表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

150/173

新入生

「あいてっ」

「…」

 どちらからともなくぶつかってしまった、同じ新入生の少女に睨まれた。…流れるような黒髪だけは日菜子さんに似た、冷たそうな印象の少女。長物の袋包みを抱えている。

 …確か、首席新入生として入学の挨拶を述べていた娘だ。

「ご、ごめん。大丈夫?」

「…うん」

 短く答えると、少女はさっさと先に行ってしまった。


 …あんなのと組んだら大変だろうな……しかしあの子、前にもどこかで見たような…

 今ひとつ思い出せないまま、再び自分の部屋を探した。


 父と母に見守られ、大樹は第四席として入校式を終え、高等部一年生となった。


 …高等部では原則として全寮生活になる。自宅が近いにも関わらず、だ。 しかしこれは冒険者としての集団生活へ適応させるためだった。

 …ここまでは誰でも分かる。


 …問題は男女相部屋だという事だ。 …当然、問題が起こらないか懸念の声が未だにあるが、問題を起こさないよう各々の子女に徹底して言い聞かせるのが親の責務であり、こんな所で問題を起こすようでは、男女混合のパーティーを組んで出るのが当たり前の長期実地実習でも問題を起こすのは時間の問題である。


 …それを裏付けるように、開校以来十年間、問題は…数件あったが…卒業者の輩出数に比べればそれは誤差の範囲内と言えた。


 …そもそも、それが守れないなら別の道を選べばいいだけの話である。


 女子生徒であろうと、良くも悪くも男女差別はされない。自身の体力系ステータスハンデを補う工夫と、それを補ってくれる信頼関係とパートナーを見つける努力が求められる。…もちろん、トレーニングと強化系ポーションで肉体を男性並に鍛え上げるという手段もある。


男女問わず、自身の身を守るための工夫と用心も自身の責任と義務であり、どこに敵が居るか分からない旅先にノコノコと出て行って敵、モンスターや周囲の人間に身の安全をサービスのように求める事自体が筋違いである。


 その時点からしての訓練であった。同じ部屋で過ごし、生活リズムと連帯責任の感覚を教え込む。…そもそも、一人の不注意でパーティが全滅する事だって幾らでも起こり得るのだ。それを監視…見守り合い、助け合い、励まし合い、時には叱咤し合ってパーティとしての成功へと進むのだ。


 …それを知った父は神妙な面持ちで「お前を信じている」とだけ言い、母も「…大変だろうけど、理性を強く持ってね」とだけ言い、自分を見送った。



 …もっとも、花園を期待していたら全員が素行不良野郎だった、などと言う事も十分あり得るのだが。

 

 さて問題のその天国か地獄か、それとも天国と言う名の地獄か…という基本パーティ…同室の寮生を決めるのは、この冒険者育成高等部が誇る人材人事処理コンピューターだ。 …なんとあの工業・技術産業研究開発機構の最高特別顧問である星村あかりさんが現役時代に謹製したAIを搭載している。


 新入生の人格や気性、そしてスキルを勘案し、学校側としてのデータ集積と生徒同士の相性…それらを勘案して最適と思われる人事を行うのだ。


 コンピューターから発行された番号の書かれた部屋へ向かって歩く。…寮の要所には男女問わずベテランの教官が駐在しており、万一の事態や寮内規則違反にもすぐに動けるように目を光らせている。


 …無駄に緊張する。…どうか…半々…せめて、野郎ばかりなら自分のような真面目な連中とか、話しやすそうな…


 番号の書かれた扉をそっと開けた。

 …六人部屋に女子四人。…全員が異星人の侵入者でも見たように身構える。…よりによって…その内の一人は先ほどぶつかったあの少女だった。

 …もう一度部屋番号と自身の持つ紙片に掛かれた番号を、しっかりと…入念に見比べた。…間違いは無かった。


 刺々しい視線に晒されながら逃げるように荷物を名札が入った鍵付きロッカーに仕舞い、二段ベッドの上段へと避難した。題して「視覚的暴力に迫害されるニホンザル」


「うーす」

 愛想の無い男の声。…救われたような気がしてベッドから見下ろすと、せっかく整った顔を目つきの悪い四白眼で台無しにする、赤髪の少年が立っていた。

 こ、怖ぇ!俺の天敵、ヤンキーじゃねーか!

「おっ、野郎も居やがったか。よろしくな。俺は寺田竜平。お前は?」


 それまでの不愛想な声から多分に人懐こい声に変わり、寺田は自己紹介してくれた。

 …見た目はアレだが、ヤンキーじゃないのか?


「あっ、俺、大淵大樹。よろしく」


「ああ、あの噂の! 聞いたぜ、何かすげー炎出したり、メイルアーマーを標的ごとぶった切ったって。…イカサマだなんていう奴も居たが、それなら俺達もイカサマかっての。 …へぇ、幻魔騎士ねぇ」


 幻魔騎士、と聞いて距離を置いてこちらを睨んでいた女子達がピクリと反応した…気がした。


「すげースキルだな。…七つ持ちなんて初めて見たぜ。七ツ葉のクローバーかっての」


「…そういうそっちは汎用騎兵だね。…父さんと一緒だ。…羨ましいよ」


「へっ。まぁな。でも何が良いって、16歳からバイクの免許要らずでバイクにも車にも乗れる事だな。もう持ってんだぜ、バイク」


「マジか…!羨ましすぎる…」

「乗せてやってもいいぜ。 …さて」


 寺田は怖気づく様子もなく四人の女子へと向かっていった。…その虎の威を借るように後に続く。


「…寺田竜平だ。汎用騎兵。よろしく。…そっちは?」


「…水原綾。重弓士」

 …さっきの黒髪ロングの子が、自分と寺田を一瞬だけ見て、興味無さそうに顔を背けた。

 …思い出した。

 中等部の頃、学年のカースト上位の、名家のお嬢さんだった子じゃないか。…ついでに学年のマドンナ。…この手の上流生徒がすれ違う度、トラブルの元にならないよう小動物のように隅へと隠れていた為、滅多に顔も合わせなかったし、まじまじと顔を見たり口を利こうものなら第三者から何をされるか分かった物ではない。



「久米川マキ。汎用剣士だよ」

 自分よりやや背が高いくらいの、茶髪を鎖骨あたりまでの長さのサイドテールにした少女が応えた。


「飯田ミサです。 重騎兵」

 金髪をポニーテールにまとめた、自分くらいの背丈の少女が応えた。…よく見ると瞳も深い青色。ここ数年でブレメルーダから渡ってくる人も増え、ハーフの割合も増えている。


…最後の一人は緑に近い黒髪。…明らかにこの世界の住人とのハーフだった。顔立ちも日本人とは少し違う。

「マリー・レーセンです。神官騎士です」

 その中で唯一、鋭い視線を見せなかった少女がにっこりと微笑んでくれた。…背は高めで、160の自分よりも10センチほど高く、寺田より4、5センチ低い程度だ。…特待生なのか、自分達より幾らか幼そうに見える。


 …他の子に初対面で冷たくされたせいか、それともその子本来のものか。…女神が微笑んでくれたような温かさを感じた。 …しかも母と同じ職業スキルだ。


「そして我らがnewスキラーにして英雄の息子、幻魔騎士の大淵大樹ッて訳だ。 …まっ、差し当たっては第一学期の中盤から始まる第一期実地テストにお手手繋いで合格しようぜ。…入学早々、落第者の烙印を押されたく無けりゃ、な」

 寺田の言葉に水原が頷いた。

「…そうね、協力して頑張りましょう。…個人の成績とパーティの成績は別の考査対象だからね」


「…さて、お互い自己紹介も終わった事だ。今日は一日自由なんだろ?親睦を兼ねて高等部の校舎見学ツアーに参加する奴は?」


 沈黙。

 おずおずとマリーが手を上げ、仕方なさそうにミサ、マキ、そして綾がいい加減に手を上げた。


「そんじゃ、行こうぜ。先ずは寮の一階からな」


 寺田に肩を抱かれ、大樹は最上階である三階の窓から初めて見る高等部の校舎敷地内を物珍し気に見回した。周りには自分達と同じように、パーティを組まれた男女、 女子だけのパーティー、そして…屈強な「拳で語らう」と言わんばかりの狼のような集団がお喋りをしながら思い思いに探索し始めていた。


「まぁ、寮で特別な部屋はこの一階の談話室と寮監室くらいだが」


 寮監は初老の受付係の温厚そうな男性と、誰かしら教官が二名は常駐する。この他に各階に一人ずつ教官が警備に当たる。 談話室には飲料の自販機と、カップ麺の自販機が一つずつあった。


 風呂、トイレ、個人的に調理をしたい際の簡易キッチンが各階に備わっていた。…流石に風呂とトイレは男女で分けられている。当然、更衣も風呂の更衣室で可能だ。


「さて、本題の校舎だ」


 一階に人だかりができていた。…購買部だ。菓子パンやおにぎりといった弁当の他に雑誌や学校制式の戦闘服などの衣料品、応急処置用の医療品やポーションなど、高等部生徒の為の生活雑貨が充実して置かれていた。

 …「星村あかりの魔術工芸講座4月号」がある。…欲しいが、この人だかりの中で並びたくはないな…後で、落ち着いてから買おう。


「ほれ、親睦の証だ」

 寺田が購買部の脇で人気の無い自販機で缶コーヒーを全員に買ってくれた。

「おっ、ありがと」

 マキやミサ、マリーは礼を言って受け取ったが、水原は受け取らなかった。

「…気持ちは嬉しいけど、コーヒー苦手だから。ごめんなさい」


 …そしてチラと大樹を見た。

「…大淵君、悪いんだけど紅茶があったら買ってきてくれない?」

 ハーフベル硬貨を渡された。

 …何で俺が…


「自分で買ってくりゃいーだろ」

 寺田が呆れたように声を上げた。

 

「…」

 水原は唇を軽く噛みながら寺田を睨んだ。

「…いつも使用人の人が…」


 水原は小声で何事かごにょごにょと言いながら自販機へと向かっていった。…何やら足元がぎこちない。 …そして、自販機の前で硬直している。

 …その不思議な光景に、寺田はじめ他の少女達も怪訝な面持ちで水原の背中を見つめた。


 …見かねて近寄って見ると、水原は硬貨を握ったまま固まっている。


「…もしかしてだけど、使い方分からない…フリとか?」

 

「…」


 …マジかよ…

 …いや待て、自販機だって三年くらい前にようやく普及し始めたんだ。名家のお嬢さんなら、その家のしつけや方針によって今まで一度も自分で使用した事が無い、などと言う事もあり得る。


「…あの、ここのスリットに硬貨を入れて、後はこのボタンを…ほら、番号が割り振られているから、欲しい物…例えばこれなら12番だから…」

 丁寧に教えてやり、後は本人に任せて下がった。

 ガコン、とシルキーハーブティーの缶が落ちてきて、それを拾い出すのにまた一悶着しながらも取り出し、足早に戻って来た。


「…良い経験になったわ。ありがとう」


「ど、どういたしまして」


「おもしれー女」


 きっと寺田を睨みつけるが、寺田はニッ、とガラの悪い顔で笑い流すだけだった。


「水原お嬢様の社会勉強が終わったところで…」

 移動しようと一歩横に動いた寺田に、背後から大柄な生徒がぶつかった。


「おっと、悪ぃ」

 寺田はすぐさま謝った。

「悪ぃじゃねーだろ、ナめんてんのか? あ?」

 …一年生の風格ではない。180以上はあるだろう。…しかも拳闘士か、分厚い全身の筋肉に、拳の拳骨は明らかに常人のそれより発達している。


「舐めてねーよ、ぶつかっちまったから謝ったんだろ? …それを何だ、テメェ?」

 先程の態度から一転して寺田の眼が据わり、声は冷気を帯びた。 …どっちも沸点が低すぎる…!


 それでも、寺田からすれば最大限譲歩したに違いない。

 一触即発の状況に大樹が寺田の袖を掴む形で割って入った。


「な、なぁ、止そうぜ!入校初日に問題なんて洒落になんねーって!」


「…どけよ糞モヤシ。顎割るぞ」

 相手が詰め寄って来た。


「それもそうだな…ンじゃあ問題にならねぇようにすっか」


 騒ぎを聞きつけた教官が二人、駆けつけた。

 教官が声を発するより先、寺田は手を上げて声を張り上げた。

「1-A、14番。寺田竜平。 決闘を申請」

 教官達が遠巻きに立ち止まり、その目つきが変わった。

「…どうする?」

 寺田は相手の男に不敵に笑いかけた。

「…1-B、3番。大平健二。 決闘を申請!」


 教官二人が二言三言何か言葉を交わし、お互いに頷いた。


「…決闘を一時承認。場所を移動しなさい」


 二人の教官にそれぞれ先導され、寺田と大平は校舎一階からグラウンドへと出た。大樹は訳が分からぬまま続き、水原達と、騒ぎを遠巻きに見物していた野次馬も続く。

 

 グラウンドの中央に二人を十メートル間隔で向かい合わせ、各教官が二人の前に立った。


「最終確認。…どうしてもやるかね?痛いだけだぞ?」


 それぞれの教官が大人の言い分で宥め、和解を勧めた。

「やります」

 獰猛な笑みを浮かべ、寺田ははっきりと答えた。 …寺田の闘争心は収まらないようだ。


「同じく」

 大平も全く引く様子は無い。…寺田を見据え、今にも教官を押し退けて飛びかかりそうな勢いだった。


「…最終承認した」


 再び教官達は表情を引き締め、二人の間から引き下がった。


「…徒手格闘のみ。ただし、目・金的への攻撃は反則負け・及び退学もありうる罰則とする。降伏の意思・若しくは戦闘続行不可能と判断され次第決着とす」


「…始めっ!」


 武器を持たない汎用騎兵と徒手格闘のエキスパートである拳闘士で勝負になるのかよ…

 大樹は呆れながらも最前列からパーティメンバーである寺田を見守った。


 …案の定、職業スキルに加え体格・ステータスでも劣る寺田は、開幕で相手の頬にクリーンヒットを見舞ったが、直後の反撃でしたたかにアッパーを食らい、そこから一方的に殴られ始めた。

 時折、力の半減したパンチやキックを繰り出すが、大平にはかすりもしなかった。


 …さながらサンドバッグに次々と拳と蹴りを叩き込むキックボクサー。


(…もう止めてくれよ、教官!)


 …見るに堪えない一方的な暴行劇に、教官が割って入る気配。


 …とどめとばかり、大平の最後の拳が振り上げられた。


 青タンを作り、鼻血を出しながらも、寺田の眼はギラギラと光っていた。


 強力なストレートを躱すと、そのまま相手の右腕にへばりついて…圧し折った。


「アッ、がああああぁッ!?」


「勝負あり!そこまで!」

 

「へへっ…」 


 寺田は口の端から血反吐を吐き捨てながら笑った。…顔の表面は派手にやられているが、さしてダメージは無いようだ。


「す、すげぇ…拳闘士をやっちまうなんて」


「…お前の親父さんほど上手くは行かねーけどな」


「えっ?」


「…知らねーのか?親父さんが昔の冒険で記録していた、アーマーの内臓カメラの動画。公共映像データのアーカイブにあるんだぜ? 俺らみたいなバカなヤンキー共はそれだけ全員見てる。 …おやっさん、剣術や銃だけじゃなく、徒手格闘や組討ちもクッソ強ぇからな。…天下無双だぜ」


「そ、そんな物があるとは…知らなかった…」


 父は自身の活躍など全く語らないタイプだった。…確か、寮の部屋と談話室には公共ネットに接続した水晶端末があったはずだ。後で見てみよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ