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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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アースァルへ


 もう一晩の移動を経てオアシスに辿り着いた。 …とはいえ、かつてスペリオールの母体だった地域である。いきなり手荒い洗礼を受けるのではという不安を、自分含めパーティ全員が持っていた。


 流石に危険な可能性を排除できない為、教官が辛うじて察知できる程度に身を現わした。それを確認し…いざとなればアラクネとサンドリーパーを解き放つつもりでオアシス街へと足を踏み入れた。



 …そしてその懸念は杞憂に終わった。

 オアシスの人々は平穏に暮らし、都であるアースァルとのやりとりを含め、自給自足した生活を送っていた。経済的にも若干余裕があるように見え、それもあってか外界からやって来た大樹達に驚き、好奇心を持ちながらも人々は温厚に迎えてくれた。

 

 水の補給を終えてから宿を確保し、二グループに分かれて情報収集を始めた。

 大樹、ミサ、瑠衣、里香のチームと寺田、水原、マキ、マリーのチームに別れた。


「アースァルはもう平和だよ。ここから歩いて一日だ。…確かに十五年前、あの悪魔崇拝教団によって国の中枢が牛耳られ、その母体になってしまった事は今でも全国民が汚点として抱えているがね。…だから、我々はこの国の領土から出ないし、今はスペリオールではなく、本来の教えだけを守って生きている」

 苦笑交じりにそう言う男の顔には拭いきれない後悔の念が滲んでいた。

 

 この世界において上位者による大きな被害は無かった筈だ。…もっとも大きな被害を受けたのはゲートが現れた花の国と、北大陸でかつて存在したゲートから押し寄せていた上位者と死闘を繰り広げていた魔王軍だ。

 …それでも、父達が元居た世界のように滅亡させられずに済んだ。


 今の日本人街はその世界の名残を敢えて残すべく復興・発展させたということは初等部で習うまでもなく、殆どの子供たちが親から聞き知っている筈だ。


 …大人たちの誰もが懐かしそうに口を揃えて言うには、それはそれは平和な世界だったらしい。 だが、自分達も日本人街に居る限りは同じように平和なのだろう。

 


 宿屋に戻って待っていると、寺田達も戻って来た。

 

「どうだった?」


「アースァルは平和だってな」

「同じだな。夜まで休んでから出発しよう」



 充分に休息を取り、例によって夜間の内にアースァルへの道を進んだ。


 …そして東の空が明るんでくる頃、冷涼とした砂漠の果てに人工物…都市の姿が見えてきた。これまでに見た城の様に高い塀は無く、密集した家屋や建物が見える。よく見ると、都市の向こうには大きな川も見え…ステップ気候と言うのか、都市周辺には低木と土があり、気候も変わっている。


 そして、都市の中心部には小高い…宮殿らしい建物の影も見えた。

「…あれだろうな。…マリーさん、里香さん、いける?」


 大樹はパーティーで最も体力の低い二人を振り返った。ここまで来たら焦る理由も無い。あても無くさまよう訳でもないのだから、酷暑の日中になってもこの距離ならばどうということは無い。


「私は大丈夫です!」と、里香。

「お、同じく!」マリーも応じた。

 

「そんじゃ、日が昇り切って熱くなる前にゴールインするとしようぜ!」



 

 厳しさを増してきた日差しから顔を背け、大樹は家屋の一つにそっと触れた。…土だ。レンガか石かは分からないが建物を作ってから、風通しの良い窓を開け、家の外は土壁にして断熱材としているようだ。


「あちぃ~…クソ、冷やした炭酸が飲みてぇっ!」


「本当にね。とにかく、宿を探そうよ。…ここって首都なんでしょ?お風呂って無いのかな?」

 マキが自慢の栗色の髪を払うと、細かな砂が落ちた。 …女子に限らず、自分とて砂を落としたい。


 …汗に張り付いた砂は本当に気持ちが悪い。確かに、ここはステップ地帯で近くに大きな河もあった。入浴施設もあるかもしれない。


「風呂が無かったら、この暑さなら水着になって川で泳いでもいんじゃね?」

 …寺田に反論する者は居なかった。校指定水着は各自で持ってきている。この暑さなら、普段なら一蹴されるアイデアでも妙案になる。


「そうだね。手分けして宿を探そう。…例によって二グループで、見つけ次第連絡しよう」


 寺田達と別れ、大樹は瑠衣とミサ、里香を連れて街中を歩いた。


 …日射避けの帽子とマント、それに道を行きかう人々の多さにより、まったく目立つことなく街中を移動できた。…一際高い宮殿に近づくにつれ、警備の兵も増えていく。自分達のようなつば広の…麦藁帽に似た植物性の帽子を被り、マントはしていないがやはり植物を編んだような鎧を身に纏っている。


 …わざわざ鎧にするという事は、あの麦藁帽に似た被り物も単なる暑熱対策だけでなく、少なからず防御力があるということだろう。


「あれ、そうじゃない?」


 ミサが喜色を露わに一つの建物を指さした。足早に向かってみると、確かに宿屋と書いてあった。


「よし、寺田達に連絡して行こ…」


 ドン、と誰かにぶつかった。大樹はよろめきかけるが、相手は地面に四つん這いになるように転んだ。


「す、すみません!大丈夫ですか?」


 慌てて助け起こそうと手を伸ばすが…嫌な気配を感じて思わず手を引っ込めかけた。


 相手の顔は帽子のつばと、肌を隠すように巻いたマントの襟で隠れて良く見えなかった。無言でのそのそと立ち上がり、やけに色白な肌と、妖しく光る眼で大樹を見つめてきた。


「…すみませんでした。あの、お怪我はありませんか?」

「…えぇ、大丈夫です。…御心配なく」


 …相手が笑った…気がした。


「…」

 立ち去っていく相手を見送り、大樹は言い知れぬ悪寒を感じていた。…気のせいか?

 

 スペリオール…父との因縁こそ深かろうが、息子である自分には無関係な筈だ。…それに、もう上位者は居ないのだから。


『…悪い奴…悪魔みたいな奴ってのは、俺達じゃ及びもつかねーくらい無駄に頭が回るのさ。次から次へとロクでもねー事ばっかり…』


 …いや、警戒だけはしておくに越したことは無いか…


 宿屋へ入って客室のメニューを見て…アースァルの民には失礼かもしれないが、正直驚いた。


 値段もそこそこ良かったが、日本人街にある、外部からの来客用にある小さなホテル…初等部の見学で行っただけだが、あれと同程度の設備が整っていた。

 個室にシャワールームあり。グループごとの相部屋にもシャワーが一つ。珍しい事に、未婚の男女同室は厳しく禁じられていた。 父と母の冒険を聞いた限り、男女同室を禁じられたという話は聞いた事が無い。…この国はその辺が厳格なのだろう。

 

 …考えてみれば、自分達も寮で同じ部屋で寝起きしているが、こっちの方が異常なのか?


 女子六人は大部屋で、自分達は二人用の部屋を取ろうとして…端と思いついた。


「…女の子達が居ないなら、安宿で宿代浮かせられるな」

「おっ、そういやそうだな。別に俺、ふかふかのベッドでなくていいしな。何なら、野宿上等だぜ」


 まだ路銀に余裕はあるが、いつかは絶える。…恐らく、このままブレメルーダに直帰して残りの一ヶ月近くを過ごしたとしてもファントムナイツの合格は揺るぎないが…勿論そんなのはつまらない。


 帰還日を計算しながら、行ける所まで行ってみよう。…それはポイント云々では無く、どこまでも見知らぬ世界を求める探求心からだった。


「そうと決まれば他のもっと手頃な宿か、適当な野営地を探そうぜ。…流石に街中で寝たら面倒になるよな?」


「なるね。…憲兵に捕まって、下手すると減点かも」

「だよなぁ。 行こうぜ」


 アーマーの無線でその旨を水原に伝え、二人は寝床を探した。


 男二人で気楽なものだ。

 知らず、大樹も肩から力が抜けていくのを感じた。


 二人は例の川へと向かってみた。地元の子供たちが遊ぶ姿が見えた。川に飛び込んで泳ぎ、遊ぶ子もいた。 見守りか、老人が三人、岩場に腰かけてそれを眺めている。 …そして、自分達を見ると怪訝そうな顔になった。 


 構わず、大樹と寺田は草陰で校指定水着に着替え、川の水で自分達の戦闘服やシャツ、下着などを洗った。砂地に突き刺した騎兵槍と騎兵刀の間にロープを張り、衣服を干した。

 

 そして、子どもたちから離れたやや下流側で川に飛び込んだ。


 …それを見計らって荷物に忍び寄る人影。


「うぉおお、生き返るぜ!最ッ高だ!」


「本当だな、こりゃいいよ」 


「シャワーよりこっちの方が良かったんじゃね?」

 寺田が口元に笑みを浮かべながら言った。


「ああ、俺達にはね」

 大樹も楽しげに応じた。


 …荷物のバックパック迄あと一歩という所で、人影が砂の中に落ちて、半身だけが覗く形となった。逃げようと慌てて藻掻いているが、細かな川砂が周囲から崩れ落ち、更に身動きを封じていく。


「おお、晩飯までゲットだぜ!」


「本当だ!今日はここで野営だね」


 オーバータイプのマントを頭から被った盗人の顔に、二つの影が被さる。砂に腰まで埋まって身動きできない盗人の小柄な体がフリーズした。寺田が手を伸ばし、盗人のマントを剥ぎ取った。


「…子供…か?」


 ターバンを巻いた、まだ十歳を迎えたかどうかの少年だった。…被捕食者に捕らわれた生物共通の、怯えた顔を見せている。

「へへへ、どうする、ダイキチ先生ぇ?うまそうなガキだぜ?」

 寺田が悪戯っぽく少年と大樹を見比べた。


「…好都合だな、捌きやすくていい。…でも」

 大樹がバックパックから折り畳みシャベルを手に、冷たい笑みを浮かべた。

「…まずは絞めてから放血しないとね」

「…ヒッ…!?」


 シャベルを手に少年に近寄り…落とし穴を掘り返し始めた。

「…食う訳無いだろ。 でもダメだろ、人の物を盗んじゃ?…盗まれたせいでその人が行き倒れる事だってあり得るんだから」


「何を盗もうとしたんだ、ガキンチョ?」

 寺田も携帯シャベルを手に砂を掘り返し始めた。


「…金目の物とか食い物とか」


「何のために?」


「…生きるためだよ」

「ま、そりゃそうだわな」


 少年を解放すると、大樹と寺田はそれぞれのバックパックからレーションを取り出した。

「あっ、お前、一番美味いCレーションかよ。甘ちゃんだなぁ~」

「…寺田は自分の嫌いなAレーションじゃないか…」

「いいだろ、フルーツナッツバーがあるんだから」


「ほら、食い物はやるよ。…ここを裂いて、中身を取り出して食うんだ」


「…ありがとう」


「もう悪さするなよ~」


 少年を送り出し、大樹と寺田も昼食の準備に取り掛かった。

「…この川、結構魚とか蟹がいたよな」

「基本的に自然で手に入るものは毒が無くて食べられるんだって。…食べられないのは海洋モンスターくらい」


「…自給自足、いっちょ行きますか」



 …その夜、川魚と蟹、更には夕方になって襲って来たデザートベビードラゴンを返り討ちにして肉とし、周囲に自生していた香草の一種を採取して調味料にして、ささやかなバーベキューを楽しんだ。


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