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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
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戦の気配

 それから大淵は充実した休日を過ごす事となった。

「…故にこの時、スカンクの如く逃げ出した当時の国民党軍がしぶとく抵抗し、結果的に補給と長引く長期戦に加え、地の利からして不利だった当時の軍は、戦闘能力でこそ国民党軍に圧倒的な差をつけて勝っていたが、結果的に敗北した。 押すばかりが戦いじゃない。しぶとく粘って敵を揺さぶり続ける事で、能力的に勝てない相手を倒す方法が見えて来る事もある」


 可憐な少女達に「嫌っらしい戦い方」を指南するのは予想外に楽しかった。…闘技場やTVゲームのソレとは比べ物にもならない。練兵場に500人ずつ、クロエがこれと見込んだ精鋭を連れてきて、大淵が例の講演…時には今のように大淵の世界における史実の戦史などを引き合いに出しつつ少女騎士達を徹底的に戦術思想・戦闘思想の面で鍛え上げた。


 …ハッキリ言ってこれは劇薬でもあった。

 そのあまりに180度転換される戦術ドクトリンは、適応できない者の脳をスパークさせるだろう。

 だが、訓練で見る限り、少女達の殆どはよく付いてきた。…十代の若さが為せる柔軟さかもしれない。これが三十を過ぎたオッサン騎士なら、自分もそうだが…「何を抜かすか」と一笑に付して聞き入れない傾向にある。それは四十、五十と歳を重ねるごとに決定的になる。

 つまらない見栄とプライド…そしてなにより、「自分はこれでうまくやってきた」という過去の栄光が呪縛となって、その人間を縛り付けるのだ。…これは殊に、虚栄心に縋りたがる男が陥る病だ。自身の経験からも断言できる。

 

 その病を持つ者は、常軌の分析を見ただけで拒否反応を見せる筈だ。


 …それで野郎が死ぬのは、同じ野郎としてはどうでも良いのだが、彼女らにはそんな無駄死にはしてほしくなかった。 …ただ、これが単なる「逃げれば良い」と勘違いすると、確かにそれは副作用となって自他に悪影響を及ぼす。そのバランス感覚が肝要なのだ。


「敵が味方に襲い掛かってから掛けつけるんじゃ遅い!ほら、味方がアリッサに尻を叩かれてるぞ!常に味方と敵の位置関係を意識して逃げ、戦え!」


 練兵場を駆け巡り、大淵はスポンジ剣を持つ百人の精鋭達に叱咤を送った。


 翌日からは斎城とアリッサも自主的に加わり、尾倉や藤崎、川村らも自ら加わった。黒島は野次を飛ばしながらもビデオカメラを回し、各分隊の動きを記録し、最後の講評までに各チームの問題点を洗い出していた。


 午後には別の部隊に…と入れ替えていく。


 体力…HPに比例して、スタミナも超人の域を突破している大淵からすれば、一日に二百人の少女達と鬼ごっこで相手にする事など、どうという事は無かった。


 相手は懸命でやり甲斐はあるし、こちらは童心に返れて楽しい。 …童心と言えば、これにはロキも堪らなかったらしく、二日目の午前は「臨時講師」として代わってやることにした。

 少女達も大淵の代わりにやってきた少年に困惑していたが、その他に比肩しようのない俊敏な機動力と攻守切り替えのメリハリという実力に圧倒され、講師として認めざるを得なかった。



 最終日の夕方まで()()()()()()で戯れるパープルハート騎士団のハイティーン中心の少女達と大淵を、マオとリザベル、噂を聞いて見物にやってきた他の騎士団の将兵も呆れながら見守っていた。


「…まったく、あんな小娘共にちやほやされたくらいで良い気になりおって!」

 

 空の砲弾箱の上で腕組みしながら、マオは不機嫌に唸った。

 隣ではリザベルが極力気配を殺して警護についている。




「後で小言の一つも言ってやる! リザベル、お前も言いたいことがあれば言うが良い」


「は、はっ…勿体ない御言葉です…」

 巻き込まないでくれとばかり、リザベルは恐縮して声を潜めた。


「何が勿体ないものか! 一昨日は勝手にどこかへ消えて聞えぬフリをするわ、昨日今日に至ってはこれだ!弛んでおる!我が寛容な妻だからと調子に乗りおって! 小言では足らんな、やはり少々折檻が必要だ!」


 大淵の暗雲立ち込めた未来に思いを馳せ、リザベルは黙祷を捧げた。


「よーし、良い感じだ。まさか一本取られるとは思わなかった。 スポーツドリンクがあるから、水分補給してから帰ると良い」


 斎城はここでも人気者で、十歳近く歳が離れた少女騎士達に取り囲まれて何やら質問攻めに遭っている。時折静まり返ったかと思うと、黄色い声が湧き上がっている。

 

 強面の尾倉や藤崎、川村達までなにやら囲まれているが…あれはどちらかと言うと硬派な舎弟…ならぬ妹分か…?


「ダイス先生、ありがとうございました!」


 振り返ると、可愛らしい十代半ばの少女達が綺麗に整列して騎士の敬礼をしていた。初日に教えた少女も見られた。…あの、やたらと反論してきた委員長肌の子もいる。


「先生なんて立派なモンじゃないが、皆よく頑張った。この通り、俺もたった二日目にに足に食らっている。…仲間同士で情報を共有したな?良い連携だ。その調子で、これからも勝ち残るための努力を惜しまんでくれ」


「はいっ!」


「…騎士であるからには、何れは実戦に出る事もあるだろう。…俺の話が嘘だったと思うほど酷い戦場もあるかもしれない。…だが、そんな時こそ今回教えた事、仲間達と見つけた事を忘れずに、なんとか生き残って戦い続けてくれ。…幸運を祈っている」


「…普通は武運って言うんじゃないですか?」

 またも委員長格の子が冷やかすように言ってきた。

「俺は欲張りだからな。武運は格好いいが、戦闘に関する運しか祈れない。それも含めた全ての運がありますように、ってな。 …それにしても楽しかった、また機会があったらやりたいもんだな」


 大淵も彼女らに合わせて騎士の敬礼を交わした。



 …俄かに城門付近が騒がしくなった。


「急げ!医務室へ!」


 ただならぬ気配を察し、大淵はこの二日間、怪我に備えて控えていてくれた香山を振り返った。

「桜、来てくれ!」

「はいっ!」


 香山を引き連れ、騒ぎの元へと駆け寄った。

 大淵の顔を見るなり、殺気立っていた兵達も慌てて道を譲ってくれた。


 瀕死の馬が倒れ込み、切なげな呼吸を漏らしていた。 城の貴重な術士が二人駆けつけて、一人と一頭に極めて微弱なヒールを掛けて延命措置を行っている。

「すまんが、君も馬の方に回ってやってくれ。彼女は強めのヒールが使える」


 …馬も気の毒だが、まずは人命優先だ。既に香山がヒールに取り掛かっている。


「…軍使か?」

「はい…奴ら、使者を…馬までこんなになるまで攻撃しやがった!」

 周りの騎士が義憤も露わに答えた。


 使者は右腕を切り落とされ、背にはハリネズミのように矢が刺さっていた。…ヒールが無ければ助かりようがない傷だった。…これでこの城までたどり着いたのは、彼個人の極めて強靭な精神力と生命力の為せた奇跡だ。

 男は軽騎兵だった。…全職種中、竜騎兵同様、乗り物である以上はあらゆる物を乗りこなし、そのスキル恩恵は騎兵中最大だ。…そのおかげで馬もアレだけの傷で城まで辿り着けたのだろう。本来なら矢を一本受けただけで倒れ込んでいる筈だ。

 香山がヒールを施しながら最後の矢を抜き終えた。

「…一命は取り留めました。深部の傷は治したので、あとは術士さんのヒールで治せます。 あの…」

「ああ、馬も助けてやってくれ」

「はい!」

 術士二人と交代し、香山は馬の救命処置を開始した。


 騒ぎを聞きつけたリノーシュが城内から駆け寄ってきた。


「何てことだ…!」


「香山が一命は取り留めた。…シバ家が?」


 リノーシュは大淵に向かって頷くと、兵の元へ屈み込み、その顔を胸に抱き込んだ。

「すまない…だが、よく使命を果たしてくれた…君の名は?」

「も、勿体ない事です、陛下…お召し物が血で汚れてしまいます…」

「何が汚れるものか。大英雄ジーグの血にも並ぶ聖痕となるさ。…名を教えてくれ」

「…レブ・アルトンであります…」

「…レブ、誰が君にこんな事をした?」

「…シバ家のハルトン殿に書状を渡した所…急に切り付けられて…必死に逃げました…」

「わかった。レブ…もう何も心配はいらない。ゆっくり休め…」

 

 リノーシュはレブをそっと放すと、兵に命じて医務室へ運ばせた。


「…奴らは一線を越えたな」

 大淵の声にリノーシュは大きく頷いた。

「…こちらから手を出すつもりは無いが、来たなら容赦はしない。全力で叩き潰してやる」

「乗り掛かった船というか、俺が持ってきちまったようなモンだ。…俺は全面的に助太刀するぞ」

「…ありがとう、大輔」


 二人の前で、馬が足をばたつかせながらよろめき立ち上がった。 兵達の間から安堵と歓声が上がった。


「香山、僕の兵を助けてくれてありがとう。…感謝を」

 リノーシュは香山の手を両手で握って頭を垂れた。

「い、いえ、当然の事をしたまでですからっ」


「…リーデの村は最前線になるな」


「既に老人・子供らはこちらに避難させている。たった今、伝令を送って他の住民避難も進めるよ」

「…リーデを砦にするなら、俺も応援に向かおう。…小さい村だ、少数精鋭で固めた方がいい」

「…君にそんな事はさせられない」

「勝手に行っちまうぞ?」

「や、やめてくれよ…わかった、とりあえずそれも含めて軍議を行おう。…リーデ放棄も視野に」

「…故郷の喪失は世代を問わず深い傷を残すぞ。幼子だって、いつかは何らかの影響が出るだろう」


 真剣に議論を始め出したリノーシュと大淵を見て、香山は複雑な思いを抱かずにはいられなかった。


 人間相手の戦争…憂国烈士団の時とは規模が違う…。

  一陣の風が香山の頬を撫でていった。










「この度はありがとうございました。ハルトン・シバ殿下」

 血を思わせる程赤くなった夕日に照らされ、美貌の武器商人は深々と辞儀をした。

「この度の武器、実に気に入った!あるならもっと買いたかったのだが…それにしても、お前達は何故こんな武器をこうも安く売り出せるのだ?他の武器商人たちの品物が、値段だけは立派な幼児の玩具に見えるぞ!」


 筋骨隆々としたハルトン・シバは30を迎えたばかりの現当主だった。八人の妻と十二人の子に恵まれ、勢力を拡大していた。十四を迎えた長男は、ここからそう遠くない比較的安全な砦の指揮官に就かせている。そこいらのガキと違って自分に似て、幼いながらに気性も激しく、将としても…牡としても優秀な息子だ。あとに、三年もすれば前線の指揮官にだってなれるだろう。


「今、この大陸で最も頭角を現される領主様の為とあらば… それに、こちらにとっても投資となります。寧ろ、王の器をお持ちの方に貢献できる事、光栄に尽きます」


 下手な武器防具一式を買うより遥かに格安で提供された兵器を眺めた。…今は木箱に布をかけられている。 …数日振りに抱く女のように、早くその布を取っ払い、木箱を開けたい衝動に囚われた。


「…本当に泊って行かんのか?…歓待するぞ?」

「勿体ない御言葉にございますが…今回は当方も次の荷を運ばねばなりませんので…今後とも、どうか弊社…私サマンサを御贔屓下さればこの上ない幸せなのですが…」


「…仕方あるまい。必ず、また来るのだぞ?」

「ありがたきお言葉…」




 シバ城を抜け、街道にある森林に辿り着いた。…多様なモンスターがそこかしこから現れた。


「結構。問題は無いようですね、皆さん?」


美貌の女武器商人は自分の豊満な胸に手を掛けると、難なくそれを引きちぎった。盛り上がった尻もポイと投げ捨て、最後には美貌のデスマスクを剥ぎ取った。その下には銀色の球状マスクの顔と、藍色のタキシードに身を包んだスタイリッシュな体があった。剥ぎ取られた女体と衣服は幻のように消え去っていた。


「まずは大淵様には小手先調べからお付き合いいただきましょうか。まさか、この程度で御仁をどうにか出来る筈がないのですが…何事にも、お楽しみのラッキーパンチというものがございますからねぇ…」

 奇妙な人型モンスターは無感情に見つめるモンスター達の中で、くるくると踊り始めた。

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