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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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百花繚乱

「あ~、皆さんこんにちは。今しがたご紹介いただいた大淵大輔です…ダイスと呼んでもらって結構。…さて、それでは遠慮なく言わせて頂くが、これから話す内容は恐らく皆さんにはとても受け入れ難い内容だろう。だから、無理に実践しようなどと思わなくても良い。…実戦の心得。それは、何よりもまず、正々堂々と戦おうとかこの身が尽きるまで戦い美しく散る…そんな幻想を捨てる事です。 まず、身の程を知れ、と」


 騎士道…大淵の日本の武士道とも大いに相反した内容をぶちかまされ、少女騎士達は同輩たちと困惑したように顔を見合わせてどよめいた。 それを五人の部隊長が小声で叱責している。


 …クロエも思わぬ展開にあわあわと口をパクパクさせながら青ざめている。


「まず、騎士である前に皆さんも兵士です。兵士は、戦争に勝つために戦わねばなりません。自分の信念や道の為に死ぬのであれば、それは個人で行えばいい事です。…兵士に求められるのは効率よく死ぬ事です。…つまり、無駄死にしてはならないし、無駄死にさせてはならないのです。 勝てないな、と思ったら、味方を助けつつ全力で逃げて下さい。味方が自殺願望のある脳筋だったら放っておいて逃げて下さい。…構っていると貴女が死に、そのあなたの友である仲間も死に…そんな連鎖が続き、最後には全滅します。 …いいですか、勝てないと思ったら逃げて下さい。簡単でしょう?」


「しかし、兵が逃げてばかりいては勝てる戦も勝てません!」

 責任感と気が強そうな少女騎士が声を上げ、部隊長に睨まれている。他にも同意だというように頷く少女が目立った。


「良い質問です。ただ逃げて居れば良いと言うのではありません。勝てない時は逃げ、勝てそうな時に戦えば良いのです。卑怯未練と言いますかね。自分の命は惜しみつつ、倒せるとき…例えば逃げるこちらに関心を失った敵が背を見せたり、側面を見せた時に反撃に転じるとか。そういう戦い方を心掛けるべきです」


「そ、そんなの卑怯者の戦い方です!」


「卑怯で結構。死んだら終わりなんです。…あなた方が戦場で倒れると、男性騎士と違って、想像以上の屈辱と恥辱が待っていますよ?生きていれば尚更、死んでいてもお構いなしでしょう。…そんな無残な姿を仲間や恋人、家族に見せたいですか?」


「…」


「ついでに敢えて言いましょう。こと勝負で卑怯者という言葉は、敗北宣言…子どもの癇癪と変わりません。要するに勝てない、或いはやり過ごす術を実現できない弱者が泣き叫ぶ言葉です。逆に、皆さんはそんな風に言われる事を目指してください。そして、卑怯者呼ばわりした者を笑って下さい。負け犬め、と。 …そもそも戦いに美学を求める所からして時代錯誤も甚だしい。一対一の決闘ならともかく、皆さんは大隊だ。そうでしょう?」


 やや熱を帯びつつ滔々と語る大淵を、クロエや部隊長まで含めた全員が 「なんだかなぁ…」という顔で呆れながら見つめていた。

 そう言っておきながら、自分はオルカ勲章…軍艦が何年もかかって、ようやく得られる勲章を得る程の超人的な活躍をしているじゃないか、と。


「…おや、疑っていますね?それは皆さんのご自由ですが…それでは一つ試してみるとしましょう」

 大淵は空間から二振りのスポーツチャンバラ用のスポンジ剣を取り出し、一つをクロエに手渡した。


「それではクロエ…殿。実戦形式の訓練試合をお願い致します」


「は、はいっ」

 

 身構えたクロエの手を、いきなり打った。


「まず一つ」


「ひ、ひきょ…」

 言いかけた騎士に笑いかけると、気まずげに俯いた。


「す、隙ありッ」

 

 その隙を打ち込んで来たクロエを難なく避け、頭を優しく叩いた。

「惜しい!今のはちょっと意地悪な罠ですが、さすが皆さんのクロエ団長。見事な適応力です。これぞ兵士の鑑!皆さんも見習うように」


「こ、この~!」

 クロエが早くもムキになり、思いっきり打ち込んできた。

 大淵は堪らんとばかり、全力で逃げて距離を取った。

「だから俺に教える事などないと言ったろう?」

 意地悪く笑って見せると、クロエは可愛らしい程ムキになってスポンジ剣を振り回すが、甲冑を着たクロエと戦闘服だけの自分とでは、ステータスを下限にしていても機動力が全く違う。

 逆に、クロエが疲れた所に襲い掛かり、三本目とした。頭部をぽかりと叩かれたクロエはその場にへたりこんでしまった。


「…このように。卑怯未練という言い方が嫌なら、自分のタイミングで戦う、と言い換えて下さい。敵の背後や側面を討つのが嫌なら、味方を襲っている敵をやっつけて下さい…さて、以上を踏まえて皆さんとの実戦訓練と行きましょう。…クロエ団長の仇を取らんという方はどうぞ」

 

 空間から取り出した、傘立てのようなスタンドに差したスポンジ剣100本セットを置いた。

 こんな事もあろうかと、スポンジ剣だけは大量に持ってきていた。…経費名目は「現地技術・親睦交流用品」だ。

 5部隊百人ずつの中でも腕利きであろう少女達が二十人ずつ部隊の仲間達や部隊長に送り出され、スポンジ剣に群がった。


 ふふふ、良い顔じゃないか戦乙女達よ。青春してるな。こちらとしても張り切り甲斐があるというものだ。


 百人のスポンジ剣を持った少女達が、自身の甲冑を仲間達に預け、身軽になった。


「一人でも俺に当てられたら皆さんの完全勝利です。…はじめっ」

 言い出すなり大淵は反転して走った。それを百人の少女騎士が追う。

 

 練兵場の周囲に生い茂る茂みの一つに飛び込む。駆けつけた騎士達が手分けして探し始めた所を茂みから奇襲し、早くも二人が打たれた。


「おりゃあああ!」

 

 …筋骨隆々たる少女騎士の大地をも掘り返す一撃を避け、再び走った。走った先にはまた少女達が待ち構えているが…


「包囲が薄い!」

 恐らく、気弱な子たちを追撃ではなく定点に置いて待ち伏せに使ったのだろう。良い判断と言えば良い判断だが、肝心な指揮官…リーダーシップを発揮する者が居なくては何にもならない。自信が無いだけで実力はあるのに勿体ない。これでは捨て石と同じだ。

 

 自信の無い剣を弾き、五人とも返り討ちにして包囲を突破していく。


「うーん、疲れた」 適当な物陰に隠れ、空間からドリンクを取り出して喉を潤した。

「…このくらいは勘弁してもらおう」


「い、いました!こっち…」

  

 自分を見つけた少女を格闘術で紳士的に取り押さえ、盾とした。


「戦乙女達よ、近づけばこの娘を切るぞ?」

 悪役声で脅迫するが、さすがにノッて来る相手は居なかった。…人質を切り、次のポイントへ。


(…そろそろ一直線になってきたな)

 

 唯一厄介なゴリ…少女も後方に遅れている。走り回された少女達にも疲れが見えて来ていた。


 狩り時だ。


 大淵が急に反転し、追いかけて来ていた少女をつむじ風のように一度に八人も薙いでいった。

 もう二人、やるつもりだったが、「逃げ時」をしっかり理解していたようだ。…どちらも気弱そうな少女だった。


「良い判断だ!今のは良かった!」


 しかし流石に体力の限界か、大淵の「つむじ風」には対処できず、少女騎士達は次々と倒れていき…


「おのれー!」

 例の少女を一騎討で…何とか倒し、勝った。


(なんか、今までで一番達成感のある勝利だ…)


 日が落ちかけていた。


「いやー、俺も久しぶりに本気を出した。皆さん本当に筋が良くて…」

 大淵がそう講評して締めようと振り返ると…練兵場に異物が立っていた。


「いやー、大輔、こんな楽しそうなイベントに僕を呼んでくれないなんて寂しいじゃないか!」

 

 …ニッコニコ顔の蒼王が、おだやかな夕日に照らされている…手には少女の落としたスポンジ剣を拾っていた。


「く、クロエに頼まれたんでな」

「それじゃあ僕とも手合わせ願うよ。 それでは…いざ」


「ま、待て…ッ!」

 重い一撃を受け止め、続く連撃も何とか捌いた。


「流石だね、大輔!」

「ゆ、弓使いの癖になんて一撃を繰り出しやがる…!」

「それこそお互い様じゃないか、大輔!」

「なんでそんなテンション高けーんだよ!?」

「楽しいからに決まっているじゃないか!」

 

 距離を取ると、恐ろしい速度で詰めて来る…

 もしやと思ってステータスを見ると…力は400、耐久は200、スピードは600と、数値上は竜騎兵に及ばないが充分通ずる実力を持っていた。


「ま、マズ…ッ」


 慌ててステータスを同等に戻そうとするが、そんな暇も無かった。そんなに嬉しいのか、ニコニコ顔で、どこまでも執拗に打ち込んでくる。夕日も相まって、最早ホラーの域である。


「ち、畜生ぉぉッ!!」



 …結局、剣での打ち合いは互角引き分けに終わった。…ステータスを同数に調整したとしても、結果は変わらなかっただろう。…リノーシュは剣の腕も超一流だった。


 最後の最後でスポンジ剣を払い合ってしまい、今は二人共疲れ果て、どちらからともなく倒れ込んで夕空を眺めて必死に酸素を奪い合っている状態だった。

 少女達がそんな二人を遠巻きに見守っている。


「や、やるな、リノーシュ…ここまで見事に互角になったのは初めてかもしれん…」

「き、君もね…大輔…すっごく楽しかったよ…こんなに楽しかったのは、何年ぶりだろうか…」

「…」


 …自分の夢を捨ててまで王の道を往くリノーシュの苦悩を想い、眼を閉じた。



「隙ありっ、甲冑組討ち!」

「あっ、やめろ、卑怯だぞッ!?」


「あっ、ダイス先生が卑怯って!」

すかさず少女達が聞き咎めた。


「ち、ちが、これは…あーっ!」


 夕空の下、大淵の断末魔と共にリノーシュと少女達の笑い声が練兵場に響き渡った。



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