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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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落ちこぼれですが何か?


 実地実習地点へと向かい、遠足よろしく歩き出す。…まずは険しいオルド山脈を越える所からスタートだ。…その辺までは極めて長閑な行程だ。既に先発している教官方は山地から向こうへと展開し、これから三週間、後退しながら24時間体制で神経を尖らせながら全生徒たちを見守る。


 一学年4クラス…120人もの生徒たちが、それぞれ6人パーティーを組んで行軍する。…既にこの時点から体力の低い支援系の者がパーティーの足並みを崩し始めている…という光景もちらほらと見え始めていた。


 …ポーションの使用による一時的な体力回復は可だが、一人につき2本ずつしか許されておらず、仲間の為に使うのは自由だがポーションは毒性動植物からの緊急避難措置でもある。…もし、パーティで使い切ってしまえばその状態で毒に冒されたメンバーを出した時点で傷病者は終了である。


 …この点、解毒もできるヒールの使えるマリーがいるこのパーティ…「エンジェルナイツ」は非常に恵まれていると思われがちだが、それを考慮してエンジェルナイツメンバーのポーションは一本ずつとされていた。…そもそも、今のマリーが一日に使えるヒールはせいぜい一人分である。…万一、一度に複数人が掛かってしまえば他チームとそう大差ないのだ。また、体力が低めのマリーが別の理由で落伍しないとも限らない。


「…にしてもクッソだせぇ~…幻魔騎士団の方が良かったじゃねぇか! あっ、クソ!あいつら笑ってやがる!畜生ッ!」

 ヤンキー仲間達が寺田に向かって「エンジェル~」「マイエンジェル~♪」と囃し立て、謎の天使ポーズをしながらスキップして見せつけている。


「じゃんけんで勝負って言ったの自分でしょ」


 水原綾が涼しげな顔で歩く。…じゃんけんで大樹、寺田、マキ、ミサの各立候補からその座を勝ち取った、我らが水原リーダー閣下である。そしてこのパーティーネームの名付け親である。

 …ちなみに、リーダーに立候補したのは、リーダーとして任務を達成すると、例え落伍者を出しても、その道程での判断や決断の内容によっては評価されるからである。

 …寺田の場合はそこまで考えていたか甚だ疑問だが。


「もう許せねぇ…あいつら…とっちめてやる!」


「あっ、ちょっと!」

 水原が制止するのも聞かず、寺田は駆けて行った。


 …それを待っていたように、横から声が掛けられた。


「よう、落ちこぼれ」

 

 …そう懐かしくもない、嫌な声だった。…無視していると、肩を小突かれた。


「ほら、なぁ、アレ言ってくれよ?…なぁ、ホラ?」


「…落ちこぼれですが何か?」


 面倒なので、中等の頃から繰り返して来た挨拶で返した。隣のパーティから笑い声が飛ぶ。

 …いずれも戦闘職のヤンチャ軍団…と女子生徒が二人。一人は気の強そうな…なんと高位騎士、もう一人は対照的に気の弱そうな僧侶(プリースト)…こちらも非常に珍しい。回復とバリア、付与をメインとする、自衛はほぼ不可能なサポート専門職だ。

 ヤンチャ軍団からそれとなく距離を取りつつ大樹を怪訝に見つめている。


「ああ、こいつ、俺らの中等部時代からの仲間。 父親、誰だと思う?」


 愉快そうに後ろの女子生徒二人に話しかける。…仕方なさそうに高位騎士の方が首を横に振った。

 

「なんとあの大淵大輔(笑) 信じられるか?なのにコイツ、術士で雑魚ヒールしか使えねーの!

最高にウケると思わね?」


「…今は違うみたいだけどね」


 高位騎士の少女は腕組みしながら大樹を興味深そうに見た。それまで…早くも疲れを露わにしていた僧侶の少女も…星村さんのような可愛らしい丸眼鏡を興味深そうにかけ直して大樹を無遠慮に見た。

「す、ステータスが七つも!?」

 疲れを一時的に忘れたかのように目を真ん丸にして驚いている。


「初めまして。私、黒崎瑠衣。 …パーティーは違うけどがんばろ? 実は…」

「わ、私は高波です。高波里香。 …その限定強化って… あ、バリアも、自動回復もある!?」

 

 小柄な高波は何がそんなに面白いのか、瑠衣との会話に割り込んで一人でテンションを上げ始めた。


「…ところで大淵大樹くん? …どんなイカサマしたんだよ?…水臭いなあ、仲間なんだから俺達にも教えてくれよ? …親父さんのコネで魔導書でもがっぽり揃えたのか?」


「…ちがうよ。不思議な人にお呪いをかけてもらっただけ」


 見当違いも甚だしい。魔導書を使えば確かにその魔術を使えるようになるが、あの威力の魔術を使えるようになる魔導書は、豪邸が二軒買えるほどの価値があるだろう。 いや、希少価値の方が高くて、金だけあってもモノが手に入らない。 …そもそも、父はいくら息子の為とはいえ、そんな私的な事でコネを使うような人ではなかった。…一時期はその事で恨めしくも思ったが、今なら父の考えが分かる。…もしあの時、魔導書をコネで手に入れていれば、こう言われていただろう。

「親のコネで魔導書を手に入れた成り上がり」と。


「デタラメ言ってんなよ、なぁ?そんな事がある訳ねーだろ?」


 肩を殴られた。…全員に支給された21式改Ⅱの上からでは大した衝撃にならないが。…ちなみに父親はワイヤーアンカーを好み、必ず特別に配備されていたが、このアーマーはワイヤー機能がオミットされたエコノミーモデル…というか、大昔の余り物だ。…そして現行の最新アーマー・35式もワイヤーアンカー機能は基本的に無く、代わりにもっと便利な短時間空中飛行ユニットが内蔵されている。


「…本当だよ」


 ガッチリと肩を組まれて更に問い詰められた。 

 

「…どーせ、校長に金でも握らせてんだろ?…あぁ!それとも、親父さんが居ない内にお前のあの美人なかーちゃんが…」


 …自動的に右の拳が反応しかけたが、危うい所で肩を強く抑えられた。…いつの間にか寺田が割って入っていた。


「楽しそうな話してんなぁ?…俺も混ぜてくれよ、なぁ高田?」


「いっ イギッ…!」


 …寺田に左肩を掴まれた高田が悲鳴を上げかける。 …どこかで教官が目を光らせているので、お互い騒ぎにする訳には行かない。

 …一しきり高田の肩を痛めつけてから寺田は高田をトン、と突き放して解放した。取り巻きも怯え切っている。


「…ったく、ろくでもねぇ。 …おい、大丈夫か?」


「…悪い。騒ぎにするところだった」

 …暴力沙汰など起こせば、そのままパーティーにも学年全体にも迷惑をかける所だった。


「未遂だ。気にすんな。…なぁ、エンジェルはエンジェルでも、せめて今からブラックエンジェルとかブラッディエンジェルに改名しねーか?」

「ダメ。…そもそももうとっくに実習開始してるんだから、変更できる訳ないでしょ」

 と水原。

 …ヤンキー仲間に何を入れ知恵されたんだか…

 ふっ、と大樹は溜息交じりに、早くもこの悪友が居て良かったと思った。



 オルド山をぞろぞろと上っていく新入生120人。

 …へばり始めたマリーの荷物を大樹と寺田で交代で担いでやりながら山道を登った。


「す、すびばせん…二人…とも…賭けの事が…あるのに…」


「気にすんなって、このくらいはハンデだ、ハンデ。 なぁ、大樹?」

「ああ、まだ俺は大丈夫」


 父とはよく、母と共にキャンプに連れて行ってもらった。山登りもしょっちゅうしたし、十歳を過ぎてからは山岳行動訓練も仕込まれた。…サベナ山ならともかく、オルド山脈はそうキツい場所じゃ…


 いや、結構厄介なモンスターが居たな…あの時の自分ではとても敵わなくて怖かった…父さんが居てくれたから良かったが…


 ハッとして、今更全員に注意した。


「い、岩に気を付けろ、オールドロックが!!」


 遅かった。

 そこかしこで巨岩が腕を振るい、各パーティーを襲い始めた。


『オールドロックだ。相当の攻撃力が無ければ勝てん。戦闘するか、引き返すか、逃げるか。各リーダー、さっさと判断下せ!ほら、部下が食い殺されるぞ!?』


 どこかに隠れ、それでも死人が出ないよう注意を配っている筈の教官が遠隔拡声器で怒鳴った。


「…ッ!」


 水原が狼狽しかけるが、すぐに表情を引き締め、全員を振り返った。

「もう少しで頂上!全員で一気に駆け抜けるよ!…周りを構っている暇と余裕は無い!」

「マジかよ、助けようぜ!?」


 遠くで寺田と拳を交えたあの大平が果敢にもオールドロックに殴りかかった。アイアンナックルを装備しているが、その表皮を幾らか削ったに過ぎず、オールドロックの長い腕で弾き飛ばされた。


「大平ァ!待ってろォ!」

「ちょっと!リーダーの判断に従って!」

 マキとミサが勝手に飛び出して行く寺田を呼び戻すが、寺田は大平を吹き飛ばしたオールドロックに30式騎兵槍を叩きつけている。反撃を身を低くして回避し、雄叫びを上げながらオールドロックの関節部を集中して突いていく。


「み、みなはら…水原リーダー、俺が寺田を連れ戻すから、先に皆を連れて頂上へ向かったら!?」

「け、けど…」


 いくつかのパーティーではいよいよ戦死の危険が高まり、緊急避難的に教官が助けに入っているパーティーも見られた。


「…早くっ! お、俺に任せて!」


「…アンタたちが死んじゃったら、賭けもパーになるんだから、ちゃんと生きて戻って来てよ!?」


「了解っ!」


 未だ粘り強く戦っている寺田の元へ駆けつけた。

「寺田、スキルだ、強化を使え!」

「いけねぇッ、そうだった!」


 寺田はスキル・攻撃強化が使用可能だ。更に、雷の属性も持っていた。…こいつらに雷の相性がいいかと言うと微妙だが、強化は確実に使える筈だ。


「行くぜッ、攻撃強化!」

 寺田の騎兵槍が赤い燐光を放ち出す。


「よし、俺も…」

 スキル発動…限定強化…とりあえず、この…父から贈られた妖刀、鵺啼(ぬえなき)を強化。…妖刀が深紅に染まる。

「うぉお、お前の刀真っ赤だな!? 親父さんみてーだ!」


「ああ、これなら…行くぞ、せめて気を引いて、周りの連中を助けられるだけ助けてやろう!」

「しゃぁッ!オラァ! 今行くぞォ!」

 寺田と共に駆け、まずは手前のオールドロックを寺田の騎兵槍が深々と貫いた。

「うぉりゃああ!」

 トドメとばかり、ガントレットでオールドロックを叩きのめす。…ひびが入り、オールドロックは崩れ落ちた。


 その間に既に大樹は一体のオールドロック斬り伏せていた。


(スゲェ…妖刀の切れ味なのかそれとも強化のお陰なのか…下手すりゃ強化無しでも節約できるんじゃないか…?)


 味方を追い回すオールドロックの前に割って入り、振り回される腕を切り上げ、返す刀で本体を一刀両断。


「おい、大丈夫か!?」


 …縮こまって頭を押さえ、震えていたのは高田だった。


「…お、お前…一体誰なんだよ!?」

 怯え切り、錯乱しかけた高田が突飛も無く問いかけてきた。


「…落ちこぼれですが何か?」


 度肝を抜かれたように放心する高田から顔を上げ…瑠衣と里香を探した。 …取り巻きも逃げたのか救助されたのか、見当たらない。


「…女の子達は?」


「わ、分からねぇ」


 急いで探しに行こうとする裾を高田が掴んだ。

「置いていくなよ、友達だろう!?」

 

 思い切り裾を振り払った。

「…誰が友達だよ!? 教官に助けてもらうか、急いで山を下りろ!」 


 それだけ言い放ち、少女達を探した。…寺田は要領を得て、他のパーティを支援して回っている。水原達は登頂を果たしたし…


 背を向けているオールドロックに、強化無しで切り付けた。…やはり、紙細工を鋭利な包丁で裂くように切れる。父さんの紫電のように属性は無いが、ミスリル製と同等の刀。最高の贈り物だ。


「…高波さん、早く逃げてっ!私も逃げられない!」


「す、すみません…あ、足が引っ掛かって…!」


 …あの二人!


 急いで駆けつけると、二体のオールドロックに囲まれ、自身のスキル・全ステータス一時アップで強化された瑠衣が一人、奮戦していた。


 …しかし高位騎士とは言え、まだ低めのステータスが一時的に倍になってもオールドロックの、この地方にしては頑強な装甲を突破できず、危うい戦いを強いられていた。…里香を守っている為だ。里香は岩場に足を挟みこんでしまい、それを必死に抜こうとするが、焦っている為か中々脱出できない。


「無理です、瑠衣さん、逃げて下さい!二人とも失格になっちゃいます!」


「頑張って!おいていくのだけは嫌!…私、あの人みたいになりたくて入校したんだから…!」


 教官が大剣を手にオールドロックの背後に迫り、二人を救助する準備に入った。


「お、俺の得物だー!どけどけぇ!」


 わざとらしい大声を上げ、大樹がオールドロックに斬り掛かった。 教官はスッと下がり、瑠衣もギョッとして身を引いた。


 一刀の元にオールドロックが切り裂かれ、二体目も切り捨てられた。


「…さて、点数稼いだし戻るかっ」


 エッホエッホ、と岩山を登り始めようとした。…脅威が排除され、教官も姿を消した。


「だ、大樹君…だったよね?」


「ややっ、そこにいるのは瑠衣さんに里香さん!? …ああ、岩に挟まっていたのか、今…」


「ぬ、抜けました…腰も…」


 ぐったりと倒れ込む里香をよそに、瑠衣は大樹の元に駆け寄った。

「…あの、助けてくれてありがとう」


「…得点稼ぎしていただけだよ」


「…これで、親子二代で助けられちゃった」

 瑠衣ははにかむような笑顔で笑った。


「…へ? …君が父さんに?」

「ううん。 …大樹君のお父さんには私のお母さんが。…ミンポウ?って会社のアナウンサーで、ヘリっていう飛行機に乗っていたんだって。 …そしたら上位者に襲われて、墜落するところを…大淵大輔に助けられたって。…貴方のお父さんは、大好きなお母さんを助けてくれた、私の憧れ」

「そ、そうだったのか…そりゃまた…なんとも奇遇だね…」

「…これからは大樹君が憧れになっちゃうかもしれないけど」


「…お、俺は父さんみたいには…」


 女の子…それもかなりの美人にそんな風に言われて、大樹はまんざらでもない顔を隠せずに頭を掻いた。


「おーい、大樹ィ!?どこだぁ!?」


「あっ、いけね、寺田だ。 じゃ、じゃあ、瑠衣さん、また後で会おう!俺ら、ポイントE8に向かっているから、そのルート上でもし縁があったら!」


「あ、ありがとう…!」


 大樹は急いで寺田の元へと駆け戻った。

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