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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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幻霊騎士団

 無事に航海を終え、途中で出会った哨戒の二隻を除く、十一隻の軍艦や補給艦が停泊する立派な港湾。ブレメルーダの巨大な港に入港し、各チームごとにタラップを降りた。 港の先には色とりどりの甲冑に身を包んだ騎士らが出迎えに立っており、その先頭には青髪を潮風になびかせる、見知った姿があった。


 教官が号令をかけると同時に大樹もパーティーメンバーに学園式の敬礼…武器や杖を心臓の前で掲げる敬礼で応じさせた。


「ブレメルーダへようこそ、若き雛鳥の諸君! 私はブレメルーダ女王のリノーシュだ。 …君達の道中の無事と幸運を祈っている」

 リノーシュが全隊に短く挨拶と激励の言葉を掛けた。 


「各パーティーごとにブレメルーダ正門へ向かえ! 町中の人々に迷惑を掛けぬよう、注意を怠らずに移動しろ!」



 …と、順番を待つ大樹ら幻霊騎士団(ファントムナイツ)の元へリノーシュが自ら歩み寄って来て、流石に寺田や水原、黒崎達が緊張した面持ちで直立不動の姿勢を取った。リノーシュの背後にそう歳の変わらない、四人の妙齢の女性が続く。 …勿論見知った顔ばかりだった。


「…ああ! 皆、楽にして。個人的な事だから。…随分と大きくなったね、大樹。年頃だからかな?」


「お久しぶりです、リノーシュさん。…あ、あー、そうですね、成長期かな?」

 慌てて大樹を注意しようと駆け寄ってきた新人の教官を、熟練の教官が訳知り顔で制し、持ち場に戻らせた。


「元気にしてたかい?…それにしてももう、君がこの長期実習に来て、立派になった君をこうして迎える日が来るとはね…僕も歳を取る訳だ」


「お久しぶり。大樹君は術士だっけ? …え?変わったの!? もしかして汎用騎兵…幻魔騎士…?珍しいわね……あの、所で…今回はダ…お父様は?」

 赤髪の騎兵団長、メノムがどこかそわそわしながら父の姿を探した。


「お久しぶりです、メノムさん。 あー、父さんなら…」


「おお、一年ぶりだな、リノ。あと名物・四人娘」

 振り向いた先、船内から父達が出てきて、五人に向けて手を上げた。


「次、ファントムナイツ、移動開始!」

 

「大樹、気をつけてな! …おっ、隊長専用の…23式か。…へへ、懐かしいなぁ。 お前、リーダーなんだから仲間を大事にな~」

「大樹君、頑張ってね!」

「ファイトデスよ、大樹~! …あ、アレは持ちマシタカ? 無かったら私のポーチにいくらでも…」

 アリッサがゴソゴソとラージポーチを漁り出した。


「…何で持ってるかは良いとして、オメーは人の息子に何を渡そうってんだ、んん?」

「イヤ、ソノデスネェ…ッ」

 アリッサは大輔からヘッドロックを掛けられて悶絶した。…日菜子は興味津々にアリッサのラージポーチを検めている。 しかしリノーシュらがそんな父ににじり寄る。

「…久しぶりだねぇ、大輔。この間も近くを船で通って寄る機会があったのに、ちっとも寄ってくれなかったねぇ…?」

「…あ。…いや、それはだな…」

 今度は父がリノーシュと四人娘に取り囲まれている。


「…同窓会みたいなものだ。さて行こう」 

「…それにしても、大樹君もとんでも無い人達と知り合いなんだね。 …まぁ、お父さんの友達とは言えさ」

 ミサが大樹の顔の広さに呆れたように言った。

「ね。それもかなり可愛がられているみたいだったし」

 マキも応じる。


「まぁ、たしかに何かと面倒を見てもらったよ」

 大樹はパーティーメンバーを率いて正門へと向かった。


 正門を出ると、砂地の多い平原を、他のパーティーが既に思い思いの方向へと出発していた。


 既に船内で何度も説明された内容を再確認する。…今回の長期実習は前回のようにお題は全くない。ただ、二か月後…今日を除いて61日後に再びこのブレメルーダに戻ってくること。それだけだ。


 …極端な話、今すぐブレメルーダに戻って61日間、ブレメルーダ観光をしたりこの近辺でウロウロと散策していてもいいのだ。…ほぼ確実に失格になるが。


 今回の考査対象は「どこへ行って、何をしたか」という絵日記の内容が派手であれば派手であるほどポイントが高まる。…何も、わざわざ困っている村を探し出して悪者退治をしろとか、ダンジョンを見つけ出して制覇しろと言う訳ではない。「冒険心と、その冒険心を無事に実現する対応能力」を持っているかどうか。それを試す実習だ。


 …勿論、最低限の路銀は学校から決まった額が支給されているが、二か月間を過ごすには足りない。…必然的に何かしらの金策も必要になってくる。…最悪、装備を売って凌ぐことも減点にはならないが、当然ながらその分難易度は上がるし、悪手中の悪手である。 …当然、目に余る金策やその他の不埒な行動には教官がストップをかけ、度合いによっては即座に失格となる。


 じゃあどこへ行って何をすればいいのか? …それを考えるのが冒険者志望のリーダーとパーティー達である。

 

 …そしてそれは、北大陸にいるときからずっと考えていた。


「…まずさ、アルダガルドに行きたいと思うんだ」

 パーティーの全員を振り返りながら言った。


「確かに、ブレメルーダと同じくらい栄えている都市だけど。…そこへ行ってどうするの?観光か、闘技場くらいしかないと思ったけど?」


「観光って言うか、農業や工業の視察もポイントにはなると思うんだけど、個人的に会いたい人がいるんだ。…アルダガルドの闘技場はここと違って、あまりにリスクが高いから止められる可能性が高いしね」


「親父さんやお袋さんから聞いたのか? …さすが、こっちの事は下手な本より詳しそうだな、お前」


「子どもの時からずっと話をねだってたからね。…それに、アルダガルドより東と、南のアースァルは父さん達でも現役時代に冒険していなかったんだ。…特にアースァルは上位者を呼び出した教団…スペリオールを生み出した国として、誰もが恐れて近づかなかったから、今でもアースァル方面に関する情報は授業で今聞いた話を聞くくらいしか無いだろ?」


「…確かに」

 …この中で最も座学の成績が高い水原と瑠衣、里香が同時に得心して頷いた。


「でも、問題は距離だよね。…片道5000キロもあるから、徒歩じゃとても…車でも無いと」

 ミサが顔を曇らせた。

「確か、訓練でやった軽装行軍移動でも、一日40キロだっけか。えーと、5000割る40…えーと」

 寺田が流木の枝を拾い、地面に割り算の式を書き始めたが、里香がぼそりと答えた。

「…125日ですね…実習日程の倍以上です。…しかも、私は遅れがちなので確実に脱落して足を引っ張ります」

「ひゃ、ひゃく…」

 寺田がぽかんと口を開けて枝を取り落とした。

「わ、私も無理かな…」

 マリーが伏し目がちに手を上げた。

「いや、それ以前の問題だよ。…フルマラソンしてようやく50日だもん。…キャラバンを上手く捕まえて乗せてもらえても片道一ヶ月は掛かるし」

 マキも苦笑いしながら里香を見た。

 水原がやれやれと言わんばかりに溜息を吐いた。

「…行けるものなら高ポイント間違いないだろうけど、ちょっと非現実的だったわね。 残念だけど別の…」


「…実は色々調べてあるんだ。…当てがある。もしそれが外れたら、リーデ方面に向かうよ」

「…当て?」

 黒崎が小首を傾げた。



 


 …一時間後、ファントムナイツを担当して監視していた熟練教官は、通信水晶に向かって申し訳なさそうに声を上げていた。…その皴の多い顔には教え子…大英雄の息子とは言え、一年生にまんまと出し抜かれた悔しさを滲ませていた。

 …アルダガルドに行きたい、などとあのぽわわん顔の坊主が言い出した時には、思わず噴いてしまっていたというのに…


「…大変申し訳ありませんッ! …御子息のパーティーを見失いました!」


『…おお。…ちなみにどの辺りで?』

 …さすがと言うべきか、英雄はさして驚いた風もなく感心したように声を上げただけだった。


「…ブレメルーダ・アルダガルド街道沿いにあるロナレ川の下流付近で…森の中に入って行ったと思ったら…森の中に追いついた時には、人っ子一人…既に全教官を招集し付近を捜索しているのですが…遺留品一つ見つからず…」


『…まったく大した奴だ。…多分、俺の旧知の友を尋ねたんです。…流石にどんな方法を紹介されたかは分からんが、探すだけ無駄ですよ。 …いや、お騒がせして申し訳ない。俺の収納からバイクを貸しますよ。あのワンパク息子についていくのに徒歩では厳しい』


「し、しかしどこへ向かえば…」


『…街道に居たという事はアルダガルド方面を目指していたんですね?ならば、アルダガルドへ。…道中に何年か前に設置した人造燃料の補給ポイントもあるので、利用してください。これからそちらへ向かいます』




 …雄大ながら流れの緩やかなロナレ川。…その水上を何気なく眺めた隊商(キャラバン)の一人の眼に、奇妙なものが映った。


 …高速で川を遡っていく一隻のボート…船の先には全身水色の人らしき姿をした者と、その後ろにはボートにしっかりと掴まったあどけない少年少女の戦士が乗っている。


「な、なんなんだ、アレは…?」


 ささやかなボートは呆気にとられる幌馬車隊を悠々と追い越し、猛然とアルダガルド方面へと進んでいった。



「それにしてもなんと数奇な運命でしょうか!…まさかダイス様の御子息にお会いできるなんて。それも私めの力を頼って頂けるとは!」


 淡いターコイズブルーの川の色と同じ色…水のアラクネは数百…千近いかもしれない…水蜘蛛にボロ船を引かせていた。…古く、打ち捨てられていた船には当然の如く穴も開いていたが、大淵大輔のスタイルに憧れる寺田が持っていたダクトテープが大いに役立ち、また、便利なアラクネの糸玉も補修材とし、呆れるほど簡易な補修によって浸水を免れていた。


「あ、ありがとうございます、水のアラクネさん。…父さんからお話を伺ったもので。よく助けられた、と。…特に、母を助けてもらった事は父子共に感謝しています」


「滅相も無い!…あらあら?そこの綺麗な結晶石に居るのは我が姉ではありませんか?…まさか、とは思いますが…大英雄の御子息ともあろう御方に牙を剥いて折檻されたのですか?」


 ニィ、と水のアラクネは優越感にも似た、意地悪い笑みを浮かべた。


「…ええ、ええ。大樹様はそれはお強い方です。私の完敗でした。 …でも私はこの境遇に不満はありませんよ?…大樹様から特別な給与を定期的に頂けるのですから、森や川で無為に時間を過ごすあの頃には戻りたくもありません」


 …結晶石から余裕に満ちた声が返った。


「…まさか」

 水のアラクネの表情が強張る。


「…えぇ、今なら貴女の自慢した不幸…よぉく分かります。これは確かに不幸な事です。…こんな味を知ってしまったら、もう元には戻れませんものねぇ? …しかも大樹様はまだ齢わずか15……この意味が分かりますか?」


 わなわな、と水のアラクネが悔しさも露わに震え出した。


「…大樹様?後で少々お話がございます」

 …水のアラクネが、この上ない猫撫で声になった。

「…わ、分かりました」


 …これだけの事をさせてタダ働きという訳にも行くまい。…大樹は溜息交じりに、しかし早く流れていく風景と、共に初めての川下りならぬ川登りを体験して呆気に取られている仲間達を見て、満足げに笑んだ。


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