風神騎槍
新月の夜空に黒煙が立ち昇り、地上は所々が赤く煌いている。
都内の各所で火災が発生していた。
鎮圧の為、現場へ向けて急行していた消防隊の車両が銃撃を受け、歩道を乗り上げて歩行者を巻き込みながら店舗に突っ込んだ。助手席の消防士が運転手に縋りついている。
「憂国烈士団がやりやがった!逃げろォ!」
歩行者の中から誰かが叫び、付近はパニックになった。
反対側の歩道を警邏のため歩いていた一組の烈士団員は一連の事態に困惑していたが、すぐに気を取り直すと犯人を捜し求めて周辺の建物に視線を動かした。
…しかし犯人は消音器を装備しており、夜の暗さもあって見つけられない。
市街戦と射撃戦…そして非戦闘員をゲーム感覚で殺害する残忍性においては、敵の方が烈士団の遥か斜め上を行っていた。
「10ポイント!」
「あの銃を持ったモンキーをやったらボーナスポイントだぜ」
歩道で騎兵銃を構えながら敵を探し求めていた烈士団員がこちらに気付き、小銃を構えてきた。
「fu●k you!bitch!!」
既に優位にあった男の銃撃が先に決まり、団員は額に銃撃を受けて倒れ込んだ。
もう一人の団員は刀しか持っていない。悔しげに歯噛みしながら近くの物陰に逃げ込んだ。
「ハハハ、負け犬め!」
男達はゲラゲラと笑いながら次の標的を探した。…ビル陰に隠れていた母子。銃声がして、母親が無残に崩れ落ちた。
「毛唐共がぁ!!」
銃声と子供の泣き声を聞き、烈士団員が泣き声の元に駆け寄った。
「マヌケ野郎が!」
銃声。団員が足を撃ち抜かれ、宙で姿勢を崩した。 それでもスライディングして距離を稼ぎ、物陰で母親の亡骸に縋る少年に覆いかぶさり、死を覚悟して歯を食いしばった。
…銃撃は来なかった。
「ぎゃああああ!」
相方の悲鳴。
「…胸糞悪いコト楽しんでますネェ?」
背中に浴びせられた冷たい声にゾッとして縁から屋上への出入り口を振り返る。
深紅の23式メイルアーマーを、更ににドス黒い血で染めた金髪碧眼の美少女が立っていた。
…底冷えする笑みを浮かべて。
「…アリッサも人殺しデスけど、全然楽しく無かったデスよ?」
…大晦日、大淵及び香山の暗殺を思い止まったのは、家族連れの標的を殺したことが大きかった。
…任務とはいえ、子どもの死体を見て…これまで殺して来た感情が一気に解き放たれた。こんな汚い仕事に心底嫌気が差し、大淵を頼った。…彼に縋る事が、今は唯一の生きる道だった。
…散々殺したけど、死にたくない。 …大淵たちと、もっと生きて行きたくなった。
…今にして思えば、大淵に出会った時点で自分の運命の歯車は崩れ落ちていたのだ。あれからナード君を思い出し…これまで、過去の虐待を冷媒として凍らせていた心が、氷のように融けてきた。
…極めつけが大晦日の最後の任務というわけだ。
「…ホントならブチ殺してあげたい所デスケド、大淵にめっ、されてるんで、アナタもこのくらいでカンベンしてあげマスね♪」
示された足元には相方が、手足の先端を切り離されて藻掻いている。…計算された切り口で、再生手術も絶望だ。高クラスのヒーラーが居たとしても厳しいだろう。
「ファック!!」
男がカービン銃を腰だめに乱射する…が、アリッサはそれを軽々と掻い潜り、男へと迫り、火災の明かりを反射して白刃が煌いた。
「ヒィイイイイ!」
男は相方と同じ姿にされて転がった。
「…あとは憂国烈士団の皆サンに可愛がってもらって下サイ」
アリッサは屋上の縁を蹴り、隣のビルへと飛び移った。
「ソレニシテモ大量デスねー。…一々回っていたら寝不足にナリマス」
想定以上の被害範囲に独り言ちた。 ユニコーンで目立って撃ち落とされたり、敵に居場所を教えたくは無かった。自分が帰還する際、有象無象の余計なお客さんを連れて行くのもぞっとしない。
ワイヤーアンカーとロングソードを器用に扱い、どんな高低差のビルも乗り越え、炎と黒煙に汚された帝都の夜空を舞う。
…この手の手合いを狩るためにセーフハウスから抜け出してきたが、予想以上の人数だ。…キリがない。一旦戻るべきか…
次の銃撃地点に向かいながら、アリッサは思案した。
「こんばんわー、ABCピザでーす」
セーフハウスのインターホン越しに、24時間営業している有名なピザチェーンの制服を着て、Mサイズのピザ箱を抱えた配達員の若い男が爽やかなスマイルで立っている。
時刻は午後9時前…しかし24時間営業というのは間違いない。
…頼んだとして誰が?…アリッサか?
疾うに大淵達は堀が買ってきてくれた弁当で済ませており、今は堀と太刀川と共に、リビングでテレビを見ていた。 …首都で起こっているテロ事件に関する報道で、現時点で確認できただけで三十六人が死亡している。…これに、国会で「人誅」と称されて殺害された議員や大臣クラスが含められると、死者だけでも五十人は優に超えてしまう。
アリッサは弁当を待たず、「外で食べてきマス」と言い残して出て行ってしまったままだ。
…電話は通じないが、注文したのはアリッサではないだろう。こんな時にこういうサプライズをする奴では無い。…外食も、アリッサなりの用事なのだろう。
「…敵ですね。ガワは正真正銘の日本人ですが、中身は違うでしょう。スキピオか、パーティに招待漏れしたユーラシアからの招かれざるお客さんか…」
「…ガワは、って?」
大淵が怪訝な面持ちで尋ねた。
「…食事後だからいいですが、どうしても聞きたいですか?」
堀が脅かすように冷ややかな笑みを浮かべた。
「…いや、結構です」
太刀川がインターホンに出た。異変に気付いた香山がマオを背負って階段から顔を覗かせた。
「…間違いですよ、ウチは頼んでません」
「…困ったなぁ、それじゃ僕が店長に怒られてしまいます」
流暢な日本語で、イントネーションも違和感ない。
「そう言われてもね。…因みにそれ、一応開けて見せてもらえます?」
「ダメですよ、もし本当に間違いだったら他のお客様の商品なんですから」
配達員はとんでもない、という顔で首を振った。 まぁ、食べ物を他人に魅せられていい気はしないが…
「…カメラ越しだから大丈夫だと思いますがね。何にせよ、最近物騒だから新手の押し入り強盗かもしれないし、応じられませんね。それでは…」
配達員がそれまでの温厚なスマイルから、無表情な顔に豹変した。
ピザ箱の中からおもむろに消音器を付けた拳銃を取り出すと、インターホンに向けた。 …直後に暗転。
「…既に家の周りも完全に包囲されているでしょう。 …何故ここがバレたのかはわかりませんが、迎え撃つしかありません。三階へ避難していてください」
「じゃあ香山とマオは三階の…俺達の部屋の方へ避難していてくれ」
その部屋の方が配置的に、外部からの銃撃を防ぎやすいからだ。
「う、うん!…あの、マオちゃんは大淵君が収納した方が安全じゃない?」
…香山は魔王相手にちゃん付けである。まぁ、マオと名付けた自分も自分だが…
そして、魔王もそれを悪く思っていないらしく、気にした様子は無い。寧ろ、自然に受け入れている。
「桜よ。ダイスを信じられんのか? 私はあんな賊共、ちっとも怖くないぞ」
「…そうだね。 じゃあ、上に行こうか、マオちゃん!」
「俺はその辺の窓から狙撃します」
現状、この中で遠距離攻撃が出来るのは自分だけだ。…こと対人戦では銃のありがたみが身に沁みる。…考えてみれば、自分達の中でスキル保有者やモンスター相手に、まともに遠距離攻撃が可能なのは自分と黒島だけだ。対モンスター相手には威力不足の場面も見られるが、まさかこんな状況で必要になるとは…これは、今後の事も考えて黒島に相談する必要があるだろう。
…さて、敵は何人だろうか。なるべく殺しはしたくないが、相手は烈士団と違ってどんな手も取るというが…。
窓の一つを銃眼となるように三cmほど開け、周囲を見渡した。
「…クソッ」
早速、問題に気付いた。周囲はここに似たような住宅が密集しており、下手に発砲するといらぬ被害を増やしてしまう。
「…仕方ないか…」
一般人には当てないようにするしかない。収納空間からダンジョン捜索用に支給された暗視装置を取り出し、顔を出し過ぎないようにしながら窓を除いた。
バシッ、と衝撃音。窓ガラスにヒビが入った。
「通常の小銃なら二発は守れます。三発目は保障できません!」
堀が声を上げた。
隙間から銃口を出し、植込みの中に隠れた人影を迷いなく撃った。
「ギャッ」
男が腕を抑えて倒れ、苦悶する。それでもまだ手にはカービン銃を握っている。
銃の機関部に向け一発。派手な破壊音が聞こえ、銃の機関部が激しく破損していた。
更に別の角度から銃撃を受けた。それを防弾ガラスが受け止めてくれたが、大淵はそのマズルフラッシュを目敏く見つけ、二、三発撃ち返してやった。 …反撃は無かった。
外からバン、という爆発音のような音が聞こえて、家の中が真っ暗になった。
「電力を断たれました」
堀と太刀川がペンライトで照らしながら報告した。大淵も普段から持ち歩いているフラッシュライトを点灯し、セーフハウス内を照らし…すぐに消した。
「…光を付けたら却って狙いやすくなるだけか?」
「…どの道、暗視装置も持っているとは思いますが、暗いままの方が良さそうですね。…しかし、外の引き込み電線はダミーだって言うのに…地下埋設の電源を目敏く発見したのか…?」
堀が考え込んでしまった。
「さすがにそこまでの情報は漏れてない筈だが、余程その手の知識に明るいらしいな」
大淵は顔を出さぬようにして、窓から外を覗いた。…やはり、周りの家は停電していない。 …都心の方角の夜空が火災で赤々と染まっていて明るかった。
都へ繋がる主要な交通路を憂国烈士団が封鎖しているらしく、応援の警察も自衛隊も見当たらない。…ただ、近隣県からの消防応援は素通りさせているのか、数台の消防車と救急車が橋を渡って都心部へ向かっていくのを見た。
「そちらからの応援はどうです?…俺の仲間達はさっき連絡を取りましたが、籠城戦になっていて合流も応援も期待できなそうです」
「特戦群の仲間が二人、こちらに向かおうとしていたが、途中で烈士団の有力な敵と当たって、後退を余儀なくされてしまった。…連中の隊長ってのは、昔の新選組がそうだったように、指揮官としては勿論、戦闘能力の格も違うらしい。それが憂国烈士団中におそらく最低十一人いる、と」
「…敵は無反動砲とか爆薬とか持ってますかね?」
「…今日は忘れてきたことを願うしかないな…」
盛大な爆発音。言った傍から願いは踏みにじられ、吹き飛ばされて塗料が燃焼する防弾仕様のドアを踏み越え、数人の敵がセーフハウス内に踏み込んで来た。
「…ふん、白兵戦の方が都合がいい。こうなった以上はお任せを。上に行って、お二人を守って下さい」
「まぁ、そう言わず、俺にも手伝わせて下さい」
刀と拳を身構える太刀川と堀に並び、大淵はアルダガルドで授かったランスを取り出した。
黒鉄のなだらかな円錐…シャフト部分には金でルーン文字にも似た紋様…呪文が彫られていた。
読むことはできないが、風を起こす力、という武器に付与された能力だけは、ステータス確認の要領で知ることができる。グリップを握り、堀と太刀川の間から穂先を覗かせて玄関先からやって来る侵入者達に向けた。
「行けッ」
ランスを境に、自分の背後の空間から前…ランスを構えた範囲から敵に向かっての空間…その前後の空間で気圧が、著しく変化した。
敵が散弾銃を放つのと同時だった。十粒前後の、当たれば良くても大怪我の鉛玉が狭い廊下に突っ立つ三人の男に迫るが、猛烈に押し返され…侵入者たちに命中するかと思われたが、侵入者達も同等の速度で玄関の大穴から外の漆黒に吹き飛ばされていった。
「すげぇ…神風かよ」
太刀川が呆れてランスを見つめた。
「うぅむ…」
…物凄い効果だ。…庁舎の中で涙と鼻水塗れになり、とっておきのマンドラグレネードを使ってまで奮戦したのが馬鹿馬鹿しくなってしまう。…いや、建物の中で使ったらそれはそれでどうなるか分からんか…
「21にもなって庁舎の窓ガラス割って歩く訳にもいかんしな…」
「え?」
「いや、なんでも」
ランスの穂先から発射された空気の塊が、突き出された巨大な拳のように銃弾と侵入者を遥か彼方に殴り飛ばした。
ステータスを確認すると、満タンだったSPが50減って550。弓に比べれば殺傷性は低く、発動コストは割高だが、使い方次第で弓以上に便利な武器になりそうだ。
また、和名で騎槍と称されるほど騎兵の象徴的武具であるため、武器適正も騎兵刀に並んで完璧だ。
「…最早ここにも隠れて居られませんね。すみませんが、香山とマオの護衛をお願いします。…外の連中をこのブロワーで掃除してきますんで」
…大淵に飛ばされた侵入者は、離れた河川敷の芝生の上に転がって脳震盪を起こしていた。…奇跡的に、死んではいなかった。
外に居た謎の集団も、仲間達が河川敷に文字通り吹き飛んでいったのを見て、茫然自失としていた。
「成層圏まで飛んでいきたくなきゃ、とっとと帰んな」
あと十一回もコレを放てる。余裕の笑みを見せながら穂先を順繰りに向けると、襲撃者達はたじろいだ。
「…さぁ、どうする? それともお空を飛んでみたいか?」
…と、エンジン音が響いた。
黒塗りの街宣車とSUV、マイクロバス。そしてバイクが二台。
バイクを除く黒塗りの車両には…桜に日の丸や日章旗がデカデカと描かれ、「○○殲滅」「民族自決」「神州正大氣」と、スローガンなどが白の筆書き風に書かれている。
そして、600ccのバイクに跨る重騎兵二人に先導され、一際物々しいオーラを放つSUVが大淵の前で停まった。車体横のドアにはやはり日の丸と、白で「六」と書かれ…国賓の送迎に使われる訳でもあるまいに、バンパー脇には日章旗がはためいている。
後部座席のドアが開かれ、ルーフのアタッチメントに取りつけていた槍を手に取り、40代の男が降り立った。 背は黒島と同じか…高いかもしれない。渋く年を取った彫り深い顔立ちだが、目を光らせて大淵の一挙手一投足に警戒している。
「…大淵大輔だな?」
周囲の車からも同じく黒塗りの、完全武装した精強な烈士団員が続々と下りて来る。
「…そうだ」
…どうせ調査されている。 人違いです、双子ですと言っても相手にされないだろう。
背後の気配を探ると、香山とマオを後部座席に乗せた黒塗りのセダンがシャッターを開けた。
逃がすまいと車両群や烈士団員が動く気配。
「やめておけ」
大淵のドスの効いた声に、車両以外の全員の動きが停まった。
逃走進路を塞ごうとする街宣車とマイクロバスに向け、「ブロワー」を送った。
重厚な車体だが、縦長な構造がモロに風を受け、二台とも玩具のように軽々と横転した。
「堀さん、太刀川さん、香山とマオをお願いします!千代田区のマックで合流!」
…勿論フェイクだ。本来の合流場所は予め取り決めた上で申し合わせた偽情報だった。
パッシングし、軽くクラクションを鳴らしながらセダンが逃げ去った。
後部座席からマオと香山がこちらを見つめている。
…それを追おうとしたバイクもブロワーで吹き倒した。 さすがの騎兵スキルをもってしても、これだけの圧力には耐えられないようだ。
(…しかしヌルゲーだぜ。コイツをまだ九回も……ッ!?)
何気なく残りSPを見て見ると、400になっている。…計算が合わない。
(…まさか、クールタイムを無視して連続使用すると加速度的に消耗するとか…?)
改めてランスを見ると、使ったばかりの今、金で書かれた呪文がランス同様黒ずんでいる。それが徐々に穂先から手元に向かって金字が輝きを取り戻して行く。バンプレート(護拳)と呼ばれる、傘の手元部分の装飾まで完全に行き渡るまで、およそ二分。 確かに、二分も待たずに三射目を放った。…一射目が50、二分以上経っていた二射目も50、立て続けに使った三射目が100…更に立て続けて四射目を撃てば200、という風に、倍々で増えていくのだろうか?
「…まぁ、そんな何でもかんでもうまくは行かないか…」
それに、これだけで十分すぎる。クールタイムさえ守ればあと八回も使えるし、この連中を纏めて吹き飛ばしてしまえば…
「…武器を捨て降伏しろ…と言っても、そんな武器では尚更手放さんか」
「まぁな…投降したとして、俺をどうするよ?俺は絶対和平派だぞ?」
「…その時は死んでもらう他ない」
「…結局どこに捕まっても結果は同じか。まぁ、正直に言ってくれる分だけ潔いが」
「…六番隊隊長・福田千次、参る!」
「槍兵」福田が短槍を構え、突進してきた。
その掛け声を合図に、団員たちが襲撃者達に襲い掛かった。すぐさま投降した者は生け捕りにされたが、抵抗した者は容赦なく切り伏せられていく。…白兵戦においてはこの襲撃者達は烈士団に到底敵わないようだ。…恐らくこれがスキピオだろう。
福田の槍が迫る。 …チャージ完了。
「食らえ!」
穂先を福田に向け、ブロワー。
しかし福田は尋常ならざる加速で横に跳び、ブロワーの死角に逃れた。
「遠慮せずに飛べよ!…滅多に無い体験だぞ!」
コイツは厄介だ…早く終わらせた方が身のため…。 …穂先を福田に向け直そうとして、その背後に家屋がある事に気付いた。
「チッ…!」
やはり、場所を考えずに使うと二次被害が怖い。ブロワーを中断し、シャフトで福田の槍を受けた。…重い一撃だが、耐えられる。
…と、甘い考えが過った途端、石突側の柄で胴を打たれた。
「ッ…」
怯んだ隙に福田は槍を捨ててインファイトに持ち込み、強かにボディと顔面を瞬時に打たれた。急激な間合いの変化に反応が遅れ、一方的にダメージを受けた。
二メートル近く殴り飛ばされ、ふらつきながらもようやく体勢を立て直した。
(…くそ、今のタイミングだったら…)
ブロワーを当てられたかもしれないのに…。まだチャージは完了していない。惜しみながらも起き上がり、再び槍を取って迫って来る福田に仕掛け返した。
ランスの刺突。 大味な突きは難なく避けられ、相手の穂先が肩を掠り、激痛に思わず顔を歪めた。
しかし意趣返し、と言わんばかりに石突…バットで福田の顔面を殴り返した。
「ッ!?」
福田は顔を抑えて跳び退った。顔を覆う左手の指の合間から、ボタボタと鼻血が滴り落ちていた。
「…なんというステータス強度、なんという戦闘学習能力…敵ながら殺すにはあまりに惜しい…」
「…そりゃどうも」
スキピオの連中は烈士団員を一人も倒せないまま壊滅したらしい。数人が捕虜として拘束され、後は無残に屍を晒している。
手が空いた烈士団員が自分達を遠巻きに囲んでいた。
「…安心しろ。決着がつくまで手は出さん」
「…再度どうも」
今度はこちらから仕掛けた。
まず一突き…これは余裕で躱される。
回り込む気配に向けて渾身のシャフト横薙ぎ。…これも大きく避けられた。…今だ。
ブロワー。
大きく避けた隙を逃さず、そのコンボから逃げ切る事が出来ず…福田も河川敷へと放り投げられた。
烈士団員達は自らの隊長を見送っていたが、我に返ると一斉に武器を向けてきた。
…数が多すぎる。もう一度撃つべきか…?しかしそうするとSPも大分心もとなくなる。…今夜はもう戦闘が無いと高をくくって使うべきか…
またもエンジン音。…今度はバイクだ。
もしや、と思って見ると、黒地に赤い亀裂といったデザインのバイク。アリッサが跨っていた。
「アララ大淵!やられてマスね!ノリマス?」
「乗ります!」
妨害しようとする烈士団員をシャフトで薙ぎ払い、石突で顔面を打ち、チャージ完了したブロワーを見舞ってからアリッサの手を取り、共にその場を離脱した。
「助かった…借りができたぜ。 …ピザなんてどうだ?」
「悪くないデスケド、大事に取っておきマス♪」
「…後が怖い」
二人を乗せたバイクは都心に向かって走り続けた。




