蒼天海戦
九番補給艦・ハーベストは、十一番艦・ビーバーと1番艦・ウルフに護衛され、空も海も青一色に染められた、穏やかな海を渡っていた。
やはり斎城、藤崎、川村、加えて射方がダウンし、今は船員室を借りて横にさせていた。
「船酔いに劇的に聞く薬とか無いかな…」
三人への手当を終えてきた香山に語りかけた。
「どうでしょう…ブレメルーダの街中やお城の医務室も覗いてきましたけど、この世界、基本的に必要ない技術は後回しにして、必要な物は発展させている感じですから…」
いつまでも船酔いする船乗りがいる訳が無い。だから酔い止めなど必要ない、そんな資源と暇があるならより回復効率の良いポーションを、という訳だ。
「だよなぁ…」
甲板で縁にもたれ掛かり、溜息を吐いた。背には魔王が乗り、リザベルは周囲の海面を見張っている。
浮田と黒島も対物ライフルを携え、船の四方を警戒している。
五時間前…王城でリノーシュから相談を持ち掛けられた。
遥か沖合にある島…資源掘削拠点との連絡が、一週間以上取れていないと。本来は三日前に魔法石を埋め込んで高速化した連絡線が来ているべき所が、誰も来なかった。…海上の状態や船の破損、その他トラブルによる遅延などよくある事だし、他に確かめる手段も無い為待っていたが、遅すぎる。 そこで救助隊を送るので面倒を見てくれないか、と。
…海洋モンスターを生身で30から討伐した大淵の同行を仰ぐのは、至極当然の成り行きだった。
大淵は快諾し、単独で出動しようとしたが香山が加わりアリッサが加わりマオにつかまり…結局、小隊員全員参加となってしまった。
「野郎共、大砲に弾込めろ!敵艦に乗り込むぞ!」
船の舳先で黒島が騎兵刀を片手に何かほざいている。…浮田がドン引きしながらそれをこわごわと見守っている。
…パワハラモラハラとは無縁だが、奇行が目立つ上司というのも考え物だな…
(…今までもおかしいと思っていたが、とうとう脳にまで寄生虫が回ったか…気の毒に…)
…九番補給艦に大砲など一門も無い。戦っている暇があるならさっさと逃げろ、がコンセプトだからだ。
故に、自分達の乗艦となった。
カンカンカンカン…
右側を並行していた十一番艦・ビーバーから警鐘が鳴らされた。続いて補給艦からも警鐘がリレーされ、左側を航行していたウルフにまで伝わった。
十一番艦の付近で波飛沫が高まったかと思うと、高々とクラーケンの触腕が持ち上げられた。ビーバーの大砲が砲声を轟かせて撃ち込まれた。
「アリッサ、頼む!黒島、浮田、留守番頼む」
「了解しました!」
「アイアイサー!ヨーソロー!」
アリッサが駆けつけ、ユニコーンを召喚した。
アリッサが跨り、大淵もその後ろに収まった。二人を乗せたユニコーンが青空に一点、白馬として跳び上がった。
「ドーイウ感じで行きマス?」
「…俺が着水したらすぐ拾い上げてくれ。アリッサは救助ヘリ代わりだな。…滞空時間は最大でどのくらいだ?」
「んー、後の分を十分残すとして、三時間。アリッサのユニコーンは斎城のドラゴンのように派手には戦えマセンが、移動特化型デス。燃費も良いデス」
「打ってつけだな。…知っての通り俺は海洋恐怖症だ。…頼むぞ」
「任せて下サイ♪」
コバルトブルーの甲冑を着込んだ海兵が、甲板に叩きつけられた大型クラーケンの触腕を大剣で切りつけた。…しかし切り落とせず、逆に巻き付かれ、悲鳴を上げながら海の中に引きずり込まれた。
「野郎ォ!」
他の海兵が弓矢、マスケット銃、槍で、縁に巻きつけられた触腕を滅多打ちにするが、艦の傾きは止まらなかった。戦っていた海兵も水兵も、縁に掴まらなければならなくなり、誰も反撃できない。
「アリッサ、落ちた奴を頼む!」
大淵が飛んだ。
臆病熊の弓…武器適性50%…なれど、保有する武器の中で最強の破壊力を誇る神造武具。
力を加減しつつ引き絞り、放った。
どんな銃弾の射入角も狂わせる海水を叩き割り、一条の光がクラーケンを消滅させた。
…下手に加減を誤ると、海面に穿った「孔」に味方の艦船を落としかねない。
…半減されてコレだ。さすが神造武具、実に呆れた破壊力である。
そのままビーバーの甲板に向けて落下。着地すると、海に引きずり落とされた海兵がユニコーンの背に乗せられてきた。
「海水を飲んでマス。処置はできマスネ?」
「あ、あぁ、ありがとう!」
再びユニコーンに跨った。
「…あの鎧、あれで水に浮くのは凄いケド、迷彩になって見つけ難いデス」
「…リノーシュに提案しておくよ。赤いラインとか入れればどうか、ってな」
ウルフの方でも砲声が上がった。
「この海域、いつもこんななのか…?」
「私に聞かれテモ…」
ウルフに向かうオクトーは巨大な上、距離が離れている。…これなら逆にやりやすい。
ほぼほぼ限界まで引き絞り、放った。
海面に血飛沫と波飛沫が入り乱れ、さながら花吹雪のように舞い散った。…遥か彼方で矢にあたるエネルギー体が着水したか、数百メートルもの水柱が上がった。
「…ワァオ」
「…こりゃ下手に撃てんな…」
「…大淵、あれがシャークデスかね?」
艦隊の後方から、大量の何かが追いかけて来る。一体一体の体調は4メートル程。…なるほど、背鰭は見えないが、明らかに艦船に向けて迫るその姿はサメそのものだった。
「…だな。もう一発やって減らさねーと、マズい」
魚群に向かって、渾身の矢を放った。
大量のシャークが巨大な水柱と共に消滅したが、難を逃れたシャーク数十匹がそれぞれの船へ向かった。
流石に寝て居られないと思ったか、射方のてき弾が海中で爆発を起こし始めた。黒島と浮田の射撃が海中を猛追するシャークに浴びせられるが、やはり海水自体が防弾アーマーとなり、シャークに効果的なダメージを浴びせられない。…比較的、浮田はスキルも併用してダメージを与えているようだが、絶対数が違い過ぎる。巨体のオクトーやクラーケンと違い、海中に隠れながら高速かつ集団で襲ってくる姿は、こちらの方が厄介だとさえ思わせる。
「…アリッサ、各艦の艫…艦尾に近付けてくれ。手前のビーバーから」
「アイサーッ」
ビーバーもウルフも、クラーケンやオクトーとの海戦で忙しく、後方から迫るシャークに対応しきれずにいる。 優先度と、戦力差の問題だろう。
弓を仕舞い、騎兵銃…ではなく、7.62㎜汎用機関銃を取り出した。
スキル発動・特殊強化
弾頭まで赤黒く侵蝕された機関銃が甲高い連射音を響かせ、海中に赤い花を幾つとなく裂かせた。
海中で幾つもの魚影がのたうち回り、やがて力なく浮かび上がってくる。…最早追ってくるシャークはいなかった。
オクトー、クラーケンを撃破した両艦が、シャークを攻撃しようとして敵影が無い事に気付いたらしく、大砲を移動させたクルーが茫然と彷徨っている。
…この海戦で艦隊は大量のシャークを含め、推定40の海洋モンスターを撃破した。…余談ながら、九番艦ハーベストは浮田の活躍により、シャーク2撃破カウントという、補給艦として異例の戦果にあやかる事となった。
ウルフの甲板に降り立ち、出迎えた艦長に直接尋ねてみた。
「いつもこうなんですか?」
「とんでもない。毎回こうだったら、王国海軍全軍を動員しなければ。…この海域で何かが起こっているんだろう。…おそらくその鍵は…」
艦長の視線の先を追うと、小さな島が見えた。なだらかな、富士山のミニチュアのような緑生い茂った山以外、特徴らしい特徴も無い小島…例の採掘島。
絵に描いた無人島のような緑豊かな島だったが、先のモンスターの襲来もあってか…大淵にはその島が、何か不吉なサインに見えてならなかった。




