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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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 帰宅


 夕日が水平線に沈もうとする頃、エベラの港にブレメルーダ海軍から購入した一隻だけの軍艦…オルカ号が帰港した。…僚艦すら無しで海洋モンスターの蠢く大海を往来できるのは、海洋モンスターも畏れる男が乗っているからである。


 オルカのタラップが下ろされるが、その男は待ち切れない猫のようにタラップを無視して軽々と港に飛び移る。 タラップを降りた大柄な女が後に続く。


 ささやかな港湾守備隊が敬礼する中、大淵大輔は敬礼を返しながら家路を進んだ。

「これで当分はここでゆっくりするのか?」

「そのつもりだ。お前には暇かもしれんがな。…桜には何もかも押し付け過ぎた。…日菜子や周りの仲間達がサポートしてくれるのにかまけてな」


「いいぜ、一人旅ってのも好きじゃねーし。 …でもどうすんだ、また救援要請やらが来たり…またあの上位者みたいなのが出たら? スペリオールってのはまだ各地にいるんだろう?」


「…俺だってもう32を過ぎた。どのみち、あと何十年も動ける訳じゃ無い。次の世代の問題は次の世代が背負っていくしか無いのさ」


 大淵は15になった我が子の顔を思い浮かべた。…冒険者を目指しているが、その適性は限りなく絶望的だった。術士で、ライター程の火すら出せず、微弱なヒールのみ…


 …しかし妙だ。 幾らアタリハズレがあろうと、ここまであからさまに何もかも無い無い尽くしの者は見た事が無いが…


 今日が入学試験日だったな。…どのような結果になろうと、自分は息子をサポートし続けるつもりだ。


 …家の明かりが無い。


 大淵は足を速めてカリューと共に家の扉に辿り着き、玄関を開けた。


「きひひひひひ…やれ、リザベル!」

「はっ」

 クラッカーがあちこちから放たれた。

「おいおい、三ヶ月ぶりだからって脅かすなよ!」

 大淵は苦笑した。


「アリッサがやれって」

「ノ~!斎城もノリノリだったじゃないデスか!」

 明かりがつけられると、仲間達が揃って迎えてくれていた。…中央には桜と大樹。


「おかえりなさい」

「ああ、ただいま」

 

「はい、キー…」

 穏やかに見つめ合う二人をアリッサが囃そうとしたが、斎城に口を塞がれた。

 大淵は息子を見た。

「すまんな。…中等部の卒業と入学試験見守りに行けなくて」


「俺は気にしてないって! それに、皆が観に来てくれたから」


「ありがとうな、皆。…やはり持つべきは友だな。 …あと金」


「最後で台無しだよ」

 斎城が苦笑した。


「まぁ、先立つものだから仕方ない。…なにやら良い匂いがするな?」


「皆で料理作って待ってマシタ♪」


「アリッサはつまみ食いしかしてなかったけどね」


 …大淵宅はよくこうしてかつてのパーティメンバーが集まるため、テーブルや椅子が余分にあった。…カリューやフローズィア用の頑丈な椅子も。

 フローズィアは一年前に再び「そろそろ芸術と旅が恋しくなった」と言い残して放浪の旅に出ていた。

 …実力もさることながら、誰も全く心配していなかった。


「遅くなってすいませーん!会議で遅くなって!」

 ビールや酒、ジュースの入った缶を幾つも袋に詰めた星村が玄関から顔を覗かせた。

「おお、星村。忙しいのにわざわざ来てくれたか。ありがとな」


「勿論ですよ、大輔さんの三ヶ月振りの帰還ですからね!むしろ、家族だけの時間にお邪魔して申し訳ないです」


「賑やかでいいさ。それに、これから当分はここでゆっくりするつもりだ」


 

 皆で料理や酒を交わしながら思い思いに談笑した。


「…そういえば試験はどうだった、大樹?」

 嫌な話題になりそうだが、聞かないのは不自然過ぎた。…しかし大樹は口元を緩めながら笑った。

「いやぁ、それがさぁ…」

 大樹は事の経緯を伝えた。…謎の女性の事は「不思議な気付けをしてくれた人」程度の説明に留めながら。

「凄かったの、魔術が使えるようになってて」

 桜もやや興奮気味に言った。

「…幻魔騎士…見たことも無いな…」

「…21式改を一突きで貫通、そのまま大振りせずに袈裟切りで一刀両断ですよ」


 夫人である宮間と共に招かれた秋山も呆れたように補足した。…この中でも剣術だけで言えば日菜子をも上回る剣士の秋山ですら驚嘆するほどとは。

 大淵はあからさまに照れてにやける大樹をまじまじと見つめた。


「こりゃもう合格なんじゃ…」

 言いかけた浮田を大淵が苦笑しながら窘めた。


「まだ気が早いさ。結果はまだ…」


 

 玄関のドアがノックされ、皆が静まった。 


「私が出てみる」


 拳法の達人でもある銀がスリット入りのドレスを靡かせながら玄関口に向かった。


「…どちら様かな?」


「はい…高等部教務課長の土井と申します。…夜分申し訳ありませんが、大淵大輔様は…」


「こんばんは、大淵です。どうされました?」


 170ある美貌の銀の後ろから現れた、更に大柄な180近い大淵の屈強な身体と…数々の死地を潜り抜け、上位者を元の世界から駆逐した男を前に気圧されつつも、土井は深々と頭を下げた。


「…実は、御子息の事で大事なご相談が」

「…わかりました。お伺いします。この場でも良いですか?息子も居ますし、皆、家族同然です。聞かれて困る事は無いはずですから」

「御両親と御子息さえ良ければ…」

「いいよな、二人とも?」


 母はこくこくと頷き、大樹も断る理由は無かった。大きく頷いた。


「どうぞ」


 大淵に椅子を勧められ、まるで特別ゲストのように所在なさげに椅子に座った土井は額の汗をハンカチで拭う。 桜がお茶を淹れてくれた。


「ああ、これはお気遣い申し訳ない…」

 

 五、六十代の苦労が多そうな皴の多い顔が幾らか緩んだ。


「…既にお気づきでしょうが、御子息は全く新しい職業・幻魔騎士という職業スキルを発現されました。…これだけでも当校において後世の為、貴重な第一例として入校を強くお勧めしたい所です。…勿論、各実技試験も…良い意味で評定困難でした。教官・職員一同、驚きの連続でして…」


「…つまり、息子はこの時点で入校の権利を得ていると?」


「はい。是非とも入校下さい。 …しかし本題はそこではありません。…その、試験結果があまりにも突飛過ぎて、在校生徒に無用な刺激と混乱を起こしたくないと…教職員一同の意見として一致しまして」


「…試験結果と学年席次を下方調整する、と?」

 大淵は大樹を見ながらかみ砕かせて説明させた。「…だそうだが、どうする?」と。


「…あの、俺はそれでも良いです。とにかく入校さえできれば」

「…俺は息子の意見に一票。…桜は?」

「私も、大樹さえ良ければ」


 …話を聞く限り、試験結果では大樹が上だったのだろうが…どうせ、有力者の子女を主席や次席にしなければ何か不都合なのだろう。 …結局、最後に物を言うのは実力というより金を出せる実力だ。

 この手の大人の醜い事情は分かるし、まだ息子にはその辺の汚い世界を積極的に見せたくは無かった。


「ありがとうございます! …折角のお祝いの席ですので、私はこれで…」


「一杯やっていきませんか?」

 冗談交じりに…せめてもの意地悪を言ってみた。

 …自分とマオ、斎城、アリッサ、銀、カリューは特に常に最後の一人を争うザル軍団だ。…そして体長2メートル超えのカリューが酒の一升瓶を手にのっそりと土井の前に…猛獣のような笑顔で姿を現す。


「…その、ほ、他の仕事がありまして…」

「うーむ、そうですか。残念。それではお気をつけて」


 土井はそそくさと去っていった。


「…と言う訳だ。大樹の入学前祝いも兼ねて飲むか」

 大淵がグラスを掲げると、鬨の声が上がった。



 アルコールを飲んだ皆が皆酔い潰れて静まり返った室内。…その中で最後の一人として辛うじて残り、今は膝にマオ姉と日菜子さんを膝枕してやりながらカクテルを静かに飲んでいる父に向かい、大樹は話しかけた。


「…どうだったのさ、今回の冒険は?」


「冒険じゃない。…スペリオールってな、かつて俺とお母さんの住んでいた世界を滅ぼした上位者っつう連中を信奉するカルト教団の調査だ。…今は昔のように大っぴらに布教活動したりせず、地下組織として暗躍しているようだ」


「…でも、上位者は父さんが滅ぼしたんだろ?そんな連中に何が…」


「…悪い奴…悪魔みたいな奴ってのは、俺達じゃ及びもつかねーくらい無駄に頭が回るのさ。次から次へとロクでもねー事ばっかり考え付き、実行しやがる。 …タチが悪いのは、それを屁ほども悪いと思ってねー事だな」


「…」


「…だから俺は、悪魔をも喰らう悪魔にだってなってやるし、そうしてきた。 …大樹、お前も…」


 言いかけて父は口を噤んだ。


「…お前は、お前の大切な人たちの事を想った上で正しいと思った事をすればいい」 


「…うん」


 日菜子とマオを膝に乗せる父に幾らかの嫉妬心を覚えながら大樹は冷やかした。


「…モテるねぇ?」


「ああ、そうかもな。…時に、お前のその職業スキル…いつ発現したんだ?」


「…俺が知る限りは今日の今日。…実はさ、さっき言った人がお呪いしてくれたら、本当に発現したみたいで。 そういえば、父さんによろしくって言っていた。…ウッカリしていて名前も聞かなかったんだけど」


「…そうか。 だが、もし次にその人に会っても、何かを願ったりはしない方が良いかもな」


「…? …まぁ、そうだよな。わかった」


「…そうだ、入学が確定したらと思っていたんだが」


 大淵は空間に手を入れ、和紙に包まれた長細い包みを取り出した。


「少し早いが、入学祝いだ」


 

 遠慮なくその和紙を開いて見ると、すぐに黒々とした鮫皮の柄が現れた。 …ほんの一寸だけ、刀身を鞘から抜いて見ると、妖しげな光を反射する鋭利な刀身が覗いた。



「…調査と旅の途中で助けた村で渡されてな。その昔、とある侍が鍛冶の妖怪に、トンチじみた詭弁で言い負かして鍛えさせた妖刀らしい」


「…ありがとう」


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