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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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必殺技


 早くも二週間が過ぎていた。それぞれの職種によってカリキュラムが違っている為、必ずしも共に授業を受ける訳ではないが、寺田とはすっかり馴染み、水原ら同室の女子とも徐々にだが距離感は近づきつつあった。…最初こそ女子である彼女らは自分達を警戒していたが、少なくとも自分の方は…喜ぶべきか悲しむべきか、人畜無害な存在だと認識されたらしい。


 寺田にはマリーが良く懐いているが、寺田はどうも同年代の女子に興味がないのか、暇さえあれば格闘術か筋力、体力のトレーニング、そして部屋の水晶端末を使って、自分と共に若かりし頃の父の戦闘映像を熱心に見漁っている。

 その方面の人当たりも良いらしく、二週間前に学園公認の喧嘩…「決闘」で殴り合いをして腕を圧し折った相手…大平を含む、強面の男達の間に入って馬鹿話をしたり、父の戦闘映像から「自分だったら」というシミュレーションと持論を突き付け合っている。


 …自然と寺田に捕まってその手の人間達に紹介され、共に過ごすため、本来の自分の居場所であるはずの…同胞の日陰者達からは煙たがられる存在となってしまった。

 …お陰で歩くだけで高等部の、まっとうな新入生男子は自分を避けていく。 …もうこれ以上の男友達を望むのは困難かもしれない。


 …どういう訳か、不良共からやけに可愛がられる。 原因は不明だが、最近になって、彼らの言動からして自分の職業である幻魔騎士…これが良いらしい。


 その内容やステータス、スキルがどうのと言う事ではない。 …連中にとってはそんなものは「やり合えば絶対俺のが強ぇ」くらいにしか思っていない。


 「幻魔」 …この二文字を冠する事が、彼らには何より羨ましいらしい。


「あ~俺も”幻魔騎兵”とか”滅魔騎兵”とかにしてぇ~」

 二段ベッドの前で寛ぎながら寺田が嘆いた。 …魔の字が特にミソらしい。

「文句言うなよ、汎用騎兵だって最高の花形じゃないか」


 …寺田にお試しとして半ば強引に施された「前髪一部ワックス」によるヘアーセットの髪先を気にしながら、大樹は窘めた。


「そうだけど、汎用ってのが地味なんだよなぁ…それなら重騎兵の方が渋くてかっちょえぇよなぁ。火力と防御力もたけーし」

 備え付けの、自身の勉強机でなにやら勉強している飯田ミサ…重騎兵が、ピクリと反応した。


「なぁ、組手やろうぜ!」

「ああ、良いよ」

 応じて、グラウンド脇の芝生エリアに向かおうと立ち上がる。


「…あなた達、勉強しなくていいの?実技も勿論大事だけど、座学で落ちたら元も子も無いんだよ?」

 同じく机に向かっていた水原が振り返り、大樹と寺田を睨んだ。…この前の自販機の時とか、ふとした時に見せる笑顔は美人さんなのだが、怒ると怖い。 流石元・カーストクイーン。


「へっ、勉強なんざいざって時に自分を守ってくれねーよ。先ずは体鍛えねーと」


「…備えておいた知識が、いざという時に役立つ事もあると思うけど?」

「そりゃ、まず体に余裕がある時に思考にも余裕ができんだよ。…満身創痍、今にもぶっ殺されるって時に、そんな呑気に考えてられる奴なんていねーよ」

「…じゃあ好きにすれば?」

 水原は再び勉強机に向かった。

 

 …どっちの言い分も分かるのだが…


 因みに自分は今のところ、学業自体にはそれほど問題なく感じている。…高等部に受かる為…つまり中等での内申の為、中等部時代から勉強だけはしっかりやって知識を蓄えてきた。



「水原の言う事も正しいよ」

 

 芝生の上で寺田と組手・組討ちの稽古をしながら語りかけた。

「じゃあ俺は正しくないのかよ?」

「も、って言っただろ?…寺田も正しいよ。どっちも正しい。座学の中には敵の弱点や各職業の長短所、その上での連携の基本とかもあるから。 …ダンジョンのトラップの種類とか、対処法とかも…」

「ごちゃごちゃ言いやがって。そんじゃあ明日の格闘実技実習で俺と勝負しろよ。それで俺に勝てたら水原に謝って、俺も勉強してやるよ」


 期せずして、互いに組んでいた腕を極め合った。


「…わかったよ、男同士の勝負ってやつだ」

「それでこそだ!」


 …ハッキリ言って寺田は強い。武器よりもステゴロの方が好きと公言するくらいで、あの大平にも頭を下げて、トレーニングに付き合ってもらっているようだ。しかも、実技訓練を見た限りでは相当な武器の使い手でもある。



 翌日


「…これより格闘実技実習を行う。格闘系職業は前へ。支援系は見学しながら、格闘系の敵に襲われたら自分ならどうするか、シミュレーションしてみろ。 二人一組になり、試合形式で格闘戦を行ってもらう。相手との武器に差があるが、その有利不利をどう活かすかも考えながら戦ってみろ」


 柔らかいハーフフィンガーグローブ、トレーニング用の刀剣や大剣、短刀、槍などが置かれ、一組めのチームが剣と槍で対戦を始める。

 …当然ながら自分は寺田とペアを組む。自分はラバー製の模擬刀を、寺田は同じく模擬剣を取った。


 …自分達の番が近づいてくる。…賭けた事は実に些細で、こちらには何のデメリットも無い事だが…何故かやけに緊張する。

 …本来の実力差で言えば、負けても仕方ない相手ではある。…それだけに絶対に負けたくないという、この落ちこぼれの身に残された微かなプライドが燃え上がってくる。

 …しかも、相手は今のところ、唯一の親友…いや、悪友だ。


「…次だな。負けても吠え面かくなよ、大樹?」

「お前こそ…」


 ヤンキー仲間達が自分達のナイスバウトを期待して、グラウンドに白線で引かれた試合スペース周辺に集まり始めた。…場外は二回目で反則負けである。


 ちょうど、マキがラバー剣で女子の重剣士を一突きした所だった。心臓に当たる部位を突かれた女子重剣士の戦闘服からけたたましいブザー音が鳴った。死亡判定だ。

 

 判定は、全員が支給されて身に着けている、実技訓練用の戦闘服に搭載されたセンサーが各部に受けたダメージ…それが実戦であればどの程度のダメージになるかを判定し、平均的なHPパラメーターから算出して死亡判定を出す。 …これまた星村あかり謹製の、ダメージ判定AIを搭載したコンピューターだ。


「次!」


 周りのヤンキー仲間達が拍手しながら何やら囃し立て、中には購買の菓子パンやらを賭けて賭けまで始めた者もいる。 教官達に睨まれながらも、中等部から狂犬として名高かった寺田と「幻魔」騎士の大樹という対戦カードに熱狂し、ヒートアップしていく。

 ヤンキー仲間から距離を置きながら、水原やマキ、ミサ、マリーが不安げに自分達を見守る。


 …対戦レーンに着いた寺田が不敵に笑っている。…自分も、恐らく引きつりながらだが…同じ顔をしているに違いない。…徒手格闘の名手でもある寺田はグローブも身に着けていた。


 自分は、剣が握りにくくなるのを嫌い、グローブは装備していなかった。その為、打撃は禁止だが、いざという時に組み技なら許可されている。


「はじめッ」


「ウオォッ!」


 寺田の猛襲。


 見切れない剣が幾筋となく襲来し、大樹は必死に防いだ。…スピードよりパワー重視のため、やや振りが遅くなる剣でこれほどとは…


 …だが。


 大樹は渾身の力で直感を頼りに切り払った。


 …俺だって父さんの子だ。出来る筈だ!


 切り払った剣が勢い余り、寺田の肩に掠った。


「ピッ」


 一本判定。一撃死亡判定とは別に二本目を取れば勝てる。


「チィッ!マジかよッ…!」


「一本。ニュートラルレーンに戻って」


 寺田が項垂れながらレーンに戻った。しかし、再び剣を構えると気を取り直したように剣を構え直す。


「はじめっ!」


 またも寺田の猛襲。…互いのラバー剣と刀が交差する。


 …他の生徒とは一線を画す次元の勝負に、周囲の喧噪も静まり返り、生徒も教官も息を呑んで見守っていた。

 …一瞬の隙。互いに剣を弾かれ合い…ここで焦ってしまい、先に剣を拾い直そうと見せた隙がいけなかった。大樹の懐に寺田が飛び込み、顎に一発アッパーを食らった。…拳部分に柔らかいジェル状の衝撃吸収材がついているおかげで痛みは無いが、一本判定。

「ピッ」


「くっ…!」


「一本。ニュートラルレーンに戻って」


「へへ…これでイーブンだな…」


 肩で息をする寺田が笑いかけてきた。


「…ああ。決着つけてやる」



「勝負ッ」

 剣道式の号令がかけられ、大樹は寺田に向かって突進した。

 

 …アーカイブの記録だろうか?


 …いや、もっと…追憶的な…

 

 …その曖昧な記憶と、体の動くままに任せ…身と力を委ねた。 


「…ゼロバースト…」

 それは不意に口をついて出た。


「…アタック!」


 大樹の振り下ろしたラバー刀が寺田の切り掛かった剣と切り結び…ラバー剣を弾き飛ばした。


 そのまま寺田の肩口にラバー刀が叩きつけられ、けたたましいブザー音が鳴った。


「勝負あり。 …なるほど良い一戦を見させてもらった」


 教官が感心したように評した。


「チキショーッ!…一歩及ばずかぁ~!」

 

「いや、本当に良い勝負だったよ」


 大樹は苦笑しながら寺田を称えた。 …しかし今の技は…?


「…ガチで悔しいぜ。 約束だ、後で水原に謝って、俺も勉強すっからよ」


「…良ければ手伝うよ」

「頼む。 …けどなぁ、お前、必殺技なんて考えて来るとはな。文字通り一本取られたぜ」


「あ、あれは何故か咄嗟に…」


「次は、俺も必殺技が必要だな」


 早くも気を取り直した寺田は無邪気に笑った。

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