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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
…英雄の出来損ない… 大樹 編 「落ちこぼれですが何か?」

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 伝説の英雄……の落ちこぼれ息子

 無機質なアルミ製の円筒ケースを握り締め、帰宅した。


「ただいま!」


「おかえり、卒業おめでとう! …ごめんね、お父さんも一緒に行けたら良かったんだけど…」


 大好きな母が大柄な男物の洗濯物を畳みながら、申し訳なさそうに笑った。


「しょうがないよ、忙しいんだから!」

 …本当は来て欲しかったが、父の忙しさも分っているつもりだった。


「…折角だから、外になにか食べに行っちゃおうか?」

「うーん、けど、俺はお母さんの作ったハンバーグが食べたいかな」

「そ、そう? それじゃ、すぐ作っちゃうから待っててね!」

「うん。俺、トレーニングしてるから!」


 …母の料理が美味いのは本当だが、今日はどの家庭も外食が多くなるはずだ。…父親抜きで母と二人きりで食事する姿を同じ卒業生達に見られるのは憚られた。


 木刀を手に庭先へ出た。


 庭先に吊られた缶詰の空き缶と、襤褸布を巻かれた、二メートル近い人型標的。


 空き缶に突きを繰り出し、振り向き様に人型の脳天から木刀を叩き下ろす。…太刀筋は甘く、木刀は標的を逸れ、大淵大樹は前のめりに躓いた。


 …視線の先…生垣の向こうから誰かの気配。


 …またやんちゃ組の連中に見られただろうか… まぁ、明日からとりあえず暫くは休みだし、次は高等部への入学だからと安心していたのだが…


 笑い声と嘲笑が聞えて来るかと恐る恐る見上げると、長身の美人が生垣の向こうに立っていた。


「卒業式が終わったばかりなのに、頑張ってるね、大樹君」

 にっこりと微笑まれ、大樹は見る間に頬を赤らめた。

「は、はい!」


 斎城日菜子…お姉さん。 …かつて父や母と共にメインチームを組んだパーティーの一人。

 …自分にとっての憧れの人でもある。父や母の話では35だというが…35でも十分若いが、実際はバリバリの20代に見える。  


「筋はいいけど、少しまだ手元に意識が残り過ぎているね。…ちょっと貸してくれる?」


 斎城はその白いハーフパンツに黒いランニングスパッツに包まれた長い脚で軽々と生垣を乗り越えて大淵宅の庭に侵入すると、庭先にあるテーブルの上に持っていた包みを置き、見惚れている大樹が捧げる木刀を受け取って空き缶と標的と対峙した。


「突きで特に前のめりになりがちだから、全身のバランスと重心を意識して。…大樹君の場合は腕で突き出すんじゃなく、剣が勝手に伸びていって、その剣が飛んで行かないように手で抑えているイメージかな」


「は、はいっ」

「こんな風に…」


 斎城の神速の突きが空き缶に繰り出され、木刀が缶を貫通していた。 凄ぇ…レベルが違い過ぎる! 


「あ、ヤダッ…つい本気に…」

 

 ばつが悪そうに大樹を横目で盗み見つつ、小さく咳払いした。


「…私くらいの達人になっちゃうと、どうしてもこんな結果になっちゃうから本当はやりたくなかったんだけどね」


「す、すごいです日菜子さんっ!格好良いです!」

「そ、そう?」

「さすが竜騎兵!英雄の右腕!」


 大樹に褒め称えられてすっかり気を良くした日菜子はやや口元を緩めつつ、再び木刀を構えた。

「じゃあ、次は切りね。…まず基本の切り下げだけど…」


 斎城から幸せな手ほどきを受けている内に時間が経ち、家の中から母が顔を出した。

「大樹ー、そろそろ…あら、日菜子さん?」

「あっ、桜さん、勝手にお邪魔してごめんなさい。大樹君が稽古していた物だからつい…あっ、そうそう!」


 斎城はテーブルの上に置いていた包みを持ってきた。


「これっ、ケーキ。 大樹くんの卒業のお祝いに! …二人の口に合うと良いんだけど」


「えっ、そんな…いいんですか?もしかしてわざわざ手作りを?」


「ちょうど、良い卵と牛乳が手に入ったから久しぶりにね。お菓子作り、好きだし」


「あの、それでしたらお礼にと言ったら何ですけど、一緒に夕飯食べて行かれませんか?」


 ナイス、マイマザー!


「ええ、でも悪いよ…」


「二人っきりじゃ少し寂しいし、良ければ一緒に祝ってあげて欲しいなって」 


「…そういう事なら喜んで」


 やったぜ


 

 斎城を自宅に招き入れ、三人で夕食を摂りながら大樹の中等部卒業を祝福した。 …しかし大樹自身の中等部生活は決して自慢できるものではなく、あまり二人には…特に日菜子には知られたくない物だったため、むしろ大樹にとって知りたい…父や母、そして斎城の冒険譚の話へと誘導していった。

 

 斎城はよく家を訪ねてくれるが、大抵父と母の三人、もしくはもっと大勢のかつての仲間達…女性が大半だが…で酒を交わしながら話し込んでしまい、…しかもその中でも慕われる中心的存在は父であり、中々自分は割り込み辛い雰囲気だった。 


「大樹君はどうだった?中等部の三年間は?」

 話の合間に気を抜いた隙を突かれ、自分の話になってしまった。…大樹は苦笑いをしながら言葉を濁した。

「え、いやー…はは…まぁTHE・青春、っていうか」


 …悲惨な物だった。


 …入学時から過剰なまでに噂になり、入校時のスキル評定試験では自分の時だけ全校生徒が静まり返り、静寂の中で行われたものだ。


「伝説の英雄と神官騎士の仔」

「正真正銘のサラブレッド」

「英雄の継承者」


 職業は高位系か…父親の活躍後、すっかり花形として注目されるようになった汎用騎兵か…それとも母親のような神官騎士か…はたまた新種の職業か?  …そしてスキルは?


 様々な憶測と期待と好奇心、そして…微かに感じた妬みや羨望。


 …後者三つを満たすには、十二分な結果に収まった。


 職業「術士」 スキル…無し


 誰もが息を呑んだ静寂が…静寂のまま凍り付いた。

 …そして、気まずい空気のまま、誰もが見なかったことにしてその場を終えた。


 …だが、それ以降…中等部では何かにつけ、「伝説の英雄の仔」という皮肉…嫌味な事実が自分に付きまとった。


 …それでも、まともな魔法を一つでも使えれば評価は違ったかもしれない。

 …しかしこれが、全く何も使えなかった。…辛うじて使えたのが…かつての世界における家庭用消毒液と絆創膏程度の効果しかない、ヒール(微弱)のみ。


 …事あるごとに、伝説的な活躍を刻んで来た父親と比べられて嘲笑され…それはそれは青苦い「青春」の日々だった。

 

 …いつかスキル、もしくは新たな魔術が使えるようになる事に期待し、とにかくコンプレックスを跳ね返す為に体と格闘術を必死に鍛えた。…だが、剣術では軽剣士にも勝てず、格闘術では拳闘士相手に開幕瞬殺KOされ、サンドバッグにすらならなかった。


 …そして依然として、卒業しても…魔法は微弱ヒールしか使えなかった。


「…青春、ねぇ…」


 大樹の遠い目を見つめ、桜は小首を傾げ、斎城はしげしげと大樹の横顔に深く刻まれた影を見つめた。


 …正直、高等部への入学は厳しいかも知れなかった。


 入校時のスキル評定試験…これで一定以上の成果を出せなければ、入校拒否される可能性もある。…正確には入校自体はできるのだが、スキルを持たない者として、希望するスキル保有者としてのカリキュラムではなく、スキルを持たない普通科としてのカリキュラムを受ける事になる。…これだと、高等部を卒業しても冒険者としてのライセンスは公布されない。


 …ライセンスは、その人間が…未成年か否かを問わず、「例え一人で冒険に出しても良いだろう」という、最低限の許可証である。 …これすら手に入れられない者は決して冒険になど出してもらえないし、仮に無許可のまま冒険の旅に出たとしても、他の冒険者にお尋ね者として依頼され、拘束・強制送還されるという、みっともない事この上ない存在となる。


 …それでも冒険に出たい子供じみた大人は、何度も挑戦して「Ⅾ級ライセンス」という救済手段がある。…熟練した冒険者を二人以上雇い、護衛として旅に出るのだ。…ハッキリ言って、金持ちのボンボンくらいだし、そこまでして旅に出るくらいなら大人しく労働者として働くつもりだ。

 …高校卒業までにライセンス…冒険に必要な職種やスキルを発現できない者は、まず卒業後…成人してもスキルが発現する事は稀だ。


 …何れにせよ、次の入校時評定試験で自分の命運は決まるのだ。



「…ケーキ、美味しい?」

 斎城が大樹の横顔を覗き込んでいた。


「あっ、すごく美味しいです!甘いモノ大好きで」


「よかった。…ねぇ、お父さんと自分をあんまり比べないでね?」

「え…」


「お父さんはお父さんだから。…大樹君は大樹君。…できる事に違いはあるからね」


「…それでも、父さんみたいになれたらな、って思っちゃいますよ」


 …大淵大樹の「落ちこぼれぶり」は、町の中でも有名な陰口のネタとなっていた。…知らないのは大淵夫妻と、当の本人くらいだろう。…どうしてそんな酷い事ができるのか、斎城には理解も…理解する気も無かったが。

 …かつての仲間達もその醜い陰口を聞きながら、決してそれを咎めはしなかった。…自分達が出て行けば、それこそ大樹が無能であると認め、自分達が暴力的なバックボーンであると認める愚行だったから。

 …かつての英雄のパーティー仲間が出てくれば、それがたとえどんなに正論・人道的だろうと…そう受け取られる事になる。

 

「…ね、約束して? …例えどんな結果になったとしても、自分を見失わないって」


「?」


「大樹君は今のままが一番だから」


「…わかりました。日菜子さんがそう言うなら…」


 大樹は不承不承ながら頷いた。

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