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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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73/173

ダンジョン フローズィア③


 第五階層に足を踏み入れた。…これまでに部屋という部屋を探索し、価値があるのかどうかも分からない土器のような物や骨董品、特に力を感じない錆びかけた剣などを収集していた。


「…今更だが、これってまんま盗掘だな…」

「ン~それを言い出すとほぼ全てのRPGの主人公たちが盗掘者デ、シカモ民家にまで押し入り強盗してマスからネェ」


 しかしどれがリノーシュの言っていたお宝か分からない以上、放置していく訳にもいかなかった。…もしかしたら先ほどのギルド…限界なんちゃら騎士団…だったか?が目当ての物を見つけて持ち去っていないとも限らないのだが。


「…メインのお宝はボスが守っていると相場が決まってマス」


「…だよなぁ」


 …リディーネ地方の遺跡で戦った黒竜は、あの時の自分では単独では勝てなかった。…今度は一体どんなのが出てくるのだろうか…

(…まぁ、これまでの流れからして氷雪系を使ってくるであろうことはほぼほぼ間違いないが…)


 ゴン、と重たい足音がして、一行は身を固まらせた。

 それまで壁の一部となっていた石像が、大淵達の前に立ちはだかるように動き出した。

 大淵も一行を守るように立ち塞がった。


「…あれ、ペンギンですかね?」

 香山が呑気に呟いた。

「まぁ、ペンギンの石像にも見えるが…あまり可愛いモノじゃなさそうだな。まさかこれから一緒にミュージカルを始める訳じゃないだろうが…」


 楕円形のボディに短い手足の、二メートルほどの石像。確かにペンギンと言われればそう見えるが、その石像はペンギンにしては重厚な足取りでこちらに向かってくる。

「…」

 騎兵刀で居合の構えをとった。隣に斎城が進み出て、同じく居合の構え。


 やはり敵だった。斎城と共に攻撃をやり過ごし、すかさず同時に居合で切り払った。

 居合術に関しては斎城の方が一段熟練で、同じ居合でも大淵と共に敵を前後から囲む陣形に持ち込むほどの間合いを稼いでいる。


「硬い…!」


 …刃毀れこそ皆無だが、騎兵刀が途中まで切り付けて弾かれていた。

(居合で斬り捨てられないとは…!)


 ふざけたペンギン像だ。しかも、タックルの次は口を開き、今度はブリザードを吹きかけてきた。


「ぐぉっ…!?」


 視界が一瞬でホワイトアウト。

(クソッ、やられた…!)

 

 薄目を開けて耐えていると、そのホワイトアウトの中から巨大な頭突きが飛んできた。

「がッ…!」

 

 強かに打たれ、十メートルも吹き飛ばされてしまった。…幸か不幸か、後方にいた三人娘がクッションになり、追加のダメージを和らげてくれた。

「ぐっ!す…すま…ん?」


「い…いやぁー!」


 …パルムの平手打ちが炸裂し、結局追加ダメージが加算された。…いずれにせよ、100にも満たないダメージのうち数パーセントではあったが…精神的なダメージの方がクリティカルヒットだった。

「ぱ、パルム、ダイス先生に何するの!?」

「はぅっ、す、すみません!」

「い、いいんだ……すまん…」


 騎兵刀を杖に立ち上がると、アリッサとリザベルが前線に加わっていた。



「ど、どうやって破壊すればいいんデスか、これは~!?」

 

 流石のアリッサとリザベルでもこのどんな鋼鉄よりも硬いであろう石像を破壊しきれず、防御一辺倒だった。

 …斎城もタックルやブリザードを避けて斬り続けているが、ペンギン像の直径たかだか80センチの胴体の三分の一までしか切れない。

 

 …あり得ない。

 

 斎城や俺、アリッサやリザベルなら、このくらいの石柱…いや、どんな鋼鉄だろうともっと破壊できる筈なのに。

 …とすると、見た目以上の防御力を誇っているという事か。


 ステータス…HP‐ 


 やはりモンスターのステータスはHPとMPくらいしか表示されないが、HPすら測定不能とは…そもそも倒せる存在なのか、コイツらは…?



「クソ…コイツらがボスなのか…?」

 アーマー…筋力アシスト…90% モーター警告表示が発される。

「皆、下がっていろ!」


 脇に構えた騎兵刀が深紅に染まった。


「…ついでのダメ押しだ!」

 

 パンプアップしたアーマーにも毒々しいまでの鮮やかな血管ならぬ、深紅のラインが浮かび上がった。


「必殺…ゼロバーストアタック…ってなッ!」

 

 体を沈め…踏み込む。

 スタートダッシュに床が陥没し、後方から見守っていたクロエとメノム・ラナ・パルムの三人娘にはソニックブームが見えた。

 …最も動体視力に優れたパルムには、瞬間的な大淵の残像すら見えた。


 耳障りな金属と硬質物との不協和音。


 勢い余って跳び過ぎた大淵は、斎城にキャッチされながら倒れ込んでいた。


「す、すま…」

「私は叩かないって」

 斎城に苦笑されながら引き起こす。

 

 …手応えはあった。今更振り返ると、石像が二つともしっかりと両断されていた。…それでも切断面には騎兵刀に抗った抵抗の後が見られた。綺麗な切断面ではなく、ギザギザとした美しくない断面だ。


「…ガーディアンと言う奴であろう。命は無いが極めて高度な魔術師による…一種のぷろぐらみんぐ?だ。…勿論、こんな真似ができるのは例の大賢者カーバくらいだがな」


「…ここまでしてでもこの先に行かせたくなかったって事だな。…明らかにこいつらは攻撃より防御…番人として存在するガーディアンだった」


「じゃあ、この先に…」


「…こんなのが何体も居たら、また誰かにキャッチしてもらわにゃ俺のアーマーが壊れちまう」 


「ふむ。ならば次は私が受け止めようか?」

 …リザベルが生真面目に応じた。


「…まぁ、いたら、な。いてもらっちゃ困るんだが…」


 …実のところ、キャッチはともかく、アーマーの負荷の方が心配だった。23式メイルアーマーは材質こそ最高品質のチタン合金と魔法石による防御・可変化コーティングで作られているが、その分内部精密な構造になっている。 …純粋な防具としては実は、鎧そのものが壊れるまで防具・パワードアーマーとして機能する21式の方が優秀だったりする。23式はこの内部の筋力アシストシステム構造が破損すると、防具としてはともかく、肝心な筋力アシストシステムが全て機能不全に陥る。オーバーヒートも、そもそも出力が高い23式の持病であって21式にはオーバーヒートなど存在しない。


 以前、トロールに胸部装甲を剥ぎ取られた香山の21ですら、大幅に出力ダウンしつつも最後まで筋力アシスト機能自体は生きていたのだ。

 …高性能ゆえの脆弱さ・低性能ゆえの頑強さは、全てに通じる宿命であった。

 大淵の特殊強化でアーマーごと強化すれば負荷は抑えられるが…


(だからといって何度もあんなゼロバーストアタックなんてやってたら、SPが持たない…)


 ゼロバーストアタックは極めて強力かつ周囲への被害も皆無だが、燃費が非常に悪く、一度に100も消費する。…残りSPは500/650

 

 …だが、それでもあの断面だ。あのくらいしなければSPの小出しで却って消耗していただろう。


(こっからは節約しないとな…)


「ダイス殿!ここに何かあります!」


「ああ、今行く!」


 クロエの元へ行くと、通路の壁に何やら正方形の一センチほどの窪みがあった。


「…四角いプレートをはめるとか?」

「押したら何か起きますかね?」

 おっとり顔のラナが何の気なしに窪みに触れた。

「それだったら苦労しないんだが…」


 …ラナの呑気な顔につい油断していた。トラップの存在を思い出した時にはクロエを庇いつつ壁から離れていた。

 

 コンマ1秒後、クロエのいた場所からバンッ、と厚さ一メートル程の石壁が突き出てきた。その分厚い壁で斎城達と分断され、クロエと三人娘と共に元の通路に取り残された。

 向こうから微かに壁を叩く振動音が聞こえるが、声は全く聞こえない。


 誰にも当たらないよう、筋力アシスト70%で壁の隅に思いきり回し蹴りを食らわせるが、十センチもへこまない。…先ほどの石像と同じ材質でできているようだ。


「…斎城、そっちは大丈夫か?」

 …カシャ…

『うん、みんな無事!…けど、これは無理そうね…』

 カシャ…

「皆、壁から離れて、一番奥まで下がっていてくれ。もう一度ゼロバーストアタックで…」

 ガシャッ

「…何の音だ?」

「だ、ダイス殿…あれを…」


 …奥の通路から床がスライドし、黒々とした穴がこちらに向かってくる。…一直線の通路、逃げ場など無く穴はもう二十メートル手前まで来ていた。


「こ、こいつぁ間に合わん!」

 …仮に自分が踏み込みで間に合ったとしても、四人は間に合わない。…下手をすればあの床がへこむ踏み込みで、この床が抜けて全員仲良く落下かもしれない。それなら…


「一か八かだ…全員俺にしっかり掴まってろ…ああ、右腕には掴まるな」


 …自分達の足場が消えた。…自由落下の嫌な、はらわたを抉られるような感覚。


 四人の甲高い悲鳴に頭を鳴らされながら突起物を探すが…


(クソッ、全くない!)

 そう都合よく引っかかる頑丈な物がある訳も無い。

(なら…)


 特殊強化…


 赤黒く染まったワイヤーアンカーが射出され、石壁にガッチリと食らい付いた。

「と、止まった…?」 

 壁に引き寄せられるが、このワイヤーアクションも慣れた。軽くキックしてワイヤーをするすると伸ばして降下した。


「…なんて違法建築だ。5、60メートルは落下して、更に30メートルのワイヤーを伸ばしてるのにまだ足りないと来てやがる…いいか、もう一回落下するけど、また止まるから、同じように絶対手を離すなよ?」

「は、はいっ、ダイス先生!」

 パルムの涙声が帰ってきた。

 ワイヤーアンカーの爪を解除し、急いで収納する。

 再び少女達の悲鳴が尾を引いた。


 意識にリンクしているワイヤーアンカーが大淵のイメージに従い、掃除機の電源コードよろしく素早く引き込まれて収納され、二射目の準備が整った。


 …さらにおよそ50メートル落下。再び同じ動作を繰り返して降下していくと…

「…お」


 6メートルほど下に揺らめく物がみえた。…水面か?いずれにせよもう他に手はなく、他に下りられそうな場所も無い。…どんな結果になるか分からないが、ここが終着点だ。

「お降りの際はお忘れ物に…ってな。よし、ちょいと高いが、死ぬような高さじゃない。下は水か何かがあるが、慎重に降りるんだ」


「は、はいッ」

 自分の体をロープの端代わりにして、まずはクロエが飛び込んだ。


「あ、浅い!私の腰くらいまでしかないから、気を付けて降りてきなさい!」

 メノム、バルム、ラナの順に飛び降りた。最後に大淵がワイヤーを回収しながら飛び降りた。


「うへ、泥水か?」

 ようやく手が使えるようになり、肩の探照灯を照らした。…黒ずんだ水に少女達が腰まで浸かりながら周囲を見回すが…

 扉などはなく、黒ずんだ水の先に通路が続いていた。…無線機はこの距離と壁に阻まれてか、全く応答が無かった。

「…最後尾はクロエだな。気を付けろよ、クロエ」

「はいっ!」

「す、すみません…皆もごめんなさい…こんな事になるなんて…」


「まーまー、泣くなよラナ。こうして皆生きてることだし、結構楽しかっただろ?」


 バシャ…


 前方、後方を数体ずつの何かが水中から立ち上がった。

「…ウォーターゾンビ?」


 よく見ると性別不明の…恐らくほとんどがここに同じように転落して死亡した男だろうが、水死体になったゾンビが生前からの武器、或いはまだ覗いている歯をカチカチ噛み鳴らしながら四人を取り囲んだ。


「…この水の中で死ぬとゾンビになるのか。気の毒にな。葬ってやろう。」

 さすが、防具と体はボロボロになってもゾンビだけあってHPは10000。 …幾らエースとはいえ、少女達には厳しい相手か?


 大淵は手早く少女達のステータスを見た。


メノム 「汎用騎兵」(身体強化・中)

ラナ  「汎用剣士」(加速・高)

パルム 「高位騎士」(一定時間全ステータス80%アップ)


 …さすが、2500の騎士団の中で三人だけ同行を許された主席クラスの優等生だけあり、HPはラナの1600からパルムの強化時の2500まで。

 パルムの最大ステータスは…素も高位騎士補正で最も高い事もあり、スキル発動時には力・800 耐・900 スピード・1000と、目を見張らざるを得ない。


 自己紹介時にクロエが「将来の団長候補をメノムと切磋琢磨して争う、天才型です」と耳打ちした事を思い出す。

 身長は150ほどしかない小柄な少女だが…しかし今は、慣れない状況…それも悍ましい人型モンスターを前にしてロングサーベルの剣先を小刻みに揺らしている。

 そっと、剣の元刃の上を抑えた。


「…安心しろ、パルム。今のお前は、俺達の仲間にいる竜騎兵の二人と同等以上のステータスだ。決して負ける事など無い。 …教えた事を思い出せ。ここは鬼ごっこするには向いていないが、自信がないならまずは防御。後の先で良い」


 暗闇から現れたウォーターゾンビがラナの側面に向かって来た。

 その横顔を騎兵刀が貫いた。


「このように味方に向かう敵を見つけたらラッキーと思って横から、後ろからやってしまえ。非常に楽だ。味方への援護になると同時に簡単に戦果を挙げられる。一石二鳥だ」

「は、はいっ!…ダイス先生、さっきは叩いてすみませんでした…」

「…あー、アレは俺が悪い。だが、わざとじゃないからな?それだけは言っておく」


 それを合図にしたようにウォーターゾンビたちがたどたどしくよろめきながら向かって来た。一体を難なく斬り捨て、メノムがムッとしたように声を掛けてきた。


「…先生、私達にはなにも無いんですか?」


「ああ。お前らはもう見違えるほど強くなった。だからもう、なにもいう事は無い」

「そ、そう言わずに何か言って下さい!」

 ラナもメノムに同調して言った。

「…あー、こいつらの弱点はおそらく頭部だ。切り落とすか破壊しろ」

 

「ダイス先生、実は私、先生と同じ汎用騎兵なんです!」

「ああ、知っている。…なんだか直接の後輩、それも俺より出来の良い後輩ができたみたいで嬉しいよ」


 汎用騎兵は恐らく、自分の全てのスキルを活かせる天職だった。…他の自分の姿を想像できない。

 バイクの操縦や銃火器の操作もできる事、武器の縛りが殆どなく、軽でも重でもない…極めて平凡な戦闘職。

 汎用騎兵だからこそ…斎城と香山と共にツーリングを楽しむこともできたし、あの時、マオを助ける事も出来たし…ここまで来る事が出来た。

 そんな汎用騎兵の後輩ができたのだから、嬉しくない訳が無い。

 

「…おい、メノム、少し出過ぎだ。そう張り切りすぎるな。 …いいぞ、ラナ。無理に出なくていい。メノムは張り切り屋さんで、パルムはぼんやりしてることが多いから、お前が二人の中間をしっかり守れ。お前みたいに一見目立たない奴が一番重要で、チームの寿命を決めるんだ」

 

「はいっ!」

 ラナはバスタードソードで向かってくる敵だけを返り討ちにしている。


「…だ、ダイス殿、私は?」


 …お前は教える側だろーがっ、一緒になってどーする!?

 そう突っ込みたくなるが少女らの手前、クロエの面目の為にも黙っておいた。


「…よくぞここまで立派な騎士達を育て上げたな。流石だ」


 …極めてオブラートに包みつつ花を添えた嫌味のつもりだったが、本人は純粋な誉め言葉と受け取っているらしい。上機嫌な横顔を隠そうともしない。


 十数体のウォーターゾンビが全滅した。 大淵自体は向かってくるゾンビを適当にいなしていただけで、殆ど全ては少女達に倒させた。…死体も、最後の死天使がこんな美少女たちならせめてもの手向けになるだろう。


「全員、怪我は無いか?…では行こう」


 ほどなく、薄暗い明かりが見えた。


「…上に向かう階段だ。ようやくこれでこんな陰気な所から出られる」


 バシャッ


 水音がして、階段から差し込む光に人影が照らし出された。剣を煌かせ、苔と泥で汚れた甲冑を着込んでいる。 …勿論生きた人間ではない。


「またゾンビか…?」


「ダイス先生、見ていて下さい!」

 メノムが水を蹴って飛び出して行った。


「…メノム待…」


 鈍重なウォーターゾンビに剣を叩き込もうとして…

 

 ドッ、と何かが飛んだ。

 重たいそれは水の中にバシャと水音を立てて水中に落下した。


「…ッ、アッ……」

 

 メノムが汚水の中に膝をついた。

 

 剣ごと綺麗に無くなった右手首を左手で抑え…そんな事をしている場合では無いと顔を上げた。


 甲冑が剣を振り上げていた。

 …しかし横から大淵が渾身のハイキックを叩きこみ、甲冑は盛大に吹き飛んだ。


「…待っていろ…今、応急処置する」

 非常用包帯を貼り付け、肘に掛けて回し、固定した。

 

 背後で甲冑が起き上がる気配があったが、全く構わなかった。丁寧に処置を続け…


「気の利かねー奴だな。こういう時は気を利かせて待ってろよ」

 バスターナイフ…極めて大型なコンバットナイフをノールックで投擲した。


 偶然にも兜の覗き穴に、見事なほど綺麗に突き刺さった。確実に脳幹その他を破壊しただろう。…ちっとも嬉しくも無かったが。

 …やはりただのウォーターゾンビではないらしく、それでもまだ向かってくる。

 

 甲冑が歩いている場所を見て即座に駆け、再び加速を乗せた後ろ回し蹴りで遥か遠くに蹴り飛ばした。



 汚水の中からメノムの手を探し出し、剣を捨てさせた。メディカルポーチから取り出した応急処置時感染防止用のディスポ手袋を傷口側に異物が当たらないよう被らせた。


「…よし、今の内にクロエ、三人を先導して先に行け。俺は奴さんを処理してすぐ追いつく」


「す、すまないダイス殿…!」


「せ、先生…ごめんなさい…私…」

 泣き顔のメノムの頭を優しく撫でてやった。


「泣くな、張り切り委員長。…手も、運が良ければもしかしたらくっ付くかもしれん。桜を探せ」


 切り離された手をパルムに渡し、ラナに肩を貸されながらメノムは階段を上って行った。


  


 …さて。



 無造作に甲冑に近づくと、ちょうど起き上がった所だった。

「おはよう、おやすみ」

 そのまま汚水の中に蹴り倒し、兜を抉じ開けた。

 その頭部に当たる部分には顔が無かった。…代わりに、汚水の中で球状に絡み合う、無数の艶めかしいピンク色のナメクジのような物が汚水の中で蠢いていた。


 不意にその虫が一匹、弾丸のように大淵の口に入り込んだ。


「…」


 …敢えて飲み下したものが、堪らずに口へと逃げ戻ってきた。ふん、俺の胃酸は居心地が悪すぎたか?

 噛み潰したモノを汚水の中に吐き捨てた。…元より存在しなかったように全てのナメクジも、潰した個体も消えて無くなった。

 …どうせ本命は、これの首が斬り落とされれば虫を撒き散らし、彼女らをゾンビか食人鬼にでもさせるつもりだったのだろう。…実にわかりやすい。


「予算切れか?前回に比べると随分しょっぱい演出と脚本でがっかりだ」


 どこかで見ているであろう悪魔に感想を述べ、大淵は少女達の後を追った。

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