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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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ミッドナイト・ランデブー

 

 大樹は川の水音に紛れた微かな物音と気配に目が覚めた。シュラフから身を起こし、傍らに置いた鵺啼の鞘を掴んだ。 外で焚いていた焚火は消えている。時計を見た。…午前二時。


「…寺田か?」


 小声で声を掛けるが、返事は無い。…代わりに、旺盛な鼾が隣のテントから聞えてくる。


 …野生動物か、モンスターか…それとも強盗か…テントの周りに張り巡らせた落とし穴にかかった様子は無い。


 大樹は戦闘服の上からガントレットだけ手早く身に着け、テントから出た。


 微かな月明かりの下、人影が杖を砂に付きながらテントに迫ってきていた。…盲目の人間が杖を付くのとは違う。明らかに、落とし穴…トラップを警戒しながらこちらに忍び寄っていた。相手もこちらに気付き、杖で落とし穴を探り当てると同時にフリーズした。


 鵺啼を抜き払った。


 月明かりを反射し、青白く刀身が煌く。


「ま、待って!…ぼ、僕だよ」


「…昼の子か…?」


 警戒しながら近づくと、闇に慣れた目にあの少年の顔が映った。薄い褐色の肌に、昼と同様のマントに身を包み、頭部にはターバンを巻いていた。…だが腰には、昼には無かった短剣らしきものを認め、大樹は再び警戒した。


「…どういうつもりだい? 今度は食べ物じゃ無さそうだな」

 

 大樹の声に微かな殺気を感じたか、少年は慌てて弁明した。

「ち、違うんだ、これは…!」


「…どうした、ダイキチ? 小便しながら独り言か?」

 寝ぼけた声がテントから聞えてきた。


「緊急事態だ、起きてくれ、寺田」


「…マジかよ」

 不機嫌そうな声。 やがて、戦闘服にタンクトップ姿の寺田が騎兵刀を手に出てきた。


「…このクソガキ、どう言うつもりだ? …尻叩きじゃ済まねーぞ?」


「た、頼みたいことがあって来たんだ!」

「憲兵に頼むんだな」

 寺田がにじり寄る気配。少年が怯えながら後退った。


「…まぁ、憲兵に突き出す前に話くらいは聞いてやろうよ」


「…チッ。…それで?何でテメーは俺らのテントに短剣ぶら下げて近づいてきたのか教えて欲しいね」 


「…君達じゃなければ頼めないんだ。旅人なんでしょ? …ここから…アースァルから連れ出して欲しい」


「…何だって?」


「…この国で生まれた人間はこの国から出られない掟があるんだ。 …でも、僕は一度でいいから外の世界を見たいんだ。…頼むよ、僕を旅に連れて行ってよ」


「冗談だろ…」

 大樹は愕然として呟いた。 …犬や猫を拾っていくのとは訳が違う。

 

「…オイオイ、どーすんだよダイキチ先生?」

 寺田も困惑を露わに大樹を見上げた。

「…とにかく、水原達に連絡しよう」

 大樹は無線機を内蔵したアーマーを取りにテントへと戻った。


 …返事は分かり切っていたが。



『ダメに決まってるでしょ』


「そりゃそうだけどさ…」


 …自分達とて実習試験中の身だ。見ず知らずの子供を連れていけるほど余裕がある訳が無い。

 …だが、少年の外の世界を見たいという気持ちは冒険者を目指す自分達とて共感できるはずだ。無下に拒絶する気にはなれなかった。


『でも、リーダーは大樹君だよ?』

『…黒崎さん、あなたまで何を…』

『要綱を見回したけど、第三者を連れて旅をしてはいけない、とはどこにも書いていないから。傷付けたりしてはいけないとは書いてあるけど』


『書いて無ければいいって問題じゃないでしょう?』

「まー、書いてねーんだったらいいじゃねーか。ヘッドの判断に従おうぜ。…どうする、大樹?」


「…」

 途中の村で購入した地図を思い出しつつ、少年を振り返った。


「…俺達はこのままラグナ川を南東に進んで、国境を越えて、ラガベリという地方に行ってみようと思う。…それから決められた日数まで旅をしてから引き返して、再びこのアースァルで君と別れる。…君が望むような冒険はできないかもしれないけど、それでも良ければ」


『ちょ、ちょっと大樹君、正気なの!?』


「お願いします!外の世界を見られるならそれでいいんです」

『…』

「決まりだな。…眼も覚めちまったことだし、こうなったら出発しねーか?」

 

 …連日の昼夜逆転した生活によって、生活リズムが変わりつつあった。地図によるとここから先は今までのような砂漠地帯ではない。旅の難易度もぐんと下がる筈だ。


『…皆もそれでいい?…分かった。今から身支度してそっちに合流するから』

「皆、ありがとう」




「…それじゃ、まずは自己紹介してもらおうか」

 

「…アラン…です。よろしく」


「俺は寺田だ。アニキって呼びな!」

 弟分ができたつもりなのか、寺田が嬉しげに自己紹介した。…俺にも弟が居たら、年齢的にもこんな感じだっただろうか。


 一通り自己紹介を終え、この川…ラグナ川を渡る為の大きな橋へと向かった。


「よろしく、アラン君。…反対する訳じゃ無いけど、お父さんやお母さんが心配するんじゃない?」

 水原が心配そうにアランを見下ろした。


「…母は病気で他界して、父はその…怖い人ですから。…できれば顔を会わせたくないというか…」

「…悪い事聞いたわね、ごめんなさい」

「いえ、気にしないでください。 …こちらこそ、無理を言ってすみません。きっと旅の邪魔にはなりませんから」


 大樹はアランの装備を見た。…革製のブーツとカバン。新調したばかりなのか真新しい。…そして、例の短剣は宝飾が多い目立つ一品だ。武器としての価値は言うまでも無いが、その辺の武器屋で売っているシロモノでもない。 …母親の形見だろうか?


 そして、どこかで隠れて見ているであろう教官も特にアランの同行を禁ずる様子も無い。…まぁ、頭を抱えるくらいはしているかもしれないが。


 


 橋を渡り終え、アラナ平原を進む。明るくなる頃には次第に植物が増えていき、やがて緑一色の草原地帯となった。


 国境線はラガベリ側から建てられたささやかな石垣だけだった。…アースァルが孤立主義?を貫いているのは本当らしい。


「…ところでアラン。君の国の政治体制はどんな風になっているんだ?…父やアルダガルドで聞いた話では政教国家だと」


「…それは十五年前ですね。 …あのスペリオールの教団幹部らと国王が癒着…実質傀儡政権と化していましたが、時の王が十年前にスペリオールを追放し、王政にしました。…僕は生まれてませんけど、親にそう聞きました」


「じゃあ、今は王国なのね」

 水原が納得したように言った。


「…実は、民政に転換しようとする動きがあるみたいです」


「それってアレだろ。多数決とかで決めるやつ…なんつったけか…ほらアレ」

 寺田が喉元まで出かかった言葉を思い出し切れずに悶えた。


「…民主主義?」

 ミサが事も無げに言った。

「そう、それ!」

 寺田がビッ、とミサを指さしながら石積の塀を軽々と乗り越えた。一メートル以上ある塀はアランの身長と殆ど同じだ。大樹がアランが昇るのを手伝い、向こう側で寺田が補助しながら乗り越えた。


 …女子も殆どが乗り越え、或いは軽やかなジャンプで飛び越えているが、やや筋力不足のマリーと、フィジカル全般が低い里香は大樹と寺田が補助しながら乗り越えた。


 王政から民主主義への転換は、ざっくり言ってしまえば法律を定めて法の下で選挙を行い、そこで選ばれた代表者によって国の各部門の代表者を決め、国家運営をしていく事だ。

 …だが、父の冒険記録を見た限り、そう言った国は少ない…というか、未だ確認されていない。ほぼすべての国が程度の差はあれ王政…君主制を採用している。

 アルダガルドやブレメルーダのリノーシュもそうだ。ただ、リノーシュは既に何年も前から民政への移行を考え、その為のシステム作りと国民理解を模索していると父は語っていた。


 民主主義政治で運営されているのは日本コミュニティくらいのものだ。 

 

 だが、もしその話が本当で実現すれば、アースァルは現時点で確認できる最初の民主主義国家となる。

 

「アースァルの人達は今の王様をどう思っているの?」

 マキが伸びをしながら訊ねた。


「…あまり良く思っていないみたいです。最近は兵の離反や除隊も起き始めているようで…体制転換は時間の問題だと思います」


「…兵の離反、というのがなんだかキナ臭く感じてしまうのは私だけ?」

「同感ね」

 大樹も同感だった。…乱暴な事にならなければ良いのだが。


 …次第に草原の草丈が高くなっていた。葦に似た植物が最も身長の低いアランを見え隠れさせていた。白いターバンを巻いてくれているおかげで目立つのが幸いだ。その次に危ういのが里香だが、里香はまだ顔が見えている。


「アラン、はぐれないようにな。」


「はい…」


 ザザザ、と草原の中を何かが動いた。


「…何かいる…」


 大樹が戦慄しながら呟いた。


 他のメンバーも足を止め、大樹を見て…言葉の意味を理解してそれぞれ得物を構えた。


「…水原さんとマリーと里香、アランを囲んで円陣隊形に。寺田とミサさんの銃器使用は各自判断に任せる」


「…ねぇ大樹君。そろそろさん付け要らないんじゃない?」

 ミサが呆れたように大樹に言った。視線は忙しなく周囲の気配を探っているが。


「そうね。私もそろそろ名前で呼んでくれてもいいけど」

 水原も賛同した。


「ありがとう。次からそうす…」


 草むらが音を立てて倒れてくる。


「悪戯ならやめろ!攻撃するぞ!」

 大声で警告をしながら大樹は鵺啼を抜き払った。


 止まる気配なし。円陣の正面中央から二歩進み、向かってくるモノに備えた。


 草むらから飛び出して来た白刃。大樹は優れた反射神経でそれを切り払いつつ、反撃の一刀を返した。

 相手は身を翻して再び草むらに逃げ込む。


「何、今のアレ!?」

 マキが動揺して声を上げた。


「クッソ速ぇ…!忍者みてーだ!」

 忍者…確かに似た格好をしていた。 草むらから飛び出して来た瞬間、大樹はその姿をハッキリと捉えていた。

 恐らく戦士系の魔物。アランより少し高い程度の慎重に、草原によくなじむオリーブ色のローブらしきものを被り、ショートソードで襲い掛かってくる。…厄介な事に、その低身長を活かしてこの草原の中を駆け回り、強襲を仕掛けてくる。


 ミサと寺田がそれぞれ数発ずつ騎兵銃を発砲した。 …だが、手ごたえは感じられない。


「…ダメだ、草が多すぎて無駄弾になるだけだ!」

「…火はまずいよな。それなら…」


 大樹が手をかざした。


 直後、草原を一陣の突風が襲い、草が一斉に刈り払われた。その中で露わになった五体のローブを纏った魔物も風の刃で切り刻まれて倒れた。


「…なんつぅ威力だよ」


「…こんなのに奇襲されたら厄介過ぎる。このままコンボイ方式で進もう。俺が草原をある程度狩り払って進むから。最後尾は寺田、頼むよ」

「おう」


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