冒険再臨
2月21日
「…二週間ぶりだが、こいつは凄い。エベラも見違えるようになったな…」
大淵小隊一行は、ルーヴァリスから発着しているCH‐47で港町、エベラに到着した。エベラに設けられた発着場にはお馴染みのオスプレイが待ち構えていた。
小型の船を造船して海路を開拓する計画も検討されたが、クラーケン等海洋モンスターの襲撃リスクを鑑み、依然として空路が大陸への主な交通・輸送手段だった。
「次の便まで時間があるな。浮田、射方。時間まで町の中を見て回って来ても良いぞ。日本人が運営している基地は基本的に日本の通貨が使える。…キャッシュレスは使えないがな。それと、ここでは必要ないだろうが現地通貨を幾らか支給しておく。ちょっとしたものを買うのに使える額だ。貨幣価値表は持ってるな?」
黒島に通過を渡され、浮田は微かに困惑し、射方は元気よく敬礼して見せた。
「イェッサー!ちょっと見て来ます!」
「浮田、お前も遠慮せずに行ってきたらどうだ?これで当面、息抜きはできなくなるかもしれないぞ?」
「は、はいっ」
大淵に促され、浮田は大淵に敬礼してから町中を探索し始めた。
(現地の食材店…日本の食材店…武器屋や雑貨店まである…)
雑貨店は、外装こそ中世の店をイメージしているが、店の中の品揃えは日本の平均的なコンビニと同じだった。
ふと、ポーションなる代物に目が留まった。ゲームで定番の回復アイテム。赤色の、ややとろみのある液体が透明な強化プラスチックの管に詰められていた。…かなり売れているのか、10本ほど並んでいる。
「新人さんかい?」
店主はごく普通の民間人に見えたが、腰には護身用の大振りなナイフを装備していた。
「は、はい。あの、これって…」
「そう、回復薬だ。…味は青汁と良い勝負だが、飲むだけであら不思議、弱い状態異常や簡単な怪我ならすぐ治っちまう。パーティーにヒーラーがいる贅沢なギルドなんて、超大手ギルドか、天下の大淵小隊くらいのもんだからな。まさに旅の必需品さ」
一回分・100ml。一本5000円。 …まぁまぁな値段がするが、これでいざという時に自力で回復できるなら、高すぎるとは思わない。…多分、足手まといになるであろう自分自身に使う事になるだろう。念のため、二本買い求めた。
「因みにプラスチックに見えるが容器は土に還るから、ポイ捨てOKだ。逆に、土に触れてると劣化したりするから直置きや埋めるのは厳禁な。…まぁ、そんな事する馬鹿はいないと思うが…」
ポーションを自分のレッグポーチ…個人用簡易救急セット入れに仕舞い込み、店を後にした。
(くぅ~、ようやく異世界に来たって感じ!…あとは武器が剣とかだったらなぁ…)
ちょうど、目の前に武器屋があった。日本でも売っている刀剣や槍、斧などが陳列されている。…東京の町中で飾られているそれらは、まるで子供のオモチャに見えるが、このビル一つ無い空の下で見れば、かつての中世の騎士達と同じ気分になったような気さえする。
…翻って、自身の腰に装着された21式銃剣の頼りなさ…まぁ、ナイフよりはリーチもあるが…銃に着剣して使用する事を前提として設計されている為、そこいらのナイフよりもどこかシンプルで安物っぽく、いかにも頼りない。…まさに非常用の武器、だ。 …しかも下手に硬い相手に使うと銃自体も痛めるという致命的な欠点もある。
「…まぁ、砲兵よりはマシか…」
その点、銃士より高い火力兵器を扱える砲兵はその分、自衛手段すら無い。白兵戦に持ち込まれたら、そのお荷物感は銃士のソレとは比較にならない。
「…何が砲兵よりマシだって?チーピッピ?」
「うわっ…射方か…なんだよ、そっちこそチーなんちゃらって?」
「別に。あんたチーチー鳴きそうだから」
「…そんな風に鳴かないよ。あ、それより雑貨屋のポーション買った?なんか異世界って感じだよな!」
「…さっすがガキらしく浮かれてるねぇー。第一、そんなもん買ったって、後方戦闘員のあたしらが怪我してる時点で全滅確定じゃん」
(ガキって…どうみてもお前の方がガキだろJK…)
浮田はムッとしながらも、それを言い返すだけの度胸は持ち合わせていなかった。
「おい、お前浮田か?」
聞き覚えのある声に振り返ると、クビになったクランで同期だった弓士の井川だった。
…同じ遠距離攻撃系でも、弓士と銃士とではギルドにおける扱いは全く異なる。自衛隊では特に歓迎されないが、ギルドでは銃士より高く、砲兵より高いピンポイント攻撃力が評価され、ステータスさえ一定水準以上なら、多くのギルドで歓迎されていた。
「井川、元気そうだな」
「やっぱり浮田か!クビになったんじゃなかったのか?」
「ああ、クビになったよ。…でも今じゃ、大淵小隊の一員だ」
「う、嘘だろ…マジかよ! すげぇ…!」
「井川もこれから大陸に向かうのか?」
そう訊ねると、井川はばつが悪そうに表情を翳らせた。
「…いや、俺達は引き上げてきたんだ。…パーティが壊滅しかけて、態勢を立て直すために命からがら逃げてきたんだ。 …止めたんだけど、それでも行くっていうパーティも居たんだが…無事だといいが」
「マジか…そんなヤバいのか?」
「アルダガルドは平和だよ…そこから西の港湾国家、ブレメルーダに行こうとしたんだけど、街道にとんでもない化物が現れて…ありゃ絶対ラスボスだよ。今頃、アルダガルドの討伐隊も編成されて出撃している頃だろうよ」
アルダガルドなどと言われても土地勘など全くない為、分からない。時間が迫っていた事もあり、相槌を打って話を切り上げた。
「そ、そうなのか…あっ、悪い、集合時間だから行かなきゃ!」
「お前も気を付けてな!」
発着場に戻ると、黒島達が待っていた。
「よし、全員揃ったな?それじゃ、先ずはアルダガルドに行くとしようか」
「アルダガルド…って…あの、大淵隊長…」
機内で大淵に、仲間から聞き出した情報を伝えた。
「バカな…」
大淵は愕然としていた。
「お前が退治したって言う例の蜘蛛女か?」
「…いや、嘘を吐くようには見えんかったが…それとも俺の見込み違いだったってのか…?」
「…アルダガルドに着くまで待つしかないな」
大淵は眼下の大海原を見渡しながら険しい表情を隠さなかった。
リディーネベースには乗り継ぎの為のV‐22が駐機されていた。ベースも建物を建てて充実させており、リディーネの住民とも交流しながら共生しているようだ。
待機しているV‐22オスプレイに乗り換え、再びアルダガルドベースを目指した。
…着陸したアルダガルドベースはこれまでのベースとは違い、緊迫した空気に包まれていた。王国の兵士が基地周辺を警戒してくれていたが、その顔は誰もが怯えを隠せずにいた。
「ダイス殿ですか!?」
衛兵隊長の一人が大淵の姿を認め、顔を明るくさせながら呼びかけてきた。
「お久しぶりです。…街道に再び怪物が出たとの噂を聞きました。ハサム殿はどこに?」
「…ハサム様は怪物を討伐するため、3000の精兵を引きつれ、今朝出征されました。…ダイス殿の同国人の方々も向かわれましたが…未だ誰も戻って来ません」
「…すぐに後を追います」
「ありがとうございます!」
…ハサムは、あのロキをも弱気にさせた程の大豪傑だ。心配するだけおこがましいという物だろう。
「…聞いたな? 全員、すぐに出発するぞ。騎兵以外は一号車と二号車に分乗して出撃だ。 浮田は一号車、黒島と共に。射方は二号車に」
三台のバイクと二台の高機動車を取り出し、大淵はバイクに跨った。…当然のようにマオもそのリアシートに収まる。
「銃士、砲兵の二人はいつでも撃てるように。それと警戒よろしく頼む。黒島も助手席から射撃用意頼む」
「よっしゃ、任せな」
幾台ものエンジン音を響かせ、大淵小隊が進発した。
…四時間も走った頃、前方に異変が見えた。転々と人が倒れている。…左手には雄大なロナレ側の豊富な清水が流れている。
ハンドサインで全隊に減速を促した。…糸などのトラップは見えない。
バイクを止め、香山と共に倒れている人影に近づいた。…見覚えのある鎧を着込んだ、アルダガルド王国軍兵士…汎用剣士や汎用騎兵だ。
「おい、大丈夫か?」
体の傷を検める。…切り傷や刺し傷は無く、打撲や瓦礫による怪我が殆どだ。…糸の痕跡も僅かに見られるが、拘束されたようにも見えない。
「一体どういう事なんだ…?」
アラクネの痕跡もあるが、捕食された訳では無い。殺害するにも、奴の武器は手刀や爪による突き刺しだったはず…
ざば、と水音がして、大淵達は身構えた。
「水の…アラクネか?」
「ああ、ダイス様、お久しゅうございます!」
その左手には糸に絡められ、ぐったりとした兵達の姿があった。糸は鎧を着込んだ屈強な兵士たちを乗せながらも水上を浮行できるらしく、兵達は溺れることなく川面から陸へと引き上げられた。
「…これは、どういう事だ? …お前がやった…訳じゃないよな?」
「滅相もございません!私は川に隠れ、息のある人間を後方まで運んでおりました。…とんでもない怪物が目覚めてしまいました。コロンの再来と呼ばれる大英雄が今、戦っている所です」
「…疑ってすまなかった。一体どんな怪物だ?」
「巨大な人型モンスター…あれこそ太古の大英雄コロンと大賢者カーバが共闘してこのタリエラ山中の何処かに封印した、ベヒモスでございます。…何者かが封印を解いたのでしょう」
「…勿論応援に向かうが…ハサム殿なら、勝てるだろう」
「…確かにあの強さ、大英雄の再来と呼ばれるだけのことはあります。…しかし、相手はその大英雄と大賢者が死ぬ思いで封印した魔獣でございます」
「…桜、負傷者の様子は?」
「皆気を失っているけど、分散して全体化ヒールを掛けたから、脳が回復する時間が立てば意識を取り戻すよ、大輔君」
「…よし、先を急ごう。 ありがとう、アラクネ。きっとここにもアルダガルドの後続部隊が来るだろうから、お前は見つかるとマズい。 …もう戻って良いぞ」
しかしアラクネは首を横に振った。
「…いいえ。私はここでダイス様をお待ちしておりました。…本来なら駆逐されるべき身をお助けいただいた御恩、微力ながら御身の為にお返しさせてください。…引いてはそれが人々へのせめてもの償いにもなるでしょう」
「…」
…アラクネは覚悟を決めているらしく、どうあってもついていくつもりらしい。
「…一号車が空いているな。そこの鉄車に乗れ」
「ありがとうございます!」
「やぁどうも美人さん。俺やこの新人君がイケメンだからって、糸巻きにしないでくれよ?」
「はい、戦いが終わったらゆるりと」
黒島は物怖じもせずにアラクネと軽口を交わし、浮田は美しくも恐ろしい姿のアラクネに畏怖の混じった眼で見入っている。
「再出発だ。…負傷者の状態からして、そう遠くないだろう」
「おのれ…」
眼下に累々と横たわる兵達や、応援に駆けつけてくれた日本の戦士達に気を配る余裕もなく、ハサムは自分の体を押し包んで潰しにかかる掌に抗っていた。
…既に自身の唯一のスキルである身体強化も使い果していた。SP:2の表示が虚しく点滅している。
「…ぐぉおおおお!」
力を振り絞って雄叫びを上げ、自身を捉える掌に抵抗した。…疾うに生への執着など捨てている。…ただ、自分が斃れればまた誰かがこの化物に襲われ、或いは戦わねばならなくなる。
そうなる前に、死力を尽くして片目一つ、手足の一本だけでも喰い千切ってやりたかった。いや、相打ちにしてやりたい。 …だが、この化物はそれすらも許さない。
…唯一の未練は、屋敷で待つクリフェとカナをまた親無し子にしてしまう事だけ。それだけは悔いても悔やみきれなかった。
死力を尽くした抵抗は、無情にも更なる力で抑え込められた。咆哮は悲鳴に変わり、内臓が潰されていくのを感じながら、生まれて初めての絶望の時を味わわされた。
「グリフェ…がナ… ずま ん…」
…血が逆流し、言葉すら満足に発せられない。
…死んだ妻が手を差し伸べてくれている気がした。 もう大丈夫、あなたはよくやった、と…
…マーシェ…
「照準、糞デカブツ! …てェーッ!」
激しい砲火と、明らかに異次元の威力を誇るエネルギー体が巨腕を撃ち抜き、自身の体が落下するのを感じた。
「黒島頼む!」
「アイサーッ!」
手の平ごと急速に落下していた世界が、羽になったようにゆっくりとしたものに変わる。
「どーも、二週間ぶりくらいですかね? …ああ、失礼、どうか喋らないで。すぐにウチのヒーラーが手当てしますんで」
大淵の強弓が二射目を放ち、十五メートルほどの黒い巨人の胴を穿った。巨人は悲鳴を上げるが、信じがたい再生能力で傷をすぐに癒してしまう。既に新しい腕が生え、胴体を消滅させる手前だった程の穴も塞がりつつあった。
…そのHPは破格の1100000。大淵の矢を受けて700000まで減りかけたものの、一分もしない内に1000000を超えてしまう。 ならばMPはというと、まだ800以上もある。
「大淵、ド定番だ。頭をやってみろ!」
黒島がハサムを香山の待つ後方へと送り届けながら、大淵に呼び掛けた。
「おう!」
大淵は次の矢を番え、渾身の力で引き絞り…頭部に向けて放った。
爽快な破裂音と共に巨人の頭部が弾け飛び、下顎の一部と、支えを失ってだらりと伸びた舌だけが残った。
HP:0 MP:700
「さすが、チート武器だな」
黒島が冷やかす。
「ああ、この弓矢のお陰だ。どれ、念の為に胴体も…」
「ダイス様ッ!」
アラクネの声に反応するまでもなく、嫌な気配を感じて振り返っていた。
…しかし巨大な図体からは信じられない程速い張り手が、大淵を掠めた。左腕はあらぬ方向に捻じ曲がり、臆病熊の弓は遥か遠くの崖の上にまで吹き飛ばされていた。
「くッ…そぉ…ドジっちまった!」
「俺が弓を拾ってくる!お前は香山に直してもらえ!」
黒島が駆け出し、崖の下から再びスキル・天駆で崖の上へと跳んだ。
「大輔君!待ってて、今…」
香山が大淵を連れて下がり、ヒーリングを始めた。
ベヒモスは頭を修復し直し、HPも元通り1100000に戻った。MPは残り600。
「食い止めるぞ! 一斉射撃!」
大淵は右手で収納から対物ライフルに持ち替えてベヒモスを攻撃した。これに浮田がスキル・射撃強化(弱)で火力増強した7.62㎜機関銃で射撃を開始し、射方は40㎜てき弾銃でベヒモスを足止めした。
「ったく…そもそもなんであの化け物は封印が解けてるんだ?」
黒島は三十メートル以上ある崖の上で、白樺に似た木の枝に引っ掛かっている弓に手を伸ばした。
…違和感を感じ、視線を下にずらすと、気の根元に老人が佇み、穏やかな笑顔で黒島を見上げていた。
「…爺さん、どっから来たんだい?アレは見ものかも知れないが、ここは危険すぎるぜ?」
…老人は何も答えず、ただニコニコと黒島を見上げているだけだ。
怪訝に思いながらも弓を拾い、老人の元に近づいた。
…小さい。ホビットって奴か?一メートルも無いかもしれない。ボロボロの寒冷紗のような布を纏い、童話の中に出て来る魔女のように長い鼻。 なるほど、妖精…というよりはなんとなく妖怪に見えるが…
その赤い眼を見つめ、黒島は不思議な感覚に陥っていった。
「畜生め…弓矢がねーとキツいか…!」
こんな化物相手に拳一つで挑んでいたハサムが信じられない。しかしハサムは内臓にまで及ぶ重傷を負い、香山による入念な治療を受けて居る真っ最中だった。数時間も戦っていたらしく、疲れとダメージから目を覚ます気配はない。
「…最悪、一時撤収も考えとかなきゃな…」
ベヒモスの一撃を避けつつ、敵の注意を引く。 その隙に尾倉、川村、斎城、アリッサ、リザベル、アラクネが巨人の背後や側面から一撃を与えては離脱する。浮田の7.62㎜機関銃と射方の40㎜てき弾の攻撃も、絶えず巨人を削り続けている。
…これだけの精鋭の集中攻撃を受けて、なおもHPは50万を下らない。斎城とアリッサ、自分の一撃で40万、リザベル、尾倉、川村、アラクネ、そして射撃チームからの攻撃で20万… こちらも十分、頭がおかしいとしか言えない超火力だ。しかし、それ以上攻撃を加えると修復され、また110万にまで戻ってしまう。
…だが、パターンは分かってきた。
このパターンを繰り返していれば、さすがにMPも残り400を数えてきた。…あと三回追い詰めれば、コイツをやれる。
黒島が弓を手に戻ってきた。…ありがたい。弓があればあと三射で終わる。
「悪い悪い、ヘンな爺さんに会ってな」
ベヒモスの大振りなハンマーパンチを避け、ついでに黒島の元へ飛んで弓を受け取ろうとした。
「…てッ!?」
胸に痛みを感じて見下ろすと、自分の胸板に騎兵刀が刺さっていた。…妙な音が漏れる。
「……え?…は?」
事態が読み込めず、目の前の黒島を見上げた。
黒島は冷ややかな笑みを浮かべ、自分を見下ろしているだけだ。
周りの絶叫と怒号も聞き取れず、とにかく思考を最小限に絞った。
…このままだと二人共ヤバい。
真上にハンマーパンチが迫っていた。黒島は避ける気配もなく、そこに佇んで自分を見ていた。
「…くそッ!」
黒島を抱きかかえ、その場を跳んだ。黒島は抵抗するでもなく、されるがままになっている。…他に武器は持っていないようだが…
「ッ…」
着地すると同時に、胸の痛みがどういう物か分かってきた。
…肺を貫通している。…香山に…桜に直してもらわねば死ぬ…
呼吸に血が混ざり始めていた。…入ってはならない場所に血が入り込み、俺を殺しに掛かっている。
ベヒモスは自分の窮地を知ってか、攻撃して気を引こうとする仲間達に目もくれず、一直線にこちらに向かってくる。…全ての糸を出し切ってアラクネと藤崎、尾倉が引こうとするが、まるで気にせず向かってくる。…あの強靭な糸を束ねた大綱の方が千切れた。
…この体では、これ以上黒島を抱えて逃げる事も敵わない。…敵に追われていては桜に治療してもらう事も不可能だ。
…あと何分で失血死か、それとも血が気道を塞いで窒息死か…
…完全に詰んでいる。
…足元では、何かに操られたとしか思えない親友が気を失っていた。
(全く…いい気なもんだ)
含み笑いをする口の端からも血が止まらない。 …選択肢は一つしかない。
(…借り一つだ、勇者…)
二つだ、大馬鹿野郎
自分の周囲をどす黒い闘気が覆い尽くした。




