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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー


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幹部会合

 窓一つない、窮屈な地下室が千年前から変わらぬ自分達の会合場所だった。

 テーブルの上にはゲート先の世界の地図…これまでに我が軍の尖兵が虫共に紛れ、血と引き換えに持ち帰った、貴重な敵国図があった。だが、その探索範囲は極めて狭小で、少し大きな村程度の範囲しか分からない。ゲートの先は小さな林野となり、その周囲を取り囲むように巨大な塔が立ち並んでいるという。…とすると城下か、城塞内か。


 敵の守りに関しては、思ったよりもよく粘る…というのが率直な感想だった。が、攻めに関してはまるで話にならない。この世界の人間軍はゲート内にある、自分達からしたらゴミ同然の物質をありがたそうに持って帰るだけで満足している。大量に湧くスプリットワームを抑え込むので手一杯というレベルだ。

 そして現時点では、贔屓目に採点してやったとしても、その守りすら及第点には遠く及ばない。

 あくまでこれは自論であり、他の連中が腹の内でどう思っているかは知らない。


「十分であろう。そろそろ本格的な制圧作戦を進言すべきだ」

 ヒューノが地図に目を落したまま口を開いた。薄明りの中で酷薄な口元が照らされている。

 就任以来、最大規模の主力軍を率い、これまでの全ての戦を指揮してきた猛将だ。 …少々好戦的すぎる嫌いはあるが、間違いなくこれまで我が軍の勝利に貢献してきた。

「急ぐ理由も無いと思うが」

 ヒューノの対席に座るゴルゲが応じた。自分達の中で最大の巨躯にして、この城を守る番人だった。番人ゆえ、攻めの戦の経験は皆無だ。そのゴルゲがこの城で指揮を取ったのは、三百年前の戦と、つい先日終えた戦だ。

 この城に攻めこむ愚か者共の殆どを自分達が屠ってしまうのだから、彼の経験が少ないのは致し方のない事だった。


 そして、つい先日終結した戦は、これまでのどの戦いよりも大きな意義をもっていた。


 その意味では彼の経験こそ浅いが、歴史的戦争の勝利に貢献した一人、という点では、その軍歴に輝かしい功績を深く刻み込んだと誰もが認める所だ。

「それもそうだ」

 自分も同意した。

 終戦から五日。我が軍の兵…魔物達は戦争で受けた傷を癒している最中だ。激しい戦いの末、我が軍も多くの優秀な将兵を失っていた。

「諸隊の充足率はどのくらいだろうか?我が隊は七割強だが」

「五割だな」ヒューノが短く言う。彼らは最前線で、初戦から終戦まで戦い抜いた。それを思えば少ない損害だと言える。

「八割だ」ゴルゲが続く。

 当然、この中で唯一、部下すら持たないカロンは黙したままだ。


「全軍が十全になるまで待つのか?」

 ヒューノが問う。確かに、それも間抜けな話だ。ゲートが繋がった以上、門の向こう側の敵も備えを進めている事だろう。むざむざ敵に時間を恵んでやる必要もない。

「全軍の平均が九割に達した所で進言、というのはどうか?」

 ゴルゲが提案する。自分の対席に座るカロンを見た。

「カロンよ、どう思う?」

 

 外套を被った虚ろな髑髏が顔を上げる。

「…それで良かろう」

 この世界での五千年にも渡る人類と魔物達の戦争の歴史は、勇者と人類の完全な抹殺という結末により、遂に魔物の勝利で締めくくられた。

 勿論、平坦な道では無かった。辛酸と屈辱の歴史そのものだ。 だが、決して復讐を忘れなかった。

 我らが魔王軍は五千年の間に、何度も滅亡の縁に追いやられた。 

 少なからぬ魔王がその時代の勇者に討ち取られ、その度に敗残の魔物達が生き残った世継ぎを守って逃げ延び、生き長らえてきた。

 当代様も、百年前に先代様を殺されている。


 魔界にとっての諸悪…勇者。

 生粋の魔族殺しの一族。他の人間共とは比較にもならない、恐るべき能力を天から与えられた…全ての魔物の天敵。


 唯一の救いは、人間と魔族の生まれながらの戦闘適正の違いだった。

 人間は多様な武器を扱い、武術に精通し、魔術も操り、確かに強い。だが子を産み、その子が一人前の戦士になるまで最低でも十余年は掛かる。 

 そして武器を作り、武芸や魔術、文化を学び、食い、眠り…老いる。子を作って次の種を残さねばならない。そして、生きている限りそれらを継続するため、我々魔族から見れば無駄にも見える…複雑な経済活動をしなければならない。


 だが魔物は、例外こそあれ、その限りではない。

 生まれながらにして強靭な身体という武器と防具を備え、魔術を操る種もある。生まれて半月も待たず、大半の魔物は戦闘単位として完成し、老いは人間に比べれば無いと言って良い。ヒューノの率いる魔獣達は魔王軍戦力の基幹を占め、その魔獣は力の蓄えとして人や下級モンスターを喰らうが、餓死することは無く、人間に比べればやはり効率は遥かに良い。他の魔物は殆どが食事を必要としない。複雑で無駄な経済活動も無用だ。

 文化と言えば無限ともいえる寿命を生きる魔王族が戯れに人間の生活を模しているだけで、自分達には無用なものだ。


 この弱点の違いがあったおかげで、滅亡を免れたのも事実だ。


 そして今回の戦で勝利し、勇者を始末できたのはカロンの功績だ。

 先代の死後、カロンは勇者を抹殺する事だけに全てを捧げてきた。

 魔王様以外にそんな事が出来る訳がない、不可能だと決めつけていた。誰もが。

 しかしカロンは勇者の弱点を徹底的に探り出した。 勇者のスキルを逆手にとったスキルを得意の呪術を用いて生み出し、魔物やモンスターを素材としてそれを組み込んだ勇者殺しの兵を次々と試作した。


 そしてわずか百年の時を経て、遂に勇者の末裔を殺した。それにより全軍を沸き立たせ…逆に人間軍を絶望に陥らせ…勇者諸共この世界から人類を根絶やしにしたのだ。

 勇者はもう二度と現れない。

 カロンが魔界の英雄として歴史に名を刻んだのは、誰もが認める所だ。


 …しかし、五日前…終戦と同時に小さな懸念が生まれた。

 ゲートの出現。尖兵からの報告によれば、その先の世界にはまた人類がいた。戦闘能力はこの世界に居た人間達と同程度のものだが、勇者のような危険因子が存在する可能性も否定できない。どちらにせよ、世界が繋がった以上、人類は根絶やしにしなければならない。

 ゲート攻略の方針も一致した。椅子から腰を上げ、地下室を後にした。

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