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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー


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20/62

会談

 なんだか鼻がムズ痒い、と思う間も無く盛大なくしゃみをしてしまった。


 結局、クラン上層部に事の経緯を説明すると、そこから警察や政府要人にも話が行き渡ったらしく、暗くなると同時に所轄の警官が訪問し、部屋で実際に魔王の姿を見せる事になった。警官達は動揺したが、それで納得したらしく、帰って行った。すると今度は明らかに民間人のものではない、黒いワンボックスカーが路肩に数台停車し、自宅の周辺に私服警官らしい男達がやたらと目立つようになった。


 国が所有する宿泊施設に一時移送するという話もあったが、魔王が嫌がったので却下となった。 

 黒島たちは一旦帰り、自宅には自分と魔王が残った。

 外食…外出もなるべく控えて欲しいと言われ、提示された店の出前を取ることにした。

(これじゃ軟禁だな…まぁ仕方ないが)

「うむ。これは嫌だな。せっかく遊び歩けると思った物を」心を読まれるのにも慣れた。


「まぁ、今日だけの我慢だ。明日からは自由にさせてもらおう」

 戸口の外の刑事にも聞こえるよう、意識して言った。

 警備上、自分達を軟禁状態にするのは仕方ないとは思うが、これでは息が詰まる。自分も魔王に付き添っている為、そのストレスが分かる。

「うむ、殊勝だな。私の苦労を推し量るが良い」

「だがお前、それこそ魔界の城ではこういう生活に慣れていた筈だろう?」

「うむ。あの世界しか知らなかったからな。…こちらの世界を知ってしまえばもう戻りたいとは思わん」 

「…そうだろうなぁ」

 

 広い城…そう言えば、ゲームでも思ったが、魔王はあの城の中で一日、何をしているのだろう。

「お前達の国の王がどうかは知らんが、やる事など殆ど無いぞ。新たに昇格してきた幹部の魔物に一言下賜してやったり、魔物達に顔を見せてやったり。使える魔術も全て勝手に育っていくし、使い方も体が覚えているからな。やる事と言えば、歳を取って生命力が一日一日増えるのを待つだけだ。…それこそ、滅多にない来客など勇者くらいのものだろうしな。 お前達の経済活動は複雑で、互いに傷付け合う弱点だと言ったが、逆に言えばそれがあるからこそこんなに享楽が溢れているのだ。 …私はそれを羨ましく思う」


 …なるほど、そんな空虚な毎日を過ごして、1000年でようやく俺達で言う成人か。

「きひひひひひ! 1000年経った私の姿が見たいか、この身の程知らずめ! まぁ無理もない。この溢れんばかりの美貌が完熟するのを見られないのはさぞかし無念であろう!?」

「…」

「むむむッ!? 思考を消すとは小賢しい…! だが無駄だぞ、今一瞬、妄想しただろう!?白状しろ!白状すれば特別に…」

「あー、ほら、飯が来たみたいだぞ、一緒に喰おう」






 三日後、都内にある某最高級ホテルが会談場所となった。

 当然ながら会談は極秘裏に行われる事となった。

 表向きは「第33ゲート防衛功労者慰労」という名目で行われる事となった。慰労を兼ねたカモフラージュとして、これまで第33ゲート、及び要塞守備隊のギルド参加者及び代表者が招かれ、盛大な式典が開かれた。 


 大淵の存在は微妙に隠され、「クラン総合担当」の肩書で黒島が代表として首相とのツーショットを報道陣に大々的に撮影させられた。斎城を始め、極めて個性的なクランメンバーに紛れ、中肉中背の大淵は「モブその1」と言わんばかりに目立たなくなってしまった。

 会談を隠しつつこの大警備を誤魔化すという、政府側の目論見は大成功した。


 式典が終わると岩田総理と関係閣僚、そして大淵は会場から抜け出し、数メートルおきに屈強なSPが壁を背にして周囲に目を光らせる廊下を進んだ。しばらくすると黒島も会場から抜け出し、一行に合流した。

「お前、会場はもういいのか?」

「ヒーローインタビューならお前の代わりに面白おかしくマスコミに話してやったよ。今は他のお偉いさんや、斎城達を絵に撮ってそろそろお腹いっぱいになる頃だろ」

 …この手の世渡りは、黒島の方が遥かに自分より上だった。会談など開いても、あの魔王に事務・実務能力があるか分からないし、自分は論外だ。書記役…スタッフに黒島が居てくれれば間違いない。


 SPがエレベーターの中を素早く走査した。そのままエレベーターに総理大臣らと共に乗り込み、改めて総理大臣と対面する形になった。

「ふぅ…お疲れさまでした、大淵さん、黒島さん。改めてご挨拶を。この度は無理をお願いして申し訳ありませんでした。内閣総理大臣を拝命しております、岩田弓子と申します」

(やはり本物だなぁ)

 テレビで見る人物が目の前にいるというのは不思議な物だ。しかも、総理大臣というのは大概、まるで日本を混迷させる悪者のように映される事が多いから、実際に見ると印象が違って見える。

「お疲れさまでした。こちらこそ、突飛なお願いを聞いて頂いて感謝しております」

「それにしても、テレビで見るよりお若いですね!後でサイン頂けませんか?」大淵が朗らかに社交辞令を飛ばす。

「いつ交代させられるか分かりませんけれども、それでも宜しければ」岩田も冗談交じりにに応じた。

 

 そして笑みを消し、真剣な表情で二人を見た。

「確かに突飛ではありましたが、願っても無いお話です。…日本の…ひいては世界平和の為…魔王軍との戦争だけは何としても回避しなければなりません。何卒、ご協力をお願い致します」

 岩田は再び深々と頭を下げた。

「お顔を上げて下さい。自分達も思いは同じです。 ご安心ください! 魔王はどうやらこの大淵にゾッコンのようなんですよ。いざとなれば、大淵をお土産にすれば日本から地球は大安泰ですよ」

「まぁ大淵さん!地球平和の為にありがとうございます!大淵さんの銅像を手配しないといけませんね」

「そ、そう上手くいけばいいですがね…」

 堪らず苦笑を漏らす。…最近はこの手の手合いに縁がある…


 上層階に着いた。フロアは静まり返り、SPが物々しく通路の要所要所に立っている。

 足早に会議室へと向かった。ブラインドを下ろして目隠しされた窓から東京の景色が一望できる。報道陣か、飛行するヘリも見えた。

 会議室の扉を開けると…極めて不機嫌な顔の魔王が、VIP専用の椅子の上で腕を組み、片足も組み、一行を待ち構えていた。やはり人の姿はもう解いている。


 ホテルまでは警察の運転する黒塗りの高級車に二人で乗ってきたが、玄関先から会場までの間、報道陣に囲まれる所ではなるべく目立たないよう仲間達の影に隠れ、歳の離れた妹として手を繋いで進み、そこから先は各メディアや視聴者からの注意を避けるため、そこで別れてこうして上層階へと移された。

 約束を違えるか、と血相を変えかける魔王を大淵が全力で宥め、こうしてここで待たせる事ができた。


 大淵の姿を認めると幾分表情を和らげたが、勝手に離されたことが余程気に障ったらしい。テーブルの上には高級な各種の茶と菓子が並んでいるが、手を付けた様子は無い。 


 …まだご機嫌には程通い。ご機嫌度、超危険な10から60%に回復と言った所か。

 今はパンクスタイルではなく、フォーマルな黒のドレスに着替えている。行儀悪く組んだスカートからは、長く形のいい脚が覗いていた。

 漆黒の目の中で燃える赤い瞳が、岩田を捉えた。


「…私の約束を忘れたか? 本当ならもう帰っても良かったんだ。 …確かに私は争いが嫌いだが、お前達人類がどうなろうと知った事ではない。それだけは伝えておく。…さぁダイス、ここへ来い」

 

 SPが小間使いの様に素早くVIP用の椅子を二脚運び、一つを魔王が手招きした側へ、もう一つを魔王から少し離して反対側に置いた。そこに黒島が座ってくれということだろう。機嫌を損ねないよう、そのすぐ隣に腰かけた。


 岩田は申し訳なさそうに頭を下げながらも、魔王の姿に委縮した様子は無かった。

「真に申し訳ございません、魔王陛下。どうかご無礼をお赦し下さい。何分、二千六百八十年の歴史を持つ我が国でも、魔王陛下の御来訪は初めての事でございまして。至らぬ所も多々あるかと存じますが、何卒ご容赦下さい。自己紹介が遅れました、私はこの国の首相を務めております、岩田弓子と申します。何卒、よろしくお願い致します」


「ほう。お前達の王家は二千七百年近く続いているのか?」魔王は興味を持ったようだった。

 予め、魔王に関して知り得た情報を、徹底的に吟味して、相手の関心を可能な限り惹こうと努力しているのだろう。


「はい。天照大神という女神の命を受け、それ以来幾度もの大きな戦いを経て、時には敗北の辛酸を嘗めながらも、尚も連綿と続いてきた高貴な王…天皇を頂いております。私は天皇から全ての権限をお預かりし、ここに居ります。 …あら、陛下、そのお召し物、とても素敵です。こちらの世界の服でしょうか?」

「分かるか?このダイスに選ばせてやったのだ! 私の為に散々悩んで選びおったのだぞ!」

「…」

 ご機嫌度100%だろうな。 思考を殺しながら魔王を観察する術もある程度マスターしてきた。


 首相の部下だという若い議員さんのような人に五ミリ厚程の封筒を渡され、秘密裏に頼み込まれて用意したものだ。 SPに監視されながらの買い物だったが、どれが良いかと散々悩んだのは本当だ。結局、自分の選んだドレスを無邪気に喜ぶ魔王を見て…金は無理矢理、そのまま返した。


「とてもお似合いです!こちらの世界の服を気に入って頂けた事も、とても嬉しく思います」

「うむ!この世界は滅びるにはちと惜しいな。我の手を煩わさない範囲であれば協力は惜しまんぞ!」

「ありがたい御言葉でございます! …差し当たっては、今後も魔王陛下に拝謁を賜り、和平条約の締結を目標として行きたいと私共は考えております」

「うむ。互いにとって悪い話ではあるまい。我が軍勢は人間を根絶やしにせよと息巻いているが、私はもう十分だ。 私は一度魔界へ戻り、魔物達に終戦を告げてきてやろう」

「なんとお礼申し上げたら良いか…」

「良い。堅苦しいのももう十分だ。よきにはからえ」

「畏まりました。…ささやかながら宴席を設けております。 宜しければご夫婦一緒に如何ですか?」

「くははははは!早合点するな、まだ早いわ!」


 言いながらも魔王はまんざらでもなさそうだ。ご機嫌度120%か。

「良かろう。一献付き合う」

「ありがとうございます!」

 その後、報道陣対策を入念に施された別会場にて、中央クランメンバーを加え、宴席が設けられた。


 宴席が盛り上がる中、岩田が手招きした。酒をたっぷりと注がれる魔王の隙をみて、視界から離れた。

「お、お陰様で予想以上の大成功に終わりました…心からお礼を申し上げます」

 そう言いながらも岩田は憔悴しきっていた。 …いやアンタが、よくやったよ…。

 あれだけ高圧的に来られてもビビらずキレず、最後まで自分のペースを守った。政治家としては当然の事かもしれないが、世界の命運を背負うというプレッシャーの中、よくやり遂げた、と素直に尊敬した。

「…大変でしたね。よく、耐えられたと思います」

「…頭を下げるのはタダです。それで日本と世界の平和が実現するのなら、こんな頭、安いものです」

「後は任せて下さい。…ご多忙でしょうから」

「…正直な所、本当に助かります。…本当に、ありがとうございました」

 背後で自分を呼ぶ声が聞こえ、魔王の元へと戻った。


 こうして、魔王と日本政府との会談は秘密裏ながら大成功に終わった。

 会談に関わった誰もが、絶望的な戦争の回避が現実味を帯びたことに、大きな希望を抱いていた。


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