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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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ダンジョン フローズィア Boss


 幸いにも、階段を上り切った先にはモンスターの残骸があり、それを辿ると斎城らと合流した。


 …流石に手が足りなかったか、マオも魔力を消費して成体化しており、服を失ってリザベルの羽織っていた毛皮を身に纏っている。

 …妹同然に可愛がっているマオを性的な目で見たくはないが…青白い異色の素肌に毛皮姿というのは、なんとも扇情的ではある。



「全員無事そうで何よりだ。…桜、メノムを見てやってくれ」


「切断ですか…全力は尽くしますけど…あまり期待しないでくださいね…水筒の水を下さい!それとポーションを!」


…あの糞銀ピカ野郎め…俺の可愛い後輩を…だが、俺が憎めば憎むほど奴が喜ぶというなら、敢えて冷然としてやるまでだ。


 

 メノムの処置を香山達に任せ、大淵は少し離れて休憩した。


『ダイス先生、実は私、先生と同じ汎用騎兵なんです!』

 …片腕が無くなれば、騎兵として活躍する事は限りなく不可能になる。


 「クソッ…」


 …死ななかっただけマシ、などとは思えなかった。無傷で帰って来て当然なのだ。…頼む、せめてくっ付いてくれ…


「…ふん、こんな所でまた塞ぎ込みおって。あんな小娘共にかまけて一喜一憂しおって。やはり最近お前は弛んどる」

 …マオめ、心配して見に来てくれたな。


「…マオか。わざわざ成体化して力を貸してくれるのはありがたいが、一々すっぽんぽんになられてたら敵わんな。…帰ったらお前にあう伸縮戦闘服も、星村に作ってもらおうぜ」

 

「なに、悪くないぞ。破れたらまたお前に新調してもらう楽しみができる。次はもっと禍々しくカリスマ性のあるデザインを所望する」

 マオが隣に座り込んだ。…はだけた毛皮から豊かな胸が覗き、慌てて目を逸らした。

「…はいはい、仰せのままに、大魔王様」


 …何を買っても文句など言わないのだ、マオは。俺が選んで買ったものならなんだかんだ言って喜んでくれる。


「…ン?」

「…どうした?」


 マオの視線の先を見ると…これ見よがしに仰々しい扉があった。


「…あれだな。中から強い魔物の気配を感じる。相当手強いぞ、恐らく」

「お前の夫は勝てそうか?」

「お前が一番わかっている筈だ」

 マオは自分をまっすぐ見て笑った。

 黒い目の中で赤い瞳が優しく燃えていた。


 …コイツほど俺をどこまでも信じてくれている奴も居ないだろうな、と思った。


「…一旦戻ろう。今回はお前にも助けてもらわにゃならんかもな」

「ふむ。私は高くつくぞ? そうだな…羽モーンとやらにハアイを所望する」

「ふん、ハワイはダメだが…旅行になら連れて行ってやろう」

「よかろう」


 メノムの元に戻ると…香山が額の汗を拭っていた。


「…なんとか成功です。大輔くんの処置が最善だったのもあります」


「よ…よかった…」

 大淵は腰が抜ける思いだった。

「勿論当分は絶対安静ですけどね」

「グラスランド団長…ダイス先生…申し訳ありません…」

「…まったくだ、この張り切り委員長め。戻ったら俺とクロエで徹底的に鍛え直してやるから、覚悟しておけ」

「は、はいっ!」


「…仲良し三人娘はここで待機。 …ボス部屋を見つけた。俺と日菜子、桜、アリッサ、マオ、リザベル…それからクロエ。…腹も減ってきたことだし、さっさと終わらせて、全員揃って尾倉達と合流しよう」





 装備を整え、凍てついた扉を開けると、氷に囲まれた舞踏会場のような広大なホールがあった。…ブーツの裏を対凍結仕様にしているおかげで滑る事は無いが、これまで以上の冷気を感じた。



 ホールの奥にはいくつかの氷像が並んでいた。…その氷像の一つを愛でている、体長3メートル程の中型モンスター…魔物が居た。


「…美しいとは思わんかね?ここに並ぶ氷像は全て、この過酷なダンジョンを見事踏破した上で私に挑み…敗北し…それでも尚、心だけは私に屈しなかった高貴な精神と魂の持ち主たちだ」


 …氷像の中身は人間だった。七体の男女の戦士が、穏やかな死に顔のまま…時と共に永遠に凍て付いていた。


「…君たち人はどれだけ強くとも、美しくとも、善であろうと悪であろうと、等しく老い、いずれは熟れ尽くして腐り落ちた果実のように人生を終える。…それもまた自然の理に生きるが故の美だ。…だが、人生の最期に私に挑み、勇者と呼ぶに相応しい健闘と高貴なる不屈の心を見せてくれたのなら…私はその者達に永遠を与えよう」


 あまりに美しい女騎士の氷像から離れたのは…猪型のモンスターだった。…リーデ近郊の森で見たオークもそうだが、世間一般の想像するオークと言うイメージに反し、恐ろしくマッシブかつスタイリッシュな魔物だった。程よくしゃくれた鼻と、弛みの無いシャープな線を描く顔は闘牛のそれに近い。これも逆三角形的な体躯には洒落たミッドナイトブルーのジャケットドレスを着込んでいるが、盛り上がった大胸筋と腹筋は全く隠し切れていなかった。…それでいて今にもワインでも取り出しそうな洗練された紳士の物腰だった。…おそらく…いや、物腰でいえば間違いなく自分より優雅な紳士だろう。


 そんな身なりにも拘わらず笑えないのは、その全身からこれまで見たどのモンスターや敵よりも荒々しい、それがやはり猪だと思い直せるほどの闘気を纏っている事だ。…自分達のような、決して並々ならぬ猛者が大挙してきたことが嬉しくて仕方ない、という歓喜さえ感じた。


「…素晴らしい。中には到底、人の身では生き残り得ないトラップもあったはずだ。…それでも諸君らはここにこうして立っている。…七人。奇しくもここにある私の魂のコレクションと同数では無いか。これも何かの縁…いや運命だ。こうなった以上、君達には必ず私のコレクションに加わってもらおう。…大賢者カーバに不覚をとってこんなダンジョンに封じられてはいたが、こんな出会いがあるなら却って良かった」


 背後の扉からパキパキ、と音が鳴った。…見ると、扉が凍てついていた。…全員で押したとしても開かないだろう。

「おい、この魔王を氷漬けにして、貴様の陳列品の一つにするだと?…身の程を知れ、アイスホッグよ」


「…その口ぶり、その名状し難い高貴なオーラ…貴女が北の大陸の魔王殿ですな? …素晴らしい。今日は本当に素晴らしい日だ。代わり映えしない止まった時のような氷の日常…モノトーンなこの御殿に、あなた方6人の勇士と魔王殿をお迎えできれば、また一段…いや何段とも違った彩りが訪れるでしょう」

 …ひとしきり、自分の妄想世界を満喫した後、オークもどきの屈強な紳士は何事も無かったようにこちらを向き直った。


「フローズィア・ボアホッグ。 …いざ尋常に…!!」


 大淵が真っ先に突進していた。 …こいつは危険だ。彼女らが戦う羽目になる前に、できれば短期決戦で終わらせたい。


「先手必勝…!」


 筋力アシスト…99%…騎兵刀・23式メイルアーマー…まとめて強化。


 ゼロバーストアタック!

 消費。残存SP… 380/650 


「何という闘気かッ…!?」

 フローズィアが何やらポーズを決めると…瞬時に周囲の湿度が完全に消えた気がした。突き刺すように冷気が強まる。


「チルディア!」 

 凄まじい氷雪吹雪が大淵を襲った。 …なんと、ゼロバーストアタックの威力さえ風に浮かされて威力が低下するような感覚に陥った。

 実際、フローズィアに辿り着いて剣を振り下ろした時…それは既に本来のバーストアタックの威力では無かった。…せいぜいがあの石像に放った居合だ。


「…力とは本来、熱量の塊。だがそれも、私の凍てつく吐息の前では力を吸い取られ、本来の力が辿り着くことは無い。…行くぞ!」


 鋭いアッパーカットからの回し蹴り…!

 どちらも騎兵刀で防ぐが、大淵は氷の柱に叩きつけられ、氷塊の中に埋もれた。


「大輔くん!」

「邪魔立ては無用にして頂けるかね?マドモアゼル」

 大淵の元に駆け付けようとした香山の前に巨躯が割り込み、深々と辞儀をした。


「君は後だ。だがそれでも邪魔立てするというなら…」


 一閃。斎城の神速の居合が放たれていた。

 …しかし刀身はフローズィアの左手でしっかりと止められていた。…微かに手の平に刃が食い込んで赤い血潮が氷の床を汚すが、それだけだった。


「…見事な太刀筋だ。…彼女は私の最高作品でね。私が知る限り人類最高の剣士だったが、その彼女でも私には傷一つ付けられなかったよ」

 フローズィアは例の美しい女騎士を目で示した。…その間にも、斎城の刀がフローズィアの指先から伝わる氷点下100の殺人的な冷気で刃先から手元へ向かって真っ白になっていく。


「くッ…!?」

 慌てて手を放すと、グローブ越しに凍傷になりかけていた。

「怖がらなくていい。一瞬だよ。…冷たい、と思ったらもう何も感じなくなる。保証するよ」 


「俺の女達に触るんじゃねーッ!」


 瓦礫から抜け出した大淵が散弾銃を構え、放った。

 

 12Gドラゴンブレスが強化され、それこそ巨大な炎竜の如くフローズィアに襲い掛かった。


「ぬぅッ!?」

 フローズィアは間一髪で躱していた。


 部屋の温度が少しだけ、氷点下に戻った気がした。


「奇怪にして厄介な得物を持つな。…だがその武器は無粋だぞ、青年」


「大淵大輔だ。武器に無粋も糞もあるか」


「ははは、確かに。失言だった。…だが、そんな危険なモノは…」


 消えた…


「没収だ、大淵」


 突き出される張り手を辛うじて躱すものの、散弾銃を引っ手繰られていた。


「しまった…!」

 最大の武器を奪われ、大淵は空間から弓を取り出した。


「…ふむ。私とのインファイトは確かにリスキーだが…果たしてそんな弓が効くかな?」

 そう言うフローズィアの手の中で散弾銃が真っ白な霜に覆われ…砕け散った。

「食らってみな…!」


 最大威力ではさすがに二次被害が危険だが…引き絞れば…


 一射。

 

 フローズィアはその矢を軽々と躱した。

 背後の壁が激しく倒壊したが、それを瞬時に氷が塞いでいく。

「…私の城が醜くなるので、できれば止めてもらえんかね?種明しをすると、私の目は直線的な点の動きに強いのだよ。レイピア・飛び道具泣かせでね」


「…そんなのありかよ」

 仕方なく空間に飛び道具を戻し、騎兵刀を抜いた。


 ドクン、と動悸のような苦しみがあった。


 代われ、俺にやらせろ

 

(引っ込んでやがれ!お前が出たらマオを襲うだろう!?)


 知ったことか


(失せろ!これはもう俺の体だ。俺にはこいつらも居る。…お前の力なんかもういらねー!)


 こいつ…!


「…大丈夫かね?酷く苦しそうだが?」

 フローズィアが肩を竦めた。


「…ご心配どーも。続けようぜ」


 …逆に、余計な事を考えずに済む。格闘戦に集中すれば良いというだけの話だ。


「スキアリ御免ッ!」


 アリッサのロングソードがフローズィアの背後から深々と突き刺された。

「ぐぉっ!ふ、不覚!」

 アリッサを捕らえようと振り回す手が宙を空振った。その背後からリザベルが更に一太刀浴びせる。

 クロエのブロードソードが追い討ちとばかり切りつけられる。

「ちぃっ!?」 

 


 その隙を逃さず、香山も薙刀で突いた。これは手で掴まれ、薙刀は砕け散った。


 だが、大淵の切り込みの助けになった。騎兵刀が深々とフローズィアの逞しい上半身を袈裟切りに傷付けていた。

「これでも両断出来ねーのかよ…!?」


「ぬぅっ!? お、おのれッ、やるな!…ラディ・クール!」


 強烈な寒波の猛吹雪に全員が押し戻された。


「さ、流石は私の至高のコレクションとなる勇士達だ…だが…これで全員、終わってもらおう」


 …大技が来る… 

 室内の温度が更に低下した。…温度計も砕け散るだろう。さっきのチルディア所ではない、強烈な技が…


 ゼロバーストアタックですら、届くことなく自分が…仲間共々氷漬けになって終わるだろう…しかし、それを超える大技を自分は持たなかった。


 …だから言ったのだ。…今からでも体を明け渡せ。そうすれば俺がやってやる。お前では勝てん。…それとも女共々奴のコレクションに下るか?


「…」


「ダイス!」

 マオが腕組みして不敵に笑んでいた。

 

「さっきのをやれ」

「だが…」

「いいからやれ。妻の言う事が信じられんか?」


 …どうせ他に手は無い。大人しく氷漬けにされるよりは…

「…最悪、ポーズくらいは付けられるかッ…!」

 最期だ。もうアーマーがイカレても構わない。

 警告が振り切った。

 

(100と言わず、残り全部持っていけ!)


 ゼロバースト…クラッシュ!


「ライム・バーン!」


 一瞬で意識が遠のきかける寒気。…あれ程の熱量を持っていた切り込みが、一気に失速していく。

(と、届きすらしねぇ…!)

 モーターが焼き切れようとする異臭を感じた。


「グレンファイア!」

 火炎弾がフローズィアを直撃した。


「ぐぬぅ…!?」

 死の寒波が一瞬、晴れ間のように止んだ。


「でりゃあああッ!」


 渾身の一撃を叩き込んだ。


「ぐぁあああああッ!」


 巨躯から鮮血を噴き上がらせ、氷の嵐は過ぎ去った。



「…み、見事だ…大淵大輔…その仲間達よ…」


 瀕死のフローズィアの元へと歩み寄った。


「素晴らしい戦いだった…大したものは無いが、これを…私には必要無いモノだ」


 ソフトボール大の、クリスタル状の魔法石を受け取った。 


「氷漬けにした君達をじっくり眺められないのは残念だが、地獄から眺めるとしよう」


「…こんだけアイスマンにされかけて、こんなもん一つで満足できるかよ。…お前は強い。…死なせるには惜しいから、もうしばらく俺の為に生き長らえてもらおう。 …桜!」


「ふはは…奇特な奴だ。…まぁ、この借りは気が向いたら返そう」


 香山に治療をさせる間、大淵は中距離無線を取った。

「…こちら大淵。尾倉、そちらはどうだ?」

「…問題ない。そちらは?」


「例のダンジョンを攻略し、恐らく目的のブツを得た。…これからそちらに合流する」

「…了解。スープならすぐにでも用意できる」


「あっついのを頼む。…寒いのはもうたくさんだ」


 大淵は送受器を戻し、白い息を吐いた。 白い息の向こうにマオが立っていた。

「…おかげで助かったよ」

「ふん。出来る妻というものは、いつだって夫の背を押してやるものだ」

 そう嘯きながら屈託のない笑顔を見せた。

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