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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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影法士と海底遺跡

 

 「影法士」のナインは、軽快な口笛を吹き鳴らしながら草原を進む。


 飄々としたお喋りでお調子者。口巧みにパーティーの女子にちょっかいを出してナンパめいた発言を繰り返してはブロックされているが、横で見ていて不快になることは無かった。寺田の野郎トークには特に馬が合うらしく、ハイテンションが二人出来上がっては肩を組み、何やら珍妙な即興の歌を歌って歩く。


 パーティーが賑やかになって良い事だ。今までとて楽しくやって来たつもりだが、歩くラジオが加わったような雰囲気になった。


 先頭をアランと共に歩きながら、背後の賑やかな囀りをラジオ代わりに聞き流し、大樹は見晴らしのいい草原を眺めた。これだけ見晴らしが良ければモンスターに遭遇する事も無いだろう。緊張と無縁な、遠足気分でナインの提案した「海底遺跡」に向け、進んでいた。 

 もし方角が違えば、その都度ナインが声を上げて修正してくれるので、何も考えず進んでいた。


「そういえば、アランも遺跡は初めてかい?」

 隣を歩くアランを見下ろしながら訊ねた。

「あ、はい。…アースァル国内ですら、隅々言った訳では無いので。かつての大賢者が残した封印空間で、何層かのフロアの先に彼が封印した恐ろしい魔物と、とても希少なお宝が眠っていると」


「そう。…実は僕らも本物の遺跡は初めてなんだ。…訓練用に回収されたヒュバラ遺跡は何度も入ったけどね」


「そーそー、そこのボスがクッソデケェムカデでさぁ!女子が全員ヒーヒー言って逃げ出すし、野郎でも何人か悲鳴上げててさぁ!」


「やめて。思い出させないで!」

 水原、瑠衣らが猛然と抗議した。


「いやぁ、遺跡…ダンジョンといやぁ生と死の狭間にして、笑いあり涙ありのロマンの塊でさぁね!皆さんは勿論、アランの御坊も度胸は一流ですから、きっと今に名だたる冒険者になること間違いなしですぜ」

 ナインが調子よく応じた。

「へへっ、違いねぇ。なんてったって俺の舎弟だからな!」

「…アラン君、間違ってもこんな人を理想像にしちゃダメだからね?せめて大樹君を見習いなさい」

 水原がアランに耳打ちした。

 アランは困惑したように水原と寺田を見比べ…救いを求めるように大樹を見上げた。


「…お、俺を見るなよ。…ていうか綾?せめてって何だよ、せめてって…」

「文字通り、最低限」

 鼻で笑いながら澄まし顔だ。


「見習うといやぁ、国家元首なんてどうです、アランの御坊?」

 ナインに脇をつつかれ、アランはびくりと飛び退いた。

「えっ、いや、元首なんて…平民がなれるものじゃないですし」


「いやいや、そんな事はございませんよ。何せ、アースァルは民政という尖がった政治形態に移行しようとしている真っ最中ですしねぇ。能力とカリスマ、そして何より運さえありゃあ誰でもなれるのが民政国家の元首でさぁ。 昨夜披露したあの祝福じみた豪運、そしてその容姿端麗な御姿に、平民らしからぬ知性的な雰囲気…素質は三拍子揃っていると思いますがねぇ」


「はは…ま、まぁ、目指す分には自由ですしね。そうします」


「やたら推すなぁ、オイ?」

 寺田がナインの肩を叩いた。

「そりゃもう!アランの御坊が国家元首になってくれりゃ、いの一番に取り入って、召使にして頂きたいですから」

「おおっ、なるほどなぁ!」 


「ああ、海岸が見えてきましたね。もうすぐです」


 潮風の匂いを感じながら、先頭を進みだしたナインに続く。


 海岸線に転がる険しい岩場へと進んでいく。


「こんな所に本当に海底遺跡が?」 

 

 ミサとマキが不安げに岩場を眺めた。…下手に落ちたら怪我をしそうだ。


「あの…今更ですけど海に入ったりはしませんよね?」


「ああ、ご安心を。ここが入り口です」


 よほどの物好きでもなければ近づかないであろう険しい岩場の中に、岩陰にぽっかりと開いた洞窟。目の前を通りかかったとしても、周囲の変わり映えない風景や凹凸に視覚が騙されて見落としてしまいそうな出入り口だった。

 ナインは雑嚢から光の魔法石を取り出すと、それを頼りに先導を始めた。


 暗い洞窟を緩やかに降りていく。何度か折り返して下っていく構造を進むと、明らかに人工的な空間に辿り着いた。


「それでは若、お願い致します」

 石造りの開け放たれたゲートの前でナインはササッ、と脇に下がった。

「あれ、案内してくれないの?」

「滅相も無い!俺は小心者でしてね、こういう危険な場所には入り込まないクチなんでさぁ。それに御覧の通り、腕っぷしも全然ダメでしてね。逃げ足ならお任せを」


「そーいう事なら俺達とこのダイキチ先生に任せときな! 行くぜ、ダイ…」

 勇んで進もうとする寺田の肩を大樹が掴んだ。

「ちょっと待てよ、トラップがあるかも。…俺が先に行くよ」


「…まぁ、遺跡探索実習でもお前が盗賊(シーフ)系に次いで成績トップだったしな。ここは任せるか」


 入り口の通路…壁や天井、特に床…それらを一瞥し、違和感を探りつつ進んだ。

 

 …異常なし。


「オーケー、俺の10メートルくらい後ろは大丈夫。距離を保ってついてきて!」

 

 父からダンジョントラップへの心得と対策は散々学んだ。


「あ、ここからの壁には触らないようにね」

 壁の模様の一つを指し示して声を上げた。古めかしく亀裂が入り、壊せば隠し部屋か空間でもあるのではないかと思わせる様な壁だった。

 パーティーの面々が恐る恐るそれを避けながら続く。


「隠し部屋とかお宝でもありそうに見えますがねぇ。触ったらどうなるんで?」

 ナインが興味津々に問いかけた。


「…あー…多分、ああなる」 


 暗い通路の先に白骨死体があった。腰から上は衣服や骨がほぼ無傷で原型を留めているが、腰から下は骨が粉々に砕け、風化しつつあった。

「…な、何があったんですかい、このホトケさんは?」


 他の面々も物問いたげに大樹を見た。


「…多分、吊り天井のトラップ。それも、割と高速で発動するタイプ。…天井の色が違うだろ?多分、それが落ちて来るんだ」


「…仕掛けから30メートルはあるわね」

 水原がぼそりと呟いた。


「うん。頑張れば逃げられそうに見えるけど、気付いて走り出した時にはギリギリ無理っぽい。…あと少しだったのに、内臓から下を潰されて…」


「…悪趣味なトラップだね」

 マキが吐き捨てる。


 確かに、この遺体は惜しかったが、大抵は間に合わないだろう。通路の途中で間に合わず、じわじわと体を押し潰されていく自分を想像し、大樹はかぶりを振った。


 死体に手を合わせ、先へと進んだ。

 

 その陰鬱なトラップ通路が嘘のような光景が広がっていた。


「こ、こりゃあたまげた!」


 ナインが声を上げる。他の面々も大樹同様に言葉を失っていた。


 自分達の頭上には…真っ青な空間。一瞬、空かと思ったが、その上を魚が泳いでいく。遥か頭上にはぼんやりと揺れる太陽らしき光が見えた。


「海の底にトンネルで繋がってるだろうから海底遺跡とは言いましたが…まさかこんな光景が広がっているとは…」


「…どうなってんだ?ガラス張りか?」


「…ガラスだとしてもただのガラスじゃ無さそうね。さすが、伝説の大賢者カーバが作るだけあるね」


 瑠衣が感嘆しながら頭上を通過する海洋モンスター、シャークを見た。…自分達の姿が見えないらしい。非常に目が良く、人間を見つけると非常に攻撃的になるとされる中級海洋モンスターだ。自分達を見逃したのではなく、何らかの結界で向こうからは感知できないのだろう。


「こりゃテーマパークにしたら設けられそうだな!入場料一人10ベルとか取ってさ!」

「モンスターとトラップをどうにかできればね」


 ミサが苦笑した。

 マリーと里香は頭上の光景に見入っている。


 …水族館…


 母が話してくれた思い出話にあったっけか。海の動物をガラス越しに見られるという場所。

 …そこが両親と、古い仲間達との最後の旅行先になったとも。自分にも見せてやりたかった、と母は寂しげに笑ったものだ。

 

(…水族館、見られたよ。母さん)


「…海底水族館ってね。結構いいアイデアかもね、寺田。 よし、先に進んでみよう」


 頭上の美しい光景に見惚れていて今更気付いたが、足元は今までの通路のような石造りではなく、砂地になっていた。…わざわざ石畳の上に砂を敷いたわけではあるまい。カーバの遺跡に一般論が通用するかは知らないが、砂地の下に空間は作れない。

 …もしかしてここは、下階層が無いタイプのダンジョンなのか?…だとすれば相当珍しい…発見されたダンジョンとしては史上初タイプの遺跡になる。


 ザザザ、と音がして、すぐさま鵺啼を抜き払った。


 自分達を取り囲むように砂地の中から青いロブスターのような甲殻モンスターが十体ほど現れた。

 更には巨大な二枚貝、そして…名状しがたい…パイプから無数の触手が飛び出した奇怪なモンスターがそれぞれ三体ずつ。 …大樹達はザリガニや、イソギンチャクを知らなかった。


「気を付けて下さい、クレイフィッシュにバイターシェル、アネモネでさぁ! クレイフィッシュは硬い上に、下手な武器防具なんかあの鋏で圧し折ってしまいます! バイターシェルとアネモネは拘束して捕食してきます!接近戦はあまりお勧めできませんぜ」


 いつの間にか、遥か後方の通路まで後退したナインが大声で説明してくれた。


「バッキャロー!逃げるのは良いが、アランも連れて行けよッ!」

 騎兵槍を構えた寺田が振り返らずに怒鳴った。


「すいやせん、つい癖で!」


 と、ナインの姿が消え、アランの影から現れた。そしてアランを抱えると、今度は寺田の影に落ちるように消え、再び通路の壁の影から現れた。


「…そりゃいつの間にかいなくなってる訳だ」


 とはいえ、非戦闘員を気にせず戦えるのは助かる。あとは支援担当のマリーと里香さえ守れば良い。


 と、二枚貝…バイターシェルがおもむろに貝を開き…淡いピンク色の長い触手のような器官を凄まじい速さで伸ばして来た。

 寺田はそれを避け、瑠衣も身を低くして躱した。

「あっ!?」

 反応が遅れたミサの胴に絡まったかと思うと、大樹が駆けつけるも間に合わず、ミサは貝の中に引きずり込まれ、貝はガッチリと閉じてしまった。中でミサが暴れている筈だが、ビクともせず、声一つ届かない。


「マズいッスよ若!早く助け出さないとミサのお嬢が真珠にされちまいます!」

「ええッ!?ナインの影技で何とかならない!?」

「あの貝の中は影じゃなくて闇です!光の中に映し出された影にしか出入りできません!」


 

「くそ、こいつらホントに硬ぇし、鋏で防いできやがる!」


「里香、皆に攻撃と防御強化のバフを!マリーは里香の護衛を!」

「わかりました!」「了解です!」


「寺田、瑠衣、綾、マキは戦線維持頼む!」

  

「お前は!?」

「突破する!」

 二つの結晶石に触れ、魔力を流し込む。


 みどりとサンドリーパーが召喚される。

「みどりさんは糸玉で援護を。サンドリーパーは…好きに暴れてヨシ!」


 ガチッ、ガチッ、と、クレイフィッシュのそれより一回り巨大な鋏を打ち鳴らし、クレイフィッシュの群とノーガードの格闘を始めだした。

 …格闘、というより、重機同士が互いを破壊し合うような豪快な壊し合い。ただ、サンドリーパーの装甲はクレイフィッシュのそれより遥かに頑丈なようだ。

 

 サンドリーパーが切り開いた活路を進む先にはバイターシェルが三体待ち構えている。ミサを捕えているバイターシェルは何もしてこないが、残りの二体が貝を開ける前にみどりの放った糸玉が貝口にへばり付き、身動きを封じていた。


 その隙に貝の隙間に鵺啼を刺し込み、中にいるミサを意識しながら貝だけを破壊した。本体の急所を傷つけたらしく、途端に抵抗が皆無となった。

 …薄らと虹色に反射する粘液まみれのミサがもそもそと力なく起き上がる。

 

「…マジ最悪…」

「生きてて良かったよ」

「ホント、窒息死するかと思った…ありがと」


 べっ、と口の中に入った粘液を吐き捨て、バイターシェルの死骸を蹴り飛ばした。そして、仕返しとばかり口を閉ざされて藻掻く残りのバイターシェルを騎兵槍で叩き壊して回る。

 

 大樹は味方を振り返ったが、サンドリーパーの大暴れとみどりの糸玉による拘束妨害により、残るモンスターも一方的に狩られていた。

「若ぁー!我らがファントムナイツの大勝利ッスよ!」

 傍らのアランが物言いたげにナインを見上げる。「アンタ大したことしてないでしょ」とでも言いたいのだろうか?


「けどすごいね、あのサソリ」

「ああ。けど、さすがに消費する魔力も多いから、出し所を考えないと」


「はぁ…さっさとダンジョン攻略して、海水でも良いから入りたい」

「そうだね。時間が余ったら海水浴だ。 先へ進もう」

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