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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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アルダガルド中央区長


 わずか五日間でアルダガルド近郊の岸へと辿り着き、ボートは子蜘蛛たちがどこかへ隠すために運んで行った。

…流石魔物・モンスターで、あれだけ活動しても空腹や疲労とは無縁である。人や動物ではこうは行かない。

「ありがとう。…おそらく一ヶ月半くらいしたら、帰りはまたこの近くに来るから、お願いしても良いかな?」

「勿論でございます。わざわざここまで来られなくとも、ロナレの川辺に向かって話しかければ、私の子らがどこかしらで応じる筈ですので、お迎えに上がります。 …どうかお気をつけて」


「あ、ありがとうございました」

「あざっす!」


 水原や寺田達もアラクネに頭を下げ、水のアラクネと一旦別れた。


「…姉さま?皆様をよろしく頼みましたよ?」

「当然です。貴女こそ、帰り路の役目を忘れぬようにお願いします」


 …別れ際まで姉妹でライバル心を隠そうともしない。アラクネ同士は決して殺し合いもしないが、必ずしも仲が良い訳でも無いらしい、という父の記述を思い出した。…今にして思えば、白のアラクネさんもみどりさんの居る森に近づかないように警告していたし…実際、警告通り危うかったが。


 アルダガルドの巨大な外壁が見えてきた。



「そこで止まれ。旅の者か?」


 王国内へ通ずる開閉式の橋の袂で入国監査に当たる兵達に誰何され、大樹ら八人のパーティーは言われた通りに立ち止まった。


「…見慣れぬ甲冑だな。…ブレメルーダの軍人か?」


 監査の兵達は訝しげに大樹達を見回した。…屈強で強面な男達からじろりと睨まれ、里香やマリーは水原や瑠衣の影に隠れるように縮こまった。 …寺田はガンを飛ばして対抗している。


「あー、はい、ブレメルーダの方角から来ましたが、僕たちは北大陸から来ました。 …二ホン人、と言えば分かりますかね?」


「二ホン人って……思い出した…お前の、その顔!」


 4、50代と思しき古参の風格を持つ兵が、目を見開きながら大樹を指さした。


「…面影がある。…15年前にこのアルダガルドへやって来て、後にアースァルのスペリオール共が呼び出した化物共を退治した英雄…ダイスに似ている。…まさか…」


 兵らが大樹を驚きの目で凝視した。

 

「…ダイスは僕の父です。アルダガルドにはお世話になったと聞いています。 今回は、冒険者としての訓練、テストの一環としてここに来ました」


「…なるほど。よくぞ参られた。…ささ!通られよ」

 

 兵達が一行に道を譲り、ファントムナイツのメンバーは橋を渡った。


 …広さで言えばブレメルーダ以上あるだろう。高低差のある王国内は北門から入って、西側に工業地帯と居住区を、中央に農業地帯、東側奥手に商業地帯らしき区画があり、王国の中心部に王城を望む。王城と農業地帯を縦断し、工業地帯にまで大きな水路が流れていく。


「でっけぇ…!」

「…本当。…20キロ四方あるかしら」

 水原も圧倒されながら応じた。


「…懐かしいなぁ」

 しみじみと漏らす大樹に、隣を歩いていた瑠衣が顔を上げた。

「え?」

「あ、いや。なんでも」


「…それで、大樹。お前が会いたい人ってのはどこにいるんだよ?」

 先頭で物珍しそうに王国内を見回していた寺田が振り返った。

「…中央に円環状の堀を囲むように石やレンガ造りの建物が見えるだろう?そのどこかに居る筈だから」

 歩きながら大樹は答えた。


「…あの辺って、確か…」

 ミサが授業で習った曖昧な記憶を思い出そうと首を傾げた。


「行政エリアね。区役所や治安関係が並んで居るはず」


 一時間かけて中心部…区役所の一つに入った。…王城へと向かう橋の袂に兵の詰所と思しき建物と橋を挟むようにして建っている、一階は石造りで二階からはレンガ造り三階建ての立派な建物だった。

 

 「中央区役所」と書かれた看板の下に立つ警備の兵が物珍しそうに一行を眺めるが、特に誰何もされなかった。

 

 職員や市民でごった返すフロアの中を進み、カウンターへと向かった。


「こんにちは。どのようなご用件でしょうか?」

 受付嬢が愛想良く応対してくれた。


「…あの… クリフェ・オルファン・ポッサムさんはどこの区役所にお勤めでしょうか?」


「は…? …クリフェ区長はこの中央区長として三階に居りますが…現在、来客応対中ですが…失礼ながら、どちら様でしょうか?…新規傭兵団員の方かとお見受けしますが…?」


「…その、大淵大輔…ダイスの息子、大淵大樹です。…クリフェさんにご挨拶をしたいと思いまして。ほんの数分で良いのですが、もしお時間があればと思いまして」


「え、英雄…ダイス様の…?」


 苦笑しながら引きつった笑みで返された。…まぁ、そうそう信じてもらえないか…クリフェさんも多忙の身だろうし、それならそれでいいのだが。


「…確認いたしますので、少々お待ち頂けますか?」

「はい。わざわざありがとうございます」


 受付嬢が席を立ち、ととと、とフロアの奥にある階段へと向かい、上階へと向かっていった。


 …ものの5分もすると、幾分急ぎ足になった受付嬢が上階から戻って来た。


「大変失礼いたしました!どうぞこちらへ!」

「いえ、失礼なんて。…なんだかすみません」


 仲間達を振り返り、「行こう」と手招きした。


 二階へと案内され、応接室に通された。重厚な家具が並び、ソファを勧められた。

「お待たせして申し訳ありません。今暫く…五、十分だけお待ちください」

「とんでもない。アポなしで来たのは俺ですから」


 受付嬢が恭しく退出して…本当に五分程で急ぎ足の足音が聞こえてきて、扉を開けられた。


「大樹君!? …懐かしいなぁ!9年ぶりかな。すっかり逞しくなって!」

 スマートなスーツに身を包んだ、二十代半ばの精悍な青年。…タイプだったのか、マキと里香が見惚れるように凝視している。

 受付嬢が盆に紅茶を乗せてついてきて、全員にお茶を配ってくれた。


「ご無沙汰しています、クリフェさん。…そうですね。最後にお会いしたのはこのアルダガルドでの祝賀セレモニーでしたから…でもよく覚えています。…父と母や大人達が挨拶回りで自分に構っていられない中、小さくて悪戯ばっかりだった自分の面倒を見てくれた兄や姉のような存在……クリフェさんやカナさんによく遊んでもらった事を」


 クリフェとカナ、そして彼らの義理の父親であるハサムとは、父が上位者を討ち滅ぼしてから、両親の都合…式典への参加に同行させられる形で一度、こちらで一度だけ会っていた。その前に一度、自宅に招かれたハサムやクリフェ達と初顔合わせをしたのだ。

 

 クリフェはファントムナイツのメンバー全員と簡単な自己紹介を交わした。


「ああ、それも懐かしいなぁ!…君は駆けっこが得意で、特に逃げ足と身のこなしの素早さが飛びぬけていたっけか。だから鬼ごっこではいつもこっちが降参して……それが今では… 君が小隊長かい?」


「あ、いえ、まだ試験段階の訓練生ですので、正式な隊長では。 カナさんやハサムさんはお元気ですか?」


「ああ。 ハサム義父さんは引退して、今は静かに暮らしているけれど、代わりと言わんばかりにカナが冒険者になってね。ちょうど一週間前に、川を渡ってダンジョン探しをすると言って出ていったよ。元々活発な奴だったから… ああ、もっとゆっくり話したいものだな。…今回の訓練に時間の余裕はあるのかい?あれば、是非家に招待したいのだが。義父上も大喜びするよ」


「…あー、それが、そう余裕がある訳でもないので…でも、ある程度任務をこなして時間があれば…お言葉に甘えたいと思っています。…そこで少しお伺いしたいのですが、この近辺で最近、何かお困りの事や懸念などはありませんか?」


「ああ、ダイスさん…お父上のお陰でね。平和なものさ。 …個人的だが、もし見かけたらカナの様子を見てやってくれると助かるのだが。…おっちょこちょいだから。川向こうの砂漠の、アースァルへの街道沿いをウロウロしていると思うんだが… ただ、アースァルには近づかない方が賢明かもね。国交は無く、あちらの情報はまったく入ってこないから」


「…分かりました。ありがとうございます。…任務をこなして、残り期間に余裕があったらまたお邪魔する事になるかもしれませんが…」


「是非寄ってくれ。…出ないと義父が寂しがる。君の成長を気に掛けていたからね。 …ほら、君が昔…ひょんなことから変貌してしまったお父上の…ロキと似ている、と言ってね。孫のように思っている所があるんだ」  


「ありがたい限りです。 では、余裕さえあれば遠慮なくまたお邪魔しますので、その時はよろしくお願いいたします」


「ああ。気を付けてくれ。アルダガルドの南門を出て左手…東側に船着き場があるよ」


「ありがとうございます。お世話になりました」


 大樹は立ち上がり、全メンバーと共にクリフェと握手と、簡単な挨拶を交わしてから部屋を後にした。

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