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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー


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帝都決戦

 2月9日

 

 午前0時23分。 3階にある大淵の執務室でデスクに勝手に座り、雑誌を読みながら大容量のカップ焼きそばを貪っていた。デスクの上には勝手に大淵の名前を書き込んだ、自身の所有するベスト・コレクションのグラビア雑誌が何冊も重なっている。

 デスクの脇には星村が予め試作してくれてあった、スタン・ガンが立てかけてある。…セミオート式の軍用散弾銃に「麻痺」の魔法石を埋め込み、弾丸は暴徒鎮圧用であるビーンバッグ弾を撃ち込む。

 …使いたくは無いが、殺害用のシェルもレッグポーチに詰めてあった。それは厳重に封をし、間違って取り出す事が無いようにしている。

  

 散々読んだ雑誌をデスクの上に重なる雑誌の上に乗せる。…もちろん大淵の名が書いてある。

 大淵の趣味はどうか知らないが、自分の趣味はスレンダータイプだ。 …だが安心しろ、盟友よ。ちゃんとお前好みであろうダイナマイトボディのビキニギャルもしっかり網羅してある雑誌だ。 …我が形見としてくれてやろう。


 極めてジャンキーな味が病みつきになるそのカップ焼きそばを咀嚼しながら、スタン・ガンを背負い、騎兵刀を腰のホルダーにしっかりと装備してから執務室を出た。既にメイルアーマーは着込んでいる。 そして執務室左の階段を通り過ぎ、一台の自販機と観葉植物、テーブルが幾つか並ぶ休憩所エリアに向かい、外の夜景に目をやった。


 スキピオは憂国烈士団により随分と鎮圧されたようだ。…相当の都民が犠牲になってしまったが。

 連中の狙いは恐らく大淵と魔王の拉致、若しくは殺害と遺体回収だったのだろう。…しかし憂国烈士団が邪魔だった為、都内の各所で破壊活動をして各勢力を攪乱し、各戦力を分散させようとした…そんな所か。

 …最も、報道やゲリラとして活動する自衛隊からの報告によれば、スキピオの連中が殺人を心から楽しんでいる節は明らかだが。


 3階に一台だけあるカップ自販機でコーヒーを購入した。取り出し口にカップが落ち、コンビニのそれと比べるとやや弱いが、まぁまぁ幸せになる良い香りが漂ってくる。


 都内で憂国烈士団による異変が起きた途端、一階の売店から大半の飲食品や日用雑貨を尾倉と藤崎らに手伝ってもらいながら三階の居住エリアへと運び込んだ。ついでに、事態が本格的に悪化する前に、食堂で最後になるかもしれない、まともな食事を全員で摂った。その後、施設で働くスタッフを全員自宅へ避難するよう指示した。…烈士団による包囲封鎖が敷かれたのはその直後だった。


 藤崎と尾倉に「収納」の魔法石を取り込ませ、一階玄関付近に潜ませた。最初に入ってきた奴は藤崎によって”没収納”された。

 それからは今の今まで膠着状態が続いていたが、日付が変わる頃から何やら外が殺気立ち始めたのを感じた。丁度、自分が宿直の時間だ。寝られるかどうかは分からないが、メンバーは各自室で仮眠を取らせて休ませていた。 玄関も今は尾倉が警戒している。


 大淵にアリッサ、香山が抜け、戦力は大幅にダウンしている。…まったく、つい二ヶ月前…クランだった頃はただの器用貧乏なリーダーだったってのに、今ではこの日本最強と名高いメンバー内でも…勇者やロキの力を抜きにしても、ダントツの戦力だ。…総合的なステータス数値は辛うじて斎城やアリッサが勝っているものの、数字では表せない能力…遠近を問わない極めて高い戦闘能力や、工夫次第でとんでもない力を発揮するスキル活用…これらを加味した総合能力は最早、斎城やアリッサを越えたと言っても過言では無くなっている。


 …呆れ果てたことに、ステータスすら竜騎兵レベルに追いつきつつある。SPに至っては既に世界レベルの中堅術士並の大容量だ。 …奴こそ魔王にでもなるつもりか?

 

 窓の外にはらり、と白い者が舞い落ちた。


「小雪か…」

 

 今日は特別に…いつでも体を動かせるよう、贅沢に館内全ての暖房を動かしていた。そのため感じにくかったが、この都心でも名残雪が降るとは…

 

『問題が発生した』


 尾倉から通信が入った。

「敵か?」

『…下に下りてきて欲しい』


 この状況で無線の傍受を警戒するとは何事だろうか…

 コーヒーを飲み干し、階段から一階へと向かった。


「なんとまぁ…」

 一階の談話室の床に隠された隠し通路があり、階段で地下から登ってきた警備スタッフに先導され、首相以下閣僚が談話室に立っていた。


「夜分お邪魔して申し訳ありません。 怖い人たちに官邸を追い出されまして」

「追い出されるならまだしも、追いかけられてるんじゃないですか?さすが、支持率が高いだけあって人気者ですねぇ」


 岩田と黒島はお互いに疲労を滲ませながらも冗談を交わし合うだけの余裕を周りに見せた。


「あー、SPさん、三階に行って、305の部屋から川村と、306の藤崎を呼んで来てもらえます? あと、他の寝ている隊員も全員起こして下さい」

「はっ!」

 一人が身軽に階段を駆け上がっていく。


「それにしても驚いたな。…こうなると見越していた訳じゃないでしょう?」

 議員一行を階上へと案内しながら、二階で川村達が来るのを待った。

「この拠点を改修するのと同時に、ここに繋げておいたんです。…まさかこんな事になるとは思いませんでしたが…元々、非常事態に備えて掘ってあった避難トンネルですが、それを拡張しました。 …追手が途中の分岐で迷って、時間を稼げればいいのですが」


「取り合えず、ご無事で何よりです。…しかし敵も馬鹿ではないでしょう。少なくとも何人かはここを思いつく筈です。…共に一戦交える覚悟はして頂きます」


「クロ、何かあったん?」

 川村と藤崎が完全武装で降りてきた。

「おお、この通りお客様がいらっしゃってな。…談話室に秘密の通路があるが、そこから追手が来る可能性が高い。可能な限り藤崎が没収納して、しきれなかった奴は川村が対処してくれ」


「オッケー!」

「心得た!」

「ここを破られるとケツに座薬をぶち込まれたみたいに一気に崩壊する。…キツいだろうが頼むぜ」

 

 …ヤバくなったら降伏しろ、とは言いたくても言えなかった。自分達が降伏する事は、政治家とはいえ、岩田らの命をむざむざ殺させる事になるのだ。

 

 階下に向かった二人を見送り、黒島は議員一行を二階装備庫へとツアー案内した。

「VIPルームが無いのでご容赦を。ここが一番丈夫な部屋なので」

「居心地が良さそうですね」 岩田も笑顔で応じた。


 議員一行を装備庫に隠し、カードキーでロックした。カードは殺傷用シェルが入ったポーチの裏に隠された小物入れ…ちょうど、メモやカードを隠すための部分に隠した。…万一自分が殺害されても、わざわざこの中身をしっかり検める程ねちっこい連中ではあるまい…


 もっとも、見つかればせいぜい数分で連中に入り口を破壊されるだろうが。…ささやかな時間稼ぎに過ぎない。


 今度は三階に向かうと、斎城とリザベルがいた。…現在、この拠点内の最高戦力の両頭だ。

 ただ、リザベルは魔王軍所属だ。…後々の遺恨を増やさないためにも、可能な限り戦わせたくない。

「よし、リザベルは人間の姿になってくれ。…この二階と三階で、各階の窓から侵入者が入ってこないか見張っていてくれ。…万一侵入されたら、その時はまずコイツで戦ってくれ。…ヤバくなったら投降を…」


「有り得ん。魔王様の許可なく虜囚となることはできん」

 リザベルは断固として言った。

「…わかった。じゃあ、ヤバくなったら俺を呼んでくれ。それと、なるべく人間を殺さないようにしてくれ。殺すと、後々魔王の立場が悪くなる。いいな?」

 そう念押しし、白樫の木刀を渡した。

「心得た」

 リザベルは凛とした表情で頷いた。


「斎城は尾倉と一緒に一階を警戒してくれ。…手足の一、二本は仕方ないが、なるべく殺さんでくれ」

「ひどいなぁ、人斬りじゃないんだから」

 斎城が苦笑した。

「冗談だよ。…しかし、星村が学校で休みだったのはせめてもの幸運だな」

 …敵とはいえ人間の…下手をすれば味方の血を見る事になる。そんなのはまだ多感な年頃の星村に絶対見せたくなかった。


 

 倒した自販機やテーブル、やベンチで組んだ玄関バリケードの隙間から外を見ていた尾倉が静かに声を上げた。

「…勘付かれたらしい」


 今までは遠巻きに拠点を包囲し、自分達を首相や大淵・魔王に合流させないよう釘付けしているだけだった烈士団が、その距離を一斉に縮め始めた。


 外部スピーカーにリンクした無線機を取った。

「こんな未明に何のご用かな? 異次元空間が見て見たくなったか?」

 外からも拡声器で応じられた。

『隠しても無駄だ。売国奴共を匿っているだろう? …引き渡せばお互い穏便に済む』

「穏便じゃねーだろ、既に。…なぁ、悪いコトは言わん。今からでも考え直せ。今、お前らのやろうとしている事を、子どもや嫁さん…家族たちに見せられるか?本当にそれが憂国の士がやる事か?」


『…大義の前では仕方の無い事だ。犠牲の無い変革は絵物語にしか存在しない』

「その大義が既に絵物語なんだよ。なぁ、自分から戦争を仕掛けるこたぁねーだろ?これから異世界とは急速に交流が進むはずだ。…時間はかかるだろうが、お互いに…」


『米国の言いなりになるしかない政権に何ができる? …今に米国が介入し、彼の世界の富と利益だけを全て持ち去るだろう。…そして、富国強兵化の千載一遇の好機を失った日本は取り残され、あの蛮族共が牛耳る覇権主義国家に囲まれ、立ち枯れていくのだ。…その時になって惜しんでも遅い』


「その前に魔界に滅ぼされても良いのか?…断言する。大淵抜きで魔王軍に勝てる存在なんて、この地球には存在しない。お前達は自分の見たい現実だけを…」

『…最早、問答は不要だ。…再度警告する。 …引き渡さぬなら、後は刃を交えるのみ』


「……答えはノ~! …お前らの目指す、堅苦しいだけの自滅ENDなんて糞喰らえだ。俺はこれからも平和ボケして生きたいんでね」


 正面玄関でりゅう弾が爆発し、ガラス片がバリケードに突き刺さりながらバリケードも崩壊した。


 …烈士団が喊声を上げ、津波のように押し寄せて来る。


「全員無事か!?」

 売店のカウンター裏に隠れていた黒島が声を上げる。

「…無事だ」

「私も無傷!」


 それぞれ物陰から返事があり、黒島はひとまず安堵した。

 正面玄関、そして通りに面した食堂や事務所の広い窓ガラスを割り、烈士団員が建物内に侵入を果たしている。

 食堂に隠れていた斎城が立ちあがり、烈士団員達と対峙する。


 事務所からも烈士団員が突進してくるが、それは尾倉に収納された。他の団員が尾倉に騎兵銃の頭に銃床を叩きつけるが、尾倉は向き直って銃士を殴り飛ばしつつ騎兵銃を奪っていた。


 元自衛官である尾倉は手慣れたように銃を構え、更に事務所から湧き出て来る団員達の足に掃射するが、団員達は悲鳴や怒号を上げるものの、血すら滲まず、全く効果は無い。

 …やはり、武器適性が無い者が使う銃では、烈士団員の防御ステータスを突破できない。

 銃を放り捨て、尾倉は右手にロングソード、左手に手斧を持った。


 自分の元にも正面玄関から烈士団員が押し寄せて来る。

「食らいやがれ!」

 轟音と共にビーンバッグ弾…単三電池よりやや大振りな「お手玉」が発射される。…スキル無しの人間同士なら、当たり所によっては死人も出る、()()()()()()為の兵器だ。

 

 その強力お手玉が麻痺属性を纏い、烈士団員のメイルアーマー胸部に命中。

「ぐ、ぐあああああ!」

 撃たれた団員はその場で全身をビクビクと痙攣させながら悲鳴を上げる。

「もう一丁!」

 それを驚いて見下ろしていたもう一人の肩にも命中し、その団員も床で悲鳴を上げながら痙攣した。


 通りに消防の梯子車が停まり、烈士団員を乗せて二階か三階から侵入を果たそうとしている。

「そっちに行くぞ、リザベルッ!」無線に怒鳴った。


 食堂では斎城が数十人近い烈士団員に囲まれながらも、足元には十数人の団員が倒れている。今、また一人を峰打ちにして倒した。

 

 正面から更に五人の団員が機動隊の盾を構えながら突進して来る。すかさず足元に向け、スタン・ガンを連射した。 


 …くそ、たった六人でこの人数を相手するのは無理があるぞ…!




 静かに小雪が舞い落ちる中、それとは対照的に銃声と喊声に包まれ、高所作業車も含めて二階からの侵入も果たしつつあるゲート管理拠点。その前に六台の黒塗りSUVが続々と到着した。


 攻略の指揮を執っていた二番隊隊長・風間友則が、降り立った者たちを振り返った。


「風間、戦況はどうだ?」

 一番隊隊長、「高位騎士」常盤和義が拠点を見上げながら尋ねた。

「…敵ながら天晴だ。敵は確認できただけで六人だが、まったく押せずにいる…行ってくれるか?」

「おうとも。…竜騎兵と手合わせしてみたかったしな」


「それは皆が思っている事だがな。 …だが、何があるか分からん。隊長全員でのこのこと行く訳には行かん。俺と…若手の倉川、飯田あたりに残ってもらうか。じき、地下道から島村と秋山も駆けつけてくれる筈だ。それで一対一になる」


「では俺は、漆原と吉川、太田を連れて行ってくる。 引き続き、後の指揮を頼むぞ」

「ああ。武運を」


 四人の烈士団隊長が管理拠点へと進んでいく。


 一階ホールは激しい戦いの中で椅子やテーブルなどの家具が隅に退かされ、広々としていた。床で倒れている烈士団員は邪魔なので、藤崎と尾倉に収納させた。


「一段落したかな?…それとも嵐の前の静けさってやつ?」

 リロードを済ませ、売店に残しておいたミネラルウォーターとカロリーバーを人数分取り、それぞれに放ってやった。滅茶苦茶になっている談話室の二人にも差し入れる。

「…そうだと良いんだけど…」

「…隊長クラスだ」


 尾倉が、こちらに向かって歩いてくる4人の男を見据えて言った。

「…川村、プリーズ!」

「あいよー!海、キツいけど頑張ってね!」

「ここは任せておけ、何人たりとも通さんぞ!」

 …相変わらず藤崎の声はうるさい。体力と防御力は大淵含め、この中でトップを誇るだけある。スキル「超耐久」もある…藤崎には何とか耐えてもらうしかない。


「…まだ三時にもならないってのに、そちらも早起きですなぁ?」

 カウンター裏からスタン・ガンを構え、黒島が言った。

「…年を取るとそうなる物です。この通り、皆さんと違って良い年ですから」

 イケオジ…とでも言うのだろうか。40代のダンディな長身男がバスタードソード片手に余裕で応じた。…どの男も雰囲気と覚悟が滲み出る面構えをしているが、この男は特に突出している気がした。


「生憎と今日はリーダーが不在でしてね。…ご用件なら明るくなってからにしてもらえませんかね?」

「なに、時間は取らせんよ。…始めようか」

 「高位騎士」の男はそう言うとまっすぐに斎城に向かって歩き出した。

 自分の方にも四十代の「槍兵」が、尾倉には三十代の「重剣士」が、川村には二十代の「重騎兵」がそれぞれ向かっていく。


「五番隊隊長…漆原良治、参る!」

 黒島はスタン・ガンを男に向かって撃った。だが、軽々と避けられる。二発目も槍の穂先で払われ、黒島はカウンターの後方に退いた。更にもう一発撃つが、それも避けられた。


 派手な物音を立て、カウンターを破壊しながら戦車のように向かってくる漆原に、立て続けに二発撃ち込んだ。

「ぐぉっ!」

 一つは避けられたがもう一つは漆原の左膝に当たり、その場で槍を杖に立ち止まった。…それでも麻痺効果に辛うじて耐えていた。

「…くそ…状態異常耐性か!?」

 更に三発、漆原に向けて撃ち込んだ。二発は槍で払われ、もう一発が右肩に命中。

「ぐぅ…!」

 身構えていた槍を下ろしながら、売店内に迫って来る。


 黒島は商品棚の裏に隠れながらビーンバッグ弾をスタン・ガンに詰め込んだ。…悩んだ末、レッグポーチから散弾とスラッグ弾を二発ずつ取り出し、胸部アーマーに取りつけたシェルホルダーにセットした。


 売店は標準的なコンビニ程度の広さしかない。…じきに見つかるだろう。

 店内で足を引きずる音を聞きながら、黒島は息を潜め、好奇を覗った。


 激痛。


 何事かと思って見ると、棚から覗いていた左脚に十文字槍が深々と刺さっていた。

 

 言葉として理解した途端、激痛が傷口から脳に達して絶叫を上げた。




「クロ!?」

 売店から響き渡った悲鳴に一瞬、注意を逸らしてしまった。

 その隙を逃さず、重騎兵の男がロングソードを振り下ろして来た。

 川村は50キロにもなる大剣の切っ先でそれを払った。


「このッ…!」


「…心配なら行ってやった方がいい。漆原さんはベテランだ、あの軽歩兵じゃ勝てない。…武器さえ置いて行けば、手当に行ってもいい」

 七番隊隊長・飯田剣介は気怠げに川村に投降を促した。


 …ダウナーな声と顔は割と好みだが、この程度で降参するのは気に入らない。

「それか、アンタを倒していくか、だね」

「…七番隊隊長…飯田剣介」

 …肩書である隊長の名には誇らしげな響きがあったが、自身の姓名には何か因縁でもあるのか、忌々しさすら感じる響きがあった。

「ならこっちは大淵小隊切り込み隊長・川村彩音。 いざ!」



「九番隊隊長・太田吉男」

 相手の重剣士が名乗ってきた。

「…尾倉道行」

 仕方なく返事を返した。


 比較的小柄な体型に対して、川村と同じ巨大な大剣。

 …本来の運用傾向として重剣士は、機動力が低く、装甲が控えめな戦車をイメージしたようなものだ。

 その為、火力要員である重剣士を主攻軸とし、防御の盾戦士、そして機動力を補うために遠距離攻撃が可能な術士や弓士、銃士などで脇を固めるのがセオリーとされる。

 つまり、この太田に対してはその長短を突いた戦い方が求められる訳だ。


 …翻って自分…狂戦士は、防御以外のステータスが軒並み高く、その高さは高位騎士に最も近いとされる。

 …それにも拘わらず、狂戦士でギルドパーティーに迎えられる者はごく少数だ。圧倒的多数がソロで行動している。…それは高めのステータスをもっても有り余る、致命的な特性の為だ。

 …それは自身のスキル(狂暴化)と、それに付随した(不死性)だ。


 手斧を投擲。すかさず二本目を抜きながら、太田に斬り掛かった。

 

 太田は下がりながら大剣を盾にして手斧を防ぎ、間合いを見計らって大剣を薙ぎ払った。

 それを躱し、ロングソードで牽制しつつ、隙を探って手斧を叩きつける。



 黒島の悲鳴が聞こえ、川村と尾倉も戦いを始めていたが、斎城は目の前の敵から集中を逸らす訳には行かなかった。…視線を外せば、その瞬間自分の首が飛ぶ。

 

 …憂国烈士団は無暗に人を殺さないと言うが、それはあくまで非戦闘員に限った事だ。 …自分達のように徹底抗戦する以上はその殺害対象にもなり得るだろう。


 そして目の前の男からは危険な雰囲気を感じた。…かなりの実力者だろう。


「こんばんわ、竜騎兵のお嬢さん。 憂国烈士団・一番隊を預かる常盤和義と申します。…できれば武器を捨てて投降して頂きたいのだが」

 言葉とは裏腹ににこやかな笑顔。 

 …寧ろ、抵抗して欲しいという好戦的な気配を感じた。 …まぁ、どの道降伏する訳にも行かない。


「こんばんわ、斎城日菜子と申します。…残念ながら、それには応じ兼ねます」

「それは残念だ」

 長身から見下ろす、爬虫類を思わせる怜悧な眼が斎城を捉えていた。


 …動く気配。

 正眼に構え、相手の出方を注視しながら待ち受けた。


 重い一撃。

 辛うじて反応し、元場で相手の袈裟切りを防ぎ、薙ぎ払った。 

(なんて速さ…!)

 斎城は悪寒に似た物を感じながら、目の前の男を睨んだ。

 

 今度はそっちから来い、と言わんばかりに男は広い食堂の真ん中で待ち受け、右手のバスタードソードを下げ、もう左手は挑発的にポケットに突っ込んでいる。


 距離は10メートル。斎城も静かに刀を鞘に納めた。

 筋力アシスト、両足から腰まで…発動を悟られない、9%で…。

 

 斎城の抜刀の構えを、怯えから来る後の先狙いと受け取ったか、常盤の方から歩み寄ってきた。



「常盤の奴、エンジョイしてんなぁ」

 散弾銃と騎兵刀を抱えた漆原が売店から出てきた。一階ロビーでは三人の隊長と三人の猛者がやり合っていた。

 せっかく三人とも楽しんでいるのに、横槍を入れるつもりは無かった。…ただ、どちらかの勝敗が明らかになった時点で、可能な限り死人が出ないよう介入するつもりだった。

 …差し当たって危険なのは、あの狂戦士だ。 太田が勝ったとして、()()()が厄介だ。



 間合いに入った途端、斎城の神速の抜刀が常盤を襲った。

「ッ!?」 


 常盤はそれを辛うじて防いだが、白刃の煌きに視界を奪われた刹那、斎城の姿を見失いかけた。

(…下ッ!?)

 …自分の剣の下に長身を潜り込ませた斎城が、ゾッとするような眼差しで常盤を捉えていた。

 後に流れる黒髪を揺らし、脇の構えから繰り出された切上げ…その白刃が自分の視界を遮った。


「ぐうぅッ!」

 左腕を骨ごと切り裂かれる。…辛うじて僅かな肉と皮で繋がっている。 …回避したつもりでこれだ。

 …さすが竜騎兵の名は伊達では無い。

 更に斎城の追い打ちが飛び、腕を、足を、肩を…次々とかまいたちの様に切り刻まれた。…死なない程度に手加減されている。

 

 …完敗だ。腕に自信はあったが、これだけの差があるとは…


 膝から倒れ込み、剣を杖にする常盤に切っ先を向け、斎城が見下ろした。


「…武器を捨てて投降して頂きたいのですが」

 自分の言葉をそのまま返されて、常盤は力なく笑った。

「…残念ながら、それには応じ兼ねるな」

 …自分には親指を向け、斎城には人差し指を向けた。

 斎城は怪訝にそれを見下ろす。

 

「リバース」


 一夜に一度のスキルを発動した。

 

 斎城の体に自分につけたのと全く同じ傷がつけられる。


「……ァッ!!」

 声にならない悲鳴を上げ、斎城は倒れ込んだ。

 逆に、無傷になった常盤は軽々と立ち上がり、斎城の刀を奪った。


「…実に良い勝負だった。君の完勝だよ。 …こんな真似をしてすまないが、我々は負ける訳にいかんのでね。…これは自分と相手の傷を一日に一度だけ入れ替えられるスキルだ」 


 圧勝した盤面を文字通り反転されたような仕打ちに、斎城は悔し気に常盤を見上げた。


 そして、未だ互角にやり合って決着が付かない太田と飯田…尾倉と川村に向き直った。

「…これで4対2だ。試合はそこまで。…投降してくれ」


 漆原が川村に、常盤が尾倉に武器を突き付けた。


「…」

 尾倉は徹底抗戦する事も考えたが…それをすれば、この部屋にいる仲間をも傷付ける…或いは殺す事にもなる。

「…わかった」

「卑怯だぞお前ら!…クロは無事なんだろうな!?」


「ぶ、無事だ…すまんが手当てを頼む!」

 売店から黒島の声が聞こえた。

「さ、斎城も手当てしないと…!」

川村が斎城の元へ、尾倉が黒島の元へと駆けつけた。






「突破しマス!」

 アリッサがバイクをフルスロットルで走行させていた。

 前方に大勢の人だかりと灯りに囲まれて照らし出された、見慣れた拠点が見えた。


 何台もの漢数字が書かれた車両…隊長クラス総結集か。


 …今回ばかりは俺だけの力じゃ、あの連中をどうにかする事はできないだろう。


 と、別方向からも黒塗りのセダンが猛スピードで拠点前に乗りつけた。運転席と助手席から堀と太刀川が、後部座席から香山とマオが下りた。

「それじゃ、大淵は中の皆さんをお願いシマス!私はあちらのオジサマ達とここを何とかしマスので」


「頼んだぜ、アリッサ!」


 

 香山達を連れ、拠点内へ。…途中、転がっていた誰かの騎兵刀を拾い上げた。












(お母さん! ほら、助けに来たよ!)


 …あの子の声が聞こえた気がした。斎城が激痛に耐え、顔を上げると…忘れようのない可愛らしい顔立ちの少年の姿があった。

「…待ってて、今日はふざけないですぐに終わらせてくるから」

 そう微笑むと、ロキは背を向けて男達の元へと向かっていった。代わりに、香山が斎城の千切れかけた左腕と体の傷を癒し始めた。



「な…なんだ、この…子供は…?」

 漆原が困惑も露わにロキを凝視した。

 他の三人の隊長もロキを凝視して戸惑っていた。

 

 …ただの子供ではない。着ている戦闘服は大淵小隊の物だ。…そして手には20式騎兵刀。

 …性別は…判然としないが、恐らく男だろう。全身から迸る殺気と怒りは若獅子のそれだ。


「…おかーさんをあんなにするなんてすごいね。 …誰がやったの?」


 冷たく笑いかけられ、思わず鳥肌が立った。…それでも気取られぬよう、穏やかに返した。

「私だが?」


 常盤の足から力が抜け、両膝をつき、床に這いつくばった。 受け身を取り切れず、形の良い鼻を強かに打った。

 拍子に足元を振り返ると、自分の脛から下の両足だけが忘れられたように床の上に立っていた。


「殺さないだけ感謝しろよな」

 ロキが目だけで振り返り、酷薄に笑った。


「と、常盤さん!? テメェ…!」


 太田の突いた大剣の上に軽々と飛び乗り、顔面に跳び膝蹴り。 すかさずに繰り出された桑原の槍も飯田のロングソードも、舞い落ちる木の葉のようにひらひらと躱す。


 逆に、刀の峰で次々と腕を折られ足を折られ、全員が戦えない身体にされてしまった。…この間僅か2分にも満たない。


「な、何なんだ、テメェは!?」

 鼻を折られた太田が喚いた。


「ロキ」


 小さな悪魔はそっけなく答えた。


「くそぉお、もう収納できん! すまん!誰か来てくれんか!?」

 談話室から藤崎の唸り声が聞こえてきた。


 ロキが部屋に入り、二人の烈士団隊長の攻撃を盾で受けて居る藤崎を見つけた。

「お…おお!ロキ坊か!?」


「助太刀するよ、おっちゃん!」

「お、俺はおっちゃんではない!兄貴と呼んでくれ!」


 光速と見紛う俊足の突進で、島村が槍ごと吹き飛ばされた。首の後ろを打たれ、気を失っている。


 雷人は目の前の情報を処理しきれなかった。情報に無い子供が旋風のように現れたと思うと、瞬時に島村が吹き飛ばされた。

 …自分にも降りかかる峰打ちの刃を防げたのは、本能の賜物だった。

 …考えるのは後だ、体を動かせ!

 瞬時に切り返す。 …子どもの姿をしていようが、中身は別物だ。手加減などしていられない。

 渾身の一撃がロキの戦闘服を薄らと割き、一筋の血が腕を滴った。


「へぇ、やるじゃん!」

 ロキは率直に感嘆して見せたが、雷人からすれば、必殺の一撃を薄皮一枚斬らせて易々と避けられたショックに打ちのめされていた。

「…でも、今日は遊ぶ気分じゃないから。アリッサ達も助けてやんなきゃ」

 

 足蹴。

 

 ロキに顔面を蹴り飛ばされ、地下階段を転がり落ちて行った。全身を強かに打ち、頭上で扉を閉められるのを見ながら雷人の意識は飛んだ。




 …同時刻、他県で拘束された國繁勝美が全団員に戦闘終了と出頭を呼びかける「玉音放送」により、前日正午から始まった憂国烈士団による反乱は幕を閉じた。

 …また後日、内閣官房スタッフであった塚田詩帆が憂国烈士団への情報横流しと計画を幇助した疑いで拘束された。

 …憂国烈士団により、与野党の和平賛成派議員12名と、財務省の草刈一郎が斬首され凄惨な死を遂げた。また、米国籍を主としたカルト集団・スキピオなる勢力により、民間人63名が殺害された。


 …スキピオは200人構成員中、抵抗して憂国烈士団に成敗された47名を除く153名が未だ拘束されていた。…時の米国大統領はスキピオの死者について、「クレイジーな右翼団体による卑劣な殺人犯罪の被害者」と断じ、残る構成員の米国への返還を日本政府に強く求めた。…経済制裁、外交問題を脅しに使いながら。

 …また、賠償として異世界資源の権利を求めてきた。


 …それら山積した課題を政府の物として目を瞑れば、首都を襲った事件は一応の解決を見た。…が、世間の受け止め方は複雑だった。

 一連の事件中、一貫して民間人や捕虜を殺害しなかった憂国烈士団に対して、世論は非常に好意的な評価を見せた。

 …また、殺害された草刈一郎は高圧的で横柄な発言が目立ち、金銭関係の不祥事も有耶無耶になった事のある、国民から不人気な重鎮だったことも大きかった。


「不動君が殺されてれば評価は逆だっただろうけどねぇ」と、岩田は零したという。


…更に、スキピオのメンバー生き残りを全員米国に返還した事もそれを後押しした。

 

 国民と世論の大半は、憂国烈士団の味方となり、嘆願の署名も少なくなかった。…そして、魔王軍との和平にも一石を投じさせたのである。


 …結局、憂国烈士団は戦いに完敗したものの、「負けてもマイナスでは終わらせない」という理念は見事に果たしたのである。

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