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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー


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Rehabilitation


「こいつはリハビリだ、気楽にやってみろ」


 黒島の声が響く。

 

 穏やかな日差しが眩い草原に、ライフルを手にした自分が立っている。

 どこからか現れた二足歩行、全高3メートルもの恐竜じみたモンスター…コドモドラゴンが、自分の30メートル前方に現れた。

 可愛らしい名前に反して凶悪な面構えだ。それを守り囲むようにタブレット端末で見たあの巨大芋虫…スプリットワームが数体遊弋している。

 

 手にした21式騎兵銃の重みを意識しながらも、標的に目掛けて数回引き金を引いてみた。

 手を弾かれたような衝撃。銃口も明後日の方向を向き、外した弾は空に吸い込まれていく。

(この世界の自分はこんな物を軽々と扱っていたのか…)

 だが、強靭な肉体に加え、このチャコールグレーのメイルアーマー…防具であると同時に強化服でもある鎧の助けもあり、コツは掴めそうだ。

 こんな感じか、とスプリットワームに一発放つ。

 今度は狙い違わず、ローレンツ力で加速された30‐06弾は標的に吸い込まれ、内部で派手に炸裂して芋虫を無数の肉片に変える。


 体液の雨を搔い潜り、コドモドラゴンが重厚な足音を響かせながら迫ってくる。巨大な腹部から胸部にかけ、フルオートで一連射。岩を削ったような鈍い音が響く。ある程度のダメージは与えているようだが、集中射しなければ有効打にはならないようだ。

 今度は少々難易度を上げ、その重量と負荷を支える健気な脚部に撃ち込む。しかし、頑強なコドモドラゴンは脚部を撃ち抜かれて一瞬怯むも、突進をやめない。

 二発、三発と脚部の同じ個所に撃ち込むと、コドモドラゴンは10メートル前方まで迫った所でついに耐え切れず、膝を折ってその場に転がった。

 突進して来るスプリットワームを撃ち減らしながら駆け寄る。途中、弾を切らした弾倉を排除し、胸元に張り付けた新たな弾倉を剥ぎ取って挿入、リリースして初弾を送った。

 不格好な見た目に反し、この方法はアーマーと弾倉との相性が良かった。思っているより取りやすく、思う程邪魔にもならず、弾倉を使い切るごとに身軽になる。

 

 倒れたコドモドラゴンが片足で起き上がろうと藻掻くが、その頭部を蹴りつけて地面に押し倒す。

 頭部のやや側面、装甲じみた鱗から敵意を露わにする金色の眼球に向け、至近距離から一発。 

 3メートルもの巨体と手足がビクンと跳ね、二度と動かなくなった。


 周囲に新手の気配。今度は20メートル圏内に三体のコドモドラゴン。遅れてスプリットワームが十数体、押し寄せて来る。

 棒立ちして固定砲台よろしく射撃しているだけでは、袋叩きどころでは済まない。

 敵の主力と並走するように移動しつつ、時折足を止めて先刻と同じ要領でコドモドラゴンの脚部を削りつつ、敵集団との距離が近くなったらまた移動して距離を取る。

 多少時間は掛かるが、無暗に敵中に突撃するのに比べれば安全に、確実に敵を削れる。

 だがそれは、こうした広い草原で、敵と自分しか居ないからこそできるやり方だな、と気付く。

 例のダンジョンのように入り組んだり、どこまでも逃げられるような場所で無ければ?

 或いは仲間がアクシデントで身動きできなかったり、保護すべき対象が存在する場合は?


 反転して敵中に踊り込む。スプリットワームを撃ち減らしつつ、左腰に差した刀の柄を握る。

 20式騎兵刀。狭いダンジョン内での戦闘や車上での取り回しを考慮され、刃渡り55㎝とやや短いながらも幅広で肉厚な刀身が鋭く輝いている。これもこの世界の自分が愛用していたという近接武器だ。

 強力なライフル弾にすら耐えるコドモドラゴンの装甲に通用するのか、一抹の不安を感じながらもそれを振り払う。代わりに、高校時代に齧った剣道の顧問…その教えを頼った。


 『ビビるな。やると決めた時には馬鹿になるくらいで行け。 跳び箱の前で躊躇っている間は飛べないのと同じだ』


 木刀稽古に重点を置く顧問でもあった。お陰で握った柄がかつての身体の動作を思い出させてくれる。

 コドモドラゴンのアームスイング。重厚な剛腕が、迫りくる巨大な倒木を思わせる。だが、恐怖を抑えて冷静に、抜き胴の要領でカウンター。

 さすがに一刀両断、とはいかなかった。だが、2メートル近くはあろう装甲車のような胴囲を、七分ほどまで切り抜いている。

 それで致命傷となったか、コドモドラゴンは呪詛を思わせる唸り声と共に崩れ落ちた。


 だが、余韻に浸っている暇はない。追いついたコドモドラゴンがタックルする気配。横っ飛びに避けつつ、スプリットワームを踏み潰して着地した。

 三体目による追撃。体液に塗れた足を引き抜き、再び距離を取る。

 やはり近接戦故のリスクも軽んじる訳にはいかない。冷や汗を拭い、騎兵銃を構え直した。


「さすがだな。基礎戦闘は問題無さそうだな。 …じゃあ、次のステージだ。今度はお前のスキルを使いながら戦ってみろ」


 さらに二体のコドモドラゴンが敵集団の後方から駆け付けた。

 黒島に教えられた通り、意識を集中させる。脳裏に「攻撃強化(中)(短)」という文字がはっきり浮かぶ。目を閉じる事もなく、視界の邪魔にもならないのに、確かにそこに存在する文字列。慣れない身からすれば何とも不思議な感覚だ。

 スキル選択。発動。

 赤い光が体を包みだす。淡い光に包まれながらコドモドラゴンの腹部に一連射してみる。

 今度は明らかに先ほどと違っていた。弾丸は内部に到達し、甲高い悲鳴が響き渡る。これならもしや…

 思いつき、騎兵刀に持ち替えて再び敵中に突進。もう一体のコドモドラゴンを撫で切る。

 

 柔らかい。

 豆腐に刃を通すようだ。


 反転してスプリットワームを次々切り払い、コドモドラゴンのスイングを尻目に背後へ回り込み、振り向き様に腹の下から肩口へと片手で切り上げる。鋭利な断面を残して一刀両断。

 もう一体のコドモドラゴンの強烈なハンマーパンチを正面から腕ごと上体まで切り捨てる。

 切り離された胴体が地に落ちる前に、自身の体を包んでいた淡い光は消え去った。

 

(無双かよ…)

 

 呆れながらも、自然と口角が上がってしまう。抑えきれない爽快感と高揚があった。

 こんな事ができるなら、この世界でちょっとしたヒーローになることも夢では無いのではないか?…一瞬、香山と斎城を侍らせる自分を妄想し、かぶりを振る。

 …思い上がるな。

 そんなに甘い世界であれば、自分より遥かに鍛えられた猛者であったこの世界の自分が、命を落とす事など無かっただろう。


「パーフェクトだな。 …さて親愛なる大淵君。サプライズトレーニングをプレゼントしよう」

「嫌な予感しかないんだが…」


「うぇーい!」

 陽気な声と共に、三人の人影。

 振り返ると、自分と同じような姿…それぞれの体格に合わせてチューンされたメイルアーマー姿の川村、藤崎、尾倉の三人が立っていた。女性用アーマーはアリスブルー、男性用はチャコールグレーと分けられているようだ。

 無邪気に横ピースしている川村はその小柄な体に似合うアリスブルーのアーマーと、似合わぬ大仰な大剣をミスマッチさせている。藤崎は自分の巨体を殆ど覆い隠せそうな巨大なラウンドシールドを。そして尾倉は両手に大振りな手斧を提げている。


「おい、冗談だろ…」思わず声が上ずってしまう。

「この勤勉にして真面目な僕ちんが、嘘を言ったことが一度でもあるかね、チミ?」

 …だから余計にタチが悪いのだ。


 小柄な川村でさえ、フル装備の出で立ちは手練れた猛者のソレであり、凄まじい重圧を放っている。両隣に至ってはもはや峻嶺そのものである。

 三人を順繰りに注視する。ステータス確認で少しでも情報を得ないことには万に一つも勝ち目はない。


 川村彩音「重剣士」(怪力・弱)(加速・短)(自動回復・少)

 藤崎海「盾戦士」(怪力・弱)(超耐久・中)

 尾倉道行「狂戦士」(怪力・中)(不死性・短)(狂暴化)


 見るからに物騒な文字列が並んでいる。しかも全員が怪力持ちとは何事か?

 …ちょっと待て、複数ずつスキルを持っているぞ?

 自分のスキルは…先の攻撃強化一つ。あとはどこをどう探しても見当たらない。そうと察した黒島が解説する。


「スキルは幾つも持ってる奴もいるし、一つしかない奴もいる。当たり外れあり、最初から不平等なんだよ。 これはもう負けイベントだから、観念して散華するがヨロシ~」

「他人事だと思いやがって!」

 先手必勝…を信じたい。地を蹴り、その中で最も小柄な川村に騎兵銃を向ける。

 ゲームなら、倒せる敵から倒して敵のターン数…手数を減らした方が基本的に有利だろう。

「悪く思うな、川村!」騎兵銃を一連射。

「へっへ~ん、やれるもんなら…ねッ!」

 背負っていた我が身ほどもある長大な剣の柄を握ると、一振りした。放った四発の弾丸が、金属音の悲鳴を上げて地面に叩き伏せられる。


 自分達の創設直後のクランを支えた屋台骨だ。この程度は織り込み済み。

 スキル発動。赤い光に包まれながら弾倉の中身をフルオートで集中射。横から割り込む巨体。

 最早巨大な壁だった。大淵とは対照的に青い光に包まれた藤崎の巨大ラウンドシールドが、全ての銃弾を防ぎきっていた。ラウンドシールドの一部にあと一歩という大きなへこみができたが、貫通には至らない。

「残念だったな、友よ!この俺がいる限りこいつらには指一本触れさせん!観念して往生するが良い!」


「この塗壁め…!」


 今度は尾倉が迫ってくる。狂戦士と言うからには接近されたらよろしくない事は容易に想像できる。

 素早く弾倉交換を済ませ、指きりで数点射ずつに制御したフルオート射撃で牽制しつつ距離を取る。

 距離は40メートルほど。一方的に騎兵銃で迎撃する大淵に対し、尾倉は一対の斧を脱力気味に握ったまま俊敏なステップで回避しつつ迫り、距離はつかず離れず。


(近接戦闘=死だな、これは…)

 余裕で回避しつつ迫る尾倉の身のこなしからして、自分の格闘技術では対応できないのが明らかだ。

 と、尾倉がステップ中に躍るような一回転を見せた。意味を理解できずにいると、金属の煌きに気付く。ようやくその意味に気付き、本能的に騎兵銃を盾にすると、投擲された一対の手斧が騎兵銃に深々と食い込み、強引にもぎ取っていく。


「なっ…!」


 飛び道具を失った大淵に藤崎、川村が難なく追いつき、長剣を抜いた尾倉も加わって三方向から包囲する。

「さぁて…どうする、スケぇ~?命乞いするー?」

 意地の悪い笑みを浮かべた川村が、頭上で大剣をくるくる回しながらにじり寄ってくる。

 スキルの使用可能回数もあと一回。

「もう少し悪あがきしたら考えるよ」観念しながらも、不敵に笑って見せる。

 こうなれば意地だ。 …一人くらいは死出の旅の道連れにしてやる。

 騎兵刀を抜き払い、最後のスキルを使用した。


「はい、お疲れー」

 

 黒島の声と共に、それまで草原だった景色が一変する。手にしていた騎兵銃も刀も消え、体中につけられた筈の大怪我も無くなっている。

 教室ほどの部屋には合計八つのカプセルが四つずつ、壁際で向かい合い、片側のカプセルには大淵が一人、そして反対側のカプセルには川村達三人が入っている。

 部屋の中央部にはミーティング用のテーブルと簡素な椅子が並び、テーブルの上には各々が持ち込んだ飲料があった。一つだけある備え付け端末には黒島が付き、横に私物のノートPCも置いてギルド業務まで平行作業している。黒島がVR世界での全ての条件を操作・設定していた。各人の武器は予めスキャンしたデータを入力して設定するだけだ。この中央区立ヴァーチャルトレーニングセンターまで大仰な大剣や銃火器を持ち歩く事はない。

 ただし、しかるべき登録手続きを済ませたソロ探索者やギルド会員で、かつゲート周辺と自宅等拠点住所を結んだ通行区間内であれば、所持は違法にならない。

 

 料金は大人で1500円。元々はVRスポーツの為に建設されたレクリエーション施設だったが、ソロ探索者やギルド所属人口の増加に伴い、彼らのトレーニング・調整施設としても改修され、第四土曜日である今日など、家族連れまで加わって大賑わいである。

「まったく…冗談キツイぜ」

 大淵はヘッドセットを外しながら未練も隠さずぼやいた。限りなく現実に近い仮想現実シミュレーターとは。痛覚もあり、あまりのリアルさに現実と仮想現実の区別も全くつかず、恐ろしくなる程だった。


「ははは、すまんすまん。前からこうやってメンバー内で対戦してトレーニングしてたんだよ。これもショック療法になるかと思ってな。だが喜べ友よ。記録大更新だ!生存時間が前より十分も伸びてる」

「お、おう…」

 恨みごとの一つも言ってやろうかと思っていたが、その事実に出鼻をくじかれてしまう。例え逃げるのが上手かっただけだとしても、この世界の自分よりも十分生き延びた、というのは純粋に誇って良い事だろう。

「そーそー!でもやっぱ前とは絶妙に違う動き方になったねー。追い詰められるまでの動きが読み辛いっていうか」

 コーラを飲みながら川村はそう評した。

「うむ。前に比べればまだまだ体と強みを活かし切れていないように見えるが、戦術を試し、確立しようとする意図を感じる動きだ」藤崎はそう言うとほうじ茶を喉に流し込む。

 さすが塗壁、よく見ているものだ。

「…尾倉はどうだ?」

 尾倉の講評を促すと、尾倉は椅子の上で片足を組んだ姿勢のまま、むっつりと缶コーヒーから顔を上げた。

「…何かがおかしい」

 大淵の顔を無表情に見つめ、尾倉は短く答えた。

 

 その言葉に臓物を鷲掴みにされたような気分になった。


 戦闘技術や戦いぶり、判断力、戦術……他の何を評価する訳でもなく、自分の目を見据えての一言だった。考えなしの言葉ではあり得ない。 

 …まさか、自分が本当の自分ではないと見抜かれたのか?

 よりにもよって冷静沈着で寡黙な尾倉に言われると、そうとしか思えない。

 背筋に悪寒を感じながらも続きを促す。

「…どこらへんが?」

 

 唇が渇いていた。声を震わせなかったのは奇跡と言えた。尾倉は手元の缶コーヒーに目を戻した。

 無視されているのか?と思いかける程度の時間が流れた。 尾倉の様子に黒島も首を傾げ、川村と藤崎も怪訝そうに大淵と尾倉を見比べる。


「…すまん。そんな気がしただけだ」

 

 自分以外の全員がどっと脱力した。漫画だったら間違いなくずっこけていただろう。

 だが、大淵は自分の鼓動が早まるのを感じていた。額からは今にも脂汗が滴りそうだった。

「そうか、なら良いんだ」

 努めて冷静に、穏やかな声でそう返した。もうこの話題は避けたい。ぎこちなく動く手で緑茶のペットボトルに手を伸ばそうとした。

 

 人の神経を逆撫でして注意を促す…不快な警報音が窓の外で鳴り響き、次いで館内にまで響いた。

『ゲートの膨張反応が観測されました。周辺住民の皆様は慌てずに自治体職員・警察・消防・自衛隊の指示に従い、落ち着いて避難をして下さい。これは訓練ではありません。繰り返します…』

 録音された女性のアナウンスが繰り返される。

「…タイミング悪ぃな」

 避難する人々でごった返しているであろう廊下への出入り口を見つめ、黒島はぼやいた。



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