでもないでしょう? しかしお待ちを! その想いは普通ならばふとしたきっかけ…失恋や失望で冷め、新たな恋を見つけるものです。それが人間ですからねぇ。…しかし彼女らから私はそのブレーキを奪ってしまいましたので…このままだと何れ、血の雨が降るか彼女たちの心が病むでしょう。まさに恋の病ですなぁ♪これは日に日に重症化して、最終的にお二人はダイス様を争って互いの血を血で洗う争いを引き起こすことになりますなぁ」


「…だったらとっとと返せ。さもなくば…」


「ダーメです! 私があの薄汚いケダモノ達からお助け…いや、拾ったのですよ?落とし物を拾ったら一割もらう権利があるでしょう? 幾らダイス様でも、こればかりはイヤイヤです!」


 にじり寄る大淵からふらふらと距離を取りつつ、一枚の地図を放り投げられた。

「まずはその小屋へどうぞ。普通に探していたら永遠に見つけられませんのでご注意を♪…そして彼女たちのピュアハートはここより遥か西の大陸…花の国へ隠しました。 …口にするのも忌々しいですが、あの青髪のビューティフルキングにお願いして船を出してもらって下さい。 …それではッ♪」


 止める間もなく煙のように掻き消えた。


「…クソッ…結局弄ばれるだけかよ…!」


 …それでも、ラナとパルム、そして騎士団の少女達が無事だったなら…今だけはあのクソ野郎…悪魔に感謝しても良い。


 …等高線と植生まで掛かれた無駄に緻密な地図を頼りに森林地帯を探って見ると、お伽噺にある…”お菓子の家”があった。 まさかと思ってドアを軽く擦って見ると…ぽろりとクッキーが零れ落ちた。窓ガラスは飴…ドアの上には「ダイスさまだーいすきのおまじない♡」とホイップクリームで書きつけてある。

 …因みに庭先には甘いココアの匂いが漂う池まである。

「…ゲロ甘地獄だな」


 扉を開けると、板チョコレートの家具やウエハースのベッド…その上に、わたあめのベッドで横になる行方不明になっていた少女達が並んでいた。…明らかに外から見た家の大きさと、家の中の空間の広さが全く違うが…ふざけた日曜大工だ。


「ラナ、パルム! しっかりしろ、起きろ、おい!」


 しかし二人は肌の色こそ眠っている生者そのものだが、幾ら揺さぶろうと頬を軽く叩こうと一向に目を覚まさない。他の32名の少女騎士も同じだ。…息すら止まっているが、死んでいる訳ではないようだ。時間が止まっている…のだろう。


「ど、どうしたら……?…」

 パルムのベッド…ウエハースに、傘を模したチョコ菓子で紙片が突き刺してあった。


「ラナ嬢(17)パルム嬢(16) 二人が目覚めれば他の騎士も目覚めます」

 更に読み進める。


「ヒント:眠れる森の美女を目覚めさせるには?」


「…は?」


「以上、終わり」


(終わるなぁーッ!!)

「じょ、冗談だろ…おい…」

 …だが、そんな冗談みたいな事をしてくるのがあの悪魔だ。


 …ふと、手紙の裏に文字が浮かび上がってきた。


「P.S このメッセージを読んでから30分以内にしないと、全員脳死します♪ (ガチ)」



「あ、ああ…あの野郎…」





 …この日…大淵大輔は本当の悪魔の恐ろしさを心に刻まれる事となった。




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