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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー


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港湾都市 ブレメルーダ


 ベヒモスを恐れてか、元はこれだけ平和な街道だったのか、それ以降の道中は平和な物だった。

 取るに足らない、ウサギに角が生えたようなモンスター…スピアラビットなどという、名前だけは凶暴そうな、実際には現地の幼児たちが十代を迎える前にレベルアップの対象とされるか、食料として捕食されるだけの非力なモンスターや…チックなる、これまたキャラバンや子供たちの御馳走になるだけの、兎よりはやや攻撃的な鶏が果敢にも車列を追いかけて来る程度の、牧歌的な風景だった。


「チッ…」


 大淵もとい勇者は、そんな光景に舌打ちしながら獲物を求めていたが…いつしか諦め、騎兵スキルに任せて車上で昼寝を始めた。


「ダイス…いや、勇者よ、退屈だ」

「…死ねば退屈とも無縁になるぞ。保証する」

「…嫌だ。 ダイスはよく、蘊蓄話や思い出話などしてくれたぞ」

「俺はあの雑魚とは違うんでね。黙っていてくれ」


「…お前には戦う以外、何も無いんだな。城から抜け出す前の我以下だ。 …言っておくが、ダイスは雑魚なんかじゃない。お前なんかよりよっぽど強いぞ。 …例えどんなにやられても、アイツは必ず最後に勝つのだ」



 そのまま会話が途切れ、マオは諦めて沈黙に付き合った。


「そう言えばそうだな。俺の記憶にあるのは雑魚を狩った記憶と、そこそこ楽しめた敵と、後は行く先々で抱いた女くらいしかない。…それも顔も、感想も殆ど覚えてない。 飯なんて、食えて腹さえ満ちれば良かったし、風景なんて価値の無い絵でしかない。金は旅に必要なだけで、無ければ野宿すれば良かっただけだ。仲間…パーティはいたが、向こうから勝手についてきた連中だ。 そう、何も無い。 …終わり」


「…」


 前方に巨大な城塞が見えてきた。真っ青な空を背にして、海を遮るように佇んでいた。


『津波の恐れはないのかな?』

 …あの後、唯一何も覚えていない黒島が素朴に声を上げた。

「ツナミってのはなんだ?」

『…地震とかがきっかけで、海から大波が押し寄せて全てを攫って行くんだ。…俺達の国では10メートル…城の壁を超えるような津波が押し寄せたことがある』

「…俺の知る限りは見たことも聞いた事も無いが、こうして建っているって事は、少なくともこれまでは無かったか…問題にならなかったんだろうな」


 城門に辿り着いた鉄の車と鉄馬を、門番達は仰天して見回した。


「怪しい者ではない。アルダガルドから来た!」

 黒島がサブリーダーとして説明した。

「証拠は!?」

「これを。アルダガルド最強の英雄、ハサム・O・ポッサム直筆の証文だ」

 ハサムの直筆証文を高々と掲げて見せた。 …あの後、目を覚ました黒島が真っ先に別れ際、ハサムにねだった物だった。


「…失礼した!隊商が全て行方不明になっていたのでな。許されよ」

「構わないさ。…しかし、捜索隊を出さなかったのか?」

 衛兵は苦々しげに顔を歪めた。


「…海賊騒ぎだ。それも、見慣れぬモンスターの海賊だ。恐ろしく手強く、こちらも軍艦二隻がやられて、なんとか追い払った。…ところでここへの訪問理由は?」


「俺達はハサム殿に世話になっている客員騎士団でな。…ハサム殿に、是非この港湾都市を視察すべきだと紹介されたのだ」

「なるほど、ハサム殿らしい。…入ってくれ。 ただ、海兵は気が立っているから、無用な接触は極力避けてくれ」

「心得た」


門を潜った途端、城壁で遮られていた喧騒に耳を圧される。

「うぅむ、凄い活気だな。さすが、国そのものが港だけある」

 藤崎が人々の生活様相を見回しながら言った。 …てっきり、魚売りが走り回っているかと思えばそんな事は無く、代わりに今は目の前を大砲の砲弾を木箱にぎっしり詰めて馬車で運ぶ男が通り過ぎて行った。…海に向けた砲台が幾つもある。


「…さて、隊長殿、チーム分けはどうなされますか?」

 黒島が勇者を冷やかした。


「勝手にしろ。俺はそうする」

 勇者は冷淡に言ってのけた。


「…うーん、大淵の姿でそうされると、違和感が半端無いんだよなぁ…しょうがねぇなぁ、俺が差配してやるか。大淵班は香山、斎城、藤崎、マオ、リザベル、アラクネ。…大淵くんは居ないものと思ってくれ。 その他は黒島君と愉快な仲間達」

 …一番参ったのは、アラクネがしぶとく付いてきた事だ。どうやって街に入れたかというと、ワイヤー骨の入ったスカート…貴婦人が着るようなドレスで腹を隠し、これまた貴婦人が被るようなつば広の帽子で変装しているからだ。…見つかったら殺され兼ねない、と幾ら脅しても、よほど大淵にぞっこんなのか、こうして強引についてくる。

 …面白い事に、このしつこさに勇者も辟易しているようだった。

 

「おい勇者よ、取り合えず寝床…宿を探さんか?」

 さっさと歩き出す勇者を藤崎が呼び止めた。

「お前がそいつらを導いてやれ。俺は適当にうろついている」

 構わず歩き出そうとする勇者を、藤崎が掴み止めた。

「あのなぁ、お前…」

 

 …なに触ってんだ、クソオークが

 

 藤崎の鳩尾に渾身のパンチを見舞おうとして…ロキと大淵に止められた。

「チッ…!」

 代わりに藤崎の手を振り払い、勇者は雑踏の中に消えた。


「だ、大丈夫ですか、藤崎君…!?」

「う、うむ。寸止めだ…しかしアイツ…」

 藤崎は心配げに勇者の後ろ姿を見送った。


「…取り合えず、宿だけは確保しようよ。野宿は嫌だから。…きっとこの街、夜は憲兵とかが巡回するんじゃないかな?」

「…そうだな。皆、離れるなよ?悪漢に襲われそうになったらすぐに声を上げるんだぞ!」


 …皮肉な事に、これだけ荒くれ者の海の男がひしめく港町にありながら、藤崎こそがテンプレ的な悪漢の容姿をしていた。これでモヒカンでもしていれば、問答無用で成敗される側である。


「藤崎、肩に乗せてくれ!」

 藤崎にマオが甘えた。…大淵が甘やかして以来、誰かしらを共に付けねば気が済まないのは隊内の全員が知っている。 リザベルを除けば大淵の次に香山、その次辺りに自分がいるらしい。

「おう、乗れ乗れ!」

 



 …闘志に対する感覚は鈍っていない。それは今、確信した。

 門を入ってすぐ南から男達特有の闘争心から来る雄臭い匂い…報酬や名声を求めてやまない…そんな雰囲気を嗅ぎ取っていた。

 

 受付を行い、早速列に並ぶ。 …ここはアルダガルドのように自身すら賭けた公然の賭博ではなく、あくまでスポーツの一環として認められているらしい。

 参加者は自身の怪我を心配するくらいで、アルダガルドの闘技場で感じたような緊迫感は感じられない。

 …まぁいいか。

 どうせ自分に他に楽しみは無い。

 …中心街からは女の匂いもしたが、最早、死人の身となってからは魅力の無い匂いだ。

 …面白いもので、生きている時はあれほど強かった種の保存への欲求も、死んでこの仮初めの身に宿ってからは微塵も欲しいとは思わなくなっていた。


 これも生理か…今にして思えば、「最早自分には必要ないもの」と判断したモノは、二度と欲しく無くなっていた。

 

 …翻って大淵は、自分の血縁でも無い子らを想い、魔王などという害虫を可愛がり、誰彼構わずに女を愛おしく思うのだ。 …今に、自分の気持ちが痛い程分かるようになるはずだ。…結局、そんなものは全て虚無に過ぎないと。


 いずれ、血縁でも無い子らとは疎遠になり、魔王はその姿のままで自身の肉体だけが老い、お前が愛した女達は他の男の元へ去っていくだろう。…そして自分一人、せいぜい女一人を囲うのが関の山。…伴侶さえもいずれは、死によって別れさせられる。  

 その時にじっくり絶望を味わえばいい。


 …物思いに耽っていたせいもあるが、一回戦目の相手を拳一発で終わらせ、二回戦目に進んだ。

 …チャレンジマッチ…サイン。


 …そもそも、魔王の奴は俺に何も無い、大淵こそ最後に勝つ存在だと言ったが、何を根拠に…自分を超える性能を持つ兵器があるなら是非とも見てみたいものだ。本当にその性能が超えるなら、足先を舐めてやっても良い。…だが、そんなものは現れる気配すら無い。


 …またも物思いに耽り、折角の楽しみを棒に振っていた。…何のためにこの体で旅をしているのか…

 そも、何回戦で決勝レベルと遊べるのか…あと4回か…


 数字と数字の間に生きる様な息苦しさ…それでも自分にはこれ以上の生き方も知らなかった。


 クソ…魔王め…

 駆除される対象の分際で…言うに事欠いて俺が大淵に比べて…何も持っていないだと?


 逆に、奴が何をした?あの女の家でままごとをした事か?ガキに戻って女を慰めた事か?雪上を阿保のように滑っていた事か? …それが何になると言うのか?ステータスが一つでも上がるのか?

 

 …クソ、落ち着け…今は俺一人だ…

 何がチャレンジマッチだ、雑魚が増えただけじゃないか!


 剣を抜くまでもないぬるま湯のような児戯に、嫌気が差して来た。…こんなレベルの低いままごとをしているから、こんなつまらない事をグジグジと考え続けるのだ。


 …潮風の匂いに乗ってくる、少し傷んだ木の匂い… いっそ、船の一つもくすねて海洋モンスター狩りに繰り出すか。海洋モンスターの方が、巨大さと新鮮さでは圧倒的に面白みがあるだろう。

 そうだ、それがいい。仲間共は放っておこう。


 チャレンジマッチの相手選手20人が累々と横たわる中、選手控えのゲートではなく会場出入口へと向かって歩く。


 会場の湧いていた歓声は困惑のどよめきに変わった。


「お待ちなさい!それだけの腕がありながら、何故今更帰ろうというのですか!?」


 観客席の上から紫色のバトルドレスに身を包んだ女が、縁に足を掛けて今にも飛び出さんとしている。琥珀色と菫色のオッドアイの瞳が、下方に立つ勇者を見下ろしていた。 余程高位の者なのか、両脇から年老いた世話係が押し留めようと手を差し伸ばしていた。


「…十分堪能したので、釣りに行こうと思ってな」


「…今の大立ち回りを見れば、今大会の出場者では歯が立たないのは火を見るより明らか。主催者よ、損害はこちらで補償します。余興試合となさい」

 

 世話係の制止も聞かず、ブロードソード一つでリングにまで飛び乗ってきた。

 …スリットを取り入れ、華美を配したバトルドレスを着用しているあたり、どこぞの名家の御転婆お嬢か。…しかしそれにしては会場のざわめきが一層高まった。 …相当家格が高いのか?

 

「…威勢は良いな。だが、生憎とワルツは欲していない」


紫心騎士団(パープルハートナイツ)団長、クロエ・スノー・グラスランド!いざ!」

 

 騎士団長サマか。これはいい。余興にもってこいだ。 空間から銃剣を取り出し、腰に差した。


「勇……レイス。踊って下さいますか、お嬢様?」

 

 レイスは宮廷風の辞儀をして茶化した。

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