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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー


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初陣

「…午前11時17分、防衛省防衛政策局調査課観測班より、第33ゲートの膨張が発表されました。既にゲート付近の常駐警備部隊が対応に当たっています。現時点では敵性生命体…モンスターの封じ込めに成功し、状況はコントロール下にあります」

 淀みない説明内容とは裏腹に、ギルド戦闘担当者の表情は硬い。

 第33ゲート。三年ぶりに日本に出現し…この世界の自分が命を落としたゲート。

 

 あのあと、混乱するトレーニングセンターを苦労しながら何とか脱出した。 脱出後は遥かに楽だった。通りに交通規制の為に立つ警察・自衛隊に優先的に誘導され、思ったより早くこの拠点ビルに帰還できた。すぐさま一行は26階にある会議室に案内され、既に到着していた高山ら残りのメンバーと合流し、このギルド戦闘担当者・岩井から説明を受けた所だった。

 五十代ながら精悍で分厚い体は、武道か、激しいスポーツの名残を感じさせる。だが顔には懸念への警戒心が露わになっていた。


 部屋の前面に掛けられたスクリーンの傍らには岩井が立ち、スクリーンには件のゲート周辺の地図…代々木公園の全体図が表示され、それの対処に当たるため、各ギルドからの応援チーム、そして自衛隊、警察、消防の陣容が表示され、その要点を岩井が読み上げていく。

 中央公園の中心部にゲートと書かれた円。それを四方から取り囲むように、常駐部隊が配置されている。陸上自衛隊第一普通科連隊・第一中隊と第四中隊から各一個小隊、他の東京ギルド支部からの当番クランが4パーティ47名。 この、公園内の封鎖部隊が主戦力となる。

 公園周囲に84㎜無反動砲を装備した対処チームが二個。そして第一偵察戦闘大隊から16式機動戦闘車が二両、最悪の事態に備えて展開している。

(怪獣でも迎え撃つような物々しさだな)

 クランオフィスのそれよりも遥かに座り心地の良い椅子に身を預け、そんな事を思った。実際に見ずとも、都内をこれだけの規模の自衛隊が展開している字面だけで、その光景が容易に想像できた。

 実際、モンスターは怪獣のようなものだ。まだこの目で見てはいないが、あのコドモドラゴンよりも更に巨大な相手も当然、居るのだろう。

 配られたコーヒーを啜りながら、顔を巡らせる。スクリーンに対して0型の楕円を描く高級感ある会議テーブルには、右側前面から自分、香山、川村、藤崎が並び、対面には黒島、斎城、星村、尾倉と並び、それぞれ席に着き、落ち着いた様子でスクリーンに目を向けていた。

 たった八人で着席するにはあまりに広すぎる部屋とテーブル、そして調度品だった。バブル期までに流行った贅沢な建物造りを思い出す。 それともいつか、この部屋を満たすほどのクラン規模になるのだろうか。

 

「…上述の通り、現時点の状況はコントロールされています。しかし、皆さんも記憶に新しいであろう、スタンピードが発生しないという保証もありません。実際に、過去にもゲートの膨張が確認されたケースの殆どで、規模の大小こそ違いますがスタンピードが発生している事実があります」


「…モンスターが一斉にゲートから外に溢れ出してくるんです。 …まるで草食獣の群が肉食獣に追いかけられて逃げるみたいに」

 隣の香山が小さく耳打ちして補足してくれた。

「ただし、本当に逃げているんじゃなくて、ゲートから外に出て人に襲い掛かります。 …大淵くんが倒れた直後にも起こったんです…ほとんどは鎮圧したんですが、一部が病院方面に浸透してしまって、被害が出てしまいました」

 病院駐車場で見た被害や、市街で立哨する自衛隊員を思い出す。

「このゲートは出現から日が浅いため未知数の部分が多く、しかも明らかにこれまでの国内ゲートに比べて特異です。 …これから何が起こるか全く予想できません。準備を整え次第、直ちに現地へ向かって下さい」

 岩井が言葉を切るのを潮目に、メンバーが一斉に立ち上がり、大淵もそれに続いた。


「ああ、大淵さん!」

 声の主である星村を振り返った。

「ああ、星村。これから出撃だ。バックアップを頼むよ」

「任せて下さい!ではまず工房へ来てください」

 騒ぎのどさくさで忘れかけていたが、そういえば何か渡すものがあると昨日の帰り際に言っていたか。星村の後に続き、エレベーターで下に降りてから工房へと向かった。星村がカードキーでドアを解錠し、開け放った。

「これです!23式試製メイルアーマー、「あかりスペシャル」!」

 昨日見た図面を背に、一着のアーマーが置かれていた。ロボットに見えた図面はこのアーマーの設計図だったのか。

「出動に間に合って本当によかったです! これまで皆さんが回収した素材の中でも最高の素材だけで作ってあります。再設計もして、筋力アシスト機能も40%向上です!基本的な機能は21式メイルアーマーと同じですが、追加された機能もあります。時間が無いので説明は省きますが、いろいろ試しちゃってみて下さい!」


 鉄の具足を思わせる、連ねられたチャコールグレーの装甲板。前の物よりも全体的にマッシブな印象が強まり、騎士の鎧にも似ているが、着崩された侍の甲冑にも見える。星村なりの意匠のつもりかおまじないか、この世界の自分が貫かれた付近…左胸に可愛らしい猫の肉球マークが彫られている。

「…ありがとう。早速使わせてもらうよ」

 星村に礼を伝え、戦闘服の上にアーマーを装着した。試しに腕を曲げて力を入れてみると、小手を装着した腕から肩アーマーにかけてバキッ、ベキッ、と乾いた枯れ枝を踏み砕いたような派手なクラック音が腕部から響き、連動して戦闘服までボディービルダーのようにはち切れんばかりにパンプアップする。慌てて力を抜いて腕を元の位置に戻すが、アーマーも戦闘服もすぐに元通りに戻る。


「大淵、武器庫に行くぞ」

 廊下から黒島が呼びかけて来る。黒島に続いてオフィスに戻ると、部屋の私物ロッカールームとは反対の方向に武器庫があった。出入り口はカードリーダ―で施錠されているが、黒島がカードキーを大淵に手渡す。

「この鍵は実働部隊長の責任で管理だ。…と言っても、各個人で武器を管理する場合もあるから、半分形骸化したようなもんだが」

「それもなんだかなぁ…」

「なに、旅行で外泊する時とかに、最低限の予備装備を持っていく、とかさ」


 気を取り直し、解錠する。 ちょっとした倉庫程の大きさの室内には、壁際に整備用の小物や棚が備え付けられた作業台が八つ置かれ、部屋の中心には背を向け合うように全員分のロッカー。これも八つ並んでいた。…自分の名札が付いたロッカーもまだ残されていた。扉を開けると、VRで使った物と全く同じライフルと銃弾、そして刀が収納されている。仲間達も黙々と武器を検め、装備を整えていく。


「チュートリアルはとりあえずここまでだ。 …皆に指示を頼むぜ、隊長」

 黒島はそう言って大淵の背を押した。いつもの冷やかしではない。

 記憶がない自分より、黒島の方が適確な指示を出せるのではないか、と言おうとした言葉を飲み込む。

 黒島も皆も、そんな事はとっくに百も承知だろう。

 自分が、彼ら一人一人に直接声をかける…いや、命令を下す事に意味があるのだ。 そして例え一部の記憶が無くなっているとしても、自分にはそれができると信じているからこそ、自分に隊長の役目を返したのだ。

 昨日出会ったばかりの仲間達を見渡した。

 黒島、大山、斎城、星村、川村、藤崎、尾倉…


 全員が身支度を終え、凛とした表情で自分の言葉を待っている。トレーニングセンターで自分に何らかの疑問を感じ取った尾倉も、今は自分をまっすぐに見つめ返している。

 命を預かる責務を果たせ、と励まされた気がした。

 …自分の判断でやってやろうじゃないか。

 そして、誰一人欠けることなく帰ってこようじゃないか。


 恐らくこの世界の自分は死に、そして自分が成り代わってしまった。

 

 だが、それをいつまでも卑屈な言い訳にしていてはダメだ。

 

 この世界の自分が彼らに認められる立派な奴だったように、俺もそうなってやろうじゃないか。

 

 それが、この世界の俺に対して出来る、せめてもの手向けと罪滅ぼしになると信じて。


「…よし」

 一呼吸入れる。

 緊張して口が震えそうだった。

(実は俺、偽物なんだ。元の世界では最底辺の愚図で、リーダーなんて無理だ!と全てを放り出して楽になっちまえよ)と悪魔が誘う。

 

 その悪魔を引っ掴み、肥溜めに叩き落としてやった。お前はクソでも喰ってやがれ、と。

 俺はこの世界で立派なリーダーになって、香山や斎城を惚れ直させてやる、と。

 …足元は今にも震えだしそうだったが。


「黒島、星村は待機。…ここで連絡とオペレーターを頼む。…全員、俺に続け」

「了解」

 昨日の乾杯よりも一体化した、一糸乱れぬ返事にこちらも気が引き締まる。

 まずはこれで良い。

「出動用の車両は地下の西ブロック専用スペースに移動してある。全員の通信機はそこの出入口のロッカーにある」

 通信用高性能ヘッドセットを装着した黒島がキーを二つ、放り投げた。それを受け取り、ヘッドセットを装着しながら全員でエレベーターに向かう。

 オフィスを行き交う他部署の人々が道を空け、祈るように見守ってくれていた。

 三つあるエレベーターのうち、二つの前に警備員が立ち、自分達専用に割り当てられていた。人々に見守られながら乗り込み、下降していく。


 言われた通りの駐車スペースに向かうと、昨日黒島が自分の迎えに使った黒のSUVの他に、それを更に巨大化させたような、チャコールグレーの装甲車じみた車両があった。SUVに向かいながら、

「俺と香山、斎城で。 そっちには川村、藤崎、尾倉で。現地に向かう」

 と指示を出すが、それを聞くまでもなく全員が自然と二手に分かれていた。

「運転は私が」斎城が申し出る。頷き、各自で車両に乗り込む。

 助手席に乗り込むと、車がスムーズに発車した。

 来た時と同じように交通規制の中を優先的に移動させてもらい、ゲートへと急行する。窓から見ると、ゲートから離れるように移動してくる車や人々とすれ違う。前方をどこか蛙に似た愛嬌ある面構えの戦闘車両…87式偵察警戒車が一台、横切っていく。

『現地の混成警備部隊から無線。スタンピードの前兆確認。至急応援求む、と』 

 黒島の声も硬い。

「了解した。現在急行中」

 車が原宿門から代々木公園へと乗り入れた。

 自分の記憶にあった公園内の自然豊かで穏やかな光景は、モンスターによるものか戦闘車両のせいか、見る影もなく荒れ果てている。外壁部分も一部が壊され、車輛の出入りを可能にしつつもモンスターの公園外への浸透を警戒してか、開閉可能なバリケード化されている。公園内外を21式メイルアーマーと騎兵銃で武装した自衛隊員が警備し、軽装甲機動車のハッチからガンナーが公園中心部に軽機関銃を向けて警戒している。 


 こちらを誰何しようと駆け出そうとした警官が別の警官に引き留められている。

「斎城、ゲートへ急いでくれ」

「了解」

 車が花壇跡を踏み越えながら公園中心部へと向かった。

『現地部隊と無線を共有する』

『スタンピード発生!スタンピード発生!規模・中!公園、封鎖せよ!規模・中!公園、封鎖せよ!』

 黒島の声を遮るように切迫した声が響き渡った。

 

 騎兵銃の発砲音。続いて軽機関銃の絶え間ない射撃音が響き渡った。

 中央広場に差し掛かると、破壊されて湿地帯と化した噴水池越しにソレがあった。

 真夏の路面に浮かぶ陽炎…それを濁らせ、毒々しくしたような空間。

 異空間は直径20メートル程の円環を描き、明るい真昼にも関わらずその空間内だけ黒煙が充満したように暗い。 しかもその中から、有象無象の怪物がひっきりなしに湧き出していた。

 スプリットワーム、コドモドラゴンといった見慣れたモンスターも見えるが、自分が初めて見るモンスターも見えた。

 

 数が多すぎる。


 スプリットワームは視界外、中央広場の外縁にまで突破し、正確に数える事は不可能だ。厄介なコドモドラゴンだけでも40体から更に増えつつある。そして新種らしきモンスター…剣を携えた…人のピクトグラムに真っ黒な墨を被らせたような外見。これが現時点で10体と続く。

 円環の外側には武装した自衛隊員や装甲車、そして自分達と同じようにそれぞれのカラフルなユニフォームの上に21式メイルアーマーを装備した東京ギルド所属の戦士たちが、多様な武器とスキルで応戦している。

 

 しかし…滝の下に立って、その連続する水量を我が身で堰き止めようとするような戦力差だった。スプリットワームの途方もない物量と、コドモドラゴンの頑強な装甲とパワーに苦戦を強いられている。

 しかも、その水量は途切れることなく…増水した川のように徐々に強まっている。

 堰き止めるどころか、体ごと濁流に飲み込まれる寸前だ。


「全員降車!敵を殲滅せよ!」考える前にヘッドセット越しに叫んでいた。全員の応答が返る。

 …殲滅など出来るのか?現れるモンスターはどんなに倒されても怯まずに湧いて出てくる。

 …いや、あの映像ではスプリットワームも途切れていたではないか。まさか無限に湧き出る訳ではあるまい、と自分に言い聞かせながらドアを開け放って飛び降りた。

「中央クランだ!」

 押されている兵の中から、味方を鼓舞するような大声が上がった。

 

「三人チームで行動!離れすぎるな。各人との距離は30メートル以内を基本!チーム間は40メートル基本!そちらのチームリーダーは任せるぞ、藤崎!」

「承知したァ!!」


 21式騎兵銃、装填。スキルは…今の所、一日に三回しか使えない。敵がどれだけの規模なのか、測りようもない。今は温存。片手射撃…十分に可能。

(星村、使わせてもらうぞ)

 筋力アシストの恩恵を噛み締めながら片手で射撃。 スプリットワームを単射で撃ち減らしつつ、コドモドラゴンに迫る。背後から二人が追随する気配にも気を配りつつ、20式騎兵刀で抜き打つ。

 胴を七分目まで切り付けて倒す。

 横目で香山と斎城の様子を見た。香山はスプリットワームを次々と屠り、斎城はスキル無しに日本刀を振るい、コドモドラゴンを難なく両断している。

(なんて腕だ…)


 次いで、藤崎チームの様子を見た。

 川村の大剣がコドモドラゴンを豪快に一刀両断。後方から迫るコドモドラゴンの前に尾倉が立ち塞がり、長剣で串刺しにした。藤崎は巨大な盾をスプリットワームに叩きつけて潰して回りつつ、危機に陥った者の為に盾をかざして救援に回る。

 これなら大丈夫、あとは味方が立て直すまでの時間の問題だ、という考えが脳裏を過りかけた。 黒い人影が2体。自分の前に立ちはだかっていた。

 

 背は150程度か。チーム一小柄な星村と同じ程度だろう。コドモドラゴンと比べるまでもない…これならスプリットワームの方が手強そうだ。

 …なのに、この悪寒は何だ?

(…とりあえず、ステータスを見てみるか)

 そう思いながら観察を始めた所、人影の手に当たる部分…そこからだらりと垂れ下がった…これもタールにでも漬けたような黒い剣…その剣先がピクリ、と動いた。

 それを見逃さなかったのは、剣道の最大の賜物だった。

 大袈裟なほどに飛び退ると、一体が自分の首があった場所を振り抜き、もう一体は反対側から自分の脇があった場所に剣を突いていた。アーマーに保護されていない急所。挟み込むような同時攻撃。


 その明確な殺意に目を瞬く。

 リスクを嫌い、10メートルの位置から後退しながら騎兵銃を撃った。

 一体は頭部が吹き飛び、もう一体は胴体を大きく抉った。どちらも、人間だったら間違いなく即死だ。

 だが、倒れる気配もなくそのままそこに佇んでいる。膝を沈みこませる気配。

(マズい…)

 それぞれの足に撃ち込むが、一体は既に跳ね、もう一体は片足を腿のあたりから吹き飛ばされながらも跳んできた。

 金属の悲鳴。

 一体を香山の薙刀が防ぎ、もう一体は斎城が防いで鍔迫り合っている。 

 どちらも振り払い様に香山と斎城の一撃を受け、地面に倒れた。そのまま何もなかったように液体、肉片の一つも残さず消えていく。

 刃物が有効なのか、予め自分の与えたダメージが蓄積されていたからなのかは判然としなかった。


「だ、大丈夫ですか!?」

香山が駆け寄ってくる。

「あ、あぁ、大丈夫。怪我はない…」

 それ所じゃ無いだろう。

 まだ公園内にはアレが8体居たはずだ。あれが常駐部隊や藤崎たちの不意を突いて襲ったら…その可能性に戦慄しつつ顔を上げる。

 ソレは居た。

 コドモドラゴンやスプリットワームが猛然と自分以外の味方に向かっていくのに対し、あの8体の人影は自分達3人を取り囲み、佇んでいた。


 ただし、その表情のない黒ずくめからの殺気は…自分だけに向けられている気がしてならない。

 

 香山と斎城に両翼を守られる形で、ようやく落ち着いてステータスを観察できた。

「対勇者魔造兵」

 なんだそれは…?

 王道RPGゲームソフトの表紙を飾る主人公しかイメージできない。

 両翼の香山、斎城とそれぞれ顔を見合わせる。二人も微かに困惑した様子だった。

 ともかく、騎兵銃では有効打にならない以上、防御もできる騎兵刀で戦うしかない。抜刀し、余計に正体の謎が深まった人影と相対する。

 人影は八方を隙間なく包囲してくる。


『大淵、何があった!?』

 藤崎からの通信。

「新種に絡まれている。そちらは大丈夫か?」

 藤崎達の方向は見ずに通信を返す。下手に視線を逸らして首を落とされる愚行だけは犯したくない。

『無事だ!ただ、救援に向かいたいがこちらも他の雑魚がひっきりなしに湧いて、防衛部隊と共に手一杯だ!今回のスタンピードはゲート出現以来…最大規模だろう!気を付けろ!』

『こちら黒島。念の為、新種の情報を確認したい』

「剣ごと全身黒タイツの変質者みたいな見た目だ。…対勇者魔造兵、とだけある」

 無線機の向こうでも黒島が言葉を失っている。

『…勇者なんて職種は世界中探しても存在しない。…現代科学と無縁な密林で隠れ潜んでるなら別だが。…ただの都市伝説だ』


 そう言う黒島の声も困惑の色を隠せなかった。現に、そんな名称の敵性存在が自分達を取り囲み、感情の無い殺気を放っている。

(未来から送り込まれた暗殺ロボットかよ)

 そうだ、ちょうどあのSF映画のそれの雰囲気だ。

 何の感情も無く、その任務を確実に遂行する為だけに、執拗に、健気なまでに主人公達に襲い掛かる。


 不気味な暗殺マシーン共が一斉に動き出す。三人で背中合わせになりながら迎撃する。

 香山、斎城にそれぞれ2体ずつ襲い掛かる。しかし香山も斎城も、一体につき一撃で仕留めていく。

 やはり、刃物なら一撃なのか?

 自分の元に押し寄せて来る四体の人影。勿体ない気もするが念の為…スキル発動。先頭に迫る一体を剣ごと切り払う。香山や斎城がそうしたように、確かに胴体から両断した。角度の違いはあるが、そう変わらない袈裟切りだ。

 だが、切られた影は一度切り伏せられながらも、何と…剣を持った方の胴体だけで宙に浮かび、再び迫ってくる。


「嘘だろ…」

 続く二体目を切り払う。やはり切られても、剣を持った腕だけになってでも浮かんでくる。

 三体目、四体目を相手にするうち、腕と胴体だけになった影も剣を突き出して迫ってくる。鎧を削られ、頬を裂かれ、足を突かれ…体のあちこちから血が滴る。

(防ぎきれん!)

 背後を守っていた二人が影を始末し、加勢してくれた。この二人に切り付けられた影は、腕だけになった物も胴体も、一撃で地面に落ちて掻き消えた。


 大輔に対する不死身紛いの執拗さに対して、自分達に対するこの呆気なさ。二人から動揺と困惑の顔を向けられるが、こちらが聞きたいくらいだ。

「あっ、動かないで…」

 香山が大淵の裂かれた傷口に手をあてがう。

 アドレナリンで感じなかった痛みを一瞬だけ感じるが、すぐに心地よい温かみに変わる。

「ありがとう」

 香山に礼を伝え、周囲の状況を再確認する。軽装甲機動車が横転させられ、駐屯部隊は更に広場の外側へと押し出されていたが、持ち直しつつある。

『こちら神宮前バリケード! コドモドラゴン含む敵の猛攻を受く!応援求む!』

 改めてゲートを見た。敵の勢いが少し収まったように見える。 …自分ではどうにもできないが、あの新種の倒し方もとりあえず分かった。これなら自分達で何とかなるのではないか?


「藤崎、行けるか?」

 すぐに通信が返ってくる。

『うむ、任せろ! だが、そちらも無茶はするなよ!』

 ようやく拘束を解除された気分だった。騎兵銃でスプリットワームの駆除を再開し、コドモドラゴンには騎兵刀を叩き込む。 こいつらは自分にとって敵ではない。 敵を蹴散らしながら東へ向かう藤崎ら三人の姿が確認できた。

 一体のコドモドラゴンが迫る。騎兵刀で切り払うが、なんと腕で弾き返されてしまう。


「うッ!?」

 油断したのもあろうが、個体差という物か、明らかにこれまでのコドモドラゴンの動きや強度とは違う。相手が巨大な拳を振り上げる。

 アンカーパンチ。

 3メートル越え、平均重量3tの巨体が渾身の力で振り下ろす、岩のような質量の爪と剛腕。

 一説には装甲車すら中の乗員ごと貫くのではないかと言われる、対人必殺攻撃。

 ましてやこの個体は、他のコドモドラゴンよりも一回り大きく、格闘技の応用さえ感じさせる動きだ。その力は間違いなく装甲車どころか、戦車だって被弾箇所によっては危ういだろう。


 直撃すれば助かるまい。跳び退って距離を取ると、なんと拳を振り上げたまま、距離を詰めてきた。

「!?」

 予想外の動きだった。

 着地する瞬間に追いつかれた。咄嗟に騎兵刀と腕を突き出し、とにかく頭部を守りつつ衝撃に備える。

 この世のものとは思えない衝撃。一瞬、意識を失いかけるが、何とか気力で耐える。

 体の節々に痛みを感じながら起き上がると、騎兵刀は針金のように無残に折れ曲がってしまっている。

 ふらつく自分に向かって突進して来る気配。

 斎城が目にも止まらぬ速さで割って入り、神速の居合。

 万全とは言えない間合いと無理な体勢にも関わらず、ドラゴンの左腕を切り落とし、胴体に相当な深手。更に左腿も中ほどまで抉り取った。

 それでも斎城には目もくれず、気でも触れたように余計に加速してこちらに突進し続けて来る。

 

 刺し違えても絶対に俺だけは道連れにする…そんな明確な殺意を感じた。

「こちとら二度も三度も死ねるかよ…」

 

 剣道以外の格闘技にそれほど興味が無かった自分が唯一知る格闘技らしい格闘技…

 ボクシングのストレート。

 

 身構え、腕に力を入れる。プロならそんな無駄な事はしないだろうが、あの怪獣とやり合うなら文字通り渾身の力が必要だ。両腕から凄まじいクラック音が鳴り響く。

 追い縋る香山と斎城を振り切り、怪獣がアンカーパンチを振り上げた。

「逃げて!」

 悲痛な顔で斎城が叫ぶ。香山も何か叫んでいる。

(そうしたいが、もう足が棒きれで…意識も飛びそうだ…) 


 足は体を支えるので限界だ。それもアーマーの筋力アシストによるものだ。自分の気力で動かせるのは、もうこの上体だけ。足を踏ん張れない為、生身の身体では無力なパンチしか繰り出せないだろう。

 だが、今はこのメイルアーマーの筋力アシストと、スキルがある。

 これが今の自分に残された最後の武器。

 赤い燐光が全身を包む。

 限界までパンプアップする両腕。


 迫りくるパンチと、本能的に繰り出した自分の左ストレートが交差する。

 軽い衝撃。

 衝撃の反動もありながら引っ込めた左腕と入れ替わりに、右腕が繰り出される。体が自動的に動いているだけで、もう意識は無かった。




 心地よい温かみを上下から感じる。続いて芝生の匂いが近い事に気付く。自分は倒れているのか?

 耳障りな消防のサイレンの音に、人々のざわめきが聴こえてくる。ようやく目が開くと、香山の顔が視界を占めていた。安堵の表情を浮かべている。次いでその上から斎城が覗き込んだ。こちらも普段見せないような不安そうな顔を、ようやく安堵に和らげた。


 身を起こすと、自分が斎城の膝を枕代わりにしていたことに気付く。まだはっきりしない思考のまま、ぼんやりと視線を巡らすと、藤崎と尾倉がひっくり返された軽装甲機動車や96式装輪装甲車を慎重に戻している。そして、自分から20メートルほど離れた芝生の上にあのコドモドラゴンが仰向けに倒れていた。顔は見えない。 

 頭部は消し飛び、胴体にも大きな孔が穿たれていた。

 何が起こったか考えるのも億劫で、図々しくもそのまま斎城の膝枕と香山のヒーリングに戻って目を閉じた。

 とにかく、自分は生きている。それで十分だ。

(こうしてるのが一番だ…)

 心地よいまどろみに意識を委ねた。



 

 

 



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