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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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美味しそうな匂いに誘われて


 オルド山脈を越え、ルバーツ平原へと超える頃には夕方になっていた。大樹が周囲を見回すと、多くの落伍者を出し、5人、4人と、人数を欠いたパーティーが目立った。 …パーティー自体が消滅したチームもり、120人いた第一次実地実習参加者はいきなり80人を割り込んでいた。…今回失格になっても、これで進級できなかったり卒業できない訳ではないが、そのための回り道はその分険しくなるだろう。


「いやー、酷い目にあったぜ。…それでも生きてるから腹減ったなぁ」

 寺田が赤髪に着いた小石や砂を払いながら水原達の元へと戻って来た。大樹も続く。

「…まさかオールドロックを討伐しちゃうなんて…」


「…まぁ、俺の場合は武器が良かったのもあると思うけど」


「へっ…武器だって人を選ぶんだぜ、大樹よ。しっかしあの真っ赤な刀はかっちょえかったなぁ。俺も真似してぇ!」


「はいはい、その辺にして!そろそろ野営準備しないと、真っ暗になっちゃう!」

 水原が仕切り、野営の準備…キャンプ組み立てに取り掛かった。


「しっかし、レーションじゃなぁ。これ、量も少ねーんだよな」

 寺田がうぇーという顔でAレーション…クラッカーと豆味噌のようなメインペースト、そしてナッツとフルーツを固めたキャンディーバーという内容のレーションをつまみ上げた。 …キャンディーバーは菓子のようでそこそこ人気があったが、クラッカーとペーストが不人気だった。全レーション中、最もコンパクトで携帯性が高い。これでも栄養価は十分にある。


「贅沢言わないでよ…気持ちは分かるけど、他のばっかり食べてたってAだけ残るんだし」

 宥めつつもマキがぼやいた。

「なぁ、明日から狩りでもしようぜ。んで、バーベキューしてぇ」


「そんな簡単に獲物が取れて、しかも肉なんて裁けるの?町のお肉屋の肉じゃないんだよ?」

「くっそ~、そうだよなぁ…なぁ、水原、お前捌いたり…出来る訳ねーか」

「…何よ、それ」

 …そりゃ、自販機の使い方も分らなかったお嬢様が獣を捌けるとは思えない。


「あ、でも俺、捌けるよ。父さんとよくキャンプして、やり方教わったから。…殺すのは苦手だけど」


「ッしゃ決まりだな。明日は移動しながら狩りもして、BBQパーティーだ!」

 寺田が30式騎兵銃を掲げて気勢を上げた。 


「呑気で良いなぁ…」

 ミサがクラッカーにペーストを擦り付け、まずそうに頬張った。

「あんだよ、飯田、その騎兵銃は飾りか? ん?」

「…撃つよ?」

 …ミサはミサで、クールぶってる割に煽り耐性が低い。


 大樹は溜息を吐きながらクラッカーにぱくついた。


「…ん、マリーも大変だったね」

 

「いえ、大樹さんや竜平さんが助けてくれたり、水原さんが守ってくれるから、平気です」


「…そう言えば、神官騎士(ビショップナイト)って悪いモノが触れたり汚したりできないんだってね。マリーが居てくれればそれだけでウチのパーティの魔除けになったりして」


「よ、よくご存じですね?」


「…実はうちの母さんも神官騎士で。色々話を聞かせてくれたから」


 …ただし、大樹の母・桜は神官騎士の中でも取り分け優れた身体能力とヒール能力を持っていた。


「だ、大樹くんのお母さん…ああ、そうでした、大淵さんの奥さんでしたね! …きっと、仲のいいご夫婦なんですね」

 …何故か全員が聞き耳を立てている。

「…ちょっと良すぎるくらい」


 …遠くの我が家で二人同時にくしゃみしている光景を思い浮かべながら笑った。…だからって、事あるごとに寄り添ったり見つめ合ってるのは控えて欲しい。…見ているこちらが赤くなってしまう。多分、あの甘々夫婦を繋げているものは互いに精神的に依存し過ぎない、絶妙な距離感と絶対的な信頼だろう。

 …あれだけ仲良しで、どうして二人目…自分に兄妹を作ってくれなかったのかは不思議だが、上位者との戦争直後で大変だったこともあるのだろう。


「けど、お前の親父さんって昔からモテてるよなぁ。良いなぁ、どーせなら俺も、あんな大人のクールなお姉さん達にチヤホヤされてー」


 …こいつ、やっぱり年上狙いか…うちの母や日菜子さんにはなるべく紹介したくないな… 女子達も冷やかな視線で寺田を睨んでいる。


「案外、お前もモテてんじゃね?実は中等部の頃、陰でブイブイ言わしていたクチとか?」

「まさか!俺は全然…」


「だ、大樹くん?」


 暗がりの中から声を掛けられ、大樹達はビクリと身を震わせた。


 …暗がりの中から現れたのは黒崎瑠衣と、高波里香だった。 …ヤンチャ軍団は全員落伍したのか、たった二人だけである。


「そ、そうか、あいつらが居なくなったからたった二人でここまで…」


 二人とも満身創痍で、倒れ込みそうな里香を抱えながら瑠衣がなんとか引っ張っている体である。

 水原たちや寺田、大樹らも駆けつけ、水筒を差し出したり怪我を検めて二人を介抱した。

「す、すみません…山越えで疲れただけです…」

 水原から渡された水筒の水を一口飲んで返し、里香は苦笑した。


「私達の焚火があるから、ここに野営地を作るといいわ」


「テントづくり、手伝ってやっからよ」

「俺も手伝うよ。もう真っ暗だから」


「ん?…そーいや、他班を手伝ったからってペナルティになったりゃしねーよな?」


 寺田が水原を振り返ると、水原は頷いた。

「規則表のどこにも他班を手伝ってはいけない、とは書いてないから」

 そのかわり助ける事によって被った損害や手間暇、資源も勘案しないだろう。当然、加点にもならない筈だ。


「な、何から何までごめんなさい。…まさかパーティが私達を残して全滅するとは…」


「まっ、ありゃ初見殺しだわな。 …俺だって大樹に声を掛けられなきゃヤバかったかもな」


 折角のスキルを思いつかなかった…正に二週間前、水原と口論の元になった「瀬戸際にあれこれ考えている余裕はない」と言った趣旨の自分の発言を、自ら悪い形で証明してしまった。


 …水原は水原で、知識さえあればある程度の事態はカバーできる、という持論を大樹と寺田の行動と戦果に否定されてしまったように感じていた。


「…そっちの目的地は?」


「…E9」

「だったらすぐ隣じゃねーか。俺らと一緒に行って、それから向かえば安心なんじゃね?」


 水原が地図を開き、大樹もその肩越しに覗いた。


「…ちょっと、近い!」

「ご、ごめん…」


 横にずれて覗き込んだ。副リーダーに当たるマキも覗き込んだ。

「…予定通りに行けば5日でカードを手に入れて、更に二日以内にE9を探索してカード入手。…そこから帰還日を一週間と見積もっても5日以上の余日ができるね」

 

 …実習任務をクリアして学校へと帰還した上で余った場合、この余日はそのまま生徒たちの自習期間となる。…だが、それ以上に皆が目指すのは、この余日が多ければ多い程査定が上がるのだ。一日なら評価を+Ⅽ評価 二日なら+B… そして、もし四日以上余らせれば+S…

 …今の計算だと、5日も残せる計算だが、これは取らぬ狸の皮算用に過ぎない。…実際には思わぬアクシデントに襲われて隊列が遅れ、これまでの数ある卒業生でも一日残せれば良い方で、二日も残せればちょっとした伝説の人扱いだった。  …この第一次実地実習の最高記録は3日だという。


「…なのに狩りをしようなんていってるおバカさんもいるしね」

 マキが横目で寺田と大樹を見た。 …事情を知らない瑠衣と里香はクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げている。


「ちっ、何だよ。これから二週間以上、毎日こんなムショの連中だって食わねーようなモン食ってたら、やる気が出ねーって」

 寺田と共に手早くテントを設営し終えた。

「ま、まぁ、それはあくまで余裕がある時にしようよ。…ほら、寺田だって評価Sとって伝説にしたいだろ?」 …評価S、伝説、という二文字を強調して言った。

「…確かに!」

 

 …コイツが分かりやすい奴で本当に良かった…恐らくこの瞬間だけ、パーティーの女子全員と思いを共有した。


「…それじゃ、決まり。先ずは今日休んで、明日に備えましょ。 二人は疲れているだろうけど、ちゃんと食べてから寝た方が良いわ」

 水原がそう言って締め、エンジェルナイツのメンバーは一人ずつ交代の見張りを置き、一足先にテントに潜り込んで眠る事とした。


 …焚火の音が小さくなっている。


 大樹が目を覚ますと、真っ白な美人がルビー色の眼で覗き込んでいた。


(うわぁ、アラクネって奴か…)


 確か、現存確認されているアラクネは五種…いずれも大淵大輔…父が記述した「特別指定魔物」で、これを攻撃したり殺害すると、同じ人間をそうしたように罰せられる。…確か、白、水色、黒、赤、青のアラクネだったな。 …これは…全身真っ白だから白か?


「あら…匂いが似ていると思ったのですが…もし?ダイス様…?」


「…大輔は僕の父です…僕はダイキです…」


「父…あぁ、貴方が!?」


 いきなり真っ白でふくよかな胸…水枕のようなひんやりした体にかき抱かれ、大樹は意識を明瞭にさせつつ狼狽した。


「どっ、どちら様でっ!?」

 

 そう訊ねるとアラクネは体を離して懐かしそうに微笑んだ。 


「あぁ、若様が小さい頃でしたからねぇ。 …あの頃もよくこうして、産後で体調を崩しがちだったサクラ様から預かった若様を抱いてあやしたり、背に乗せて馬代わりになっていたのですよ。…まさかこんな一時でこうも大きくなられているとは… 人の時の流れの速さには敵いません」


 …そういえば、そんな記憶がある。…まだ2、3歳の頃だったか…真っ白な綺麗なお姉さんに遊んでもらった記憶が部分的に蘇ってきた。 

 糸でキャンプの建物の間に橋を作ったり、ハンモックを作ってもらったり、ブランコを作ってもらったような気もする。…子どもの空想だと思っていたがまさか…


「まぁ、こんなにご立派になられて…! …若かりし頃のお父様に近づく若獅子ですね! …所でお父様…ダイス様とサクラ様はご壮健で?」


「あっ、はい。…お陰様で、二人ともそれはもう元気です」


「それは何よりです!…あの、お父様にだけお伝えください。白はオルド山脈のいつもの洞窟に岩窟爺と居りますので、いつでもお尋ねください、お慕い申しております、と」


「は、はぁ。わかりました。…ところで僕の仲間の見張りに会ったんですよね?」


「…?… …それはこの…」


 白のアラクネは足元を覗き込んだ。 …テントから顔を出して見ると、騎兵銃を抱えた寺田がバックパックを枕にして大欠伸をかきながら眠りこけていた。


「ぐっすり眠っていらっしゃいますね?」


「…訪ねてきたのがアラクネさんで良かったです。ええ、父には伝えておきますね」


「ありがとうございます。それでは♪」

 少し歩きかけて、アラクネは「あ、そうそう」と声を上げながら上体だけ振り向かせた。

「…まさかとは思いますが、この先の森の中には良からぬ魔物が居ります。…特に若様のような美しい少年が行くにはあまりに危険なのですが…」


「お気遣いありがとうございます。…気を付けます。腕利きの教官達も周囲で常に見守ってくれているので、大丈夫です」

 …そういえば教官達はアラクネの存在を分かっていて素通りさせたのだろうか…?…まぁ、決して人に害を与えない魔物として指定されているからだろうが…

「そうですか?…それではいずれまた機会がありましたら♪」

 アラクネは上品に会釈すると、悠々と八対の足を動かして草原をオルド山脈へ向けて戻って行った。




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