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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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悪魔の果実


 クソが…

 岩壁に囲まれた冷え冷えとした薄暗い空間に幽閉されている。死ぬほどの寒さでは無いが、快適とは言い難い空間だった。…熊が冬眠する穴蔵…そんなイメージが浮かんだ。


 ミドゴブリンとかいうモンスターに雁字搦めに両腕を後ろ手に縛られ、全員と引き離された。


 …下手すりゃ今頃、お決まりの展開ってのをやられているのかと思うと、気が気では無かったが、無様にも自分は何もできなかった。


 モンスター共の走査は極めて正確で、大淵のブーツの中に隠していたブランド物の折り畳みナイフもしっかり奪われた。…それで裏にいる黒幕の正体も概ね見当がついたが。


「そーんな顔をしていては折角のスイートマスクが台無しでございますよ、ダイス様ァ?」

 

 どこからか現れた…例の銀色頭が、何がそんなに嬉しいのか知らないハイテンションで自分の周りをぐるぐるとターンした。


「直接お会いしたのはリーデがお初にして最後でしたね!? いやぁ~あれは惚れ惚れする戦いぶりでした!しかし頂けませんなぁ、ダイス様!あのような千里眼持ちの泥棒猫に現を抜かしてしまわれるとは嘆かわしい!そんな事だからこうしてノコノコと敵地にお使いに行かされて、こうして…」


「あいつらは無事なんだろうな?」


「あーッ、怖い!そんな目で見つめられては困ります、ダイス様!そんな睨まれたら私、キュン死してしまいます! …あっ…♪」

 

 目の前で天を仰ぐようにばたりと倒れ、その頭部から現れた光の輪っかが天へと向かって昇天していく。

「…」

 茶番を無視していると、不貞腐れたように起き上がった。


「ンもうっ、何故そうも私に冷たいのですか、ダイス様ッ!? 女の子達にはあーんなにお優しくて、こーんなになるまで無償の愛を注いでくれるのにぃ!?」

 

「…もう一度聞く。アイツらは…」


「あー、はいはい、ペラッペラの熱い展開をご希望でしたか? 御所望とあらば今すぐライブ中継いたしますが、私はジェントルメェンッ!なのでそういうアブ・ノーマリーは好みません。 残念でした~! しかーししかーし、ダイス様が私のお話をあんまり無視したり冷たくしちゃうなら…ちょっと気を引くためにゴブリンやらハボックイプの元気な子たちにご褒美をあげちゃうかも知れませんから、あんまり冷たくしないで欲しいですねぇ~?」


「…テメーは一体何なんだ?…なんで俺たちに付きまとう?」


「ン~…深い質問ですなぁ…逆にお聞きします。ダイス様は誰かに付きまとわれた事…或いは誰かに付きまとった事はありますか?…いえいえ、プライバスィーですからお応えしなくて結構。心の中でQ&Aしてみて下さい。…どうです、些細な事を含めれば一つくらいは心当たりがあるでしょう?その根源に有るものは何か?…そう、それは小さな好奇心から始まる恋心なのですよ! 相手が気になって仕方ない…自分を見て、構って欲しい…けどその想いを伝えるのが怖い…!そんな乙女も恥じらう乙女のような、性とは無縁な純真で淡い恋心…それが根源にあるでしょう、ダイス様ァ! …あぁ、無論、拗らせてしまった方に関してはその限りでは無いかも知れませんがね!! 何事にも逸脱してしまわれる方はどこにでも居られますので悪しからず!」


「…俺の前にいるのもその一人か。全く…妙なものに好かれるってリノーシュの言葉は本当に正しかったな」

「キィ―!あの泥棒猫王の話題はNGでございますッ!!彼女は私の永遠の恋敵なのですからね!」


「…さっき自分で紳士つってただろうが。何が恋敵だ!」


「時として熱烈な恋は性をも超越するのですよ、ダイス様!!…あ、私には性別は特に無いのでした、失礼あそばし!」


「…お前の事が益々分からんくなってきたが、結局、俺をどうしたいってんだ?…テメーはアウターデーモンだろう?あのゼルネスとか言うのに俺の抹殺を指示されたんじゃねーのか?」


「はい、はい!その通りでございます!依頼内容は(魔王とそのナイトに最大の苦しみを与えてから殺せ)というものでした。…そしてそのチャンスは呆気なく訪れました。…あなたがリーデで自我を失っている時にね。当然覚えていらっしゃらないでしょうが、あの時のみ、私は貴方を殺せたのですよ!魔王様はいつでも殺せますしね、私!」


「…今だって俺をやれるだろうが」

「ノンノン。そんな無粋な真似を試すつもりはありませんが…仮に私がこのナイフで貴方の心臓を突き穿つとしましょう。…そんな事は出来ないのですよ、ダイス様。それが運命というものの面白い反作用でしてね!」

 マオに付きつけられていたミスリルのナイフ…青銀色に輝く美しい刃先が大淵の首筋から心臓の真上を撫でた。

 ゾワゾワする感覚に思わず呻く。


「…ダイス様は運命と聞くと、何をご想像なされますか?…”運命なんて信じない、自分の運命を切り開く!”ですか?それとも”これが運命だ…”と死を受け入れる美しい死に様ですか?…ええ、どれも運命と言えば運命でしょう。ですが、運命もお金や切符と一緒で、使用限度があり、かつ不可逆性なのですよ。…例えばダイス様の日本から取り寄せましたこの高級メロン。甘くておいしそうですねぇ?…これを食べてしまいたい。そして食べる。…そうしたら食べてしまったメロンはもう二度と、お腹の中から出て来る事も、この皮から再生する事も無いのです!」


 そう言うとミスリルのナイフで器用に一切れを残し…どうやって食しているのか…のっぺらぼうのような顔にむしゃぶりつくように押し当てると、メロンは薄皮を残したまま綺麗に無くなった。

 …食い方は野蛮人のソレだが、汁一つ零さず、薄皮のみ残し、一片分だけ取り除いた紙風船のように芸術的な食べ方だ。


「…当たり前の事のように聞こえたが?」


「運命が何か特別な理論で形作られているとでも? …ああ、私とダイス様の運命は超超超特別なモノですがねぇ、きっと!」

 一切れ残したメロンを銀のスプーンで綺麗にすくい上げ、大淵の口元に運んできた。


「はい、あーん♡ …食べてくれないなら代わりに誰か一人選んで、モンスターに色んな意味で食べさせちゃおうかなぁ?」


 …仕方なく…その驚くほど美味なメロンを、世にも不味そうに食った。

 

「…そろそろお分かり頂けましたかね?こういう事ですよ。私はメロンを全て食べるのではなく、一目惚れしたダイス様に一切れだけお裾分けすることにした…これが愛の運命です。もう私から変える事はできません。…もしこの運命を変えるのであれば、ダイス様から働きかけるしかありません。…できれば私好みの凄惨なBADEND、鬱ENDを盛大にお願いしたいのですがねぇ!…ダイス様、悪魔に寵愛されるという事は、死ねないまま苦しめられ続けるという事でもあるのですよ!」


「…ただの呪いだろうが」


「ン~、読み方によってはおまじないですねぇ。愛と呪いは表裏一体なのですよ。 なんせ、私とダイス様の恋愛花である黒百合の花言葉は「愛・呪い」ですから!」


 と、自分の唇?にあたる部分に宛がった指を、動けない大淵の唇に押し当てた。

「ッ…」


「…さて、しかし、元の願い…契約を守る義務も私にはあります。…一応言っておきますが、神や天使なんかより我々悪魔の方が約束と契約には厳格なのですからね? …ですから、その契約…その運命も回すと致しましょう」


 指を鳴らされると、大淵の両腕の戒めが解けた。足元にどこからか収納の魔法石と全ての武器が転がった。


「今から一分後にモンスター共が一斉に皆様を滅茶苦茶にして、全員殺害致します♪」


「んだとッ…?」


「さぁ、これも運命ですよ!時間は戻らないのです!アデュ!ダイス様!アナタを!いつでも!お慕いしておりまぁーす!」 銀色頭はくるくると回りながら花火のようにどこかへ消えていった。

 

 装備を全て身に着け直し、洞窟を飛び出した。



「…なにが運命だ、不可逆だ!メロンだ!イカレ銀ピカ野郎め!」


 立ちはだかるミドゴブリンやゴリラタイプのハボックイプらを全て斬り捨て、別の洞窟の中に飛び込んだ。…モンスターが一斉に振り返る。…まだ全員、無傷だった。

「全員伏せろッ!」


 強化された大淵大輔専用散弾…12Gブラッドレインが、その名の通り赤い軌跡を曳きながらモンスターに雨となって降り注いだ。  近距離での運用に限り、瞬間火力は他の飛び道具と一線を画す。

 …勇者の力を完全に失い、臆病熊の弓が使えなくなった今、散弾銃は大淵の射撃戦闘を支える根幹となっていた。


 …ものの三発で数十のモンスターが肉片もほとんど残さず消滅した。


「…全員無事か」

 声を掛けながら全員の戒めを一人ずつ解いていった。

「…今回ばかりはちょっとダメかと思っちゃった」

 斎城は苦笑して見せた。

「すまんかった」

「大輔君のせいじゃないよ」


「…マオも悪かったな。…お前の言う通り、俺はやっぱり…」


 …悪い意味で甘いのか…


「…ダイス、今回の事…私の言った事は気にするな。…私も少々…いや、ほんの少しだけ調子に乗っていた。…甘くないお前なら、初めて会ったあの時、私をもっと疑っていただろうな。…出会いすらしなかったかもしれん」

「…」


「…とにかく、雪上車まで行こう」


 …向かう途中に村が見えた。…村から視線を感じたが、大淵は敢えて返さなかった。


「…ルベドとあの村はいずれ滅びるだろうな…自ら救世主を売ったのだから」

 マオが呟くように言った。…他に奇特な救世主がいるかもしれないが、少なくとも自分はもう、関わる気はない。


(…不可逆性の運命…)


 受け容れるのが嫌なら、…跳ね返すのではなく、回し返せ…? クソ…あんな奴の言う事を考えている時点で疲れてるんじゃないのか、俺は…?


 斎城が操縦席に乗り込み、車体を反転させた。


「…でも大輔くんもしっかり拘束されてましたよね?何があったんですか…?」



「…銀ピカ頭の、ろくでもないのに気に入られちまったらしい。…ふざけた見た目だが、最悪の悪魔だと思う」


 …大淵は口の中に残った、喰わされた甘美なメロンの味が、無性に恋しくなっている事に気付いた。そして他の皆に悟られぬよう、ミネラルウォーターで口内を濯ぎ、窓に向けて顔を顰めた。

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