異形受胎
「この…デカブツめ…!」
自分より10センチ近く大柄な巨体を背負いながら歩き、大淵は悪態を吐いた。
今度こそこれで他に迷い込んだ人間は居ない…と信じたい。
このダンジョンを生物に例えた手前、これ以上奥へ進みたくは無かった。…途轍もなく嫌な予感が、確信に変わりつつあった。
奥へ行けよ
レイスが強い口調で自分を誘った。
(誰が行くか!)
大賢者カーバとやらが今までの遺跡を開放していたのは、後世の人間への試練、或いは遺産と言う意味合いもあったのだろう。…だが、この遺跡は封印され、土中深くに忘れられていた。…現代の放射性廃棄物といい、人間はどうしても手に負えない危険物は土中深くに埋め立てて忘れようとする性質が、この異世界においても共通しているのかもしれない。
…この脳筋サイコパスが行きたがっている辺り、そこにある物が決して価値のあるモノ…ましてや巨万の富や人類の役に立つもので無い事は明白だ。
…こんな肥溜めの最奥部に控えているのは、強力なボスとか魔物とか、そういう次元のものでもない。
…何度も俺を拒絶できると思うなよ?
安っぽい脅し文句を垂れるレイスを無視し、忌々しい背中の男を内心で罵りながら皆の待つ通路へと向かった。
「…遅いですね、大輔くん」
あれだけ男の声がハッキリ聞こえたのだから、すぐに二人で戻ってくるかと思えば、まだ戻ってくる気配が無い。
「…こちら斎城。大輔君、なにかあったの?」
…無線は応答しない。…こんなすぐそばにいながら電波が悪いというのか?
ボゴボゴ、とくぐもった硬質音が聞こえて、咄嗟に音のなる方向を振り返った。土壁が左右から盛り出て、元来た道を塞いだ。
「…え?え? …もしかして今のって、出口がある方角ですか?」
岸川が青褪めながら誰にともなく声を上げた。
「…うん」
直後、周囲の土壁を覆っていたツタ…蠢く血管のような物が急に膨らんだ。
プシューッ、と赤錆色のガスが噴霧されたかと思うと、生臭い匂いが空間に充満し、斎城達は噎せながら顔を顰めた。
「くっさ!ゲロみたいな臭い!臭い付いちゃうって!」
岸川が半狂乱になりながら…高そうなオーダーメイドの戦闘服や髪に匂いが移る事を気にしながら喚いた。
「ッ…」
斎城は何気なくアリッサのステータスを見て一層顔を顰めた。 HPやSPはそのままだが、ステータスが軒並み下がっていた。…アリッサだけでなく自分含め、この場にいる全員が。当然、このガスの影響だろう。
「アリッサ、手を貸して!」
「OKデス!」
それぞれ剣を持ち、塞がれた土壁目掛けて振りかぶった。…目視で見た限り、盛り上がった土壁の厚さは高々50センチも無かった。…多少固くとも、何度か斬りつけていれば突破できる筈だ。
二騎の竜騎兵が一撃、二撃と壁を斬りつけた。三撃目で全体に大きな亀裂が入り、壁が崩れかけたが、ゆっくりと壁が再修復を始めた。
「斎城、一緒に蹴り崩しマショウ!」
「分かった! …いっせーのー…」
「「でッ!」」
軒並みステータスが半減し、弱体化しているとはいえ竜騎兵二人の同時回し蹴りは壮観な破壊力だった。
…壁も崩れ落ちたが、それは表面だった。
「…え?」
崩れ落ちた壁の中には更に違う材質の壁があり…その壁一面に目を閉じたデスマスクが無数に並んでいた。
グロテスクな壁に張り付けられたそれがそれぞれ喜怒哀楽の表情と共に一斉に目と口を開け、斎城とアリッサに紅色のガスを吐き付けた。
「ンぐッ!?」
「shit…ッ!」
二人はその場にへたり込んでしまった。二人にガスを吸わせると、再びデスマスクは目と口を閉じ、その上に崩された土がゆっくりと吸い寄せられ、再び元の壁が出来上がった。
「日菜子ッ、アリッサッ!?」
大淵が男を背負って駆けつけた。男を壁に降ろすとマオとメノムを振り返った。
「マオ、メノム、コイツを叩き起こしてくれ!」
「は、はいッ!」
メノムが肩をゆすって声を掛けるが、マオは腕組みしたまま男の元へと歩み寄ると、その顔に向けておもむろに容赦ない往復ビンタを食らわせた。
軽快な炸裂音が響き渡る。
「だ、ダメです…ヒールしてもステータスが戻りません!」
二人はダメージこそ微弱だが、麻痺状態だった。ステータスも軒並み100…素人ギルド戦士にも敵わない程まで弱体化していた。…辛うじて寝込んでいない程度に過ぎない。
「なんてこった…そうだ、収納で外まで運ぶから安心しろ」
収納の中なら時が止まる。状態も良くはならないが、悪くもならない。…考えてみればあの男こそ収納で運んで来れば楽だったのだが、マオとメノムのお陰で目を覚ましたようだ。…ならば助けた分、働いて返してもらおう。
さもなくば、全員でここから生還できるかも分からない。
収納に二人を収め、大淵は全員を振り返った。…自分以外にステータス的に順位を付けるなら、例の男、岸川、香山、メノム、そしてマオと言った順だ。…マオに関しては魔王化する事でステータスが最強クラスに一変するし、香山もステータスこそ劣っているが戦闘能力自体は例の二人と比べ物にならない程信用できる。…メノムも今度は大丈夫だろう。
岸川と例の男も、決して無視できないステータスではある。…最大限利用させてもらおう。
「…香山、メノム、マオ。俺達は今、最強のツートップを失った。大淵小隊始まって以来最大の危機だ。気を引き締めて掛かってくれ。…取り合えずマオ、一旦収納に入って例の毛皮に着替えてくれ。…また貸し一つだ」
…最近の俺は女の子達に借金まみれだな…この分だと今に冗談抜きで借用書が必要になってくるぞ…
「よかろう。…私を置き去りにせんで良かったな?」
そう囁かれながら大淵はマオを収納した。
「…メノム。こうなった以上、大人しくしていろとは言えなくなった。…力を貸してくれ」
「……はいッ!ダイス先生!」
「あの二人と共に後衛を任せる。…危険だが頼むぞ」
「はい!」
「香山は中央。バリア含めて、全体のサポートを頼む。ただしヒール用のSP残量管理に最大限留意してくれ」
「任せて下さい!」
「…さて、お二人さん、改めてよろしく。俺は大淵大輔だ。…ここを出るにはそちらにも協力頂かないといかん。…あの赤髪の可愛い娘がいるだろう?しっかりフォローし合ってくれ」
「…わかったよ」
岸川は観念したように素直に頷いた。
「…どーでもいいけど、何であんたの指示に従わなきゃなんねーの?」
男は腕を組み、反抗的に大淵を見つめた。
…女性たちの前で指図されて気持ちの良い男はいないか。
「…すまんが、重ねて協力をお願いする。君、名前は?」
「千川。…俺の攻撃があの泥野郎に効かなくて、死にかけて、もう一回戦えって?…嫌だね。…さっきの女の子みたいに俺もワープ?みたいなのしてくれよ、体中が痛むんだ」
…態度からしてキツそうには見えない。
「…そうか。なぁ、千川君?」
千川の首を締め上げる。
…散々難儀して連れてきた巨体が軽々と持ち上がった。
「な…がぁッ!?」
「…丁寧に三つ指ついてお願いして欲しいのか知らんが、敵の注意を引くだけでもいい。肉壁でもいいからフォローしてくれ。…死ねとは言わん。後の二人と俺達もフォローするから…な?…それとも一人で別に行きたいか?」
「わ、わかっ…た…から…!」
大淵は千川を解放した。…途端に顔面を一発殴られたが、衝撃があっただけだ。…5ほど減ったHPはすぐさま回復し、全快となった。
「気は済んだな?それでは後は頼む。…マオ、良いか」
(うむ。…やり返さぬ所に決定的な器の差が表れとるな)
「まぁな…行くぞ」
大淵とマオを先頭に、最深部へと引き返した。
「おい、魔族の女も仲間にいるんだろーが!?なら、あの壁を今度こそぶっ壊しちまえばいいんじゃないのか!?」
「それが出来れば苦労しねーよ。竜騎兵が二人がかりでやってダメだったんだ。…ズルはすんなって事だな」
「そのステータスは見掛け倒しかよ!?」
大淵のステータスはHPが4000+アーマー耐久3000と、力と耐久が既に1000を超えていた。…恐らく、それでもレイスのステータスには遠く及ばないが。
「ステータスどころか外見まで見掛け倒しの奴が良く言う。…いいから行くぞ。このダンジョンはもう、俺達をとことん付き合わせる気だ。…骨になる前にクリアしねーと、永遠に出られないぞ」
「…あの、千川君、ここはこの人たちの言う通りにしようよ?もうこんな臭くてジメジメした所にいたくないよ。…それに、大淵さんが千川君を背負ってきてくれたんだ」
「日和ってんじゃねーよ!…思い出した、第一テメーが俺を見殺しにしようとしたんだろーが!?何がレイくんチャンネルだこの野郎!」
「あの時は仕方なかったんだ、許してって!」
岸川に掴みかかる千川の間にメノムが割って入った。
「いい加減にしなさいッ!」
「うッせぇー!」
「…いい加減にしろ、置いて行くぞ」
心底ウンザリして溜息を吐いた。…一種の躁状態か?…弱いくせにあまりに凶暴過ぎる。
…狂犬チワワ…そんなイメージが浮かんだ。
「難儀だな、お前も」
隣を歩くマオが愉快げに笑った。…千川の事は寸劇のピエロ程度にしか思っていないらしい。
「…泥人形に火は効くだろうか?」
「あの鉄砲を使うつもりか?止めておけ、効かんぞ。ややこしいのだが、私の最上級…グレンファイアなら有効だが、それ以下はMPの無駄使いだ。お前のアレは、贔屓目に見てもせいぜい中級だな」
マオの立派に伸びた尻尾の先端がぺしぺしと大淵の頬を叩いた。…触り心地はすべすべしていて良い。
「…流石に俺も属性攻撃はできんからな…」
「ならば私に頼るが良い。 …もっとも、注意せねばならんのは泥人形だけとは限らんが」
べちゃ、べちゃ、と粘っこい水音。
そこかしこの横穴からマッドマンが現れ、一行を取り囲んだ。
「泥田坊のお出ましだ。…やるぞ。いいか、氷系攻撃ができない奴は胃の辺りに核がある。ソイツを破壊するんだ!」
騎兵刀を抜き払い、手近な一体を切り捨てた。…手応えあり。返す刀でもう一体撃破。
(弱点…コアさえ正確に捉えられれば対処は容易だな)
…まともな常人からすれば容易では無い事を大淵は失念していた。
それでもメノムは四撃目にコアを捉え、マッドマンを一体倒した。香山も槍で突き、切り払い、コアを探し当てた。 岸川も一体のマッドマンを凍り付かせて砕き散らした。
…千川は…サボタージュを決め込んだようだ。 …なら、居ないものと思って対処しよう。
「それが利口じゃな」
マオが手をかざし、初等魔術か、マッドマンが次々と凍り付いて砕け散っていく。魔力消費は岸川の20消費に比べて僅か10。効率的かつ強力だ。
マッドマンが全て倒れると通路が変形した。壁がスライドし、からくり細工のように一直線の通路が円形のホールになり、複数の出入り口が出来上がった。 …ざわざわと大勢の足音が近づいてくる。
「おかわりならもう…」
キメラと言うのか、人間と動物、モンスターをごちゃ混ぜにして煮詰めたような、体長二メートル近い異形の怪物が現れた。
「キメラだな。…あらゆる死体を組み合わせて究極の魔造兵を作ろうとしたものだろう。…二流以下のネクロマンサーや呪術師が実験して作った失敗作よ」
「…名前からすると俺や勇者を襲って来た奴らと同じようなもんか」
「アレはカロンが作ったものだ。…カロンの腕は超一流だ、お前にとって厄介な系統の魔造兵はここにはおらんだろう」
言いながら、マオは巨大化させた手の平と爪で手近なキメラをまとめて引き裂いた。
…魔王化すると全てのステータスが著しく上昇するらしい。主だったステータスは見えないが、周りのメンバーの攻撃や自分の攻撃から逆算すると、1500は優に超えている。…これでまだ成長中か。レイスが反応する訳だ。
大淵も既に数体のキメラを斬り捨てつつ、後方の味方を見やった。…メノムはよく頑張っている。香山も隊全体に気を配っているし、今の所バリアを使う程押し込まれる事は無い。
…口…出入り口からの脱出がダメなら、気分は最悪だがこの生物的ダンジョンのケツから抜け出すしかない。…奥から漂う気色の悪い気配の根源…それがゴールだろう。
「このまま突き進むぞ」
飛び掛かってきたキメラにアッパーを食らわせ、宙に浮いた体を一刀両断。…視界の端で岸川の背に爪を振りかぶるキメラ。バスターナイフを投擲し、その後頭部に深々とナイフが突き刺さる。気付いた岸川がギョッとして倒れ込むキメラを見送った。
「すまんが拾ってくれ」
岸川が反応する間もなく、メノムが素早くナイフを拾った。
「先生!」
すくい投げで放られたナイフをキャッチした。
「サンキュ」
更に進むと…細長い通路へと誘われた。
「…嫌だねぇ、しかし他に道はナシか」
「だからあの時あの壁を壊していれば!」
千川の遠吠えを無視し、大淵は壁を見た。…明らかに土質…壁の様相がより、生物的なものに変わっている。…死亡する前、転移した癌を見せられた時の内視鏡の光景…あれによく似ている。
「…出口は近いが、絶対にロクでも無いものもある筈だ。油断するな」
…通路は大の男が一人通れる程度。…この中では千川が一番窮屈な思いをするだろう。藤崎などが居たら、この肉壁に全身を摺りつけながら進むような形になるだろう。 …丁度、胎児が生まれてくるように。
(…こんな所でトラップなんて来たら、本当にどうにもならないな…)
例えばガスを流し込まれるだけ、或いはこの肉壁が全身を押しつぶしてしまえば終わりだ。
…閉所恐怖症でもない自分ですら、どうにもならない息苦しさに胃が締め付けられるような思いだった。…後ろを振り返る事すらままならないが、唯一平然としているのはマオくらいなものだろう。
…しかし拍子抜けした事に、何のトラップも敵も現れることなく、ただ狭い肉壁のトンネルを潜り抜けてきただけで広いホールに出た。…相変わらず肉壁に包まれた部屋だが、特に敵の気配もない。…地底湖のようにホール中心部に血の池があり、その向こう岸に一つだけ、出口だと言わんばかりに暗いトンネルがあった。
「…あれが出口だろう。先に俺が行って確かめて来るから、皆ここで待っていてくれ」
「うむ、行って来い」
「大輔くん、気を付けて…」」
「ああ。血の池風呂の温度を確かめて来るから、押すなよ?」
…つまらない冗談でも言っていなければやっていられなかった。血の池はこちら側と向こう側を完全に隔てており、どうしても中を通らなければならなかった。まずは浅そうな端から足を踏み入れると、意に反して想像以上に深かった。とても足が付く気配も底も見えず、堪らずに一見深そうに見える中心に足を踏みいれると、こちらは足が付く。
…このダンジョンは用意した道以外を進む者が嫌いらしい。
(…あぁ、クソ、最悪の気分だ…)
足は辛うじて付くものの、中央部も深い所はある。身長173の大淵でも辛うじて首から上が出せる程度で、戦闘服内にも生暖かい血が入り込み、爪先で立たねば口にまで血が入りそうになる。…こんなものを飲んだら、感染症云々どころの話では…
(…ン?)
足先が何かに当たった。…剣?
引き抜いて見ると、一振りの長剣だった。…こんな場所に一本だけ突き刺さっている事も不可解だが、その剣身は錆び一つ浮かばず、どころか今生まれ立ての赤ん坊のように美しい仕上がりの剣だった。
天祐だ
「は?何を言って…ッ!?」
一瞬の隙を突かれ、体のコントロールを奪われた。大淵の体が深紅の血の中に沈みこみ、大きく開けた口は呼吸するように血の池を体に取り込んだ。…コントロール自体はすぐに取り戻せたが、大量の血を飲まされてしまった。
「ゲホッ、…うげっ、何しやがる!?」
返事は無かった。…代わりに悍ましい気配が…実体を持った気配が血の池の中から感じられた。
湯船の線を引き抜いたように血の池の水位が引いていく。
…見ると、両脇…水深の深みには人、魔物、モンスターを問わず、無数の死体が折り重なるように沈んでいた。
「…御苦労…」
水浸しならぬ血浸しの襤褸切れを纏った男があの剣を持ち、底から立ち上がった。
「こうして会うのは初めてだな。…ここで血を分けて生まれたのだから……兄弟…になるのか、俺達は?」
…血を滴らせながらしなやかな筋肉質の体に張り付く、女と見紛う金の長髪。
…いけ好かないほど整った美形顔はしかし、見る女達ですら恐れて近づかないであろう、残忍で冷たい笑みを浮かべていた。
「…レイスか。…だったら今度から俺をお母さんと呼んで崇め敬ってもいいんだぜ?」
引きつる笑みで何とか軽口を返した。
…クソッ、だからヤバいと思ったんだ…
「ははは。いや、遠慮するよ。流石に俺とて血も涙もあるだろう。母を傷つけ殺す事などできんからな」
「俺なら傷つけ殺せるってのか?」
「そのために生まれてきたんだからなぁ。…だが待て、折角の生誕祭だ。一杯やろうじゃないか」
そう言って芝居がかった仕草で辺りを見回した。
「…こいつを御所望かい?」
ポーチから気付け用にと持ち歩いていたバーボンの小瓶を取り出した。
「あぁ、気が利くな。…だがもっと、美味そうなのがあるじゃないか…?」
…そう言うと対岸に立ち尽くすマオを振り返った。
「…てめぇ、ふざけるなよ…」
レイスはこちらをゆっくりと横顔で振り返って口元を歪めた。
その体が消える。 …速いッ!
「マオ、逃げろッ…!」
マオの目の前に辿り着いたレイスが高々と剣を振り上げていた。
大淵は足を滑らせかけながら必死で浅瀬を渡ろうとする。
…レイスに比べて遥かに遅く辿り着くと、レイスは剣を叩きつけたままだった。
「…お前が邪魔をしてくれるとはな」
香山がマオの前にバリアを張り、レイスの一撃を食い止めていた。…しかしバリアにも致命的な亀裂が入っている。…香山はペナルティを押してSPを流し込み、辛うじてレイスの強力すぎる一撃を止めていた。
「…そんなにやりたいなら俺が相手になるぞ、レイス?」
騎兵刀を抜き払った大淵がレイスの背後に立っていた。
「…お前に俺の相手が出来るのか?」
「自分で試してみりゃいいだろう? …マオ、桜、皆と一緒に先に行け。…恐らくこの先にトラップはもう無い筈だ。ダンジョンの外に出られるだろう」
「…さっさと終わらせて、早く来るのだぞ、ダイス」
「大輔くん…がんばって!」
「せ、先生、その人は一体…?」
「…後で話す。行け」
メノムに穏やかな顔を見せ、脱出を促した。
「…大したものだ、生きて帰れる算段でもあるのか?」
「勿論。俺はお前と違って、可愛い子たちと人生エンジョイしたい派なんでね。…激闘の末にヒロイックな戦死なんて更々御免だね」
「それは面白い。…始めようか」
「どっからでもかかってきやがれ、このすっとこどッ…」
瞬間的に防御の構えを取ると、騎兵刀越しに巨人に叩きつけられたような圧力。大淵の体重では到底耐えきれず、まるで強風に飛ばされたように宙に浮かされた。
レイスは涼し気な笑みを浮かべたまま、その場を動いていない。…ただ、剣を払い上げた姿勢のまま、宙で間抜けに浮かぶ自分を眺めている。
…見えない斬撃ってやつか…!?
「…驚いたか? 極められた殺戮技術は、お前の糞みたいな常識を遥かに凌駕するぜ」
「…そうかよ、生憎とそういう中二病は義務教育の内に済ませたんでねッ!」
辛うじて着地したが、頬に微かな痛みがあって、そこから鮮血が見た目だけ派手に流れ出して来た。
クソッ、とんでもねぇ芸当をしてくれやがる…!
「…いい加減、良い子ぶるのはもう止めたらどうだ? …お前の正体は分かってるんだぜ?」
「…イマジナリーフレンドと話しているのか知らんが、皆目見当つかんな」
レイスの姿が幻のようにかき消えた。
「チッ…!」
気配を頼りに相手の姿を探すが、全く捉えられない。
大淵の反射速度を嘲笑うように鋭い痛み。 独尊の頑強な装甲を易々と切り裂き、自身の体から鮮血が走るのを、大淵はむざむざと見ている事しかできなかった。




