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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
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フィブルム村救援


 …宿の復旧には二日を要した。宿の修復には大淵と尾倉が自主的に協力を申し出て、何かと手先が器用で要領も良く、仕事を寡黙にこなす尾倉の性格が、スノーダリアの大工達には大好評だった。

 

 それでも宿の修復が終わり、次の目的地へと出発するという話に至ると、尾倉だけでも残ってくれないかと棟梁の組合に頼まれたが、尾倉と大淵はそれを丁重に断った。 …まったく厄介な化物を抱えているが、尾倉は必要なメンバーの一人だ。…余程本人が強い希望を持たない限り、大淵は今のメンバーを誰一人として手放すつもりは無かった。


 結局、ツラーク町長には星村が鑑定し終えた骨董品のうち、値打ちのありそうな物を幾つか渡してお茶を濁しておいた。…決して相手に損はさせていない。寧ろ…損得で言えば、酷い目に遭った分こちらが損をしていた。

 こちらはツラークのいい加減な情報のお陰で酷い目に遭っていた。あの二人の冒険者の存在や遺跡の封印を間接的に破っていた事…宿を壊して騒ぎを起こしたのを自分達のせいと見るかは極めて微妙だが、それとて最終的に物的損害はこちらが主体となって修復し、女性従業員に関しては香山のお陰で全快し、彼女にもお詫びとして…これも自分達のせいかと言われると甚だ疑問だが、気持ちとして遺跡で収集した金品を十分に持たせ、大淵は後を濁さずにスノーダリアを発った。


「…クロの奴がおらんから私が言ってやろう。 …ダイス、お前は人が良すぎるなんてものではない。お前は病的に甘い。 …今はいいが、そんな事だといずれ足元を見られ、酷い目に遭うだけではなくお前自身が人に失望する羽目になり兼ねんぞ?」


 斎城が運転する10式雪上車の車中で、マオは大淵に肩車しつつ腕組みして見下ろして来た。


 …中々に手厳しい物言いだったが、車中のメンバー…香山や斎城、アリッサらは全く同感だと言わんばかりに黙して是としている雰囲気があった。


「…そんな事は無い。後腐れないように事を済ませてきただけだ」


 大淵は少々憮然としながら言い返したが…それこそが図星を突かれた者の典型的な反応だった。


「…フン。口では最もらしく言っているが、私は騙されんぞ。 …当ててやろう。お前は金品のやり取りで、相手がお前を少々ちょろまかそうとすれば、それ以上質さずに金だけ渡して疎遠にするだろう?」


「…」


「周りが失態をしたとして、それを自分が被れば済むと判断すればお前が下手人に名乗り出るだろう?」


「…恐れ入りました」


「良妻とは夫の良き部分も悪しき部分も含めて完璧に把握するのだ。肝に銘じておけ」


 マオにふんぞり返られて、大淵は項垂れた。


「草食動物の群は種の保存の為、しばしば自らを生贄に多を逃がす自己犠牲を見せる。…それ自体は合理的で立派な事だ。 …だがな、お前が生贄になる事に慣れた周囲の草食動物はいつしか感謝を忘れて堕落し、お前を当然の生贄としか見なくなる。…そしていずれは絶滅する。 その時、お前は自らの行いを後悔し、同胞に絶望するだろう。 …私はそんなお前の未来を見たくないのだ」


「…まぁまぁ。マオ、その辺で。マオの言うトーリです。だからこそマオや私達が大淵をしっかりサポートしてあげないと」


 アリッサが見かねて助け船を出してくれた。…目線は手元のファッション雑誌に熱心に注がれていたが。


「大輔くん、困っている人を見つけたら見過ごせないタイプですから…」

「…あら、噂をすれば…かな?」


 前方から馬にも乗らず、ボロボロの外套を纏ったまま走り続けて来る一人の男の姿が見えた。雪上車がゆっくりと停車すると、後続の騎馬の少女騎士達も停止した。


「…どうかしたか?」

 それとなくスタン・ガンを手に下げつつ、大淵はドアを開けて男に訊ねた。


 男は雪上車の異様さに目を瞬きながらも強く三度頷きながら呼吸を整えた。


「お、俺達の村にモンスターが攻めてきて…た、頼む…誰か助けを…」


「…村と襲撃してきたモンスターの規模や種類は?」


「村は…50人しか住まない、本当に小さな集落なんだ。モンスターの規模と種類は…よく分からない。ゴブリンが100は居たと思う。…急いで助けを呼びに来たから、正確な数なんて分からないんだ!」


 男の年は40ほどか。…身なりはひどく、饐えた臭いがする。…ここ二、三日は走り続けてきたのだろう。…とすると、その村はもう厳しいかもしれないが…

「…わかった。向かってみよう。」


 大淵は雪上車を降りると、騎士団の先頭集団の中にいるクロエを探し出して事情を説明した。異変を察した尾倉も車を停め、徒歩で打ち合わせに参加した。


「いつものメンバーと一緒に行ってくる。クロエ、お前の三馬鹿…じゃない、三人娘を借りたい。大隊とクロエ、尾倉は一足先に旧シバ領の中心地…エーデンベルトに先行して、無理なく偵察・策源地確保をしておいて欲しいんだが…」


「了解しました!お任せください」

「…わかった」


「…車載無線でギリギリ届くかどうか…厳しいか。とにかく、張り切らなくていいから気を付けてくれ。…何事も無ければすぐに片付けて合流できる筈だから」


「…お前が何事にも巻き込まれずに事を終えた試しがあるか?」


 …珍しく尾倉に端的かつ言い返せないツッコミを入れられ、大淵は苦笑いで応じた。

「…全くだな。…そんな訳だから、俺が遅れてもいいよう、無理だけはしないでくれ」


「ダイス殿ほど無理無茶をする方は居られませんよ!一足お先にエーデンベルト近郊でお待ちしておりますから、三馬鹿…じゃなかった、三人娘をよろしくお願いいたします!…メノム、ラナ、パルム!」


 馬が雪道を踏みしめる音が聞こえてきて、騎馬の三人娘が駆けつけた。


「ダイス殿の共を許します。…紫心騎士団代表として責務を果たしてきなさい」

「は、はいっ!」

「馬は俺の収納で預かる。…尾倉は予備の10式でラッセルの引継ぎを頼む」

「わかった」


 尾倉、クロエと別れ、九人は雪上車に乗せた男の案内でその集落…フィブルム村への救援任務に向かった。

 

 車内でスタン・ガンを通常の散弾に詰め替え、装備を整えた。…念のため、スノーシューとかんじきも用意してある。前者は殆ど沈まずに雪上をスキーのように手軽に移動でき、後者は昔ながらの日本の雪上装備で、歩くたびにある程度沈んでしまうが、急峻な地形や複雑な地形の踏破に向いている。



「…随分と女子が多い隊だが、大丈夫なのか?」


「…どういう意味で言っているのか知らんが、そこらの男なんぞ問題にならん精鋭揃いだから大丈夫だ。…そんなことより、落ち着いた所で詳しく事情を聞かせてもらおうか」


「あ、ああ。…三日前の朝、突然モンスターの集団がやってきたんだ。スノーウルフが100体…」


「さっきはゴブリンが100体と言っていなかったか?その他にスノーウルフってのが100体か?」


「あ、ああ。そうだ。…すまない、村の事を思うと気がどうかしそうで…妻や子もまだ残されているんだ…きっと今頃はシェルターで怯えている…」


「わかった。…焦っても仕方ない。まぁ、これでも飲んで気を静めてくれ」


 空間からミネラルウォーターを取って男に手渡した。


「…ダイス、私も飲み物が欲しい」


 マオが飲食物を自ら欲するのは極めて稀だった。…大淵は意味を察し、マオにミネラルウォーターを手渡してそれとなく男から距離を取った。


「…嘘を吐いている」

「…どのくだりが?」

「モンスターの数と陣容。…イメージだけだから名前は分からんが、新種が大量に。強いか弱いかはわからん」

「…何のためだ…?」

 緊張した面持ちでミネラルウォーターを飲み下す男の横顔を険しく睨みつけた。

「罠?…だったら追い出すか…」


「それがな、ゴブリン100匹が村人を監視しているイメージも浮かんでいた。…奴の妻子らしいイメージもな」


「…モンスターの盗賊ってか?いや、待てよ…」

 ブレメルーダでは魔物の海賊…魔海賊が居たではないか。魔盗賊…語呂はイマイチだが、いたっておかしくは無いだろう。


 ただ、目的が意味不明だ。…魔海賊は人間の交易ルートを妨害・或いは港から上陸戦を仕掛けるための存在だが、モンスターが盗賊をしても意味は無い。…食料…か?自分達を食料として貢いで家族の安全を保証してもらうとか?


「ふむ。あり得るのぅ。…何にせよ、単なる悪人でもないようだ。先に問い質してみても良かろう」

「…だな」


 男の元へ戻った。 …男は何かを察したように怯え、大淵と極力目を合わせようとしない。


「…自己紹介がまだだったな。俺は大淵大輔。この小隊の指揮官だ」

 大淵の態度とマオと何事か話していた様子から、他のメンバーもこの男が単なる哀れな村人ではないと理解したようだった。

「…ルベドだ。…木こりをしている」

「そうか、ルベド。…実は俺は相手の心がある程度見えるスキルを持っているんだ」


 ルベドは表情を変えないまま、ミネラルウォーターのペットボトルをギリギリと握り締めた。


「…どうして嘘を吐いたのか教えて欲しい」


「…何でそんな出鱈目を…」


「お芝居はいいんだ、ルベド。…俺達をどうするつもりだったんだ? 奥さんと子供に何があった?」

「…」


 胸倉を掴んで軽く脅してやろうか…そう思ってルベドに一歩近づいた所、雪上車が急に停車した。


「…いつの間に」

 斎城の絞り出すような声が聞こえた。

 

 車体を取り囲むようにモンスターの群が樹林や雪原の雪を割って現れた。

 ほとんどが新種…獣型が圧倒的に多いが、ゴブリンとキングゴブリンの間の子のようなモノまでいる。


「すまない…大人しく捕まってくれ。さもないと殺されるぞ」


「…嫌なこったね」

 自分一人だったら取り合えず捕まってやっても良いが、仲間達の身を差し出すつもりは更々無い。

 …しかしとんでもない数だ…今尚も雪原を割り、モンスターが出現し続けている。


「とりあえずルベド、お前を外に放り出してやりたい所だが勘弁してやる。代わりに…」

 手錠をポーチから取り出してルベドを見ると、皆が周囲の警戒に気を配っている隙にマオの背後に回り、腕組みをして佇むマオの首筋に小さな…百円ショップで売っているオモチャのようなナイフを突きつけていた。


「き、貴様ぁ!どういうつもりだッ!?」

 リザベルが剣をルベドに突き付けたが、ルベドは死んだような目でその剣を見返すだけだった。


 勿論、ちょっとやそっとステータスが高かったところで、あんなナイフではマオに傷一つ付ける事は不可能だ。

「…中々卑劣で大したものだが、無駄だぜ。その子は魔王だ」


「…知っているさ」


 ルベドは苦々しげに答えた。

「…ミスリルを知っているかい?」


…ブラフには思えなかった。


「テメェ…」


 魔王も首に突き付けられた物の正体を見抜き、額から冷や汗を一筋垂らした。


「…収納の魔法石も捨ててくれ。全員に武器を捨てさせ、僕の指示に従ってくれ。殺しはしない…筈だ。…従わないなら魔王を殺す。…それで僕が君に殺されても、家族は逃がされ人類の英雄の家族として手厚く保護される」


「…殺さないさ。だが、家族に再会したら誇ると言い。…パパは関係のない人達をモンスターに売って、君達を助けたんだ、ってな」

 大淵は武器と魔法石を床に捨てた。

 …他の全員も黙って大淵に倣った。

 

 直後、外の魔物が車内に雪崩れ込み、全員を車外に引きずり出した。

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