結果発表
第一次実地実習終了後、全生徒に三日間の休息日が与えられた。
平均的なチームは21日間の過酷なサバイバルと、自分の足のみでの移動と言うハードな遠足を強いられたのだから当然の措置であったが、既に丸一週間の実質休息をとっているエンジェルナイツ改め幻霊騎士団は更に時間を持て余す事となってしまったが、流石に遊び呆けるのも気が引けたので、あの寺田さえも遊び飽きて真面目に自習…これまでに習った授業の復習を始めた。 大樹もまた、各スキル保有者の特徴について調べ、自身のスキルの再確認を行った。
…調べれば調べるほど、自分が極めて特異な存在であることが分かる。…これほど得意なスキル保有者はこの世界でも…父くらいしか居ないだろう。
汎用騎士だった父の場合は、自分に似たような自動回復体質と、竜騎兵すら遥かに飛びぬけていったその異常な超ステータスを除けば…たった一つにしてその万能性が特異だった強化スキル…特殊強化だ。あるだけで便利とされる強化系にも当たり外れがあり、頭文字の内容によってそれが決まる。
父の場合は特殊、という便利な文字が示すように、自らの肉体や武器を更にスーパーマンのような限界突破性能にしたり、発想次第で視界内の物体の攻撃や制御支配にさえ転用できる、その出鱈目な力だ。
…自分の場合は何といってもその新職種だ。 …魔術も多様に使えてバリアも使えて、自動回復が使えて、戦闘もできる。…ステータスはまだ寺田や同年代の生徒に劣る部分も多々あるが、あの踏み潰されるのを待つ虫のようなステータス補正しか得られなかった術士時代とは天地の差だ。 …そもそも、寺田も同年代の中ではかなり恵まれた方だ。
さて、自分にも強化がある。…限定強化。これも新種スキルで、中々に曲者な頭文字だが、現時点では間違いなく父親の強化スキルには及ばない。
…ただ、その汎用性は父のそれに通ずるものが無いでもなかった。 マナ…SPのリソースとの兼ね合いになるが、試行錯誤の結果、父のしていた芸当に近い事は出来ると判明した。
例えば父は全身を強化してスーパーマン化していたが、自分は一部の筋力…例えば両足を強化して超人的なジャンプをしたり、両腕を強化して怪力無双をすることもできる。…これは強化スキルの仲間である「身体強化」に比べれば劣るが、逆に身体強化は自分のように武器を強化したり、防具を強化したり…触れた仲間のステータスを強化してやることはできない。
…やもすれば器用貧乏と言われる部類になるのかもしれないが、それも使い方次第だ、と割り切った。…幸いにも武器に関しては父からのプレゼントのお陰で究極に恵まれているし、みどりさんを倒した実績もある。 …新入生でもミスリル相当の武器を持っているのは名家の金持ちくらいだ。…そういえば、水原も先日、ミスリルと思しき銀色の小さな護身ナイフを手入れして検めているのを見た。
「んー、真面目にやったぜ。なぁ、昼だろ? 大樹、学食行こうぜ」
「ああ、そうだね。皆も一緒にどう?」
「そうね、それじゃ…」
「さんせー」
三々五々に立ち上がり、皆で学食へと向かった。
…三日後。
…三日間の休息日も終わり、幾分に体力を取り戻した新入生が学校の講堂へと整列していた。
朝の静かな空気の中、新入生は勿論、二年、三年の上級性も勢揃いしている。…上級生とこうして集まるのは入校式以来だ。あれからもう二ヶ月か…長かったような短かったような…
…父さんと母さん、元気にやってるかな… …帰ったら歳が離れててもいいから、弟か妹が出来たとかサプライズしてくれないかな… 妹だったらマリーみたいな可愛い子で、弟だったら寺田みたいな元気な奴で…
そんな事を考えていると教官が次第を読み上げて校長が登壇し、マイクのスイッチを入れた。
「 …えー、皆さん、おはようございます。先般、当校の生徒である一年生が無事、第一次実地実習課程を修了しました。…皆さんも記憶に新しいでしょうが、当校最初にして最大の難関です。…この実地実習で厳しい現実に…」
ぼんやりと限定強化で脚力を強化し、フロアから二階のギャラリー席へと飛び移る自分の姿を妄想した。…父も発想で特殊強化をあれだけの最強スキルに昇華させたのだから、自分だってこうして妄想している内に一つくらい、実戦で役立つ意外な使い方を思いつくかもしれない。
「…それでは成績上位者の発表に移る。わが校の新たな英雄の卵たちを祝福しよう」
白布のスクリーンが下りてきて、プロジェクターの準備が整った。
ドン、と自分の名前がデカデカと出てきて、妄想の自分が叩き落とされた。
…何という事か、その下に討伐モンスター数…最難関のオールドロック…7体を筆頭に、雑魚モンスター18、…そして緑のアラクネが討伐(恭順化)としてカウントされていた。…確かにテイムした魔物・モンスターは人間側が契約解除しない限り二度と主人に逆らえなくなるが…
…更にはアラクネに襲われ危険な状況だった教官とパーティー全員を単騎で救出した事が…誇張は無いが、やや美談チックなストーリーとして羅列されてしまっている。
…一体いつの間に取ったのか…オルド山脈で鵺啼でオールドロックに囲まれながらも一体を斬り捨て終え、迫真の表情でもう一体に斬り掛かろうとする、映画のスチールかと見紛うようなワンシーンが激写されており、ヤンキー仲間達が歓声を上げながら大熱狂しはじめた。…寺田が「俺もこの後ろで一体やってたんだって!」と、ムキになっている。
…写真の下には「写真部・一年 根倉」とあった。…ヤンキー顔の寺田を丸め込んで動かす胆力といい、あの四人のお宝写真といい…恐るべし、写真部…
…この一連の事態は、緊急信号花火の打ち上げくらいしか新入生間には伝わっておらず、不確かな憶測と噂だけが流れていた為、当然ながら会場がどよめきに包まれる。
更に大樹以下のパーティの戦果と、パーティーとして誰一人落伍せず、七日の余日を残しながら実習をクリアした事から、パーティ評価…「S」
…裏課金評価だとか、幻とまで言われ、学校の七不思議と同列化しつつあったランク評価の出現に会場のどよめきが一層パニックめいたものになった。
…全校生徒の士気向上の為の演出も多分にあるだろうが、やり過ぎだ…まぁ、誰一人リタイアせず、怪我も無く終えられたのは本当に誇りたいが。
「…あーあ、最初から大貴君のパーティに居たらな…」
瑠衣が心から無念そうに嘆いた。里香がまぁまぁ、と宥める。
「次からは瑠衣さんも一緒じゃ無いか。次の実習で、今度こそ一緒にS評価目指そうよ」
と、大樹が励ますと…何故か瑠衣の頬が赤らんだ。
どうかしたの、と尋ねようとするが、興奮した寺田に掴み戻された。
「なぁ、大樹ッ!俺だって二体やったよな!?」
「どーせダイキチの後ろでひょこひょこしてたんだろ、エンジェル?」
「エンジェルハーツ♪」
「ンだとテメェら、もう許さねぇ! …後で覚えてやがれ!」
睨みを利かせ始めた教官に気付いて寺田は不機嫌ながら大人しく引っ込んだ。
やれやれ、と溜息を吐きながら会場を見回すと…一年は悔しがる者と我がことのように誇らしげにするもの、盛り上がる物とで湧き上がっているが…二年、三年の列からは何か冷やかな気配…敵意にも似た物を感じて、大樹は首を傾げた。
…英雄の落ちこぼれと陰口を叩かれ、嘲笑を聞きながら生きてきた大樹にとって、嫉妬と羨望…それよりもっと深い暗い感情とは、あまりにも無縁であったのだ。




