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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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緊急再編成

 先に教官を助け出し、ついでにそばにあった最初の繭…その中に落ちていたカードをしっかりとポーチに仕舞い、代わりに取り出した花火を打ち上げて他の教官を呼び寄せた。…それから全員を糸玉から解放した。

 駆けつけた他パーティーを担当していた教官達が、ぐったりとした同僚を見て茫然自失としている。

「緑のアラクネに襲われて、血を吸われたようです。衰弱しているので、急いで後送をお願いします!…緑のアラクネは撃退した上で自分がテイムしましたので、もう安全です」


「…なんて奴だ」

 どこかから教官の感嘆した呟き声が漏れ聞こえた。負傷した教官が同僚たちに介抱されながら後送されていく。


「うぉお、大樹!お前ならやってくれると思ったぜ!」


「カードも見つけたよ。…さ、あとはそっちの、瑠衣さんと里香さんのパーティのミッションを手伝って、早い所帰ろうよ。 …今日はもう、現地に向かう移動で日が暮れると思うけど」


「信じられない…もうダメかと思っていたのに…」

 流石のマキとミサ、マリーも、肩を寄せ合うようにして放心している。…新入生の段階で敵対的なアラクネなど、本来は勝つことなどおろか、逃げる事すら至難の業だ。…あり得ない事だが、浅瀬で海水浴をしていたら裸のままオクトーに襲われたようなものだ。 …奇跡としか言えないだろう。

 現に、歴戦の教官でさえああして食料にされかけていたのだから。


「…大丈夫、水原さん?」

 ぼんやりと大樹を見上げる水原を心配し、大樹が屈みこんだ。

「…へ、平気。少し疲れただけ」

 水原の眼に光が戻り、いつものツンとした顔に戻って立ち上がった。…うん、大丈夫だろう。



 これ以降、雑魚モンスターを蹴散らしつつ、助っ人であるエンジェルナイツと…ライジングスターなる、恐らくヤンチャ組がリーダーとして名付けつつ女子二人だけになってしまったパーティは、E9エリアでのカード回収ミッションを難なく終え…何と、七日も残して、第一次実地実習を終えて帰校するという、冒険者育成学校高等部開校以来の歴史的快挙を成し遂げる事となったのだ。



 リタイアした生徒以外、同学年が誰も居らず、教官も出払って静かになった学校と寮で奇妙な静けさと共に自習生活と言う名ののんびりとした日々を過ごした。そうして六日が立ち、件の…写真部サークルの面々がミッションを追えて帰校した。…自分同様、所謂日陰者の部類にあたる面々だが、以外にも任務遂行能力は高い事が判明した。


「…さぁて、分かってンだろーな、お前ら?」


「…」

 水原が積年の果てに見つけた親の仇でも前にしたように寺田を睨む。


 …これまた寺田も、元来のヤンキー顔も相まって、正にそんな悪事を働こうとしているような人相の悪さである。 …間違いなくあの時代劇で序盤、町娘に乱暴しようとするチンピラである。


 …水原に庇われるように立つ女子一同も、マキとミサは悔しげに歯噛みし、マリーは気の毒なくらい怯えてしまっている。

 …あとの三人はどうでもいいが、マリーはなんだか可哀そうだな……一人、謝ろうとしてくれてたんだし…

 

 …いっそ、罰ゲームはナシって事にしても…


「…なぁ、寺田…」

 小声で寺田の袖を引っ張った。

「ん?どーした、大樹?」

「…可哀そうだし、笑って済ませてやろうよ」


 そう耳打ちすると、寺田に肩を掴まれ、部屋の隅へと肩を抱かれながら移動させられた。


「オイオイオイ、大樹クンよ。…何か勘違いしちゃいないかい?…俺達は対等以上の条件で勝負をしたんだぜ?それを今更笑ってナシにしようってのは、却って相手への侮辱になるってのを分かって言ってんのか?」


「…じゃ、じゃあ、せめてマリーは…」

「…お前はホント分かってねぇなぁ。…ンな事したら、マリーが裏切り者扱いされちまうだろう?…いいから、ここは黙って俺に任せとけって!」

『そうでございますよ、大樹様。何事かは存じませんが、勝負の代償を受け取り拒否するのはいかなる理由があろうとも失礼に当たります』

 すっかり従者となった緑のアラクネ…みどりさんも寺田に同調する。


「わ、わかったよ…」


 …言いくるめられた気がしないでも無かったが、大筋は寺田の言う通りだ。…ちゃんとハンデも与えた事だし、何より水原が受けた事だし。


「オラッ、とっとと行って来やがれ。写真部が手ぐすね引いて待ってるからよ」


「…本当に問題無いんだろうな?」

 良からぬ想像を膨らませ、大樹は寺田を見上げた。


「当たり前だっての。…第一、今期新入生の写真部は大半が女子だぜ? …ちなみにその女子部員からの要望ってやつでな。いわばコイツはクエストさ」 


「なら…大丈夫か」


「…ハハーン? …そういう事か。なんだ、そう言う事ならさっさと言ってくれりゃ、親友であるお前の為に一式用意してやった物を」


「えっ、何?」


「まぁまぁ、皆まで言うな!俺に任せとけって」

 そう言って大樹の肩を叩くと、寺田は部屋を駆けだして行った。 …一人部屋に取り残された大樹の元に、教官がやって来た。


「…303…ここの寮生だね?」


「は、はい。大淵大樹です」


「あー、そう畏まらなくていい。…実は緊急再編成が行われてね。…その為にこの部屋に家具を運び込みたい」 

「緊急…再編成ですか?」


「…この第一次実地実習で大勢のリタイア…いや、高等部自体をリタイアした者が続出してね。AIに掛け、その上で臨時で開かれた理事会にてその緊急再編成案が正式に承認された。…これより元・ライジングスターの残存パーティー二名をこちらのエンジェルナイツに移籍とする。また、明日午前0時を以て第一次実地実習を正式に終了とし、仮のパーティーであるエンジェルナイツを解散。明後日中に正式なパーティー名と、正式なパーティーリーダーを選出するように。 これは正式な辞令である。 …この書類を、後から来るメンバーに渡して、今伝えた事を伝えておいてくれ」


 言い終わるや否や、教官は書類を手渡して出ていき、入れ代わりに業者の作業員がベッドと机、ロッカー、新たな水晶端末を運び込んで来た。

 …大樹はそれを茫然と見守るしかできなかった。 …残存パーティーのメンバーって…瑠衣さんと里香さんに決まってるよなぁ…


「うぉおっ、なんだこりゃ!?」

 二時間して、何やら大量の包みを抱えてきた寺田が部屋の変わり具合に声を上げた。

「ああ、実は今…」


 …説明中に他の女子四名がどっと疲れたような顔で戻って来て、同じように驚愕した。…更に遅れて、新規編入となった瑠衣と里香が入って来た。


 …さて、問題となったのは原則としてこれから卒業まで共にするパーティーネームと、パーティーリーダーである。


 …どちらも立候補が多い。…気弱な大樹とマリー、里香は隅っこで小さくなっている。


「今度こそ幻魔騎士団だろ! エンジェルなんて言ってるから危うく全滅しかけるんだよ!」

「薔薇騎士団もいいなぁ」

「だからさぁ…」


 大樹は喧噪を聞き流しながらぼんやりと父のパーティー…大淵小隊の活躍…後に星村あかりを中心とした有志によって編纂された戦闘記録を思い出していた。


 …確か、父が一度死にかけ、死の淵から亡霊のように蘇った事から大淵小隊の活躍は始まったというのが印象に残っている。

 …幽霊のような存在の父によって父や母達は一ギルドから当時の国家が所有する世界最強の小隊へ、そして数奇な運命を経て、愛する仲間達を失いながらもついには上位者との戦争に打ち勝った。

 …過去を語りたがらない父の背中が思い浮かぶ。…あの背中を追って、母さんや日菜子さん、そして皆…あの仲間達が父の背中に続いていく姿。 

 …もしかしたら、その背には亡くなった戦友たちすら幽霊として続いているのかもしれない。



「なぁおい、待てよ。 OK、幻魔騎士団は一旦置いておくとして、今回のMVPに意見すら聞かねーのは筋が通らねぇよなぁ?」


 寺田がこちらを振り返った。


「えっ、俺…?」


「…そうね。一応、大活躍したんだし、そのくらいしないとね」

 水原も応じた。


「俺は別に…」


 …死者である筈の幽霊によって生者が暮らす世界を救った騎士団…か…。

 

 喧噪が静まり返り、全員が自分に注目していた。 


「…幻霊騎士団(ファントムナイツ)、とかどうかな」


 …微妙な顔、顔…ダメか…? …まぁ、構わないが…


「…いいんじゃない?そのくらいの特典は」


 …以外にも水原が窓の外を見ながらそう呟いた。…思わぬ方向からの援護に、大樹は目を瞬いた。


「んー、魔の字が欲しかったがなぁ…まぁ、いいか。ヘッドが幻魔騎士ってんだからな」


「ちょ、ちょっと、大樹君がリーダーで決まりなわけ?」

 水原が流石にそこには食って掛かった。


「あー、でも、結構冷静に判断してたしね。フィールドワークもお手の物だったし、結構いいんじゃない?」

 マキが同調した。マリーと里香はダイキの隣でうんうんと頷いてくれている。

 

 …ん?なんだ、この流れは?


「ま、大樹君なら可もなく不可もなく…」

 とミサ。

「私も大樹君なら立候補取り下げる」

 と瑠衣。


「…わ、わかったわよ…その代わり、責任重大だからね、大樹君?」


 …えっ、俺、リーダーはやりたくないんだけど… …なんて言えないよな、この空気じゃ… 


「…う、うん、わかったよ。頑張るから、皆よろしく」

 …などと、学級委員会で係でも拝命したかのような気の抜けた挨拶をする羽目になった。


「んじゃー、やることもやったし、そろそろ夕方になるし、グラウンドの隅借りてバーベキューでもしようぜ! 教官も良いってよ」


 寺田が持ってきた包みをドン、と中央テーブルの上に置いた。

「へへへ、お前らが体で稼いできた食材だ、特にお前ら四人は遠慮せず食えよな」


「…? …何の話?」

 瑠衣が怪訝な表情で寺田と水原らを見比べた。


「…何でもない。気にせずたくさん食べて」



 …結局、寺田は写真部女子からの少なからぬ報酬で、悲願であったバーベキューを行う事となった。…勿論、肉は肉屋で仕入れたモノである。

  


「…あー、食った食った」

「ああ、こりゃいい。満腹だ。…一食分浮いたよ」

 

 休日扱いとなる余日の食料は余ったレーション、もしくは自分達で調達する必要があった。…思いがけずご馳走にありつけたのだ。 


 入浴も終え、寺田はベッドに寝転がった。 上段のベッドに大樹も寝そべった。

「あー、そうそう。ほらよ」


 下の段から寺田が大きめの封筒を渡して来た。


「…?…なんだこれ?」


「御所望の品」


 …嫌な予感がしながらも厚みのある封筒を開けて見ると…高等部指定競泳水着姿のあの四人の写真が数ポーズ分ずつ入っていた。


「なっ…」

「写真部の連中の撮ったやつと同じモンだ。 …なんだ?もっと過激なのを期待したのか?まぁ、あいつら、女子にもモテるって事だな。俺には魅力が今一つ分からんが。 俺だったらそうだな…お前の親父さんのアーカイブに映ってた斎城の姉貴とか最高だな。 大和撫子っての? 渋くてクールだぜ」

「…それは俺が許さん」


「アんだよ、お前はあいつらで良いんだろ?それとも黒崎か高波に乗り換えか?」

「ば、馬鹿、ヘンな事を言うな!聞かれたら誤解されるだろ!?」


 …そう言いながらも封筒を返す気にもなれず、いそいそと鍵付きロッカーに仕舞い込んだ。








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