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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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執行部付き特務員

「急に呼び出してごめんなさいね、どうぞ座って」


 案内されるまま、奥まった窓際にある応接スペースに案内された。最大四人掛けのソファに座らされ、(たかむら)トウコは自ら隣室への扉を閉め、隅にあるシンクで沸かしていた湯を取った。

 授業が終了したため戦闘服は着替え、学園指定のオリジナリティあるブレザータイプの制服に着替えていた。…スカートの下から伸びる、タイツに包まれた形の良い脚の魅力を益々引き出していた。


「あぁ、ごめんなさい。コーヒー好きが多くて、お茶か紅茶しかないんだけれど、どっちが良いかしら」

「いえいえ、お構いなく」

「そう言わずに。 …少しばかり長くなるかもしれないしね」

「…では篁さんのお好きな方と一緒で」

「そういう風に選んでくれたのは君が初めてかな?」


 ふと、ホワイトボードに消し残された文字の跡が目に入った。「竹内陽介…×(特定被害者) 魔神…×(抹殺済) 公式被害者…黒崎… 執行対象…2ーD 浜田… 執行内容… ……二次被害者、1ーA寺…  重要参考…大…樹」


「お待たせ」


 目の前に緑茶の入った湯呑を置かれ、対席に盆を置いた篁が座った。


「あ、ありがとうございます」

 一礼し、緑茶に手を伸ばした。


「君の事は知ってるよ。 …なんてったってあの大英雄の一人息子さんだもんね」


「…はい」


「…あれ?あんまり嬉しく無い?…私達凡人からすると、そう呼ばれるだけで嬉しそうに思えるけど、当の息子さん本人は嫌だったりする?」


「嬉しくないというか…やっぱり父が看板で、その影というか威光に自分がくっついているだけなんだな、って…」


「…ごめんなさい。そこまで考えて無かった。確かに、そう思うとあまりいい気分はしないよね」


「いえ、寧ろ俺がいつかその看板を越えられるように努力したいと思います。…あの、お話とは?」


「…昨日は大変だったわね。 …ああ、あなたや寺田君達が黒崎さんに何かしたなんてこれっぽっちも疑っていないから。…何せ、あの不良君達は生活・授業態度こそ最低だけど、一般生徒には何も危害を加えるような子達じゃないし、とりあえず法的に問題のある事はしていないからね。…君みたいな優等生が仲良くしているのが証拠の一つ。 …本題は、昨日発生した魔神騒ぎ…この魔神を返り討ちにした君なの」


「…俺?」


「魔神なんて、教官達が束になったって皆殺しに逢うだけだよ。…勿論個体によってはそうとは言い切れないのかもしれないけど…星村あかりさんの論文とか雑誌とかって、見る?」


「あっ、はい。よく顔を会わせる知人ですし、愛読してます」


「へぇ、私もなんだ!」

 篁は湯呑を持ったまま、嬉々として大樹の隣に移動してきた。


「じゃあ今月号はもう買った?」

「はい。…独尊開発秘話、凄い読み込みました。…無茶ばかりしてしょっちゅう危ない目に遭っていた父の為だけに作られたワンオフモデル…息子ながら正直羨ましくなりました」


「ね! その開発から10年以上経つ現行モデルの35式を凌駕するってどういうコト!?ってね!それにあのマッシブかつ鋭角的で生物的な曲線美… ああいけない。脱線し過ぎ。 …とにかく、その星村さんが過去15年のデータと、マオさんの成熟化時のステータスを見比べて魔神の推定スペックを算出して見た所、大体平均してカリューさんくらいの戦闘能力があるんだって。…カリューさんがどのくらいか、貴方ならよくわかるでしょう?」


 大樹はぶんぶん、と頷いた。

 …嫌というほどわかる。何せ昔、タイマンで父を殺しかけたという豪傑だ。…今は大淵家の離れで悠々と…飼い犬のように過ごしている筈だ。そしてやはり猟犬よろしく、父が旅に出ると大抵ついていく。 


 何度か稽古…というかじゃれ合うような対戦もしたが、まるで赤子扱いされるだけだった。…今だってそう勝てる気はしない。


「…それをあなたは怪我一つ無く、しかも素手で倒してしまった訳。…とんでも無い事をしたって分かる?」

「…そう言われてみれば…」


 隣で篁が苦笑した。


「…謙虚でよろしいけどね。…そこで、本題の本題に入るんだけど…」

 ズイ、と篁が更に身を寄せ、互いの膝が当たる。…タイツと戦闘服越しに仄かな体温が伝わってきた。


「…私達が実働要員…事と次第によっては警察や教官達に先んじて生徒を取り押さえにかかる役職だって事は知っている?」


「は、はい。…全員が腕利きだと」


「そう。…個人差はあるだろうけど、全体的な能力から言えば、教官達より実力は上だと私は自負しているわ」

 …篁のステータスを見た。 盾戦士(タンク)…超耐久・怪力…身体能力強化… スマートな外見に似合わず、ゴリゴリマッチョなスキルが並んでいる。ステータスも軒並み高い。…部長という事もあろうが、なんとスピード以外は大樹を遥かに凌駕していた。 盾戦士にあるまじき能力値だ。


 …待てよ、身体能力強化に怪力、超耐久なんて全部使ったら、一体どんなことになるんだ…?


「…学園の平和を享受する身としては頼もしく、ありがたい限りです」


 縮こまるようにして恐縮してみせた。


「…一緒に守らない?…学園の平和と秩序」


 篁を見ると、笑顔ながらその目は真剣だった。


「私も来年の卒業と共に…留年なんてしなければ、だけど…学園からいなくなるからね。…後釜が欲しいな、なんて」


「…え、えっと、俺は…」


「ああ、急に言われても困るよね? …じゃあこういうのはどう? 生徒会執行部長権限で貴方を執行部付きの特務員(エージェント)にする。 …大樹君は今まで通り友達と生活していても良いし、気が向いたらこちらの要請に応じて、隙間時間のアルバイト感覚で来てくれればいい。 …ボランティアね。当然、それに応じた報酬は出すわ」


「…俺にできますかね…」


「できるできる♪ 何といっても血気盛んなお年頃を相手にする仕事だから、最終的には取っ組み合いになる事なんて日常茶飯事。…大樹君みたいな、魔神を素手でやっつけるような逞しい男の子が居てくれると凄く心強いんだけどなぁ…執行部員の中には私みたいな、かよわ~い女の子もいる事だし、ね?」


「…とてもか弱そうには見えませんけどね。見事なスキルとステータスです。 …その、特務員は本当に行動を制限されないんですね?」


「もちろん! 辞めたくなったらいつでも辞めてもいいわ」


 …それなら悩まなくとも大丈夫か… 大樹はその提案を受ける事にした。首を縦に振ると、篁は大樹の手を取って喜んだ。

「ありがとう!これからよろしくね!大樹君!」

「はっ、はい。よろしくおねがいします、篁さん」

「トウコでいいよ! あと、お茶飲みながら星村さんの雑誌の話とかまたしようよ♪」

「そうですね、俺も話が合う人が居てくれて嬉しいです」


「いつでもここへ来てよ。…正規員で無い以上、会議中とかはごめんなさいだけど、それ以外はここ、大体私くらいしか居ないし。 …あんまり遊びに来てくれないとこっちから寮の部屋に行っちゃうから」

「そ、それは寮の皆に勘繰られるので、ご勘弁を…」


 大樹を見送り、茜色に染まった室内で篁は笑顔の仮面を外した。


(…意外とステータスは低いのね…限定強化以外は、品揃いこそ珍しいけど、別段どうって事もない)

 部長席の椅子に腰かけ、英雄・大淵大輔の各種データを思い起こした。


(…親子と言うべきか、何と言うべきか…もう少し観察するか…しかし…魔神まで動くなんて…)

 …良くも悪くも、トラブルを周囲に持ち込んでくる運命の親子なのだな、と篁は皮肉に笑った。 …それとも、世界に変化をもたらす存在、と言うべきか。 




「あの、大樹君…大丈夫だった?」


 帰る途中、不安げな黒崎が追い付いてきた。

「あの、私のせいで何か疑われたりとか…」

「ん?ああ、お茶をご馳走になって、執行部付の特務員としてボランティアしないかってだけだったよ」


「エージェント…?…そんなの聞いた事ないけど…危ない事はないのかな…」


「まぁ、いつでも辞めていいらしいし…それに、危険な役目を他の誰かがやるくらいならむしろ、喜んで俺がやりたいしさ」


 瑠衣と肩を並べて夕方の校舎を歩いた。


「そっちは生徒会の仕事、どうだった?…体育祭の打ち合わせみたいだったけど」


「うん、大詰めは決まったかな。…でも、その前に次の長期実習だね」


 長期実習…南大陸に出向き、ここより遥かに危険なモンスターや魔物が存在する区域へと向かう。…二か月間のより本格的な実習だ。1年生の前期最大イベントだ。


「…高波さんと黒崎さんも、今度こそ一緒のパーティーでパーフェクトクリアしてやろうよ」


「…うんっ」

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